1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

― アメリカの衰退に関する論文

アメリカ政治の分裂と民主体制の危機
―― ドナルド・トランプと競争的権威主義

2017年6月号

ロバート・ミッキー ミシガン大学准教授(政治学)
スティーブン・レヴィツキー ハーバード大学教授(政治学)
ルキャン・アハマド・ウェイ トロント大学教授(政治学)

トランプのアメリカがファシズムに陥っていくと考えるのは行き過ぎだが、彼が大統領になったことで、この国が「競争的権威主義」、つまり、有意義な民主的制度は存在するが、政府が反対派の不利になるように国家権力を乱用する政治システムへ変化していく恐れがある。政府機関を政治化すれば、大統領は調査、告訴、刑事責任の対象から逃れられるようになる。政党間の分裂が激しければ、議会の監視委員会が、行政府に対して超党派の集団的な立場をまとめるのも難しい。しかも、政党だけでなく、アメリカの社会、そしてメディアさえもが分裂している。いまや民主党員と共和党員は全く異なるソースのニュースを利用し、その結果、有権者はフェイクニュースを真に受け、政党のスポークスパーソンの言葉をより信じるようになった。現在の環境では、仮に深刻な権力乱用が暴かれても、それを深刻に受け止めるのは民主党支持者だけで、トランプの支持者たちはこれを党派的攻撃として相手にしないだろう。・・・

CFR Events
漂流するアメリカ外交
―― ソフトパワーの崩壊とリスクヘッジ策

2017年4月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長
スチュワート・パトリック 米外交問題評議会シニアフェロー

「トランプ政権がかくもこれまでとは逆方向の路線をとり、大統領がアメリカのパワーの目的について何も議論しないことに、私は驚き、衝撃を受けている。人権、民主化の促進などについて彼は何も語っていない。控えめな表現しかしないというのではなく、全くこれらに言及しないのは、この国の政治的文脈に照らしても驚くべきことだ」(S・パトリック)

「これまでワシントンは、外での出来事がやがて国内に余波をもたらすと先読みして、『チャリティやフィランソロピー』としてではなく、リアリズムの視点から問題を内面化してとらえ(世界に関与し)てきた。アメリカの行動は現実にはリアリズムに基づくものだったことがうまく理解されていない」(R・ハース)

「アメリカ、ヨーロッパその他におけるポピュリストの台頭は、最近におけるグローバル化の時代の終わりを意味し、1世紀前にグローバル化の時代が終わった後と同様に、今後、われわれは不穏な時代を迎えることになる」。こう考えるのがいまや一般的になっている。しかし、1世紀前とは大きく違って、いまや不穏な事態に陥るのを防ぐさまざまな国内的、国際的なバッファーがある。1930年代のような経済的、地政学的カオスへと陥っていくことはあり得ない。問題は、今後も他のいかなる国にも増して大きな軍事、経済、ソフトパワー上の資源を維持していくとしても、アメリカがその資源を、国際システムを支える公共財の維持のために用いなくなる恐れがあることだ。多くの人はそれを失うまで、リベラルな秩序が安全と繁栄を支えていることに気づかないかもしれない。しかし、それに気づいたときには、すでに手遅れだろう。

欧米の衰退と国際システムの未来
―― バッファーとしての「リベラルな国際経済秩序」

2017年1月号

ロビン・ニブレット 英王立国際問題研究所所長

これまで世界の民主主義空間を拡大させてきたリベラルな国際秩序が、政治的な勢いを取り戻せる見込みはあまりない。格差と失業に悩む現在の欧米諸国は弱体化し、もはやリベラルな政治経済システムの強さを示すシンボルではなくなっているからだ。それでも孤立主義に傾斜したり、代替秩序の封じ込めを試みたりするのは間違っている。そのようなことをすれば、リベラルな国際秩序の擁護派と、それに挑戦する勢力が公然と対立し、偶発的に大掛かりな紛争に発展する恐れもある。希望は、「リベラルな国際政治秩序」は衰退しても、「リベラルな国際経済秩序」が生き残ると考えられることだ。中国やロシアのような統制国家も国の豊かさと社会的安定・治安を確保するには、リベラルな国際経済秩序に依存するしかない。これによって短期的には、民主国家と非自由主義国家が共存する機会が提供され、長期的には、リベラルな民主主義は再び国際秩序における優位を取り戻せるかもしれない。但し、変化に適応できればという条件がつく。

トランプ後もポピュリズムは続く
―― なぜ欧米でポピュリズムが台頭したのか

2016年11月

ファリード・ザカリア 「ファリード・ザカリアGPS」 (CNN)のホスト

欧米世界ではポピュリズムが着実かつ力強く台頭している。先進国が直面する低成長や移民流入が作り出す問題に慎重に対処していくには、一連の対策を通じて、全般的に少しずつ状況を改善させていくしかない。しかし、有権者はより抜本的な解決策とそれを実施できる大胆で決意に満ちた指導者を求めている。このために多くの人が、いまや大差ない政策しか打ち出せない伝統的な政党に幻滅し、ポピュリズム政党やポピュリストの指導者を支持している。バーニー・サンダースからトランプ、ギリシャの急進左派連合から、フランスの右派政党・国民戦線はその具体例だ。アメリカ人の多くは、トランプ現象は特有のもので、より大きくて永続的なアジェンダを映し出しているわけではないと考えているが、それとは逆が真実であることを示す証拠が出揃いつつある。・・・

