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テーマに関する論文

イスラム国の全貌
―― なぜ対テロ戦略は通用しないか

2015年3月号

オードリー・クルト・クローニン ジョージ・メイソン大学教授(国際安全保障プログラム)

イスラム国はテロ集団の定義では説明できない存在だ。3万の兵士を擁し、イラクとシリアの双方で占領地域を手に入れ、かなりの軍事能力をもっている。コミュニケーションラインを管理し、インフラを建設し、資金調達源をもち、洗練された軍事活動を遂行できる。したがって、これまでの対テロ、対武装集団戦略はイスラム国には通用しない。イスラム国は伝統的な軍隊が主導する純然たる準軍事国家で、20世紀に欧米諸国が考案した中東の政治的国境を消し去り、イスラム世界における唯一の政治、宗教、軍事的権限をもつ主体として自らを位置づけようとしている。必要なのは対テロ戦略でも対武装集団戦略でもない。限定的軍事戦略と広範な外交戦略を組み合わせた「攻撃的な封じ込め戦略」をとる必要がある。

ウクライナを救うには
―― 武器支援ではなく、経済援助を

2015年3月号

ラジャン・メノン ニューヨーク市立大学教授(政治学)、キンバリー・マルテン バーナード・カレッジ教授(政治学)

ウクライナ紛争をめぐる今回の停戦合意も、前回同様に破綻するかもしれない。そうなれば、オバマ政権はウクライナへの武器供与を求める、これまで以上に大きな圧力にさらされるだろう。すでに米政府高官の一部は、ウクライナへの武器支援を主張し始めている。だが、武器を提供すれば、ウクライナ東部の紛争は長期化し、アメリカの兵器が他の勢力へと流れる恐れもある。紛争の長期化でロシアを経済的にさらに追い込めると主張する人々もいる。だが、ウクライナ経済はロシア経済以上に深刻な状態にあり、破綻の瀬戸際にある。紛争の長期化が、経済崩壊に直面するウクライナを助けるだろうか。ロシアに懲罰を与えようと、武器を提供して紛争を長期化させ、結果的にウクライナを苦しめるとすれば、プーチンの仕事を彼に成り代わってするようなものだ。アメリカが武器を提供すれば、ウクライナを助けるのではなく、傷つけることになる。

プーチン・システムの黄昏
―― 民衆蜂起、クーデター、分離独立運動

2015年3月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授(政治学)

大統領に就任した当時、エネルギー価格が高騰していたことに乗じて、プーチンは450億ドルを着服したが、それでもロシアの生活レベルを引き上げられるだけの歳入が国庫に残されていた。ロシア軍は増強され、プーチンの側近たちも甘い汁を吸った。だがいまや環境は大きく変化した。原油価格は崩壊し、今後上昇へと転じる気配もない。欧米の制裁によるダメージも大きくなり、いまやロシア経済の規模は縮小しつつある。いずれプーチンは予算削減に手をつけざるを得なくなる。しかし、(ウクライナ危機のなかにある以上)軍事費は削れない。(政治的支持をつなぎ止めるために)社会保障費も削れないとなると、唯一のオプションは、側近たちが国家から資金をかすめ取るのを止めさせることかもしれない。ここでシロヴィキによるクーデターのシナリオが浮上する。民衆蜂起が起きる可能性も、非ロシア系地域で分離独立運動が起きる危険もある。・・・・・プーチン体制はいずれ崩壊する。

トルコの対シリア戦略とヌスラ戦線
―― なぜトルコはテロ集団を支援するのか

2015年3月号

アーロン・ステイン 英王立防衛安全保障研究所アソシエートフェロー

トルコ政府がシリアのアサド政権へのアプローチをそれまでの関与政策から強硬策へと見直したのは2011年9月。それまで、アサドに対して改革を実施して国内を安定させるように働きかけてきたトルコ政府も、この時期を境に、シリアの独裁者を追放する地域的な試みに積極的に関与するようになった。シリアとの国境地帯に緩衝地帯を設けて、反政府勢力に委ね、自由シリア軍がアサド政権に対抗できるライバル政府を樹立することを期待したが、アメリカと湾岸諸国がこの構想に反対し、計画は頓挫する。こうしてトルコ政府は2012年の晩春以降、アレッポをターゲットにした反政府勢力による攻撃の組織化に乗り出した。自由シリア軍による作戦行動を支援しようと、トルコとカタールは(アサドとの戦いで自由シリア軍と実質的に共闘関係にあった)ヌスラ戦線と直接的に接触するようになった。・・・

市場創造型イノベーションのパワー
―― 経済を成長させるイノベーションとは

2015年2月号

ブライアン・C・メズー  ハーバード・ビジネススクール フェロー クレイトン・M・クリステンセン ハーバード・ビジネススクール教授 デレク・ファン・ビーバー ハーバード・ビジネススクール 上級講師

雇用を創出するのは社会でも政府でも産業でもない。それは企業とその経営者たちだ。支出、投資、雇用の判断を下すのは起業家と企業に他ならない。そしてこれらの判断が市場創造型イノベーションへと向かえば、国は持続的成長と繁栄の恩恵に浴する。その好例が戦後の日本経済だ。これまで日本の戦後経済の成功は、国家のプライドと力強い労働倫理、政府のビジョン、優れた科学・技術教育といった要因で説明されてきた。だが、その成功はバイク、自動車、家電、事務機器、鉄鋼などのセクターにおける市場創造型イノベーションに起因していた。ホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハというバイクメーカーは国内市場での需要の掘り起こしを競い合い、その後、同じ戦略を外国市場でも試みた。家電部門(パナソニック、シャープ、ソニー)、自動車部門(日産とトヨタ)、そして事務機器部門(キャノン、京セラ、リコー)も、これと同じパターンで成功した。市場創造型イノベーションで戦後日本は成功を収め、このモデルが世界に広がっていった。・・・

