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テーマに関する論文

エボラ危機対策の教訓(上)・(下)
―― なぜWHOは危機対策を間違えたか

2015年11月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニアフェロー(グローバルヘルス担当)

人類が初めてエボラ出血熱に遭遇したのは1976年。ザイール(現コンゴ)のヤンブク村とその周辺地域においてだった。未知の忌まわしい疾患に感染した人は内出血を起こし、高熱を出して幻覚に襲われ、なかには気が触れたような行動をとる人もいた。その多くが死亡した。19年後、2度目の深刻なエボラ危機が再びザイールで起きた時も、依然として、ワクチンも治療法も、現地で利用できる診断キットもなかった。防護服は不足していたし、現地には医療システムも、訓練された医療関係者もいなかった。そして、2014年に再びアウトブレイクが起きた。3月半ばにエボラウイルスの感染が急拡大した後、4月上旬までに感染は下火になっていた。この段階で、世界保健機構(WHO)も米疾病管理センター(CDC)もアウトブレイクは収束しつつあると状況を誤認してしまった。だがそれは、小康状態に過ぎなかった。ウイルスは公衆衛生当局の監視の目の届かないところに潜伏し、歴史上、最悪のエボラ危機を引き起こすチャンスを窺っていた。・・・

気候変動と次の難民危機
―― 沈みゆく島嶼国の運命

2015年11月号

パトリック・サイクス ジャーナリスト

科学者たちは、ツバルは今後50年で完全に水没し、モルジブが水没するまでの猶予はあと30年と予測している。これらの島に住めなくなるとすれば、その近隣の島も同じ運命を辿る。太平洋の22の島国で暮らす920万人、そしてモルジブ諸島の34万5000人が住む場所を失う。ヨーロッパの海岸に押し寄せる大規模な難民ほど、海面水位の上昇がメディアの関心を引くことはないが、国家と領土が海面下に姿を消し、消失するというかつてない事態の帰結は、ヨーロッパの難民危機同様に深刻なものになる。最大の問題は、気候変動難民の場合、国と主権を完全に失ってしまうことだ。難民の受け入れ国は、入国を認めようとしている人物が誰なのか、その母国が消失しているとすれば、一体誰が彼らに責任を負うのかを考え込むことになるだろう。気候変動がすすむなか、国の存続と海洋境界線の安定した存続を想定する国際法は過去の遺物と化しつつある。・・・

ウクライナ「紛争凍結」という幻想
―― ロシアが再び武力行使に出る理由

2015年10月号

サミュエル・キャラップ 英国際戦略研究所シニアフェロー (ロシア・ユーラシア担当)

ロシアの目的は、ウクライナの新たな憲法構造のなかで親ロシア派地域の権限と自治権を強化し、キエフに対する影響力を(間接的に)制度化することにある。この意味で、ドンバスをウクライナの他の地域から切り離すのは、ロシアにとって敗北を受け入れるに等しい。これまでのところ、ミンスク2の政治プロセスは、モスクワが考えていたようには進展していない。つまり、ウクライナによる合意の履行に明らかな不満をもっている以上、モスクワは現状を覆すために実力行使に出る可能性が高い。いまや唯一の疑問は、行動を起こすかどうかではなく、どのような行動をみせるかだ。いずれにせよ、ロシアの実力行使によってウクライナはかなりの経済的・人的なコストを強いられる。ヤヌコビッチ政権が倒れてわずか数日後にロシアがクリミアに侵攻したように、モスクワは危機の当初から拙速で無謀な行動をとってきたことを忘れてはならない。

中国の市場自由化が引き起こす混乱
―― 政府による管理から市場メカニズムへの段階的移行

2015年10月号

ウィリアム・アダムス NC金融サービスグループ 上席国際エコノミスト

2015年夏の中国の株式市場、為替市場の混乱は、北京が市場の自由化を進めていることが引き起こした変動だった。株式市場の自由化を目指して、「上海・香港株式市場の相互乗り入れ」を認めたものの、主要なグローバル株式指数であるMSCIが上海で取引される中国株式の指標への組み入れを見送ったことをきっかけに、混乱が作り出された。同様に、人民元の唐突な切り下げも、北京が人民元のグローバルな役割を拡大しようとしたことが原因だ。今後も、自由化を進めれば、北京は経済と金融システムに対するトップダウンの管理手法を維持できなくなり、市場による調整と金融市場の変動と余波はこれまで以上に大きくなる。新たな経済モデルを目指した自由化プロセスが維持される限り、世界は、新しい金融アイデンティティを模索する中国の試みが引き起こすグローバルな混乱への対応を今後も余儀なくされるだろう。

中国市場の異変とグローバル経済
―― 中国経済はリセッションに陥りつつある

2015年10月号

シブ・チェン イェール大学教授
ウィレム・ブイター シティグループ、チーフエコノミスト
ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェロー
マイケル・レビ 米外交問題評議会地政経済学センター  ディレクター

GDPの50%に相当する投資をして、それでも中国経済の成長率は7%だ。本当の成長率は4・5%かそれ未満だと考えられる。要するに、中国経済はリセッションに陥りつつある。 (W・ブイター)
今後、さらに人民元が切り下げられる可能性は十分にある。他の諸国が中国の通貨切り下げに追随すれば、これらの影響は総体的にかなり大きなものになる。(R・カーン)

危機に直面すると中国政府はマネーサプライを増大させる。だがいまや優れた投資機会は限られている。こうして流動性を増やしても、多くの資金は中国から外へ向かい、アメリカがその恩恵を多く受けるようになるだろう。中国の株式市場や不動産市場、そして経済が問題に直面すればするほど、資金が中国から(アメリカを含む)外国へと向かうようになる。(シブ・チェン)

