1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

に関する論文

北欧モデルの教訓とは
―― テクノクラシーとポピュリズムの間

2015年12月号

ファブリッツィオ・タッシナーリ デンマーク国際問題研究所 外交政策研究部長

北欧諸国は民主社会主義を通じて市場経済と普遍的社会保障間の均衡を見いだし、大きな成功を収めてきたと考えられている。男女平等、国民皆保険、持続可能なエネルギーといった北欧発の進歩的社会政策はいまや広く世界に浸透し、これまで北欧(スカンジナビア)モデルは大きな称賛の対象とされてきた。さらに北欧諸国は他に先駆けて効率的で公正なテクノクラシーを確立してきた。だが近年では、移民規制や緊縮財政といった論争の対象とされる政策を実施し、反EU、反移民をスローガンに掲げる急進的なポピュリズム政党も台頭している。いまや北欧モデルも、自由民主主義とポピュリズムの政治運動との均衡を見いだす必要に新たに迫られている。

難民の自立を助けよ
―― 難民危機への経済開発アプローチを

2015年12月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授(政治学)、ポール・コリアー オックスフォード大学教授(経済学)

長期的な難民生活を強いられている人々は、永続性のある解決策、つまり、母国あるいはその他の国が「平和的な社会に自分たちを統合してくれること」を願っている。昨今のシリア難民への対応をめぐるヨーロッパの混乱からみても、難民危機への新しいアプローチが必要なことは明らかだ。難民の生活レベルを改善する一方で、難民受け入れ国の経済、安全保障利益を高める政策が必要とされている。現在の古色蒼然たる政策を、特別経済区を作って、難民に雇用を提供することで自立の道を与え、社会に統合していく政策へと見直していく必要がある。最終的に紛争が終わった時に備えてシリア難民はビジネスの下地を作っておく必要がある。このプロセスを難民受け入れ国経済の発展にも寄与するものにしなければならない。こうしたアプローチなら、難民の必要性と受け入れ国の利益を重ねあわせられるし、他の難民危機への対応にも適用できるだろう。

イスラム国の大きな過ち
―― グローバルテロ戦略の弊害

2015年12月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

パリの同時多発テロから、厄介なシナリオがみえてくる。それは、イスラム国がこれまでの地域重視戦略を見直し、グローバルテロ戦略へとシフトしつつあるかもしれないことだ。グローバルテロ戦略をとれば、戦士のリクルートもうまく進む。数多くの外国人メンバーを抱えているだけに、イスラム国はグローバルテロ戦略をとる資産をもっているともみなせる。だがその副作用も大きい。世界的にテロを展開するには組織の指揮統制を緩め、ローカルなテロ分子に行動の自由を与えるしかない。司令塔をもたないテロの場合、ターゲットを間違え、残忍な殺戮を行うようになることも多い。実際、こうした関連組織の暴走ゆえに、世界のイスラム教徒がアルカイダに背を向けるようになったことは広く知られている。世界はさらに忌まわしいテロが起きることを警戒すべきだが、イスラム国がグローバルテロ戦略へシフトしているとすれば、最終的に大きなコストを支払わされることになるだろう。

パリ同時多発テロとイスラム国
―― 次のターゲットは欧米かサウジか

2015年12月号掲載

スティーブン・クック/米外交問題評議会シニアフェロー // フリップ・ゴードン /米外交問題評議会シニアフェロー // ファラ・パンディッシュ /米外交問題評議会シニアフェロー // グレアム・ウッド/米外交問題評議会シニアフェロー

今回のテロは、イスラム国をうまく特定地域内に封じ込めたことによって起きたと考えることもできる。われわれは領土を取り戻しつつあり、もはやイスラム国が支配地域を拡大する余地は残されていない。彼らは、テロを起こすことで「われわれが終わったわけではなく、別のやり方もできる」と言いたいのだと思う。(P・ゴードン)

