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に関する論文

ドゥテルテ大統領の挑戦
―― マニラの強権者の思惑を検証する

2016年11月号

リチャード・ジャバド・ヘイダリアン
デ・ラ・サール大学准教授(政治学)

強気のアウトサイダーだったドゥテルテは、フィリピンの有権者たちのエスタブリッシュメント層に対する反発をうまく追い風にして、大統領ポストを射止め、その後、瞬く間に権力基盤を固めていった。最近の調査では、ドゥテルテの支持率は91%という、空前のレベルに達している。彼の「対麻薬戦争」にいくら世界が懸念を示しても、外交的にはあり得ない発言を繰り返して非難されても、国内の人気や影響力が衰える気配はない。「フィリピンの抱える根本的な問題を解決できるのは強気で断固としたリーダーだけだ」という民衆の意識が高まっているためだ。ドゥテルテは、欧米でどう思われようと、残虐な麻薬取締りで民衆の支持が得られる限り、路線を見直すことはないだろう。公正に言えば、ドゥテルテは麻薬撲滅以外にも、環境、交通渋滞、インフラ整備など、さまざまな領域で積極的な取り組みをみせている。外交領域では、アメリカとフィリピンの関係の「ニューノーマル」を確立することを決意しているようにみえる。・・・

戦略目的に合致しない同盟関係の解消を
―― トランプの主張は間違っていない

2016年11月号

ダグ・バンドウ   レーガン政権大統領特別補佐官

トランプの主張するとおり、アメリカの北大西洋条約機構(NATO)政策は時代遅れだ。戦後(・冷戦期)のアメリカにとっては、ヨーロッパの同盟諸国を守る以外に道はなかったかもしれない。だが、当時の軍事関与を正当化したロジックはとうの昔に消失している。同盟関係は戦略目的のための手段でなければならず、現状に照らせば、それはアメリカの安全を強化することだ。同盟関係のコストを問題にするトランプに対して、彼に批判的な勢力は、「同盟諸国は合計すると100億ドルのホストネーション・サポート(受入国による支援)を負担し、米軍の駐留コストを助けている以上、アメリカの戦略コミットメントは高くない」と反論する。しかし、これは事実誤認だ。対外軍事コミットメントを控えれば、ワシントンは年間1500億ドルを節約できる可能性がある。人口が多く、繁栄する世界の工業国家を相手に成り代わって防衛するのは、実質的にアメリカの納税者の税金を、相手国の納税者の富として移転していることになる。

北欧福祉国家モデルの幻想
―― なぜ誤解が生じているのか

2016年10月号

ニマ・サナンダジ
スウェーデンの作家・研究者

北欧諸国は繁栄を遂げつつも、富を平等に分配し、優れた社会を実現しているようにみえるかもしれない。だが、そうしたイメージは誇張されている。北欧諸国の経済は民主社会主義(スカンジナビアモデル)に移行して以降よりも、それに先立つ市場経済時代の方が急速な成長を遂げていた。所得格差にしても、福祉国家が定着する前の段階でスウェーデンの所得格差は減少し始めていた。要するに、スカンジナビアにおける福祉国家の成功をテーマとするアメリカ人の研究は、福祉国家体制を確立する前のスカンジナビアの歴史、この地域の人々の社会的特性にまったく関心を寄せておらず、歴史的視点、社会・文化的視点が欠落している。「経済成長を損なうことなく、大規模な社会保障システムを導入できる」と考えるのは間違っている。北欧諸国の実験から得られる教訓とは、「福祉国家システムは社会保障への依存という文化を作り出してしまう」ことに他ならない。

