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に関する論文

アメリカはグローバルな軍事関与を控えよ
―― オフショアバランシングで米軍の撤退を

2016年7月号

ジョン・ミアシャイマー/シカゴ大学教授(政治学)
スティーブン・ウォルト/ハーバード大学ケネディスクール教授(国際政治)

イラク、アフガニスタン戦争など、冷戦後のグローバルエンゲージメント戦略が米外交を破綻させたことが誰の目にも明らかである以上、いまやアメリカは「リベラルな覇権」戦略から、オフショアバランシング戦略へのシフトを試みるべきだろう。オフショアバランシング戦略では、アメリカの血と財産を投入しても守る価値のある地域はヨーロッパ、北東アジア、そしてペルシャ湾岸地域に限定され、その戦略目的はこれらの地域で地域覇権国が出現するのを阻止することにある。さらに、その試みの矢面にアメリカが立つのではなく、覇権国の出現を阻止することに大きなインセンティブをもつ地域諸国に防衛上の重責を担わせることを特徴とする。ヨーロッパにも、ペルシャ湾岸地域にも潜在的覇権国が登場するとは考えにくく、米軍を駐留させ続ける合理性はない。一方、北東アジアについては、地域諸国の試みをうまく調整し、背後から支える必要がある。・・・・

人がモノを買い、消費する前提は何か
―― 消費者の富と国家の富

2016年7月号

ビクトリア・デ・グラツィア/コロンビア大学教授(歴史学)

20世紀初頭のアメリカの物質的豊かさと個人消費が『消費社会』という概念と結び付けて考えられがちだが、実際には「物質的生活」が初めて世界に登場したのは、15世紀ルネッサンス期のイタリアにおいてだった。人間の正常な活動の一部として、消費文化は世界各地で広がりをみせた。これまで、消費活動は欧米的なものと言われ、最近の中国の新興富裕層と中間層による派手な消費は、中国社会になじみのない新しい現象だと言われてきた。だがこれは間違っている。「万が一に備えて貯蓄する必要性が減り、消費傾向が高まる」ことで促される消費活動は公共政策に影響される経済的な現象であり、政治的現象でもある。実際、大恐慌後、国の繁栄を取り戻すには消費を喚起する必要があることが認識されるようになると、消費者は公共政策と法的保護の対象にされるようになった。要するに、国家の富は消費者の富によって支えられている。・・・

スリランカがはまった中国の罠
―― 中国による融資トラップとは

2016年7月号

ジェフ・M・スミス 米外交政策評議会 アジア安全保障プログラム ディレクター

中国の対スリランカ投資プロジェクトは、アジア全域へ中国の貿易ルートを拡大・確保しようとする北京の一帯一路戦略の一環として進められている。北京にとって、スリランカの最大の魅力はやはりその港だ。スリランカの港は中国と中東・アフリカ地域のエネルギー供給国を結ぶ貿易シーレーンに位置している。だが一連の投資プロジェクトには中国の戦略的思惑が見え隠れしている。実際、スリランカの対中債務が増えていけば、中国は債務の一部を株式に転換して重要プロジェクトを部分的に所有することもでき、この場合、中国はインド洋における新たな戦略拠点を確保できる。中国から距離をとろうとする現在のスリランカ政府も、対中債務トラップにはまり、身動きができない状況に陥っている。

