「他者」を特定することで、誰が仲間で、誰がそうでないかを区別する心理的ルールが育まれ、これによって国も社会も集団も連帯する。一方で、そうした他者がいなくなれば連帯は分裂し始める。例えば、ソビエトという他者が崩壊して脅威でなくなると、アメリカの政党は「内なる他者」に目を向けるようになった。共和党が毛嫌いする対象は「共産主義者」から「ワシントンのエリート」に置き換えられた。民主党は(性差、人種、民族、性的指向、障害などのアイデンティティを擁護する)「アイデンティティ政治を善か悪かの道徳的バトル」と位置づけた。そして、両党の他者化トレンドを自分の優位に結びつけたのがドナルド・トランプだった。問題は、多くの人が他者を区別する心理がどの程度リベラリズムやグローバル化の脅威となるかを認識していないことだ。忍び寄る非自由主義の脅威を食い止めるには、われわれは他者化の必要性が存在しないふりをするのではなく、その必要性にいかに対処するかを考える必要がある。