核兵器と核戦略を問い直す
―― 何のための核兵器なのか

2016年10月号

フレッド・カプラン
ピューリッツァー賞受賞ジャーナリスト

進行しつつある世界政治の変化を十分に考慮できぬまま、われわれは依然として核兵器に固執している。抑止に大量の核兵器は必要ない。オバマ大統領が本気で核戦力の近代化計画を見直すつもりなら、「抑止に本当に必要なものは何か」を再検証しなければならない。核兵器がない状態を想定して、核戦争プランを根底から見直し、何のためにどれだけの核兵器が必要なのかを白紙から合理的に再分析すべきだ。こうした見直しが行われてこなかったのには単純な理由がある。米軍が核戦力を戦略上の前提として重視する派閥を内に抱え、議会も核兵器関連産業や研究所を選挙区にもつ有力メンバーを抱えているからだ。オバマが残された任期中に核の近代化計画の見直しに向けた基盤を作るのは難しいとしても、これは、彼の後継者、そして世界の指導者たちが取り組むべき重要な任務だろう。

なぜイランはロシアに基地使用を許したか
―― 歴史的不信と中東新秩序への野望

2016年10月号

モフセン・ミラニ
南フロリダ大学教授(政治学)

第一次世界大戦後にイギリスとフランスが描いた中東の政治秩序はいまや崩壊しつつあり、ロシアもイランも新しい秩序における自国の居場所に思いを巡らしている。プーチンにとって、ロシアを中東のプレイヤーとして再確立することは、彼の悲願であるグローバルな大国の座を取り戻す上でもきわめて重要な一里塚だ。一方、イランはシリアの将来を決める現在の内戦を、今後の中東秩序を左右する重要な試金石とみなしている。テヘランは、ロシアとの協調は中東での影響力を強化する効果的な手段になると考えているようだ。こうした思惑ゆえに、ロシアに大きな不信感をもつイランも、ロシア軍に国内基地の利用を認めるという驚くべき決定を下した。ロシアとのより緊密な軍事・安全保障関係を築くことで、イランはアメリカの中東政策に対する保険策をとろうとしているとみなすこともできる。・・・

ブラジルの政治腐敗を断ち切るには
―― 制度改革による
政治ルールの見直しを

2016年10月号

エデュアルド・メロ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 博士候補生
マティアズ・スペクター ジェトゥリオ・ヴァルガス財団准教授

ブラジルでは、大統領が(有力)議員たちに「彼らが利害を共有する人物たちをパワフルな国有企業や規制当局の要職に任命する権限を与えて」甘い汁を吸わせることも多い。要職に就いた人物たちは、うまみの多い政府契約をどの企業が受注するかについて影響力を持つようになり、賄賂や政治腐敗絡みの入札決定から大きな利益を確保し、これを議会におけるパトロンと共有する。これがブラジルの政治腐敗の構図だ。しかし、本当の問題はもっと深いところにある。ブラジルの政治腐敗と効率のなさという問題がなぜなくならないか。それは、行政府と立法府の関係を規定するルールに不備があるからだ。制度を改革し、政治家が支持者のためだけでなく、広く社会のための優れた統治を試みるようにしない限り、未来は見えてこない。多くの政治家が違法行為に手を染めてしまうインセンティブそのものを排除するには、選挙・政治制度を大幅に見直す必要がある。

ベネズエラ経済の悪夢
―― ディフォルトか抜本的な
社会・経済改革か

2016年10月号

リサ・ビシディ
インター・アメリカン・ダイアログ(IAD)研究部長

すでにベネズエラ市民の4分の3以上が貧困ライン以下の生活を余儀なくされている。商店の棚から商品が姿を消し、スーパーマーケットには、コメなどの基本物資を求めて、行列ができるようになった。輸出収益の95%以上を石油と天然ガスに依存するこの国にとって、エネルギー輸出が低下すると、生活必需品さえ十分に輸入できなくなる。現在の問題は、原油価格の暴落だけでなく、ベネズエラの政策上の欠陥によって引き起こされている。政府は長年、住宅や医療を無償で提供する社会政策の財源を国営のベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の収入に依存する一方、国内ガソリン価格を20年近く1リットル約1セントに維持してきた。しかも、ベネズエラ政府とPDVSAは莫大な借り入れを行っており、例えば、2017年4―6月期末には73億ドルを返済しなくてはならない。中国からの融資返済にも苦慮している。政府とPDVSAはディフォルトの危機に直面しつつある。・・・・

