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ドナルド・トランプに関する論文

「捕獲された国家」の経済的末路
―― 経済を蝕む壮大な政治腐敗

2025年5月号

エリザベス・デイビッド=バレット サセックス大学政治学教授

実業家の大統領が富豪と組んで連邦政府の管理権を乗っ取るという事態は、アメリカ近代史ではかつてない展開だ。だが、世界的にみれば、バングラデシュ、ハンガリー、南アフリカなど、政治家、ビジネスエリートの小集団が自己利益のために国と経済をねじ曲げてきたケースは数多くある。このプロセスを描写する「国家の捕獲(state capture)」という言葉もある。政治腐敗によって、そうした国は成長率の低下、雇用の減少、格差の拡大、高インフレに直面する。トランプとマスクが米経済の捕獲に成功すれば、市場をゆがめるだけでは済まない。世界経済にもダメージを与えることになる。アメリカは、世界をクリーンな統治へ向かわせる警察官としての歴史的役割を放棄しただけでなく、豹変してマフィアのボスになりつつある。

ナショナリズムと強権者の時代
―― 覆された国際システムとトランプの世界

2025年5月号

マイケル・キマージュ ウィルソン・センター ケナン・インスティチュート 所長

いまや世界のアジェンダを設定しているのは、自国の偉大さを強調するナショナリストの指導者たちだ。トランプは、プーチン、習近平、モディ、エルドアンと同じタイプの指導者だ。強権的なナショナリストを自任する彼らは、ルールに基づく国際システムや同盟関係、多国籍フォーラムなどほとんど気にしていない。当然、グローバル秩序に関するいつもの描写はもう役に立たない。国際システムは一極支配でも二極体制でも多極体制でもない。現在のような地政学的環境では、すでに曖昧化している「欧米」という概念はさらに後退していく。

中国とヨーロッパの地政学
―― 米欧対立を中国は生かせるか

2025年5月号

ジュード・ブランシェット ランド研究所 中国研究センター長

「トランプはプーチンとの関係改善に熱心で、アメリカの伝統的な同盟国に反感を抱き、貿易戦争が国内政治に及ぼす影響を軽視している」。北京は現状をこのようにみている。事実、米欧関係が大きな圧力にさらされているために、習近平は、ヨーロッパ各地に外交官を派遣して、中国を信頼できる代替パートナーとして売り込み、安定した経済協力の機会を提供できると強調している。実際、ウクライナの戦後開発を支援する上で、中国ほど有利な立場にある国はないだろう。各国がアメリカの後退の可能性に備えてリスクヘッジを試みるなか、北京は頼れるパートナーとして自らを位置づけたいと考えている。

ウクライナとアメリカ
―― 問われる米欧の絆

2025年4月号

ヴォルフガング・イッシンガー 元駐米ドイツ大使

トランプ米大統領は、プーチン露大統領を懐柔して、中国の習近平国家主席との「結婚」を断念させ、アメリカとの祝福されない同盟に応じさせる「逆キッシンジャー」戦略を狙っているのか。重要なのは、ウクライナを分断し、手っ取り早く停戦を実現することではない。永続的で確実な和平枠組みを確立することだ。ウクライナを(和平プロセスに)参加させなければならないし、その結果は公正で、ウクライナを売り渡すものであってはならない。ヨーロッパは、ウクライナでの戦争を永続的に終わらせるために、アメリカを必要としている。そして、アメリカも、その任務をうまく達成するには、ヨーロッパを必要としている。

トランプと競争的権威主義の台頭
―― 米民主主義は崩壊するのか

2025年4月号

スティーブン・レヴィツキー ハーバード大学 政治学教授
ルーカン・A・ウェイ トロント大学 政治学部特別教授

アメリカの司法省、連邦捜査局、内国歳入庁(IRS)などの主要政府機関や規制当局をトランプの忠誠派が率いるようになれば、政府はこれらの政府組織を政治的な兵器として利用できるようになる。ライバルを捜査と起訴の対象にし、市民社会を取り込み、同盟勢力を訴追から守れるからだ。こうして競争的権威主義が台頭する。政党は選挙で競い合うが、政府の権力乱用によって野党に不利なシステムが形作られていく。政治家、ビジネス、メディア、大学、市民団体も権威主義政権の大きな権限と圧力を恐れて、立場を見直して声を潜める。競争的権威主義の台頭は、アメリカだけでなく、世界の民主主義にとって重大で永続的な帰結をもたらすことになるだろう。

