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に関する論文

エボラ危機対策の教訓(下)
―― なぜWHOは危機対策を間違えたか

2015年12月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニアフェロー(グローバルヘルス担当)

西アフリカで何が起きているかを世界が認識し始めたのは2014年9月半ばになってからだった。国連安保理はエボラ出血熱を「国際的な脅威である」と宣言し、国連総会もこの流れに続いた。米疾病管理センター(CDC)は大規模な国際的介入がなければ、2月までに感染者は100万を超えるだろうという予測を発表した。だがエボラ危機への国際社会の対応は時期を失していた。WHOの指導者たちは、進行する危機を前にしてもひどく緩慢な対応に終始した。すでに2014年5月末までに感染はギニア、リベリア、シエラレオネ全域へと広がっていた。このとき、WHOのアウトブレイクに対する警報は最低レベルへと引き下げられていた。WHOはグローバルヘルス領域の中枢権限を維持していけるのかとその存続を疑問視する声が上がったのも無理はない。この疑問への答えは「依然としてWHOは必要だ」ということになるが、そのためには組織改革が不可欠だ。・・・

誰がミャンマーを統治するのか
―― アウンサンスーチーと軍は歩み寄れるか

2015年12月号

アーロン・L・コネリー
豪ローウィ国際政策研究所 リサーチフェロー

ミャンマーの選挙で改選されるのは上院・下院とも議席の75%だけで、残る25%は軍の指定席だ。憲法改正には議会の75%以上の賛成が必要とされるため、軍はみずからの権限縮小につながる改正を必ず阻止できる。さらに、軍最高司令官は国防相、内務相、国境相の任命権を持っている。アウンサンスーチーの選挙での勝利は、新生ミャンマーにおける今後5年あまりの権力分担をめぐる熾烈な争いの始まりにすぎない。この争いの過程で、スーチーと軍との関係も調整を迫られる。現憲法の改正を広く民衆に訴えようとすれば、彼女は再び自宅に軟禁され、ミャンマーは軍事政権に戻ってしまうだろう。今後5カ月でアウンサンスーチーと軍がどのように歩み寄るのか、そして新生ミャンマーにおける権力分担に合意できるかが、今後のミャンマーの進路を決定することになる。

価値なき同盟国は見捨てよ
―― パキスタンへの強硬策を

2015年11月号

C・クリスティーン・フェア ジョージタウン大学 外交大学院准教授(安全保障研究)、スーミット・ガングリー ブルーミントン校教授(政治学)

パキスタンはアフガンでもインドでも、武装集団を使って長く策謀を巡らしてきた。これらの武装集団のおかげで、パキスタンは正規兵を配備するリスクを回避するとともに、もっともらしい理由を付けて紛争やテロへの自らの関与を否定することもできた。また核兵器を保有しているおかげで、武装集団を利用して近隣国(とりわけインド)を攻撃しても、報復を恐れる必要もなかった。一方で、その実態がパキスタン政府や軍の代理組織、傀儡組織であるにも関わらず、これら「その行動を制御できない」武装集団の脅威を理由に、外国に援助をたかってきた。もうこの事実に目を背けるのは止めるべきだ。パキスタンは同盟国でもパートナーでもなく、敵対国だという認識を前提にした関係への仕切り直しが必要だ。ワシントンは民生部門への援助は続けても、パキスタンの偉ぶった軍事エリートたちへの援助に終止符を打つ必要がある。