中国は超大国にはなれない
―― 米中逆転があり得ない理由

2016年7月号

スティーブン・G・ブルックス/ダートマス大学准教授
ウィリアム・C・ウォルフォース/ダートマス大学教授

いまや問題は「中国が超大国になるかどうかではなく、いつ超大国になるかだ」と考える人もいる。確かに中国は、真にアメリカに匹敵する大国になるポテンシャルをもつ唯一の国だが、技術的な遅れという致命的な欠陥を抱えている。一方、アメリカの経済的優位はかつてほど傑出してはいないが、その軍事的優位に変化はなく、現在の国際秩序の中核をなす世界的な同盟関係にも変化はない。近代史で特筆すべき成長を遂げた新興国のほとんどは、経済よりも軍事面で強力だったが、中国は軍事面よりも経済面でパワフルな存在として台頭している。経済規模が巨大なだけでは、世界の超大国にはなれないし、必要な技術力の獲得という、次の大きなハードルを越えることもできない。しかもその先には、こうした資源を活用して、グローバルな軍事力行使に必要なシステムを構築し、その使い方をマスターしていくというハードルが待ち受けている。要するに、多くの人は中国の台頭に過剰反応を示している。むしろ、アメリカの超大国としての地位を脅かす最大の脅威は国内にある。

トルコはシリア難民を社会同化できるのか
―― シリア難民のなにが異質なのか

2016年7月号

ライアン・ジンジャラス/米海軍大学院 准教授(国家安全保障)

トルコの指導者たちは、トルコ生まれの子供がいるシリア人家族のほとんどはもうシリアに戻ることはないとみている。すでにシリア人たちはトルコのさまざまな町や都市で数千のビジネスを立ち上げている。第一次世界大戦後にトルコに定住した旧移民の多くは読み書きができず、しかも雇用、教育、土地を政府からの援助に依存していたために、トルコのアイデンティティーと市民権を受け入れる以外に道はなかった。だが、トルコに逃れてきたシリア人の多くは資本とスキルを持っているし、教育も受けている。すでにトルコのあちこちで、「リトルシリア」が誕生している。一方、トルコの政治勢力は国内に多数のシリア人難民がいることに不快感を示し、トルコの民族的統合性が損なわれかねないと憂慮しているが、トルコ社会に「シリアをルーツとするアラビア語のサブカルチャー」が生まれるのはおそらく避けられないだろう。・・・・

ヨルダンの新しい難民対策モデル
―― 人道主義モデルから経済開発モデルへの転換を

2016年7月号

アレクサンダー・ベッツ/オックスフォード大学 難民研究センター ディレクター
ポール・コリアー/オックスフォード大学教授(経済、公共政策)

難民対策の新モデルとは、避難民たちがいつか母国に戻って生活を再建する日がやってくるまで、ホスト国で学び、働き、豊かに暮らせる、持続可能で計測可能な政策のことだ。われわれはシリア難民問題へのこうした新アプローチを提案し、ヨルダン政府がシリア難民に国内の経済特区(SEZs)で働くことを許可すれば、難民たちは雇用、教育の機会を得て、自立的な生活を送るようになり、それによってヨルダン経済も成長できると提言した。論文が発表されて以降、この構想は政治家たちの支持を集め、2015年の冬にかけて、ヨルダンのアブドラ国王、イギリスのキャメロン首相、世界銀行のジム・ヨン・キム総裁がこの構想を正式な提言としてまとめ、2016年夏には難民に労働許可を与えるパイロットプロジェクトがヨルダンで開始される予定だ。難民対策を純粋な人道主義的アプローチから、雇用と教育を中心とする経済開発型アプローチへ転換していく必要がある。

欧州への米LNG輸出で何が変わるか
―― 米ロ天然ガス戦争という虚構

2016年7月号

ニコス・ツァフォス /エナレティカ チーフアナリスト

アメリカから大量のLNG(液化天然ガス)がヨーロッパに向かうようになれば、ロシアの天然ガスは(価格競争に敗れて)市場から締め出され、モスクワは天然ガスの輸出収益の多くを失うと考えられている。しかし、この議論は天然ガス市場に関する間違った前提に依存している。いまやLNGによって天然ガスのグローバル市場が誕生しており、市場はこの見方を支えるほど単純ではない。ヨーロッパ市場でのアメリカのライバルはロシアではなく、むしろノルウェーやアルジェリアの天然ガスになるだろう。また、オーストラリアのLNGがアジア市場に向かい始めれば、これまでのアジアを顧客としてきた中東の天然ガス資源がヨーロッパを含むグローバル市場へと流れ出す。アメリカのLNGとロシアの天然ガス供給だけで、ヨーロッパ市場を語るのは、あまりに短絡的すぎる。・・・

