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テーマに関する論文

CFRブリーフィング
ブレグジットの明暗を考える
―― 三つの見方

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ロバート・カーン / 米外交問題評議会シニアフェロー、セバスチャン・マラビー / 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)、ロジャー・ブートル / キャピタル・エコノミクス理事長

「ブレグジット」によって、ロンドンの金融パワーの優位が疑問視されるようになる。これまでロンドンは、「ヨーロッパ金融への玄関口」として機能してきた。外国の金融機関にとって、EUのメンバーであるイギリスのロンドンに拠点を設ければ、ヨーロッパ各国での規制や許認可に煩わされることなく、サービスを展開できた。このロンドンの機能は、EU金融市場の「シングルパスポート」として知られ、これが、世界の金融センター内でのロンドンの優位を支えてきた。(R・カーン)

イギリスのように、ユーロを導入していない他のEUメンバー国は、イギリスが離脱すれば、EUを快適な空間とは感じられなくなる。「ユーロ圏諸国は自分たちの優先課題を、ユーロを導入していないEUメンバー国に強要すべきではないとする」イギリスの主張によってこれまで救われてきたデンマークのような国は、今後、少数派として弱い立場に追い込まれる。(S・マラビー)

現状は維持不可能だ。ユーロが生き残るには、メンバー国間の財政政策のコンバージェンスと政治統合の深化が必要になる。イギリスがEUに残留すれば、こうした課題をめぐって、EUの主要グループの端に位置する(反対)少数派として非常に無様な状況に追い込まれる。・・・もはや、EUはイギリスがそのメンバーであることを望まないクラブに変化してしまっている。(R・ブートル)

ギャンブラーとしてのプーチン
―― ロシアのクリミア編入プロセスを
検証する

2016年6月号

ダニエル・トレイスマン / カリフォルニア大学ロサンゼルス校 教授(政治学)

プーチンがみせた一連の衝動的な対応からみて、クリミア編入は領土拡張計画の一環でもなければ、NATO拡大への対応でもなかった。ヤヌコビッチ政権が倒れて以降のウクライナ危機をめぐるプーチンの最大の懸念は、黒海艦隊が終結する、クリミアのセバストポリ軍港のリース契約をウクライナが打ち切ることだった。逆に言えば、キエフが軍港の2040年までのリース合意を尊重するとモスクワに保証していれば、この2年間のロシアと欧米の関係悪化は避けられたかもしれないし、ロシアがクリミアの編入というハイリスクの戦略をとる必要もなかったかもしれない。問題は、クリミアへの介入と編入が、プーチンが管理可能な脅威をめぐってさえ過大な戦略リスクを引き受けるようになったことを象徴していることだ。ウクライナであれ、シリアであれ、プーチンは危機に大胆かつ衝動的に対応することで、ロシアと世界に新たな危機を作り出している。

非伝統的金融政策の悪夢
―― なぜ危険が待ち構えているか

2016年6月号

マーチン・フェルドシュタイン ハーバード大学教授(経済学)

伝統的な金融政策や財政政策では経済を刺激できなかったために、連邦準備制度は量的緩和とゼロ金利政策を組み合わせた政策を実施し、米経済は再生へ向けたリバウンドをみせ始めた。とはいえ、量的緩和と極端な低金利政策が経済にダメージを与えかねない大きな金融リスクを作り出していることはいまや明らかだろう。これらの政策によって、株式、格付けの低い債券、民間不動産の価格が押し上げられ、結局、資産バブル崩壊の伏線が創り出されつつある。量的緩和と金融の不安定化が潜在的に密接に関連しているにも関わらず、その関連性が軽くみられている。今後の景気後退局面でカウンターシクリカルな財政政策を実施する必要が生じた場合には、長期的な債務レベルを安定させるために、短期的な景気刺激策の実施と社会保障政策の見直しをセットにする必要がある。・・・特に、税収に変化のない経済対策を設計すべきで、それには二つのタイプがある。・・・

ロシア外交にみる悲しみと怒り
―― 外交的勝利と経済的衰退の間

2016年6月号

フョードル・ルキャノフ / 世界の中のロシア誌編集長

1991年後に出現した「新世界秩序」は、ミハイル・ゴルバチョフなどの改革主義のソビエトの指導者たちが、冷戦終結の最悪のシナリオを回避するために、思い描いた世界とはまったく違うものになった。クリミア編入とウクライナ危機は、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大だけでなく、冷戦終結以降、欧米の行動パターンが変化したことに対するロシアの答えでもあった。冷戦の終結とポスト冷戦世界に関する米ロの解釈の違いも、ロシアの行動を後押しした。実際、冷戦後の「新世界秩序」は平等な国同士のアレンジメントではなくなり、冷戦は欧米の原則と影響力(ソフトパワー)の明確な勝利とワシントンではみなされるようになった。・・・こうして「ロシアの指導層は欧米の拡大主義を覆すには、軍事力を行使してでも、その意図を明確にするしかない」と考えるようになった。・・・

イスラム国の黄昏
―― 離脱したシリア人元戦闘員たちへのインタビュー

2016年6月号

マラ・レブキン / イエール大学ロースクール博士課程 、アハマド・ムヒディ / ジャーナリスト

イスラム国を後にするシリア人戦闘員が増えている。2016年3月だけでも、数百人のイスラム国戦闘員がラッカやアレッポを離れて、戦線離脱したと考えられており、その多くがシリア人だ。離脱後、穏健派の自由シリア軍(FSA)に参加する者もいれば、紛争から離れようと、国境を越えてトルコやヨルダンに向かう者もいる。シリアのイスラム国は、現地社会や地勢などをめぐるインサイダー情報をめぐってシリア人メンバーに多くを依存してきた。逆に言えば、シリア人戦士の戦線離脱の増大は、シリアにおけるイスラム国の統治と軍事活動を大きく脅かすことになるだろう。現在トルコにいる8人の元イスラム国戦闘員たちへのインタビューから浮かび上がるのは、もはや勢いを失い、自暴自棄となったイスラム国の姿だ。

