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に関する論文

核武装国北朝鮮にどう向き合うか
―― 核不拡散の脅威から核抑止の対象へ

2017年10月号

スコット・D・セーガン スタンフォード大学教授(政治学)

北朝鮮、そして米韓は、いずれも相手が先制攻撃を試みるのではないかと疑心暗鬼になっている。このような不安定な環境では、偶発事故、間違った警告、あるいは軍事演習の誤認が戦争へつながっていく。しかも、金正恩とドナルド・トランプはともに自分の考える敵に衝動的に向かっていく傾向がある。ペンタゴンとホワイトハウスの高官たちは、北朝鮮の指導者・金正恩の行動を抑止する一方で、トランプ大統領が無為に戦争への道を突き進んでいくことも諫めなければならない。北朝鮮にとって核兵器は取引材料ではない。自国に対する攻撃を阻止するための力強い抑止力であり、あらゆる策が失敗した時に、敵対する諸国の都市を攻撃して復讐するための手段なのだ。しかし、危機に対するアメリカの軍事的オプションは実質的に存在しない。金正恩体制が自らの経済的、政治的弱さによって自壊するまで、忍耐強く、警戒を怠らずにその時を待つ封じ込めと抑止政策をとるしかない。

北朝鮮危機と韓国のトリレンマ
―― 経済と安全保障のバランスをどうとるか

2017年10月号

キャサリン・H・S・ムーン ウェルズリー大学 教授(政治学)

韓国は追い込まれている。北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、核実験も強行した。米戦略への同調を求めるトランプ政権ともうまくいっていない。文在寅は北朝鮮とアメリカ、双方の戦略に巻き込まれるのを回避しようと、両国に対して今後さらに自国の立場を明確に主張していくつもりかもしれない。韓国の安全を守るためのTHAAD配備に反発する中国には、実質的な経済制裁の対象にさえされている。そして、韓国の大統領にとって現状における最大の課題は、アメリカの戦術核の再配備、あるいは独自の核開発をつうじて国を核兵器で守ることを求める国内の声にどのように対処していくかだろう。実際、2016年9月のギャラップ社の調査では、韓国人の58%が国内での核開発を支持すると回答し、反対派はわずか34%だった。・・・

北朝鮮のもう一つの脅威
―― 日韓の原発施設に対する攻撃に備えよ

2017年10月号

ベネット・ランバーグ 元国務省分析官

北朝鮮が日韓の原子力施設を攻撃すれば、何が起きるか。両国の政府はそれに備え、態勢を整えておかなければならない。これは想定外のシナリオではない。中東では建設中の原子炉をターゲットとする攻撃が起きているし、ボスニア紛争でも、インド・パキスタンの対立状況のなかでも、原子炉攻撃のリスクは意識されていた。原子力施設に対する北朝鮮のミサイル攻撃の帰結よりも、数十万人が犠牲になるかもしれない(人口密集地帯への)通常ミサイル攻撃による脅威の方が深刻だと考える者もいるだろう。しかし、原子炉が攻撃され、炉心や使用済み核燃料のプールにダメージが及べば、原子炉は、殺戮兵器ではないにしても、実質的にテロ攻撃や大量破壊兵器と同じ作用をする。日韓はアメリカとともに防衛計画をまとめていく上で、原子力発電施設の脆弱性を無視してはならない。・・・

米中とツキジデスの罠
―― 次なる文明の衝突を管理するには

2017年9月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

台頭する国家は自国の権利を強く意識するようになり、より大きな影響力と敬意を求めるようになる。かたや、チャレンジャーに直面した既存の大国は状況を恐れ、守りを固める。この環境で、誤算のリスクが高まり、相手の心を読めなくなる。米中にはこの「ツキジデスの罠」が待ち受けている。それだけではない。米中間には相手国の理解を阻む文明的な障壁が存在する。政治や経済制度への考え方の違いだけではない。国内の政治制度を下敷きとする国際ビジョンも、物事をとらえる時間枠も違う。必要なのは、相手への理解を深めることだ。対中アプローチを立案しているトランプ政権の高官たちは、古代中国の軍事思想家、孫武の著作に目を通すべきだろう。「敵を知り己を知れば百戦危うからず。己を知るも、敵を知らなければ勝ち負けを繰り返し、敵も己も知らなければ、一度も勝てぬままに終わる」

1965年の独立以降、リー・クアンユーが中心となって組織した人民行動党政権は中央集権的な国家運営を行ってきた。その権力に対する監視体制も厳格ではなく、野党、市民社会、メディアは概しておとなしい。実際、この中央集権体制が効率的な統治を実現していると考える者は多く、シンガポール市民の大半は、「経済成長と引き換えに市民的・政治的自由が制限される」という暗黙の社会契約を長く受け入れてきた。だが、それも変化しつつある。すでに、シンガポールのさらなる発展にはさまざまな制約を緩和する必要があると考える改革派の要求とこれまでの中央集権型の枠組みを両立させるのは難しくなっている。近代国家シンガポールの原点を象徴するリー・クアンユーのオクスリー・ロードにある家の扱いをめぐるお家騒動は、まさに、この国の未来に関する二つのコースを描き出している。

中国の覇権確立を阻止するには
―― 南シナ海とアメリカの対中抑止策

2017年8月号

イーライ・ラトナー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国研究)