新グレートゲーム
―― インド太平洋をめぐる中印のせめぎ合い

2015年11月号

ラニ・D・ミューレン ウィリアム&メリーカレッジ準教授(政治学)、コディ・ポプリン ブルッキング研究所 リサーチアソシエーツ

中国が「マラッカ・ジレンマ」への対策を取り始めたことがインド太平洋の海洋秩序を揺り動かしている。中国のインド太平洋へのアクセスはマラッカ海峡を経由するルートに限られ、そこにたどり着く途上でも近隣諸国との領有権論争をあちこちに抱えた南シナ海を航行しなければならない。これがマラッカ・ジレンマだ。中国が南シナ海に滑走路付きの人工島を造成したのも、国連海洋法条約が認める以上のこれまでよりも広範囲の排他的経済水域を宣言したのも、そして南アジア諸国との関係を強化しているのも、このジレンマを克服しようとしたからだ。一方、中国がパキスタンとの同盟関係を軸に陸海の双方から対インド包囲網を築くつもりではないかと懸念するインドも、アクトイースト戦略を通じて、インド洋沿岸諸国との関係を拡大し、中国がインド洋での永続的なプレゼンスを確立するのを阻止しようと試みている。いまや、インド太平洋では新しいグレートゲームが展開されている。

TPP批准に向けた最後のハードル
―― 米議会と産業界の曖昧な立場

2015年11月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・レポート編集長

現状では、TPPが米議会で批准されるかどうか、仮に批准されるとしても、それがいつになるのかさえ分からない。ビジネス・コミュニティのTPPへの立場は分裂しているし、圧力団体の巻き返し策も軽くみてはならない。共和党指導者が沈黙を守る同僚議員たちに熱心に働きかけなければ、TPPは批准されないかもしれない。反対派の一部は、オバマ政権であれ次期政権であれ、米政府は再交渉を相手国に強要できると確信している。自由貿易の支持派の多くも、かつてのように「自由貿易は貿易相手国を繁栄させることで、アメリカも恩恵を引き出せる」とは考えていない。彼らは米企業に都合がよいように外国市場を開放させることしか考えていない。すでに十分に市場開放されているアメリカにとって、できることはほとんど残されていないと考えている。このような自己中心的な幻想に貿易相手国は強い反発を示すことになるだろう。

シリア紛争と米ロ関係
―― 米ロ協調を左右するアサドファクター

2015年11月号

エオドワード・デレジアン 元駐シリア米大使

ロシアが唐突にシリアに軍事介入した理由はいくつかある。一つはイスラム過激主義がロシアの南部国境地帯に広がっていくことを懸念したからだ。プーチンはシリアがロシアのイスラム過激主義拡大の拠点になることを警戒している。さらにモスクワはシリアのタルタスにある海軍施設、つまり、ロシアが確保している地中海に面した唯一の不凍港へのアクセスを何としても維持したいと考えている。ここは、ロシア海軍が領海を越えてパワーを展開するための重要な港だ。もっとも、ロシアのシリアへの介入によって、イスラム過激派がロシアを主要な敵に据え、報復のターゲットにする可能性もある。・・・一方、シリア紛争をめぐる米ロ関係の最大の試金石は、バッシャール・アサドの処遇だ。これまでワシントンは、「アサドは解決策ではなく、問題の一部であり、彼が退陣することが前提だ」という立場をとってきた。だが、アサドの退陣を交渉の前提に据えてきたアメリカの態度も次第に軟化してきている。政治体制移行期の「初期段階にはアサドが権力者だとしても、いずれ退陣する」という妥協案が出てくるかもしれない。この意味で、シリア紛争をめぐる地域諸国、イラン、ロシアを含む大国間の外交交渉に向けた国際環境が生まれつつある。

革命国家の歴史とイスラム国
―― さらなる拡大と膨張はあり得ない

2015年11月号

スティーブン・ウォルト ハーバード大学教授(国際関係論)

