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に関する論文

サウジとイランの終わりなき抗争
―― 対立が終わらない四つの理由

2016年2月号

アーロン・デビッド・ミラー ウッドロー・ウィルソンセンター 副会長 (ニュー・イニシアティブ担当)、ジェイソン・ブロッドスキー  ウッドロー・ウィルソンセンター (リサーチアソシエーツ)

スンニ派の盟主、サウジは追い込まれていると感じている。原油価格は低下し、財政赤字が急激に増えている。イエメンのフーシ派に対する空爆コストも肥大化し、イランが地域的に台頭している。サウジは、複数の嵐に同時に襲われる「パーフェクトストーム」に直面している。一方、シーア派のイランは核合意によって経済制裁が解除された結果、今後、数十億ドル規模の利益を確保し、新たに国際社会での正統性も手に入れることになる。しかもテヘランは、シリアのアサド政権、イラク内のイラン寄りのシーア派勢力、レバノンのヒズボラを支援することで、地域的影響力とパワーを拡大している。シリア、イラクという中東紛争の舞台で、サウジとイランは代理戦争を展開し、いまや宗派対立の様相がますます鮮明になっている。このライバル抗争は当面終わることはない。その理由は四つある。・・・

CFR Events
激化する宗派対立と中東の混乱

2016年2月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会シニアフェロー (アメリカ外交担当)、レイ・タキー 米外交問題評議会シニアフェロー(中東担当)、アニヤ・シュメーマン 米外交問題評議会・ワシントンディレクター

「この10年間でイランは、イラク、レバントなど、かつてはプレゼンスをもっていなかった地域へと影響力を拡大している」とサウジはみている。一方イランは、「包囲されたサウジは、最近のシーア派指導者の処刑を含めて、自滅的な行動をとっている」とみなし、「これはリヤドが国内的に追い込まれている証拠だ」と考えている。もっとも、サウジでシーア派指導者が処刑されたことにイランが反発し宗派対立が激化することは、サウジにとっては織り込み済みだった。宗派対立の緊張を高め、スンニ派の立場を擁護していくとアピールし、サウジにおける支配体制を正当化できるとすれば、それはリヤドの利益になるからだ。さらに、今回の事件を通じてサウジが送ろうとしたメッセージの一つはワシントンを意識していた。すでに「アメリカはサウジの立場に反対している」とリヤドが判断しており、メッセージの目的は「サウジかイランか、どちらかを選ぶように」とワシントンに再考を迫ることにあった。・・・シリアやイエメンでの地域紛争が続く限り、基層部分に宗派対立という構図をもつサウジとイランの地政学的なライバル抗争は今後も続くだろう。・・・・

格差是正の具体策を提言する
―― 累進課税の強化と貧困層の富の拡大策を

2016年2月号

アンソニー・B・アトキンソン ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授

格差がかつてないレベルへと拡大しているのは、富裕層の所得が劇的に増加する一方で、貧困層の所得がさらに減少しているからだ。政治家は格差の拡大や貧困を懸念するが、是正は不可能だと半ば諦めている。だが、格差を是正する具体策はある。まず、所得税を累進的にする必要があるし、「遺産税」を拡大して、これを誰もが18歳になったときにもらえる「最低限所得保障」の財源にすべきだ。収入が一定以下の人に、税控除ではなく、政府が給付金を提供することもできる。失業対策として政府が「最後の雇用主」となるやり方もある。・・実のところ大部分の格差是正策は、すでに私たちの手の中にある。問題は、政府が格差問題に本腰を入れるかどうかだ。

米欧データ戦争の衝撃
―― 覇者の奢りとヨーロッパの反撃

2016年2月号

ヘンリー・ファレル ジョージ・ワシントン大学 准教授(政治学、国際関係論)、エイブラハム・ニューマン ジョージタウン大学准教授

2015年10月、欧州司法裁判所は、「米民間企業によるデータ収集とアメリカ政府の国家安全保障活動の境界が曖昧である以上、(ヨーロッパの個人情報をEU域外に移転することを認めてきた)セーフハーバー協定を無効化する」という判決を下した。EUは域内企業を外国との競争から一方的に保護し、インターネットのオープンで民主的な特質を傷つけようとしていると批判する人もいる。しかし、オープンで安全なインターネット環境を擁護しつつ、アメリカはオンライン通信の暗号を無効化し、広範な通信監視システムを構築してきた。ワシントンが世界の相互依存状況を自国の安全保障目的に利用し続ければ、今回の判決がきっかけとなって、今後、他の国々と裁判所は、アメリカ中心の世界経済にますます抵抗するようになり、グローバルなクラウドコンピューティング構築の夢は絶たれ、デジタルの暗黒時代へと向かう恐れがある。

シリア紛争を外交的に決着させるには
―― 誰を暫定政府に参加させるのか

2016年2月号

ケネス・ロス ヒューマン・ライツ・ウォッチ エグゼクティブ・ディレクター

2015年10月のウィーン会議でシリア紛争を政治的解決に導くためにアウトラインが示されたが、合意には「それに必要な信頼感を紛争勢力間にどのように育んでいくか」という視点が欠けていた。必要なのは、シリア人を分裂させている民間人への攻撃の停止を求め、その責任を負うべき人物を協議の場から外すことで、信頼醸成に取り組むことだ。そのためにも最終的にはアサドを退陣させ、大量殺戮に関する真相究明委員会を立ち上げ、「重大な人権の乱用への責任を負っている」と判断された者は、公職から追放すべきだ。もちろん、イスラム国とヌスラ戦線を粉砕する必要もある。そして、少なくとも当初は強固な中央集権国家ではなく、一連の地方政府に多くの権限を与えるべきだろう。とにかく、民間人の殺戮を止めさせることが外交的解決に向けた最優先課題だろう。