パナマ文書とトマ・ピケティ
―― 格差の全貌を把握する最初のステップ

2016年6月号

ヘンリー・ファレル / ジョージ・ワシントン大学准教授(国際関係論)

一見するとパナマ文書の漏洩は、米陸軍兵士のチェルシー・マニングがウィキリークスに機密文書を渡したケース、元NSA(アメリカ国家安全保障局)の契約局員だったエドワード・スノーデンが暴いた国際監視プログラムなど、一連の漏洩(リーク)事件と同じように思える。著名な政治家や政府関係者の偽善的行為を暴き出した点では、こうした先例とパナマ文書には共通点がある。とはいえ、パナマ文書がもつ本当の意味の比較対象としてふさわしく、しかも今後の展開を知る上で有益なのは、スノーデンでもジュリアン・アサンジでもない。それは、著名なフランスのエコノミスト、トマ・ピケティだ。「人々はまだ経済格差の全貌をわかっていないが、それを多くの人が理解すれば、政治は大きな変化を余儀なくされる」と彼は今後を見通している。パナマ文書はその全貌を知るための第一歩とみなせる。

人口の高齢化と生産性

2016年6月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行ユーロ圏エコノミスト

高齢社会は若年層が多い社会に比べて生産性が低くなる。この問題に正面から対峙しなければ、人口が減少し、高齢化が進むだけではなく、豊かさを失うことになる。生産性は45歳から50歳のときにピークに達するが、その後、下降線を辿る。つまり、高齢者がうまく利用できない高度な技術を導入してもその生産性を向上させることはできない。むしろ、人口動態の変化と生産性のダイナミクスとの関連を断ち切ることを目指した政策を併用すべきだ。例えば、ロボティクスやIoT(インタネット・オブ・シングズ)のような技術への投資を増やし、高齢者に関連する生産性の低い労働をこれらの技術で代替していくべきだろう。すでに日本の安倍晋三首相は、この視点から高齢者のための介護ロボットや自律走行車の開発技術を日本再生戦略の中核に位置づけている。・・・

クリーンエネルギー投資の強化を
―― 温室効果ガスの削減では惨劇を回避できない

2016年6月号

バルン・シバラム / 米外交問題評議会フェロー(エネルギー担当)
テリン・ノリス / 前米エネルギー省特別顧問

クリーンエネルギー技術が大きく進化しない限り、各国が現在の温室効果ガス排出量削減の約束を実行しても、おそらく地球の温度は2・7―3・5度、上昇する。この場合、(異常気象の激化や海面水位の上昇による水没など)グローバルレベルでの惨劇に直面するリスクがある。一方、新しい原子炉の設計によって、核燃料のメルトダウンリスクを物理的になくせる可能性もあるし、ナノテクノロジーによる膜を利用すれば、化石燃料発電所からの二酸化炭素排出を防げるかもしれない。壁紙と同価格で太陽光発電できるコーティング素材ができれば、消費する以上に電力を生産できるビルが立ち並ぶだろう。問題はこうした夢のようなクリーンエネルギーテクノロジーへの投資が十分でないことだ。投資を促すには、政府が投資を主導するとともに、その枠組みを国際的に広げていく必要がある。

情報収集技術の進化が外交と政治を変える
―― 秘密なき外交の時代

2016年6月号

シィーン・P・ラーキン /米外交問題評議会 ミリタリーフェロー(米空軍大佐)

インターネットやソーシャルメディアだけではない。誰もが、衛星画像やドローンがもたらす高度な情報を利用できる時代になった。ジャーナリストやNGO、ブロガーたちは、今後、クラウドソースのデータを使って、これまで以上に戦争犯罪を発見し、政府の欺瞞を暴くようになり、生体認証システムで秘密工作員の正体さえも特定できるようになる。政府は情報漏洩や内部告発にますます苦慮することになるだろう。もちろん、今後も、守られる機密情報もあるが、ユビキタスな監視活動によって、政府の活動の多くが白日の下にさらされ、その活動は内外の監視や批判を受けやすくなる。指導者はその決断について、これまで以上に説明責任を問われるようになるだろう。

オバマ広島訪問後の日米関係
―― 安倍首相はパールハーバー訪問を

2016年6月号

ザック・プリスタップ/タフト大学フレッチャースクール アシスタント・ディレクター

オバマの広島訪問を日米関係の新しいチャプターの幕開けとして位置づけなければならない。安倍首相は、誠意の返礼として、2016年の真珠湾攻撃75周年記念式典に参加すべきだろう。真珠湾を訪問すれば、広島と長崎への原爆投下を(パールハーバーに始まる)歴史の流れのなかに位置づけ、その認識を高めることができる。さらに、日本が過去の歴史を見直すのではなく、平和の促進にコミットしていることを世界に示すことにもなる。両国が共有する痛ましい過去に正面から向き合うことで、日米は、歴史論争によってとかく外交的に紛糾し、機能不全に陥ることの多い東アジアに優れた先例を示すこともできる。歴史を刻む相手国の都市への相互訪問は、両国の指導者がとるべき正しい行動だろう。

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