プーチン世代の若者たち
―― ロシアエリート予備軍の現状維持志向

2015年2月号

サラ・E・メンデルソン  戦略国際問題研究所 人権イニシアチブ・ディレクター

ロシアのエリート校の大学生たちは政治に対して非常に懐疑的であるにも関わらず、強い現状維持志向をもっている。彼らの関心は大学でいい成績をとって、政府か大手企業に就職することだけで、チュニジアやウクライナなど世界中で若者が自由と尊厳を求めて抗議行動を起こしていることについて、感銘を受けることはない。むしろ大衆運動は自発的には起きないと考えている。要するに、反政府運動はアメリカが裏で糸を引いているというプーチンの確信を、彼らも共有している。こうした若手エリート層の台頭は、ロシアにおける民主主義の覚醒を少なくとも一世代にわたって遅らせることになるだろう。

精神障害の経済・社会コストに目を向けよ
―― 見えないコストと偏見、放置される対策

2015年2月号

トーマス・R・インセル  米国立精神衛生研究所 所長 パメラ・Y・コリンズ 米国立精神衛生研究所 部長 (グローバル・メンタルヘルス) スティーブン・E・ハイマン ハーバード&MIT「ブロード研究所」 所長

精神障害は直接・間接に世界経済に年間2兆5000億ドルのコストを強いている。2030年までに精神障害のコストは、心臓疾患、ガン、糖尿病、そして呼吸器系疾患が強いるコストの合計を上回る6兆ドルへと増大すると予測されている。だが、この迫りくる危機が適切に認識されていない。これは、富裕国では精神障害が個人や家族が直面する問題として狭義にとらえられ、低所得諸国や中所得諸国では先進諸国の病気とみなされているからだ。精神障害の問題をこのまま放置すれば、いかに大きな問題が作り出されるかを理解する必要があるし、「メンタルヘルスの改善がより健康な体を保つことにつながるという事実」に焦点を合わせた対策をとるべきだ。人々の精神障害への認識と議論をさまざまな角度から変えていく必要がある。

サウジの石油戦略シフトとそのリスク
―― 原油低価格戦略にリヤドは耐えられるのか

2015年2月号

ビラル・Y・サーブ  アトランティック・カウンシル シニアフェロー  ロバート・A・マニング   アトランティック・カウンシル シニアフェロー

自信過剰に陥っているとき、あるいは、次第に懸念を募らせつつある時期には、いかなる政府も大きな賭に打って出ることが多い。国内では変革を求める動きかあり、隣接するイエメンでは紛争が起きている。そして、イスラム国がさまざまな問題を作り出している。サウジは必要以上に野心的になっているのかもしれない。緊張と混乱と不確実性が高まっているタイミングで、原油の低価格化を放置して、大胆な地政学的賭けに出ている。リヤドはグローバル市場におけるサウジ原油のシェアを増やそうと考えているのかもしれない。だが、この戦略の最大のリスクは国内にある。原油価格が1バレル55ドル前後で推移すれば、2015年のサウジの歳入から890億ドルが消し飛ぶ。予算の50%に達している社会保障給付や公務員のサラリーが削減されるのは避けられず、これが予期せぬ事態を引き起こす恐れもある。

ドイツの極右運動ペギーダが動員するデモ隊は「重税、犯罪、治安問題という社会的病巣を作り出しているのはイスラム教徒やその他の外国人移民だ」と批判している。「ドイツはいまやイスラム教徒たちに乗っ取られつつある」と言う彼らは、「2035年までには、生粋のドイツ人よりもイスラム教徒の数の方が多くなる」と主張している。実際には、この主張は現実とはほど遠い。それでもドイツ人の57%が「イスラム教徒を脅威とみなしている」と答え、24%が「イスラム系移民を禁止すべきだ」と考えている。「ドイツのための選択肢」を例外とするあらゆるドイツの政党は、ペギーダを批判し、彼らの要求を検討することさえ拒絶している。だが今後、右派政党「ドイツのための選択肢」の支持が高まっていけば、ペギーダ運動が政治に影響を与えるようになる危険もある。

フランスのアルジェリア人
―― フランス紙銃撃テロの教訓

2015年2月号

ロビン・シムコックス  ヘンリー・ジャクソン・ソサエティ リサーチフェロー

17人が犠牲になった2015年1月のフランス紙銃撃テロは、イスラム過激派がフランスを対象に実施した初めてのテロではない。実際には、1995年以降、フランスで起きたイスラム過激派のテロによって12人を超える人が犠牲になり、数百人が負傷している。しかも、これはフランスに留まる話ではない。最近の歴史から明らかなのは、ジハーディストが攻撃を正当化する大義をつねに見いだすということだ。2011年のフランスによるリビア介入でなければ、2013年のマリへの介入が大義に持ち出される。外交政策でなければ国内政策が、ヘッドスカーフ(ヒジャーブ)の公共空間での禁止でなければ、侮辱的な風刺画を描いたことが攻撃の大義にされる。この理由ゆえに、今回のテロ攻撃から教訓を学ぼうとしても、それを政策として結実させるのは難しい。テロリストは攻撃を常に正当化しようとする。・・・

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