欧米はロシアへの約束を破ったのか
―― NATO東方不拡大の約束は存在した

2014年12月号

ジョシュア・R・I・シフリンソン  テキサスA&M大学准教授

「NATOゾーンの拡大は受け入れられない」と主張するゴルバチョフ大統領に、ベーカー米国務長官は「われわれも同じ立場だ」と応えた。公開された国務省の会議録によれば、ベーカーはソビエトに対して「NATOの管轄地域、あるいは戦力が東方へと拡大することはない」と明確な保証を与えている。この意味ではNATOを東方に拡大させないという約束は明らかに存在した。約束は文書化されなかったが、東西ドイツは統合し、ソビエトは戦力を引き揚げ、NATOは現状を維持する。これが当時の了解だった。ドイツ統一に合意すれば欧米は(NATOの東方拡大を)自制するとモスクワが考えたとしても無理はなかった。しかし、「ワシントンは二枚舌を使ったという点で有罪であり、したがって、モスクワのウクライナにおける最近の行動も正当化される」と考えるのは論理の飛躍がある。・・・・

Review Essay
中国の政治経済体制の今後を検証する
――民主化、崩壊、それとも現体制の存続?

2006年11月号

アンドリュー・J・ネーサン コロンビア大学政治学教授

中国の民主化、崩壊シナリオを唱える人がいる一方で、現体制の存続を予測する人もいる。農村部の貧困や不良債権問題など、山積する課題に直面しているとはいえ、現体制が崩壊する気配はないし、一方で、民主化プロセスが進展する様子もない。 実際、中国の実験は、近代化路線を導入しても、権威主義体制の基盤を損なうことなく繁栄を手にできることを実証しつつあるのかもしれない。カザフスタンからイランまでの独裁政権が、中国の状況を、固唾をのんで見守っているわけはここにある。中国の歴史の流れを大きく変化させるものがあるとすれば、それは、内的要因よりも、むしろ、外からの衝撃かもしれない。アメリカ経済が衰退すれば、経済成長を前提とする中国における社会契約が崩壊してしまうかもしれないし、朝鮮半島で戦争が起き、感染症が蔓延した場合も同様に流れは大きく変化する。

新しい中東
――アメリカの時代の終わりとイランの台頭

2006年11月号

リチャード・N・ハース 米外交問題評議会(CFR)会長

第1次湾岸戦争が中東におけるアメリカの時代を開いたのに対して、ワシントンが自ら戦争の道を選択した第2次湾岸戦争は、中東におけるアメリカの時代を唐突に終わりへと向かわせた。次なる中東秩序では、外部勢力の影響力は穏当なレベルにとどまり、現地の勢力、つまりイランが大きな力を持つことになる。イラクに対してだけでなく、ハマスとヒズボラに対しても大きな影響力を持つイランは、自らのイメージ通りに中東をつくり替えようとする野心と、その目的を実現するだけの力を持っている。「平和で繁栄し、民主的なヨーロッパのような地域へと中東を生まれ変わらせる」というビジョンが実現されることはもうあり得ない。より可能性が高いのは、アメリカと世界、そして自分の地域を大いに苦しめるような「新しい中東」が誕生することだ。

米外交問題評議会インタビュー
ブッシュ就任演説と対テロ戦争

2005年1月号

ジェームズ・リンゼー  米外交問題評議会研究部長

自由を拡大し、圧政を終わらせることを強調したブッシュ大統領の就任演説が内政ではなく外交問題に終始したことは、9・11がもたらした大きな環境の変化を反映しているとジェームズ・リンゼーは指摘する。リンゼーは、今回の就任演説はある種の期待や抱負のようなもので、具体的な戦略を意図したものではないと分析しつつも、就任演説は民主化を求める勢力を勇気づけることには成功したが、アメリカの自由や民主主義に関するダブルスタンダードをこれまでも批判してきたイスラム過激派との戦いでは、大きな問題をつくり出すことになるかもしれないと語った。民主主義や自由を促進すると表明しておきながら、それを抑圧している政権と緊密に協力していると批判されることになるかもしれない、と。
聞き手はバーナード・ガーズマンのコンサルティング・エディター。

サダムが大量破壊兵器で反撃に出れば

2003年2月号

リチャード・K・ベッツ コロンビア大学戦争・平和研究所所長

アメリカは、蛇が攻撃してくるかもしれないと恐れるあまり、蛇をつつこうとしている。だが、つつかれた蛇がすぐさま反撃してくる危険をほとんど無視している。抑止や封じ込めを継続することの危険を大げさに言い立てる予防戦争論者は、戦争によって対米報復攻撃という惨劇が起きる危険を軽くみている。報復攻撃の脅威に備えるとともに、報復攻撃を誘発するような戦争を始めること自体を再検討すべきだ。予防戦争が「死を恐れるあまりの自殺」になりかねないことを認識し、封じ込めの強化を始めとする、イラク侵攻策に代わる策を検討すべきである。

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