都市の連携が世界を変える
―― 都市の新しい魅力

2015年10月号

マイケル・ブルームバーグ 前ニューヨーク市長

これまで都市の経済開発といえば、既存の企業を市内に引き留め、新しい企業を、インセンティブを提供して誘致するというスタイルが主流だった。しかし21世紀に入ると、より効果的な経済開発モデルが登場した。企業ではなく、市民にとって魅力的な都市環境の整備に力を入れることが、経済モデルになった。多くの都市が経験している通り、いまや資本がある場所に才能ある人々が集まるのではなく、才能ある人々がいる場所に資本が集まる。そして企業は、人が住みたい場所に投資したいと考えるようになった。・・・今後、都市は貧困、医療、生活レベルの改善、治安強化のために、より積極的な対策を講じるようになるだろうし、気候変動対策でも、都市は中央政府以上に大きな役割を果たすようになる。・・・

キッシンジャーの歴史的意味合い
―― なぜ彼はリアリストと誤解されたか

2015年10月号

ニーアル・ファーガソン ハーバード大学教授(歴史学)

キッシンジャーは広く「リアリスト」だと考えられている。だが、彼は外交キャリアの初期段階から、理想主義者として活動してきた。確かに、彼はウッドロー・ウィルソンのような理想主義者ではないが、リアリストでもない。哲学的な意味では間違いなく理想主義者だった。キッシンジャーが重視したのは、ライバルや同盟国との関係を理解する上で歴史が重要であること。外交政策決定の多くは不毛の選択肢のなかから、ましな選択をすることに他ならないこと。そして、指導者たちが、道徳的な空虚なリアリズムに陥らないように心がけなければならないことだった。1968年末同様に、深刻な戦略的混乱のなかにある現在、ワシントンはキッシンジャー流の外交アプローチを切実に必要としている。しかし、まず政策決定者そして市民は、「キッシンジャーの意味合い」を正確に理解する必要がある。

迫りくる中国経済の危機
―― 人民元下落は危機のプレリュードにすぎない

2015年9月号

サルバトーレ・バボネス  シドニー大学准教授(社会学、社会政策)

中国で金融危機が進行している。株式市場の混乱、輸出の低迷、そして人民元のクラッシュはまだ序の口にすぎない。今後、人口動態の停滞、資本逃避、そして、経済の多くを市場に委ねるとした2013年の決定がさらに大きな危機を作り出すことになるだろう。高齢化で政府の社会保障関連支出が増大していくにも関わらず、税収を通じた歳入増にはもはや多くを期待できない。「中国は豊かになる前に歳をとる」とよく言われるが、同様に、完全な税制を整備する前に、経済が自由化されれば、歳入を確保するのはますます難しくなる。課税なき自由化は中国政府を第3世界特有の永続的な金融危機に直面させるだろう。主に逆累進税で資金を調達し、社会保障上の責務を果たそうとすれば、中国は、すでにそこから抜け出したはずの第3世界のような状況に陥る。人民元の切り下げは、さらに大きな危機のプレリュードに過ぎず、そこで問題が終わることはない。

CFR Events
中国経済の異変を読み解く
―― 市場経済への移行を乗り切れるのか

2015年9月号

ニコラス・R・ラーディ李稻葵高西慶鄭新立スティーブン・ウェイスマン ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー清華大学教授(経済学)中国投資有限責任公司(CIC)前会長中国国際経済交流センター(CCIEE)副所長米ウォールストリートジャーナル アソシエート・エディター

この30年でGDPに占める投資の割合は30%から50%に上昇し、一方で消費は50%から35%へと落ち込んだ。供給能力の急激な拡大に需要が追いついていけずにいる。いまや何を生産しても売るのが難しくなっている。われわれは、需要と供給のインバランスという、根本的で長期的な構造問題に対処していかなければならない。(鄭新立)

デフレが問題化しつつあるのは事実としても、デフレが他の諸国のような深刻な問題を中国で作り出すことはないだろう。依然として中国経済は7%の成長を遂げており、それが3―5%へと鈍化していくとは考えにくいし、5%以上で経済が成長している国でデフレが問題になることはあり得ない。(N・ラーディ)

「いつ経済成長の停滞が終わるか」、これは重要なポイントだ。おそらく、2015年末か2016年の第一四半期には経済は上向くとわれわれは考えている。半年以内、あるいは1年以内には景気の底を打つと思う。その後、成長率は6―7%で安定的に推移するだろう。(李稻葵)

これまで長期的に停滞してきた不動産市場がいまや大都市を中心に復活しつつあり、価格も上昇している。もちろん、その変動性から考えて、長期的に資金が不動産市場に留まるとは思わないが、不動産市場はいまも大きな経済要因だと思う。(高西慶)

CFR Interview
株式市場の混乱と今後の中国経済

2015年8月号

スティーブン・ローチ
イェール大学グローバルアフェアーズ研究所 シニアフェロー

中国の株式市場に火花が散ったのは2014年11月、北京が上海・香港取引所の連動を発表したときだった。二つの市場で同じ株式を投資家は購入できるようになり、このアレンジメントを通じて外国資金が中国の国内市場へと流れ込んだ。中国の株式市場はこの12カ月にわたってブームに沸き返ってきたが、株価上昇の90%は上海・香港取引所の連動以降に起きている。非常にはっきりした投機熱が生じていた。投機が過熱したことで必然的に息切れが生じて流れが変わり、信用買いの弊害が表面化した。2015年6月、中国株は30%下落した。株式市場混乱の経済への衝撃はそれほど大きくはならないだろう。問題は、これが自由化に向けた金融改革プロセスを逆行させかねないことだ。依然として中国は消費主導型経済モデルの移行にコミットしているが、中国の株式市場バブルの崩壊によって、資本市場改革の先行きは不透明になっている。・・・

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