変化するアメリカと同盟国の関係
―― 関税と国防負担要請

2025年3月号

ジョナサン・バークシャー・ミラー マクドナルド・ローリエ研究所 ディレクター

長年の同盟国に対して関税という懲罰策を用いていることは、ワシントンの同盟戦略に根本的な変化が生じていることを意味する。カナダやメキシコだけではない。今後ヨーロッパやアジアの同盟諸国にも圧力路線が行使されるだろう。一方、同盟国に安全保障領域での責任分担強化を求めるトランプの批判には一理ある。だが、トランプ政権の行動を前に、同盟諸国は、ワシントンの集団安全保障や経済協力へのコミットメントは、短期的な取引主義の利益に左右されるのではないかと警戒し始めている。ワシントンが無差別な経済的圧力によって同盟国との信頼関係を損なえば、強固で統一された同盟関係を維持することがかつてなく重要なタイミングで、アメリカは孤立するリスクを高めることになるだろう。

政府効率化省と外交リスク
―― 米外交インフラを揺るがしたE・マスク

2025年3月号

ジェームズ・ゴールドガイアー アメリカン大学国際関係学部教授
エリザベス・N・サンダース コロンビア大学政治学教授

選挙で選ばれたわけでもない人物(E・マスク)のために働くチームに、大統領が、米政府を動かす基本システム(データ)への広範なアクセスを認める事態を、アメリカの同盟国や敵対国の情報機関はどうみているだろうか。マスク率いる政府効率化省のチームが、政府の機密保護システムを損なう行動をとれば、「機密情報を共有できる」という同盟国のアメリカへの信頼は揺るがされる。こうした信頼は、米外交の目にみえないインフラの一部であり、それが損なわれれば、同盟国はアメリカとの機密情報の共有をためらうようになるだろう。トランプとマスクの行動は、国家安全保障の中枢に手榴弾を投げ込んだようなものだ。

ドナルド・トランプと権力政治の時代
―― 同盟諸国はどう動くべきか

2025年3月号

アイボ・H・ダールダー シカゴグローバル評議会 会長
ジェームズ・M・リンゼー 米外交問題評議会 特別シニアフェロー

トランプは19世紀のパワーポリティックが規定する国際関係への回帰を明らかに思い描いている。同盟関係のことを、アメリカから雇用を奪う国々を保護するコストをアメリカに負わせる悪い投資だと考えている。関税引き上げなどの、経済的威嚇をパワーツールとして利用する彼のやり方は、強圧的秩序の幕開けを意味する。アメリカに譲歩しても、トランプがそれを評価することはない。アメリカの同盟国は強さを示さなければならない。トランプが理解するのは力であり、米同盟諸国が協力すれば、十分な力で立ち向かい、トランプ外交の最悪の衝動をけん制できるかもしれない。

ポピュリストと軍部
―― トランプが米軍を支配すれば

2025年3月号

ロナルド・R・クレブス ミネソタ大学教授

二期目のトランプが、米軍の自立性とプロフェッショナリズムを傷つけて、より政治化された組織に変貌させれば、民主主義と米軍の能力はともに打撃を受ける。職業軍人からなる米軍を、憲法や国への忠誠心ではなく、大統領への忠誠やイデオロギー的なリトマス試験紙に縛られた政治的任命中心の軍隊に変貌させて、アメリカがより安全になることはない。ポピュリストのリーダーの歴史が手がかりになるとすれば、トランプが米軍のプロフェッショナリズムや自立性を守ることはないだろう。それは民主主義における政軍関係、さらにはアメリカの国家安全保障にも大きなダメージを与えることになる。

アメリカ・ファーストを恐れるな
―― アジアとトランプ

2025年3月号

ビラハリ・カウシカン 元シンガポール国連大使

グローバルな関与の条件を再定義し、国際問題にいつ、どのように関与するかについてより慎重になることで、トランプ政権は、リチャード・ニクソン大統領が冷戦期に東アジアで初めて導入した(介入を控え、同盟国の役割分担を求め、地域バランスを重視する)アプローチを地理的に拡大して適用している。ほぼ半世紀にわたって、そのようなアメリカの政策に対処してきたアジアが、第二次トランプ政権の誕生に必要以上に動揺していないのは、このためだ。アジアは、長く、アメリカのことを、安全保障を提供することに前向きな超大国としてではなく、自国の国益を第1に考え、軍事力を選択的に行使する、オフショアバランサーとみなしてきた。

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