1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

に関する論文

「ギリシャ危機」という虚構
―― 危機の本当のルーツは独仏の銀行
だった

2015年8月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治・経済学)

2010年に危機が起きるまでに、フランスの銀行がユーロ周辺諸国に有する不良債権の規模は4650億ユーロ、ドイツの銀行のそれは4930億ユーロに達していた。問題は、ユーロゾーン中核地域のメガバンクが過去10年で資産規模を倍増させ、オペレーショナルレバレッジ比率が2倍に高まり、しかも、これらの銀行が「大きすぎてつぶせない」と判断されたことだった。ギリシャがディフォルトに陥り、独仏の銀行がその損失を埋めようと、各国の国債を手放せば、債券市場が大混乱に陥り、ヨーロッパ全土で銀行破綻が相次ぐ恐れがあった。要するに、EUはギリシャに融資を提供することで、ギリシャの債権者であるドイツとフランスの銀行を助けたに過ぎない。ギリシャはドイツとフランスの銀行を救済する目的のための道筋に過ぎなかった。なかには、90%の資金がギリシャを完全に素通りしているとみなす試算さえある。「怠惰なギリシャ人と規律あるドイツ人」というイメージには大きな嘘がある。

CFR Interview
ヨーロッパ危機、中国の大戦略とTPP

2015年8月号

イアン・ブレマー ユーラシア・グループ代表

ヨーロッパは反EU感情の高まり、メンバー国間の亀裂、そしてロシアの脅威にさらされている。問題の多くは、メンバー国間の関係がうまくいっていないことに派生している。ギリシャのような小国がかくも大きな混乱を引き起こし、いまも解決されていないこと自体、メンバー国の関係がうまくいっていない証拠だろう。しかも、大きな地政学問題が生じている。中東やサハラ砂漠以南から難民がかつてない規模でヨーロッパに押し寄せ、ウクライナ危機に派生する米ロの対立もエスカレートしている。これらのすべてがヨーロッパに重くのしかかり、欧州経済に対する足かせを作りだしている。一方、現在、世界でグローバル戦略をもっている国があるとすれば、それはアメリカではない。中国だ。中国は国際貿易を拡大し、多国間金融機関を立ち上げている。中国は国家主導型の貿易・投資ルールの確立を試みており、このモデルは欧米が確立してきた既存の国際ルールを直接的に脅かすことになる。この意味でもアメリカがTPP構想から遠ざかるのは戦略的に間違っている。TPPはアメリカの長期的戦略のもっとも重要なコンポーネントであり、協定を締結することが極めて重要だ。

ギリシャとヨーロッパの出口無き抗争
―― きれいには別れられない

2015年8月号

デビッド・ゴードン 前国務省政策企画部長、トマス・ライト ブルッキングス研究所フェロー

ユーロゾーンからギリシャが離脱するのが、急進左派連合にとっても、ヨーロッパ各国の財務相にとっても、最善の選択であるかに思える。だが、「きれいに別れる」という選択は幻想に過ぎない。地理的立地がそれを許さない。ギリシャは、ヨーロッパでもっとも不安定な南東ヨーロッパの中枢に位置している。すでにギリシャの銀行破綻の余波がブルガリアやセルビアに及ぶのではないかと懸念されている。ギリシャが不安定化すれば、南東ヨーロッパの緊張がさらに高まる。それだけに、ギリシャとヨーロッパを結びつける絆は断ち切れそうにない。この点をもっとも深く理解しているのが、アンゲラ・メルケル独首相だ。IMF、アメリカ、多くのヨーロッパ諸国は唯一の打開策が、かつてなく踏み込んだ経済改革を受け入れさせる代わりに、債務救済に応じることであることを知っている。だが、教条的なチプラスとショイブレがそこにいる限り、これが実現する可能性はあまりない。

