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ドナルド・トランプに関する論文

さようなら、国際主義のアメリカ
―― トランプ時代の歴史的ルーツ

2019年4月号

エリオット・A・コーエン ジョンズ・ホプキンス大学教授(戦略研究)

トランプの「アメリカ第1主義」は、外交の初心者が犯した間違いではなく、アメリカのリーダーたちが戦後外交の主流概念から距離を置きつつあるという重要な潮流の変化を映し出している。先の大戦期及びその直後に成人した世代は、アメリカが世界をリードしなければ、いかに忌まわしい世界が出現するかを本能的に理解していた。これは、戦争で苦しんだ末に得た教訓だった。しかし、この世代の多くが亡くなり、具体的に秩序を形作った子どもの世代も少なくなってきている。これが、今後の米外交政策にもっとも重要な帰結を与えることは間違いない。トランプが大統領の座を退いても、「アメリカのリーダーシップなき世界」がどのような末路を辿るかを知る人々が支えたかつてのコンセンサスへアメリカが回帰していくことはない。残念ながら、不幸な結果を記憶している人々はもうすぐいなくなる。

トランプとファーウェイの「政治学」
――  「合法的逮捕」と「人質外交」の間

2019年3月号

シメーヌ・カイトナー カリフォルニア大学教授(国際法)

トランプ大統領が、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟がカナダで逮捕されて数日後のインタビューで、貿易に関して中国から合意を引き出す上で有効と考えられるなら、彼女のケースに「介入する」つもりだと語ったことは、「合法的な逮捕」と「人質外交」の線引きを曖昧にする問題発言だった。当初は、逮捕が政治的な動機に基づくものではないとみなす根拠があった。実際、米司法省は企業の不正行為を巡って個々の経営幹部の責任追及を優先的に行う方針をかねて表明していた。トランプの発言は、このような了解に水を差してしまった。こうして、北京は、逮捕は政治的な動機に基づくものだという見方を強め、これを中国の技術的な発展を妨げようとするアメリカの活動の一環とみなしている。

トランプ政権のいかさま経済学
―― 間違った予測と大言壮語

2019年3月号

N・グレゴリー・マンキュー ハーバード大学教授(経済学)

2017年12月、税制改革案を発表したトランプは「この措置で財政赤字が膨らむことはない」と主張し、その理由として経済成長率が3%、4%、5%、あるいは6%にさえ達するからだと主張した。たしかに、「税率が十分に高いレベルにあれば」、税率を引き下げ、成長率を高め、増大した歳入を恵まれない人々のために用いることができる。しかし、近年の税率がそのような高レベルにあったと考えるエコノミストはほとんどいない。トランプ政権は、包括的な政策を示すよりも、経済をもっと急速に成長させればあらゆる問題への解決策になると期待しているようだし、この経済成長は減税措置と規制緩和によって必然的に実現すると確信しているようだ。それが可能なら素晴らしいが、これは希望的観測である可能性が大きい。

米外交と政権内分裂の終わり
―― 予測可能な外交と不安定化する秩序

2019年3月号

トマス・ライト ブルッキングス研究所 米欧センター所長

トランプ政権が予測不能とみなされるのは、彼のビジョンではなく、「大統領」と「国家安全保障エリート」が政策をめぐって闘いを繰り広げてきたためだ。しかし、いまや外交チームは大統領の考えを中心にまとまりをみせ、「トランプ政権の外交政策」を特定できる環境にある。取引を重視する外国との限定的な関係、民主国家よりも権威主義国家を好ましくみなす態度、重商主義的な国際経済政策、人権と法の支配の軽視、多国間協調主義を犠牲にしたナショナリズムと単独行動主義路線。これらが、現在の米外交政策を規定している。皮肉にも、アメリカの外交政策がより一体化され、予測可能になったことで、アメリカの影響力は弱まり、国際秩序が不安定化する恐れがある。政策的に統一されたトランプ外交が世界に衝撃を与える時期が始まろうとしている。

民主主義が劣化していくにつれて、権威主義化していく。特に、選挙で勝利を手にするためなら何でもする「選挙権威主義」体制、そして選挙後に支配者が法を無視して思うままの行動をとるようになる「非自由主義的民主主義」が主流になっていくだろう。例えば、超法規的殺人を特徴とする麻薬戦争を展開しているフィリピンのドゥテルテは、選挙で選ばれたが、権力を乱用している。(権力を思うままに行使して)非自由主義的民主主義を実践しているトランプも同様だ。より厄介なのは、選挙で有利になるように、ゲリマンダー、議員定数の不均衡などのあらゆる政治制度上のトリックを利用しているマレーシアの統一マレー国民組織(UMNO)と米共和党が似てきていることだ。選挙に破れても首相を送り込んだUNMO同様に、米共和党も、一般投票では敗れつつも、最近の2人の共和党大統領候補をホワイトハウスに送り込むことに成功している。・・・

