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に関する論文

エボラ危機対策の教訓(上)・(下)
―― なぜWHOは危機対策を間違えたか

2015年11月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニアフェロー(グローバルヘルス担当)

人類が初めてエボラ出血熱に遭遇したのは1976年。ザイール(現コンゴ)のヤンブク村とその周辺地域においてだった。未知の忌まわしい疾患に感染した人は内出血を起こし、高熱を出して幻覚に襲われ、なかには気が触れたような行動をとる人もいた。その多くが死亡した。19年後、2度目の深刻なエボラ危機が再びザイールで起きた時も、依然として、ワクチンも治療法も、現地で利用できる診断キットもなかった。防護服は不足していたし、現地には医療システムも、訓練された医療関係者もいなかった。そして、2014年に再びアウトブレイクが起きた。3月半ばにエボラウイルスの感染が急拡大した後、4月上旬までに感染は下火になっていた。この段階で、世界保健機構(WHO)も米疾病管理センター(CDC)もアウトブレイクは収束しつつあると状況を誤認してしまった。だがそれは、小康状態に過ぎなかった。ウイルスは公衆衛生当局の監視の目の届かないところに潜伏し、歴史上、最悪のエボラ危機を引き起こすチャンスを窺っていた。・・・

ヨーロッパのハンガリー問題
―― ビクトル・オルバンという腐ったリンゴ

2015年11月号

ダニエル・ケレメン
ラトガース大学教授(政治学)

中国やロシア、あるいはトルコに準じた非自由主義的な国家をハンガリーに建設する」と発言するなど、ハンガリーのビクトル・オルバン首相はこれまでも欧州連合(EU)にとって困惑を禁じ得ない存在だった。彼はハンガリーの司法権の独立やメディアの多様性を攻撃し、選挙制度を操作し、一党独裁の強化を試みてきた。だが現在の難民危機におけるオルバンの冷淡で短絡的な対応からみて、もはや彼は「困惑を禁じ得ない」どころか人権と人間の尊厳を重視するEUの「名折れ」的な存在だ。疲れ果てた難民を路上に放置し、残りは汚い収容施設へ送り込んでいる。セルビアとの国境沿いに有刺鉄線のフェンスを設置し、これを不満として集まってきた難民たちには放水銃や催涙ガスさえ浴びせかけた。ヨーロッパの指導者たちは、一丸となってオルバンのレトリックと政策を糾弾しなければならない。そうできなければ、ヨーロッパの腐ったリンゴがますます増えていくことになる。

気候変動と次の難民危機
―― 沈みゆく島嶼国の運命

2015年11月号

パトリック・サイクス ジャーナリスト

科学者たちは、ツバルは今後50年で完全に水没し、モルジブが水没するまでの猶予はあと30年と予測している。これらの島に住めなくなるとすれば、その近隣の島も同じ運命を辿る。太平洋の22の島国で暮らす920万人、そしてモルジブ諸島の34万5000人が住む場所を失う。ヨーロッパの海岸に押し寄せる大規模な難民ほど、海面水位の上昇がメディアの関心を引くことはないが、国家と領土が海面下に姿を消し、消失するというかつてない事態の帰結は、ヨーロッパの難民危機同様に深刻なものになる。最大の問題は、気候変動難民の場合、国と主権を完全に失ってしまうことだ。難民の受け入れ国は、入国を認めようとしている人物が誰なのか、その母国が消失しているとすれば、一体誰が彼らに責任を負うのかを考え込むことになるだろう。気候変動がすすむなか、国の存続と海洋境界線の安定した存続を想定する国際法は過去の遺物と化しつつある。・・・

引き籠もるイギリスと欧州連合
―― EUもイギリスも衰退する

2015年11月号

アナンド・メノン キングス・カレッジ・ロンドン教授(ヨーロッパ政治・外交)

1962年、ディーン・アチソン米国務長官は、「帝国を失ったイギリスは、まだ新しい役割を見つけていない」と指摘したが、現在のイギリスは、国際問題への関与にさらに消極的になっている。イギリスはヨーロッパだけでなく世界全般から手を引きつつあり、一方で、経済的な利益のためなら、中国の立場に配慮して地政学的な原則さえ犠牲にしていると一部では考えられている。おそらくは2016年に実施されるEU脱退の是非を問う国民投票は、イギリスの「引きこもり」が今後も続くのかどうかを判断する重要な材料になるはずだ。投票では、イギリスのパワーを強化するのは、EUメンバーのイギリスかEUを離れたイギリスかが問われることになる。問題は現在のようにイギリスがEUにおけるリーダーシップをとることを躊躇し続ければ、EUはますます非効率的になり、イギリスではEU脱退論がますます強くなり、悪循環に陥ってしまうことだ。

ウクライナの混迷とシリア介入
―― プーチンの策謀に欧米はどう対処すべきか

2015年11月号

ミッチェル・オレンシュタイン ペンシルベニア大学教授(政治学)

なぜプーチンはシリア紛争に軍事介入したのか。第1の目的は、ウクライナという言葉を新聞のヘッドラインから消すことだ。モスクワの外交担当者たちは、ウクライナ問題が国際社会のアジェンダの後方に位置づけられるようになれば、欧米の問題意識も薄れ、最終的に対ロシア制裁も緩和されるのではないかと期待している。第2に、シリアに関与することで、「欧米が取引しなければならない世界の指導者としての地位を再確立できる」とプーチンは考えたようだ。欧米は安易にプーチンの策謀に調子を合わせるのではなく、この「プーチンのあがき」をうまく利用して、ウクライナ問題をめぐってロシアから譲歩を引き出すべきだろう。