2016年の世界とアメリカ

2016年2月号

ジェームズ・リンゼー
米外交問題評議会研究部長

2015年に世界の指導者たちが直面し、対応に苦慮した問題の多くが2016年も続くだろう。中東は大きな混乱のなかにあり、難民流入を含むさまざまな問題に直面するヨーロッパは(地域統合という)目的を見失っている。テロの脅威への認識も高まっている。アジアでは(中国が主張する南シナ海の領有権をめぐって)緊張が続いている。さらに中国の経済成長のスローダウンが次第に世界経済に余波を及ぼしつつある。こうした国際環境のなかで、アメリカでは騒々しい大統領選挙キャンペーンが展開されていく。ロシアはシリアに介入しただけでなく、ヨーロッパの分断線につけ込んでいる。イランについては、核合意でカバーされていない議論のある問題をめぐってどうテヘランに対処していくかが問われることになる。・・・

2016年、世界は中東とヨーロッパを中心に半世紀に一度の大きな地政学的変化を経験することになるかもしれない。中東ではアラブの春に象徴される社会不満が噴出し、アメリカの覇権が形骸化したことによる政治的空白のなかで、「イスラム国」が台頭し、宗派間紛争が固定化しつつある。そこで起きているのは多層的な革命と秩序再編だ。ヨーロッパでは、ユーロ導入に伴う金融政策上の主権喪失がギリシャ危機として先鋭化し、その対応に必要なさらなる政治・経済統合にメンバー国は同意できずにいる。難民の流入に伴う各国の国家意識の覚醒によって多文化社会が揺らぎ、EUの根本理念である域内における「人の移動の自由」さえも脅かされている。EUがメンバー国に求める緊縮財政も、EUへの反発と国家意識を高め、右派政党を台頭させている。そして中国は自由化に伴う経済的混乱のなかにある。一定の余力を残しつつも、経済的対応ツールは今後ますます少なくなり、危機に対応できなくなる恐れもあり、中国発グローバルリセッションのリスクを指摘する専門家もいる。世界各地で政府と市民の社会契約が揺るがされるなか、地域秩序が解体していけば、全てが流動化し、地域大国間だけでなく、ロシア、中国を含む大国の地政学的思惑と行動が表面化していくリスクがある。・・・

欧米の分析者や政府関係者のなかには、ロシアが深く関与しているシリアとウクライナでの紛争が、北京とモスクワの関係を緊張させるか、破綻させると期待混じりに考える者もいる。だがそもそも中国はロシアとの公的な同盟関係を結ぶことにも、反米、反欧米ブロックを組織することにも関心はない。むしろ、北京は、中ロが開発目標を達成できるような安全な環境を維持し、互恵的な関係で支え合い、どうすれば国際システムを強化する方向で大国同士が立場の違いを管理できるかのモデルとされるような関係を形作っていくことを望んでいる。アメリカとその同盟諸国は、中国とロシアの緊密な絆を、米主導の世界秩序を脅かす疑似同盟関係の証拠とみなすかもしれない。だが中国は、米中ロの三国間関係は、二つのプレイヤーが連帯して残りの一つと対峙するパワーゲームとみてはいない。・・・

青い惑星の水不足
―― 高まる水資源需要にいかに応えるか

2016年1月号

韓昇洙 国連「水と衛生に関する諮問委員会」委員

水の惑星と言われる地球だが、人類が実際に摂取できる水の量は、地球上の水資源のわずか1%。現状でも、世界の8億人近くの人々が、クリーンな飲料水へのアクセスをもたず、国連の世界水資源開発報告書は、水資源需要が現在のペースで増え続ければ、2030年には需要が供給を40%上回ることになると予測している。このシナリオが現実と化せば、10億人以上の人々が水資源不足だけでなく、多くの国が(農業用水の不足による)食料不足や生活レベルの低下に苦しむことになる。十分な飲料水資源を人類に供給するには、既存の資源をいかに管理していくかが重要だ。幸い、三つのイノベーションが未来を切り開きつつある。・・・

イスラム国とカリフ制国家
―― 何が異質で、どこに継続性があるのか

2016年1月号

ヒシャム・メルヘム アルアラビヤ コラムニスト

イスラム国と、過去の原理主義運動の間には多くの連続性があるが、戦術と戦略には歴然とした違いがある。・・・イスラム国は、中東に国家を樹立することを主眼とし、イスラム教徒を虐殺することも厭わない。また、ソーシャルメディアなど最新のテクノロジーを駆使して、高度かつ広範にわたるプロパガンダを展開する点で、過去のいかなる原理主義組織とも大きく違っている。だがイスラム国が自らの目標を達成することはないだろう。中東のイスラム教徒たちは、イスラム国はまったく異質な存在であるという妄想を捨てて、イスラム国がマフディーやカリフを語るのは、イスラムの長い流血の伝統の一つにすぎないことを認めれば、イスラム国との戦いの本質、つまり、どの伝統が今後のイスラム教の中心になるかを決める戦いがみえてくるはずだ。・・・

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