CFR Interview
株式市場の混乱と今後の中国経済

2015年8月号

スティーブン・ローチ
イェール大学グローバルアフェアーズ研究所 シニアフェロー

中国の株式市場に火花が散ったのは2014年11月、北京が上海・香港取引所の連動を発表したときだった。二つの市場で同じ株式を投資家は購入できるようになり、このアレンジメントを通じて外国資金が中国の国内市場へと流れ込んだ。中国の株式市場はこの12カ月にわたってブームに沸き返ってきたが、株価上昇の90%は上海・香港取引所の連動以降に起きている。非常にはっきりした投機熱が生じていた。投機が過熱したことで必然的に息切れが生じて流れが変わり、信用買いの弊害が表面化した。2015年6月、中国株は30%下落した。株式市場混乱の経済への衝撃はそれほど大きくはならないだろう。問題は、これが自由化に向けた金融改革プロセスを逆行させかねないことだ。依然として中国は消費主導型経済モデルの移行にコミットしているが、中国の株式市場バブルの崩壊によって、資本市場改革の先行きは不透明になっている。・・・

イスラムに背を向けるイスラム系移民たち
―― ヨーロッパ社会の世俗化とイスラム系移民

2015年8月号

ダーレン・E・シャルカット
南イリノイ大学社会学教授

宗教から距離を置く世俗化が進行するヨーロッパに、イスラム世界から大規模な移民たちが押し寄せている。2050年までに、イスラム教がヨーロッパの宗教人口の20%を占めるようになるとする予測もある。異文化のなかでの社会的疎外感がイスラム系移民の若者たちを過激な原理主義に向かわせる傾向があるのは事実としても、ヨーロッパ社会で世俗的多文化主義が台頭するなかで、イスラム系移民の世俗化も水面下では進んでいる。ヨーロッパの世俗主義が移民たちのイスラム思想を揺るがし、一部にはイスラムの信仰を捨てた者もいる。実際、原理主義に傾倒していく移民の若者よりも、信仰を捨てる者の方が多い。たしかに、信仰を捨てれば、懲罰を受けるという恐怖がつきまとうし、家族との衝突も避けられなくなる、それでも、多くのイスラム系移民の若者たちが、宗教に背を向けている。・・・

動き出したクルド連邦の夢
―― 政治的影響力を手にしたトルコのクルド人

2015年8月号

マイケル・タンチューム
ヘブライ大学トルーマン研究所フェロー (中東ユニット)

シリアのクルド人勢力(PYD)がイスラム国との軍事的攻防で大きな勝利を手にし、一方トルコ国内でもクルド系政党(HDP)が最近の選挙で大きな躍進を遂げた。だが、この展開から最大の恩恵を引き出せるのは、HDPを立ち上げ、PYDへの影響力をもつクルド労働者党(PKK)だろう。PKKがトルコ政府との停戦を維持できれば、HDPを通じてクルド人が民主的な方法で自治を獲得できる見込みはますます大きくなる。PKKは、分離独立は求めていない。むしろ、中東における3000万のクルド人を束ねる「汎クルド連邦」の実現を夢見ている。トルコとシリアの双方で自治的なクルド地域を確立するという夢が実現するかどうかは予断を許さないが、最近の進展が、すでにトルコと中東の政治地図を変化させているのは間違いないだろう。

ロボットが人の日常を変える
―― パソコンからパーソナルロボットへ

2015年7月号

ダニエラ・ラス マサチューセッツ工科大学コンピュータサイエンス&人工知能ラボディレクター

ロボットが日常化した世界では、人は目を覚ますと、自分専用のお使いロボットにスーパーマーケットで朝食用のフルーツとミルクを買ってくるように命令するかもしれない。ロボットはスーパーマーケットで、自分で買い物をしている人間に出会うかもしれないが、彼らもスーパーまで自律走行車を利用し、店内でも欲しいモノがある場所に連れて行き、商品の新鮮さ、生産地、栄養価値の情報を提供してくれる自動カートを利用している。・・・ロボット工学の目的は、ロボットが人間を助け、人間と協力する方法を見つけることにある。ロボットが人間の生活の一部となり、現在のコンピュータやスマートフォンのように一般的、日常的なものになればどうなるだろうか。現在の研究課題はロボットがモノをどのように扱うか、いかに推定するか、環境をどのように知覚するか、そしてロボット同士で、そして人間といかに協力するかを進化させていくことにある。