ウクライナ「紛争凍結」という幻想
―― ロシアが再び武力行使に出る理由

2015年10月号

サミュエル・キャラップ 英国際戦略研究所シニアフェロー (ロシア・ユーラシア担当)

ロシアの目的は、ウクライナの新たな憲法構造のなかで親ロシア派地域の権限と自治権を強化し、キエフに対する影響力を(間接的に)制度化することにある。この意味で、ドンバスをウクライナの他の地域から切り離すのは、ロシアにとって敗北を受け入れるに等しい。これまでのところ、ミンスク2の政治プロセスは、モスクワが考えていたようには進展していない。つまり、ウクライナによる合意の履行に明らかな不満をもっている以上、モスクワは現状を覆すために実力行使に出る可能性が高い。いまや唯一の疑問は、行動を起こすかどうかではなく、どのような行動をみせるかだ。いずれにせよ、ロシアの実力行使によってウクライナはかなりの経済的・人的なコストを強いられる。ヤヌコビッチ政権が倒れてわずか数日後にロシアがクリミアに侵攻したように、モスクワは危機の当初から拙速で無謀な行動をとってきたことを忘れてはならない。

バラク・オバマと米中東政策の分水嶺
―― なぜアラブの春を支持し、中東不介入策を貫いたか

2015年10月号

マーク・リンチ ジョージ・ワシントン大学教授(政治学)

ブッシュ政権期には、アラブの独裁者たちはテロ戦略・イラン戦略をめぐってアメリカと足並みさえ合わせれば、ワシントンの民主化要求をかわせると読んでいた。自分たちの利益に合致する地域秩序をあえて覆したいと望む中東の指導者はほとんどいなかった。だが、アラブの春に直面したオバマは独裁政権の指導者ではなく、街頭デモに繰り出した民衆を明確に支持し、ムスリム同胞団の政治参加を認めた。さらに、米軍の過大な地域関与を控え、基本的に不介入路線をとった。オバマはシリア紛争への踏み込んだ関与を避け、イラクから部隊を撤退させ、イランとの核合意をまとめ、アラブの春を支持した。おそらく、次期大統領はオバマの路線から距離を置こうとするだろう。しかし、結局は、容易ならざる中東の現実とオバマの選択の正しさを思い知ることになるだろう。

中国の市場自由化が引き起こす混乱
―― 政府による管理から市場メカニズムへの段階的移行

2015年10月号

ウィリアム・アダムス NC金融サービスグループ 上席国際エコノミスト

2015年夏の中国の株式市場、為替市場の混乱は、北京が市場の自由化を進めていることが引き起こした変動だった。株式市場の自由化を目指して、「上海・香港株式市場の相互乗り入れ」を認めたものの、主要なグローバル株式指数であるMSCIが上海で取引される中国株式の指標への組み入れを見送ったことをきっかけに、混乱が作り出された。同様に、人民元の唐突な切り下げも、北京が人民元のグローバルな役割を拡大しようとしたことが原因だ。今後も、自由化を進めれば、北京は経済と金融システムに対するトップダウンの管理手法を維持できなくなり、市場による調整と金融市場の変動と余波はこれまで以上に大きくなる。新たな経済モデルを目指した自由化プロセスが維持される限り、世界は、新しい金融アイデンティティを模索する中国の試みが引き起こすグローバルな混乱への対応を今後も余儀なくされるだろう。

中国市場の異変とグローバル経済
―― 中国経済はリセッションに陥りつつある

2015年10月号

シブ・チェン イェール大学教授
ウィレム・ブイター シティグループ、チーフエコノミスト
ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェロー
マイケル・レビ 米外交問題評議会地政経済学センター  ディレクター

GDPの50%に相当する投資をして、それでも中国経済の成長率は7%だ。本当の成長率は4・5%かそれ未満だと考えられる。要するに、中国経済はリセッションに陥りつつある。 (W・ブイター)
今後、さらに人民元が切り下げられる可能性は十分にある。他の諸国が中国の通貨切り下げに追随すれば、これらの影響は総体的にかなり大きなものになる。(R・カーン)

危機に直面すると中国政府はマネーサプライを増大させる。だがいまや優れた投資機会は限られている。こうして流動性を増やしても、多くの資金は中国から外へ向かい、アメリカがその恩恵を多く受けるようになるだろう。中国の株式市場や不動産市場、そして経済が問題に直面すればするほど、資金が中国から(アメリカを含む)外国へと向かうようになる。(シブ・チェン)

企業活動と持続可能な社会
―― 環境と社会への企業の貢献を数値化せよ

2015年10月号

ダイアン・コイル マンチェスター大学教授(経済学)

他の一切の指標を排除して、利益だけが商業的成功を測る唯一の基準にされ、目先のことしか考えず、持続可能性を考えない風潮が生まれたのは、現在の会計基準のせいだろう。だが、この限定的で一面的な評価モデルにも変化が起きている。営利企業ながらも、社会や環境問題の解決に貢献する「ベネフィット・コーポレーション」という分類がすでにアメリカでは登場しているし、他の国々でも似たような企業が誕生している。現代の企業を「真に公平に評価する」には、金融資産と物的資産だけでなく知的資本、人的資本、社会資本、自然資産という四つの資本を考慮する必要がある。そうすれば企業は、より持続可能な活動を心がけるようになる。必要な変革を起こすには、新しい国際会計基準を作り、企業に決算報告とともに社会・環境インパクトを報告させるべきだろう。・・・

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