考えるべきは、メッカとメジナを支配地域に組み込まずに、彼らが「イスラム国家」を自称できるかどうかだ。この意味で、私は、イスラム国は、(欧米世界ではなく)サウジを主要なテロのターゲットだとみなしていると思う。サウジもそのリスクを警戒している。(宗派対立の構図を作り出そうとするイスラム国系集団によって)、サウジのシーア派モスクは連日攻撃されている。(S・クック)

イスラム国による軍事的侵略と征服による領土拡大路線がうまくいっていない。・・・、この現実を前にイスラム国は路線を見直し、外国でのテロを(新規リクルートを通じた)勢力拡大のツールと位置づけたのかもしれない。(G・ウッド)

水素エネルギーへの大きな期待
―― 水素型燃料電池とエネルギーの未来

2015年12月号

マシュー・M・メンチ テネシー大学ノックスビル校教授

水素型燃料電池が魅力ある選択肢であることはかねて明らかだった。水素と酸素の化学反応を利用して電気をつくるため、その過程で排出されるのは熱と水だけだ。そしていまや水素を用いた燃料電池技術は競争力のある選択肢となりつつある。世界における燃料電池の売り上げは年々伸びており、容量も2009年からの4年間で2倍以上に増えている。韓国の現代自動車は、多目的スポーツ車(SUV)「ツーソン」の燃料電池モデルを発売し、トヨタ自動車も水素型燃料電池車「ミライ」を5万7500ドルで発売している。燃料電池が進化すれば、貯蔵能力がないという配電網の最大の問題の一つも解決できるし、再生可能エネルギーの利用も促進される。水素型燃料電池の市場化は、もはや未来のものではなくなっている。但し、幅広い応用にはまだ長い道のりが待ち受けている。

<CFR Events>
中国経済と新興市場危機
――世界経済アップデート

2015年12月号

ルイス・アレキサンダー
野村ホールディングスアメリカ、チーフエコノミスト
ビンセント・ラインハルト
アメリカン・エンタープライズ研究所 客員研究員
ジョン・リプスキー
ジョンズホプキンス大学ポール・ニッツスクール 外交政策研究所 シニアフェロー

立ち直りつつあるとはいえ、中国の不動産市場には大きなインバランスがある。不動産市場の問題には地方政府の債務問題も関わってくる。さらに、急成長期の設備投資によって、いまやさまざまな産業が大規模な過剰生産能力を抱え込んでいる。これらの問題は銀行部門の不良債権としていずれ先鋭化する。(L・アレクサンダー)

中国は膨大な投資をしながらも、それを経済成長に結びつけられずにいる。最大の問題は非効率だ。資本を無駄に浪費している。・・・彼らはどこに向かうべきかを理解しているし、どうすれば、そこにたどり着けるかの計画ももっている。しかし、誰もがそこに向かうことが自分の利益になると考えているわけではなく、改革路線への抵抗がある。(J・リプスキー)

現在、地球の歴史のなかで最大規模の農村から都市への人口移動が起きていることに注目すべきだ。都市部での労働生産性は高く、所得は大きくなる。その半分を貯蓄にまわせば、これを中国全土での投資として利用できる。もちろん、間違いを積み重ねていけば、10年毎に、不良債権の山と建設すべきではなかった工場が残される。だが、政府がこれを清算して、同じことを繰り返すこともできる。・・・(V・ラインハルト)

フランスのユダヤ人
―― シオニズムとフランスへの忠誠

2015年12月号

リサ・モーゼス・レフ
アメリカン大学准教授(歴史学)

現在と過去の反ユダヤ主義には多くの違いがあるが、基本的な構造は似ている。その背景には、政治と経済の危機があるし、世界中の民主主義国がアイデンティティーとその純度を重視する運動の圧力にさらされていることにも関係がある。そして、人種差別によって多くの人の機会が制限され、各国内の経済格差が劇的に拡大している。現代の反ユダヤ主義を突き動かしているのは、こうした社会の現象と風潮であり、イスラム教対ユダヤ・キリスト教の「文明の衝突」ではない。これをユダヤ人だけでなく、社会全体の問題として捉えなければならない。かつて自分がユダヤ人であることを公言して、フランスの首相になったレオン・ブルムも、「ユダヤ人問題と社会全体の問題間の区別はない」と考え、社会問題へ同じアプローチをとった。この思想を現在のフランス政府も引き継いでいる。