中東におけるロシアの原発戦略
―― 魅力的なモデルと地政学のバランス

2016年7月号

マシュー・コッテ/国際戦略研究所リサーチアソシエート(不拡散・核政策)
ハッサン・エルバーティミー/キングスカレッジロンドンポストドクトラル・リサーチャー

中東で原子力エネルギーが再び脚光を浴びている。2016年4月、ロシアの国営原子力企業・ロスアトムは、アラブ首長国連邦のドバイに事務所を開設した。エジプト、イラン、ヨルダン、トルコでのロシアの原子力プロジェクトを統括することがこの事務所の役割だと考えられている。「原子炉を現地で建設、所有、稼働し、電力を相手国に約束した価格で供給する」。これがロシアのビジネスモデルだ。モスクワ原子力関連の訓練と教育を相手国に提供することも約束しており、現地での雇用創出も期待できる。一方、モスクワは電力の売り上げだけでなく、電力供給プロセスを通じて中東諸国との経済的つながりも強化できる。しかし、シリアのバッシャール・アサドを支援することで、中東の地政学に関与しているだけに、ロシアが中東での原子力市場シェアを拡大できるかどうかは、テクノロジーとサービスを安価に提供することだけに左右されるわけではないだろう。・・・

ヨーロッパにおけるポピュリズムの台頭
―― 主流派政党はなぜ力を失ったか

2016年7月号

マイケル・ブローニング/フリードリヒ・エーベルト財団 国際政策部長

ヨーロッパでなぜポピュリズムが台頭しているのか。既存政党が政策面で明らかに失敗していることに対する有権者の幻滅もあるし、「自分たちの立場が無視されていると感じていること」への反動もある。難民危機といまも続くユーロ危機がポピュリズムを台頭させる上で大きな役割を果たしたのも事実だ。いまやフィンランド、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スイスを含む、多くのヨーロッパ諸国で右派政党がすでに政権をとっている。「イギリス独立党」、フランスの「国民戦線」、「ドイツのための選択肢」など、まだ政権を手に入れていない右派政党もかなりの躍進を遂げている。中道右派と中道左派がともにより中道寄りの政策へと立場を見直したために、伝統的な右派勢力と左派勢力を党から離叛させ、いまやポピュリストがこれらの勢力を取り込んでいる。厄介なのは、ヨーロッパが直面する問題はEUの統合と協調を深化させることでしか解決できないにも関わらず、ヨーロッパの有権者たちがこれ以上ブリュッセルに主権を移譲するのを拒絶していることだ。・・・

変貌したドイツ外交
―― 「保護する責任」と「自制する責任」のバランス

2016年7月号

フランク=ヴァルター・シュタインマイアー ドイツ外相

ドイツが国際舞台で新たな役割を果たすことを望んだわけではない。むしろ、世界が大きく変化するなか、安定を保ち続けたドイツが中心的なプレイヤーに浮上しただけだ。いまやドイツはヨーロッパ最大の経済国家に見合う国際的責任を果たそうと試みている。コソボとアフガニスタンへの軍事的関与は、それまで「戦争」という言葉が禁句だった国にとって、歴史的な一歩を刻むものだった。ドイツが既定路線を見直したのは、ヨーロッパの安定とアメリカとの同盟を真剣に受け止めたからだ。それでもドイツは過去を踏まえて慎重に考える国家だ。変化に適応しながらも、自制や配慮を重視する信条と外交を重視していくことに変わりはない。過去を必要以上に償おうとしているのではない。むしろ、過去を踏まえて慎重に考える国家として、ドイツは歴史の教訓を現在の課題へのアプローチに生かそうとしている。

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