極端な暴力路線をとり、性奴隷を正当化しているとはいえ、革命運動としてみればイスラム国(ISIS)に目新しい要素はほとんどない。宗教的側面をもっているとはいえ、イスラム国は多くの側面においてフランス、ロシア、中国、キューバ、カンボジア、イランで革命期に出現した体制、国家建設を目指した革命運動に驚くほどよく似ている。そして、歴史が示すところによれば、革命国家を外から倒そうとする試みは、逆に強硬派を勢いづけ、さらなる拡大の機会を与え、逆効果となることが多い。よりすぐれた政策は、イスラム国に対する辛抱強い「封じ込め戦略」を地域アクターに委ね、アメリカは遠くから見守ることだ。無謀な行動はコストを伴い、逆効果であることを誰かが教えるまで、革命国家がその行動を穏健化させることはない。その革命的な目的を穏健化させるか、完全に放棄するまで、イスラム国を辛抱強く封じ込める必要がある。

ロシアのシリア介入戦略の全貌
―― そのリスクとベネフィットを検証する

2015年11月号掲載

デミトリ・アダムスキー/IDCヘルズリア 准教授

シリアを安定化させて、ロシアの地域的プレゼンスを維持できるようにすることを、モスクワはおそらく介入の最終目的に据えている。初期段階ではシリアの沿海部の安全を確保し、この地域での影響力の強化を試みるはずだ。この地域には、ラタキヤやタルトゥースなど、ロシアがこれまでも影響力をもってきた施設がある。とはいえ、モスクワはシリアにおける地上戦の殆どを同盟勢力に委ねるだろう。作戦計画に参加し、情報を共有し、ターゲットを選定するとしても、ロシアの大隊をダマスカスで日常的に見かけるようなことにはならない。・・・地上戦を担うのは、残されたアサドの部隊、イランの革命防衛隊と民兵部隊バスィージ、そしてレバノンのヒズボラだろう。問題は、イスラム国に対する作戦を開始した当初は、この同盟勢力間の連帯を維持できても、作戦が長期化し、特にアサドが支配する地域の安定化が実現すれば、同盟勢力の利益認識が次第に分裂し始めると考えられることだ。・・・

プーチンを支えるイワン・イリインの思想
―― 反西洋の立場とロシア的価値の再生

2015年11月号

アントン・バーバシン インターセクションプロジェクト マネージング・ディレクター
ハンナ・ソバーン ハドソン研究所 非常勤フェロー リサーチアソシエーツ

イワン・イリインは歴史上の偉大な人物ではない。彼は古典的な意味での研究者や哲学者ではなく、扇動主義と陰謀理論を振りかざし、ファシズム志向をもつ国家主義者にすぎなかった。「ロシアのような巨大な国では民主主義ではなく、(権威主義的な)『国家独裁』だけが唯一可能な権力の在り方だ。地理的・民族的・文化的多様性を抱えるロシアは、強力な中央集権体制でなければ一つにまとめられない」。かつて、このような見方を示したイリインの著作が近年クレムリン内部で広く読まれている。2006年以降、プーチン自ら、国民向け演説でイリインの考えについて言及するようになった。その目的は明らかだ。権威主義的統治を正当化し、外からの脅威を煽り、ロシア正教の伝統的価値を重視することで、ロシア社会をまとめ、ロシアの精神の再生を試みることにある。・・・

クルド人の政治的連帯とトルコの未来

2015年11月号

ソーナー・カギャプタイ ワシントン・インスティチュートトルコ研究プログラムディレクター

これまで長期にわたって、トルコのクルド人コミュニティは、政治的に分裂し、全国レベルの運動としてまとまりをもっていなかった。だがエルドアンが、イスラム国の攻勢にさらされるシリアのクルド人の窮状に「様子見」を決め込んだことが、トルコのクルド人の怒りを買い、政治的に連帯させた。いまやクルド人は政治的立場の違いよりも、民族を軸にまとまるようになり、その大多数が人民民主主義党(HDP)という一つの政党に投票するようになった。こうしてHDPはトルコ議会で3番目に大きな勢力に浮上し、クルド人はすでに政治的影響力を手に入れている。もはやトルコ政府も包括的な権利と政治への参加を求めるクルド人の要求を無視できなくなっている。問題は、エルドアンが自分のやり方を強要するという姿勢を崩していないことだ。

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