イスラム国のサウジ攻略戦略
―― テロと宗派間紛争

2015年7月号

ビラル・Y・サーブ アトランティックカウンシル  シニアフェロー

アルカイダは、2003―2006年にサウド家を倒そうと、テロでサウジ国内を混乱に陥れようとした。これはサウジの近代史におけるもっともせい惨で長期化した紛争だった。そしていまやイスラム国がサウジ国内でテロ攻撃を繰り返している。イスラム国の戦略は、アルカイダのそれ以上に巧妙かつ悪魔的で危険に満ちている。バグダディはサウジのシーア派コミュニティを攻撃して挑発し、その怒りをサウジ政府へと向かわせることで、宗派間戦争の構図を作り出そうとし、すでにサウジのことをイスラム国・ナジュド州と呼んでいる。一方、サウジの新聞とツイッターはシーア派に批判的な発言で溢れかえっている。政府は(反シーア派的な)メディアの主張と宗教指導者の活動をもっと厳格に監視し、抑え込む必要がある。そうしない限り、宗派間紛争が煽られ、サウジ政府とイスラム国の戦いが長期化するのは避けられないだろう。

ロボットが雇用を揺るがす
―― デジタル経済と新社会保障政策

2015年7月号

ニコラ・コリン ザ・ファミリー 共同設立者兼パートナー
ブルーノ・パリア ヨーロッパ研究センターリサーチディレクター

ロボットの台頭に象徴されるデジタル経済のなかで、「すてきな仕事」をしている人は今後もうまくやっていく。だが、製造、小売り、輸送などの部門で「うんざりする仕事」をしている人、決まり切ったオフィスワークをしている人は、賃金の引き下げ、短期契約、不安定な雇用、そして失業という事態に直面し、経済格差が拡大する。ルーティン化された雇用はいずれ消滅し、むしろ、一時的なプロジェクトへの人間とロボットのフォーマル、インフォーマルな協力が規範になっていく。技術的進化が経済を作り替えていく以上、福祉国家システムも新しい現実に即したものへと見直していかなければならない。最大の課題は、多くの人が仕事を頻繁に変えなければならなくなり、次の仕事を見つけるまで失業してしまう事態、つまり、「とぎれとぎれの雇用」しか得られないという状況にどう対処していくかだ。

CFR Events
遠大な対外経済構想の真意は何か
―― 中国が新秩序を模索する理由

2015年7月号

ロバート・ホーマッツ キッシンジャー・アソシエーツ 副理事長
オリン・ウェシングトン ウェシングトン・インターナショナルLLC 理事長
スティーブン・ウェイスマン ピーターソン国際経済研究所 副会長

「グローバルなルールは中国にとって好ましいものであるべきだし、少なくとも中国の利益やモデルにとって敵対的なものであってはならない」と北京は考えている。こうして、北京は、もっと自国の利益に合致するものへとシステムを変化させることに同意してくれる同盟国作りを(一連の構想を通じて)試みるようになった。もちろん、中国のモデルが、市場重視型のアメリカモデルとは違って、国を中心に据えたものであることを忘れてはならない。(R・ホーマッツ)

アジアの経済領域におけるアメリカの力は、その融資能力よりも、われわれの統治モデルとその価値に根ざしている。「良き統治」に向けた改革をめぐってわれわれは大きな役割を果たすべきで、これに大きな予算は必要ない。(法の支配を含む)相手国の統治能力が強化されれば、長期的な投資をする民間資本が流れ込むようになる。統治環境、政治・規制環境を整備しない限り、(いくら資金を注ぎ込んでも)中国のやり方はうまく機能しないだろう。(O・ウェシングトン)

Page Top