トランプを台頭させた 白人有権者の文化的恐れ
―― グローバル化に対する反動という虚構

2018年12月号

チャールズ・ケニー グローバル開発センター  シニアフェロー

貿易と移民に対する反発がトランプの台頭を支えたと考えるのは間違っているし、当然、「グローバル化に対する反動」という虚構に配慮するのも間違っている。それどころか、ギャラップ社の世論調査結果は、かつてなく多くのアメリカ人が貿易と移民の流れは経済的な恩恵をもたらすと考えていることを示している。一方で、高齢の白人有権者の割合が高い地域でトランプへの支持率が高いことに目を向けるべきだろう。問題は、(人やモノの)グローバル化を、白人の少数派が「文化的な脅威」とみなしていることにある。国際主義者たちは彼らの立場に歩み寄るのではなく、むしろ闘いを挑む必要がある。

外交的経済パワー乱用の果てに
―― 米単独行動主義で揺らぐ同盟関係

2018年11月号

ジェイコブ・ルー 前米財務長官
リチャード・ネフュー 前国務省次席コーディネーター(経済制裁政策担当)

経済制裁が機能するのは、制裁対象国が行動を変えることで、(制裁を緩和・解除させ)経済的窮状を切り抜けられると確信した場合だけだ。アメリカの要求を受け入れ、合意を順守しているにもかかわらず、解除された制裁の再発動という事態に直面するのなら、合意を順守しようとするインセンティブはなくなる。それだけでない。トランプ政権の関税引き上げ策や対イラン制裁に象徴される単独行動主義は、同盟関係を揺るがし始めている。仏独英などのワシントンの緊密な同盟諸国は、イラン政府と直接接触して、アメリカの制裁を回避し、核合意を維持していくために、ドルを基盤とする金融システムから決済を迂回させる方法を特定しようと試みている。仮に他の諸国が連帯してアメリカの制裁を拒絶するようになれば、ワシントンはすべての国に制裁を課すか、制裁を断念するかしかなくなる。・・・

トランプが思うままに行動できる理由
―― 形骸化した抑制と均衡

2018年11月号

ジェームズ・ゴールドガイアー アメリカン大学教授(国際関係論)
エリザベス・N・サンダース ジョージタウン大学外交大学院准教授

なぜドナルド・トランプ米大統領は好き勝手に振る舞えるのか。実際には、これは、トランプ個人に留まる問題ではなく、アメリカ政治を支えてきた抑制と均衡のシステムが形骸化していることで引き起こされている。米議会の外交専門家が少なくなり、国務省は虐げられ、国家安全保障会議が肥大化している。同盟国の立場も公然と無視されるようになった。トランプは、かねて進行してきたこのシステムの劣化を前に、暴走しているに過ぎない。大統領権限の拡大を阻止したいのなら、トランプが引き起こしたダメージだけでなく、そのダメージが明らかにしたより根深い問題、つまり、大統領権限の抑制を担うべき組織が、その意欲と能力の双方を着実に失っているという現実に対処していかなければならない。

トランプ・ドクトリン
―― 対イラン経済制裁への参加がなぜ必要か

2018年11月号

マイク・R・ポンペオ 米国務長官

トランプ大統領が引き継いだのは、第一次世界大戦や第二次世界大戦前夜、あるいは冷戦のピーク時に匹敵する危険な世界だ。しかし、先ず北朝鮮に、そして現在はイランに対して大統領がみせている破壊的なまでの大胆さは、明確で強い信念と、核不拡散と強力な同盟関係を重視する姿勢を組み合わせれば、いかに多くのことを成し遂げられるかを示している。・・・率直な態度は交渉を妨げるという、古臭い思い込みにとらわれている人々も、ターゲットを絞り込んだレトリック、現実的な圧力行使策が、アウトロー国家を変化させ、現在も変化させつつあることを認めるべきだ。・・・われわれは、(イランとの)戦争は望んでない。しかし事態をエスカレートさせれば、イランの敗北に終わることを、われわれは明白にしておく必要がある。

トランプ流外交の悪夢
―― 外交と「取引」の間

2018年10月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(アメリカ外交担当)

貿易問題、関税、イラン核合意、北朝鮮問題やパレスチナ和平へのアプローチ、そして中国やヨーロッパとの関係など、トランプ政権のこれまでの外交記録は、彼のアプローチが根本的に間違っていることを示している。同時にすべての人を批判しようとする彼の本能とは逆に、外交交渉を成功させるには、どの問題を交渉するかを選び、同盟関係を維持し、慎重に決定した優先課題の実現に向けて連帯を組織しなければならない。貿易問題をめぐって容赦なく攻撃している中国やヨーロッパから、イラン問題をめぐって支持を引き出すのは難しい。どうみてもトランプは、うまく交渉ができるタイプではない。基本的事実に習熟しておらず、何を重視するかについての一貫性がない。しかも、彼は合意形成を根本的に誤解している。

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