インフラプロジェクトと政治腐敗
―― 新開発銀行は大きな混乱に直面する

2016年10月号

クリストファー・サバティーニ
コロンビア大学国際公共政策大学院 講師(国際関係論)

BRICS諸国の台頭を象徴するかのように、この10年間にわたって中国、ブラジル、インド、南アフリカでは数多くのインフラプロジェクトが進められ、工業団地、高速道路、橋梁、パイプライン、ダム、スポーツ競技場の建設ラッシュが続いた。しかし、彼らはインフラプロジェクトに時間をかけず、これ見よがしの結果ばかりを追い求めた。要するに、クオリティ(品質)に配慮せず、必要なコストを過小評価してきた。しかも、政府契約の受注をめぐる不透明なプロセスが政治腐敗の温床を作り出した。いまや、経済成長ではなく、政治腐敗スキャンダルという別の共通現象がBRICS諸国を集団として束ねている。国内のインフラプロジェクトがこのような状況にある以上、新開発銀行の融資によるプロジェクトも同様の運命を辿ることになるかもしれない。BRICS諸国政府がインフラプロジェクトに関わる説明責任を果たしていないことからみても、新開発銀行は今後大きなコストを伴う失敗を繰り返すことになるだろう。

EUの衰退と欧州における
国民国家の復活

2016年10月号

ヤコブ・グリジェル 欧州政策分析センター シニアフェロー

いまやヨーロッパ市民の多くは、EU(欧州連合)の拡大と進化、開放的な国境線、国家主権の段階的なEUへの委譲を求めてきた政治家たちに幻滅し、(超国家組織に対する)国民国家の優位を再確立したいという強い願いをもっている。ブレグジットを求めたイギリス市民の多くも、数多くの法律がイギリス議会ではなく、ブリュッセルで決められることに苛立っていた。昨今におけるドイツの影響力拡大を前に、ギリシャやイタリアなどの小国はすでにEUから遠ざかりつつある。一方、EU支持派の多くは、この超国家組織がなくなれば、ヨーロッパ大陸は無秩序に覆い尽くされると主張している。だが現実には、自己主張を強めた国民国家で構成されるヨーロッパのほうが、分裂して効率を失い、人気のない現在のEUよりも好ましいだろう。アメリカの指導者とヨーロッパの政治階級は、ヨーロッパにおける国民国家の復活が必ずしも悲劇に終わるとは限らないことを理解する必要がある。

中国の壮大なインフラプロジェクトにどう関わるか
―― 一帯一路への選択的関与を

2016年10月号

ガル・ルフト  
グローバル安全保障分析研究所(IAGS) 共同所長

アジア諸国がその開発目標を達成するには、今後4年間で年約8000億ドルを交通網、電力網、通信網のインフラ整備に投資する必要がある。しかし既存の開発銀行からは、その10%の資金も調達できない。たとえAIIB(アジアインフラ投資銀行)など中国を中心とする融資機関が約束を果たしても、必要とされる資金規模には達しない。米中のライバル関係を懸念するあまり、ワシントンはこの資金不足が世界の経済的繁栄にいかなる悪影響を与えるかを見過ごしてはならない。世界の経済成長の半分は、アメリカと中国の2カ国が牽引している。世界経済が長期停滞の可能性に直面する今、米中はいがみ合うよりも、互いの開発アジェンダを調和させるほうが豊かになれる。アメリカがグローバルな地位を守ることと、アジアの経済成長を支援することが相反するわけではない。一帯一路を「選択的に支持すれば」双方を達成できる。・・・

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