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― アメリカの衰退に関する論文

「帰ってきたアメリカ」は本物か
―― クレディビリティを粉砕した政治分裂

2021年7月号

レイチェル・マイリック   デューク大学研究助教授(政治学)

「本当にアメリカは帰ってきたのか」。トランプだけではない。同盟国はアメリカの国内政治、特に今後の外交政策に大きな不確実性をもたらしかねない党派対立を気にしている。これまでは、外交が政治的二極化の余波にさらされることは多くなかったが、もはやそうではなくなっている。議会での政治対立ゆえに条約の批准が期待できないため、米大統領は議会の承認を必要としない行政協定の締結を多用している。だがこのやり方は、次の政権に合意を簡単に覆されるリスクとコストを伴う。国内の政治的二極化が続き、ワシントンが複雑な交渉に見切りをつけ、新政権が誕生するたびに既存のコミットメントが放棄されるようなら、「敵にとっては侮れない大国、友人にとっては信頼できる同盟相手としてのワシントンの評判」は深刻な危機にさらされることになる。

対中戦争に備えるには
―― アジアシフトに向けた軍事ミッションの合理化を

2021年7月号

マイケル・ベックリー  タフツ大学准教授(政治学)

もし中国が台湾を攻略すると決めたら、米軍がいかにそれを阻止しようと試みても、中国軍に行く手を阻まれると多くの専門家はみている。だが、これは真実ではない。中国の周辺海域や同盟国にミサイルランチャー、軍事ドローン、センサーを事前配備すれば、(容易に近づけぬ)ハイテク「地雷原」を形作れる。これらの兵器ネットワークは、中国にとって無力化するのが難しいだけでなく、大規模な基地や立派な軍事プラットフォームを必要としない。問題は、アメリカの国防エスタブリッシュメントがこの戦略への迅速なシフトを怠り、時代遅れの装備と重要ではないミッションに資源を投入して浪費を続けていることだ。幸い、中国に厳格に対処すること、そしてアジアへの戦力リバランシングについては超党派の政治的支持がある。適正な戦略にシフトしていく上で欠けているのは、トップレベルのリーダーシップだけだ。

中ロ離間戦略を
―― 対ロエンゲージメントのポテンシャル

2021年6月号

アンドレア・ケンドール=テイラー  新アメリカ安全保障センター 大西洋横断安全保障プログラム ディレクター
デヴィッド・シュルマン 共和党国際研究所 シニアアドバイザー

中国とロシアの利益の重なり合い、軍事力その他の分野での相互補完性は、アメリカのパワーに対する両国の脅威をたんなる足し算以上に大きくしている。中国は、ロシアとの関係を利用して軍事力のギャップを埋め、技術革新を加速し、アメリカのグローバルリーダーシップを切り崩そうとしている。一方、国際社会で周辺化されていくことを警戒するモスクワは、アメリカがロシアと交渉せざるを得ないと考える環境を作り出そうと考え、北京との関係をそれを強化するための手段とみているようだ。例えば、中国に洗練された兵器を販売することで、モスクワはそうした関係の構築を模索してきた。ワシントンは関係の強化へと両国を向かわせるような行動を避けつつ、中ロの接近と協調をいかに制約するかをクリエーティブに考える必要がある。

権威主義へ傾斜する国際システム
―― 追い込まれたリベラルな秩序

2021年5月号

アレクサンダー・クーリー  バーナードカレッジ教授(政治学) ダニエル・H・ネクソン  ジョージタウン大学外交大学院教授

「世界を権威主義にとって安全な場所」にしようと、リベラルな秩序を支える主要な要因を排除しようとする権威主義国もある。特に中国とロシアは外交・経済力そして軍事力を行使して、オルタナティブ(代替)ビジョンを推進している。現在のトレンドをみるかぎり、世界政治を特徴づける非自由主義的要素と自由主義的要素のバランスは大きく変化していくかもしれない。国際システムはより独裁的で非自由主義的になっていくだろう。反動的なポピュリズムが力を増し、権威主義国家が頑迷な路線をとるようになったために、人権、政治的権利、市民権を尊重する思想が切り崩されつつある。現状でもっとも可能性が高いのは、泥棒政治家と利益供与ネットワークのニーズに即した国際秩序へ向かっていくことだ。

グローバルな大国間協調の組織化を
―― 多極世界を安定させるために

2021年5月号

リチャード・N・ハース  外交問題評議会会長 チャールズ・A・クプチャン  ジョージタウン大学  教授(国際関係学)