迫り来る湾岸経済の危機
―― 経済の多角化を阻む障害をいかに克服するか

2015年12月号

アディール・マリク
オックスフォード大学イスラム研究センター リサーチフェロー

湾岸の産油国の経常収支は今後急速に悪化していく。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、5年後の2020年までに、湾岸諸国の経常赤字合計額は7000億ドルに達する。原油安が続けばこの数字がさらに膨らむ恐れもある。原油価格の変動に翻弄されないように経済の多角化を進める必要があることはかねて理解されてきたが、改革は進んでいない。問題は、そうした改革によって支配エリートの権力基盤が損なわれてしまうことだ。構造改革によってビジネス界の収益が拡大して、影響力が大きくなれば、支配者の権力基盤が揺るがされる。つまり、経済の多角化を進めるには、改革によって資源輸出の収益に依存するエリートが何かを失うとしても、それを埋め合わせる恩恵があることを指導者たちが納得する必要がある。先ず手を付けるべきは金融部門の改革と整備。市場の自由化、そして地域的経済協調の確立だろう。

新米ロ冷戦の現実
―― 冷戦期以上の米ロ関係の緊張

2015年12月号

ディミトリ・サイメス ナショナルインタレストセンター会長

ロシアにペナルティを科すことが経済制裁の目的だとすれば、われわれは一定の成功を収めている。一方、その目的がロシアをもっと穏健かつ協調的にし、好ましい方向へと向かわせることが目的なら、われわれは意図とは逆の現実に直面している。制裁が続くなかで、アメリカがウクライナに武器を供与し、ウクライナ政府がウクライナ東部(ドンバス)の問題を力で解決しようとすれば、ロシアは歴史的な決定、つまり、ウクライナ全域の占領に踏み切らざるを得ないと考える高官もいる。この場合、300―500万の難民がヨーロッパへと向かうことになる。私の知る限り、モスクワが、これを現実の計画としてまとめているわけではない。しかし、そうした議論があるのは事実だし、この議論を魅力的だと考える高官たちもいる。さらに、包囲網を築かれていると危機感を強めるロシア高官の一部は、バルト諸国の1カ国か2カ国に懲罰を与えることでNATOの安全保障システムが空洞化していることを立証したいと考えている。・・・(聞き手はJeanne Park, Deputy Director, www.cfr.org)

忌まわしきイラク紛争の現実
―― もはや分権化か分割しか道はない

2015年12月号

アリ・ケデリー
元駐イラク米大使特別補佐官

イラク治安部隊の崩壊とシーア派武装勢力の台頭は、バグダッドの影響力をさらに弱め、イラク国内におけるイランの影響力を高めた。イランの影響下にあるシーア派武装集団は、スンニ派地域に攻め入っては残虐行為を繰り返し、結局は、スンニ派住民たちをイスラム国支持へと向かわせている。一方で、イスラム国が罪のないシーア派住民を爆弾テロで殺害すると、シーア派武装勢力への人々の支持が高まり、イラク政府はますます弱体化する。スンニ派とシーア派、アラブ人とクルド人、それぞれの宗派・民族集団の内部抗争という構図での地域的な代理戦争と紛争が同時多発的に起きており、イラク近代史におけるもっとも危険に満ちた時代が今まさに始まろうとしている。イラクが第2のシリア、つまり、市民を脅かし、大規模な難民を発生させ、ジハード主義を育む空間へと転落していくのを阻止するには大胆な措置が必要だ。おそらく各派の民族自決を認める必要がある。・・・

Page Top