南シナ海における米中衝突を回避しようとするあまり、ワシントンは、中国による国際法を無視した南シナ海における行動を前にしても、緊張緩和措置をとり、結果的に、中国がじわじわと既成事実を作り上げるのを許してしまった。アメリカの軍事力と同盟関係には、米中の軍事衝突を抑止する効果はあっても、中国の勢力圏拡大を抑止する作用は期待できない。このために、中国による覇権確立がアメリカのアジアにおける最大の脅威シナリオとして浮上してきている。「中国が人工島の建設を続け、あるいはすでに建設した人工島に長距離ミサイルや戦闘機など強力な軍事資産を配置し続けるようなら、アメリカは中立を捨てて、領有権を主張する他の諸国が中国に対抗する能力を獲得することを支援する」と表明すべきだ。外交を抑止策で支え、「中国が覇権を握ることは容認できない」と、ワシントンは態度を明らかにすべきだろう。

ミンダナオ島危機とイスラム国
―― 共通の敵で変化した米比関係

2017年8月号

リチャード・ジャバッド・ヘイダリアン デ・ラ・サール大学准教授(政治学)

貧困や失業に苦しみ、イスラム教徒が社会の周辺に追いやられているミンダナオ島では、イスラム主義者や共産主義者などの反政府勢力がフィリピン軍と衝突する流血の惨事が数十年にわたって繰り返されてきた。そこには、イスラム主義のイデオロギーやテロ集団を許容する社会的素地が存在した。しかも、中東で軍事的に追い込まれたイスラム国(ISIS)勢力はアジアへ軸足を移そうと試みている。イスラム教徒が多数派で、イスラム国勢力のシンパが多いマレーシアやインドネシアとミンダナオ島との国境線が監視の難しい海洋上にあることも事態を複雑にしている。一方、テロ勢力という共通の敵が現れたことでアメリカとの関係は雪解けの時を迎えている。マニラが共通の敵に対するワシントンの軍事支援を受け入れるにつれて、両国政府の立場の違いはゆっくりとだが、着実に埋められつつある。・・・

シリア東部をめぐる米ロ・イランの攻防
―― シリアにおける政治ゲームの始まり

2017年7月号

アンドリュー・タブラー ワシントン近東政策研究所  シニアフェロー

イラクと国境を接するシリア東部をめぐる攻防戦が始まっている。すでにアメリカは4月にアサド政権をミサイル攻撃しただけでなく、5月には親アサド勢力を空爆し、シリアのクルド人勢力への軍事援助の強化を発表している。ロシアとイランも、シリア東部におけるイスラム国勢力の崩壊によってシリア政府が失地を回復するチャンスがもたらされると考え、アサド軍支援を強化している。特にテヘランはイランからイラク、シリア、そしてヒズボラが支配するレバノンをつなぐシーア派の回廊を形成することを狙っている。当然、米ロの安全に関する覚書が、今後シリアにおいて試されることになるし、控えめにみても偶発事故が起きる危険は高まっている。いまやアメリカとその同盟国諸国の部隊が、アサドの部隊だけでなく、アサドを支えるロシアやイランの部隊と直接的軍事衝突に巻き込まれる恐れが出てきている。

情報機関と米大統領
―― 相互信頼の再確立を

2017年7月号

ジャミ・ミシック 前CIA副長官

進行中の作戦や外交交渉がどのような状態にあるかを知らなければ、情報コミュニティが提供する情報が高官たちの必要性を満たすことはなく、無意味だと切り捨てられる。しかも、高官たちが情報を必要とするタイミングも限られている。何かに対する警告を発しても、時期尚早なら相手にされず、タイミングを逃せば情報機関の失態として批判される。もっとも大切なのは、危機に直面する前から、大統領を含む政府高官と情報コミュニティ間のスムーズに機能する実務的関係を築き、信頼を育んでおくことだ。政策決定者が情報プロフェッショナルを誤解していれば、国家安全保障が脅かされる。一つの真実を追い求める情報プロフェッショナルたちの仕事へのより奥深い理解と評価をもつことで、大統領と政府高官たちはその関係の絶妙のバランスを取り戻す必要がある。

軍隊と経済的技術革新
―― なぜイスラエル軍は経済に貢献できるのか

2017年6月号

エリザベス・ブラー アトランティック・カウンシル 非常勤シニアフェロー

「徴兵された若者たちにとって、イスラエル国防軍・技術諜報部門での経験はハーバード大学で学んでいるようなものだ」。(国防軍でスキルを学び)ネットワークを形作り、いずれ、ともにビジネスをするようになる。徴兵した兵士たちにイスラエル国防軍が与える訓練はイスラエル経済に大きな恩恵をもたらしている。実際、ブームに沸き返るイスラエルのハイテク部門の多くを軍出身者たちが支えている。兵役を経験しているイスラエル人が成人人口の60%なのに対して、ハイテク部門人材に占める兵役経験者の比率は90%に達している。例えば、若年労働者の失業率が高く、持続可能な雇用を創出する方法を模索しているヨーロッパは、イスラエルのやり方に学ぶことができる。イスラエルの実例から適切な教訓を引き出して応用すれば、世界の多くの国が、近い将来に、兵役を終えた若者たちが軍隊で身に付けた人的資本、社会資本、文化資本を生かして、民間部門との絆を形作っていくだろう。

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