アメリカやヨーロッパにおけるポピュリズムや非自由主義への誘惑がそう簡単に下火になることはない。かりに欧米の民主主義が政治対立を克服し、非自由主義を打倒して、経済をリバウンドに向かわせても「多様なイデオロギーをもつ多極化した世界」の到来を阻止することはできない。歴史は、このような激動の変化を伴う時代が大きな危険に満ちていることをわれわれに教えている。だが、第二次世界大戦後に形作られた欧米主導のリベラルな秩序では、もはや世界の安定を支える役目は果たせないことを冷静に認めなければならない。21世紀の安定を実現するための最良の手段は「19世紀ヨーロッパにおける大国間協調」を世界に広げた、中国、欧州連合(EU)、インド、日本、ロシア、アメリカをメンバーとし、国連の上に位置する「グローバルな大国間協調体制」を立ち上げ、大国の運営委員会を組織することだ。

新保守主義がなぜ必要か
―― アメリカ政治再生の鍵を握る保守主義の再編

2021年5月号

オレン・キャス アメリカン・コンパス  エグゼクティブディレクター

経済リバタリアン、社会的保守派、外交タカ派の連合は、それぞれが自分たちのポートフォリオを重視するあまり、公共政策の多くが(最大公約数的に)市場原理主義者という小さな集団の手に委ねられてしまった。保守派の経済思想が衰退するにつれて、リバタリアンの思想が市場原理主義へ固定され、今日ではほとんどのコメンテーターはそうした原理主義思想の持ち主を「保守派」と呼んでいる。こうして、政治危機が引き起こされている。進歩主義はアイデンティティ政治や高学歴エリート特有のつかみ所のない悩みにますます執着している。だが「家族やコミュニティが依って立つ基盤に関する懸念に焦点を当てた(保守派の)イデオロギー的メッセージ」を前にすると進歩主義に力はない。今こそ保守派が中道右派としての立場を示すときだ。

時代後れで危険な湾岸政策
―― アメリカの湾岸政策のリセットを

2021年4月号

クリス・マーフィー  米民主党上院議員(コネチカット州選出)

「ペルシャ湾岸地域を支配しようとする外部勢力によるいかなる試みも、アメリカの死活的に重要な利益に対する攻撃とみなす」。この演説がその後「カーター・ドクトリン」として知られるようになり、以来、アメリカの中東政策の基盤とされてきた。しかし、いまやサウジよりもメキシコからより多くの石油をアメリカが輸入していることからも明らかなように、状況は大きく変化している。バイデン大統領は、新しい現実を見据えて政策をリセットし、むしろ、多角的で安定した国民経済、民衆の声に耳を傾けるような政府をもつ平和な地域へ湾岸が向かっていくのを助けるべきだろう。

介入と後退の歴史
―― グローバル世界でのアメリカの役割

2021年4月号

ロバート・ケーガン ブルッキングス研究所 シニアフェロー

外国の紛争に無関心を装いつつも、その後パニックに陥り、軍を動員して介入し、事態が安定すると撤退して後退する。アメリカは外国に介入した瞬間に片足を出口に向かわせていた。この交互に繰り返されるアプローチが同盟国、敵対国の双方を混乱・誤解させ、多くの場合、回避できたはずの紛争が引き起こされてきた。20世紀にはドイツや日本を含めて、アメリカの意図を誤認した外国の指導者や政府が戦争を起こし、最終的に無残な姿をさらけだした。21世紀における中国との競争において、アメリカ人は出口を探すのをやめて、運命と自国のパワーが強いる役割を受け入れるべきだろう。

トライバリズムを克服するには
―― 寸断されたアメリカのパワー

2021年4月号

ルーベン・E・ブリガティー サウス大学副総長

先の米大統領選は、アメリカ社会の深い亀裂を露わにし、警戒すべきレベルのトライバリズム(政治とアイデンティティをベースとする集団主義)政治が存在することを明らかにした。それは、まるで異なる集団間の抗争のようだった。有権者は政策への関心ではなく、アイデンティティに基づく党派主義の立場をとった。民族的・イデオロギー的アイデンティティが政党を蝕んでいる。アメリカの外交官や専門家たちが、現在のアメリカのような現象を外国に見出した場合、問題を解決するための外交的介入を訴えるかもしれない。重要なのは、違いを取り除くことではない。違いを管理する方法を学ぶことだ。

イノベーション戦争
―― 衰退するアメリカの技術的優位

2021年4月号

クリストファー・ダービー 米IQT CEO
サラ・セウォール IQT 上席副社長(「政策担当」)

北京は「戦争という最終手段をとらずに目標を達成するツールとしてテクノロジーのイノベーションに挑んでいる」。5Gの無線インフラを世界各地で販売し、合成生物学に取り組み、小型で高速なマイクロチップの開発を急いでいる。これらはすべて中国のパワーを強化するための試みだ。当然、ワシントンは視野を広げ、超音速飛行、量子コンピューティング、人工知能などの明らかな軍事用途をもつテクノロジーだけでなく、マイクロエレクトロニクスやバイオテクノロジーなど、これまでは本質的に民生用とみなされてきたテクノロジーも支援し、民間部門が投資しない分野に資金を提供する必要もある。

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