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に関する論文

ワーミング・ワールド
―― 気候変動というシステミック・リスク

2018年8月号

ジョシュア・バズビー テキサス大学オースティン校 准教授(公共政策)

気候変動とは、地球温暖化だけではない。世界は、気候科学者のキャサリン・ヘイホーが、「グローバル・ウィアーディング(地球環境の異様な変化)」と呼ぶ時代に突入しつつある。考えられない気象パターンがあらゆる場所で起きている。気温が上昇すると、気候変動が引き起こす現象が変化する。かつて100年に1度だった大洪水が、50年あるいは20年おきに起きるようになる。想定外のテールリスクもますます極端になる。気候変動がひどく忌まわしいのは、地政学への影響をもつことだ。新しい気象パターンは、社会的にも経済的にも大混乱を引き起こす。海面が上昇し、農地が枯れ、より猛烈な嵐や洪水が起きるようになり、居住できなくなる国も出てくる。こうした変化は、国際システムに前代未聞の試練を与えることになる。

トランプ政権は、経済制裁の緩和や外交的承認を認める前に、平壌に非核化を受け入れさせ、北朝鮮の核開発プログラムの全貌を明らかにした上で、高度に踏み込んだ査察手続きを認めさせるのが好ましいと考えてきた。これが6月12日のサミットが中止された理由だったかもしれない。交渉に臨んでいれば、それは「壊滅的な失敗」に終わり、軍事的解決策が再浮上していたはずだ。一方で、少しばかりの妥協に多くの見返りを与えれば、合意をまとめるのは簡単になるとしても、その結末はいわば「壊滅的な成功」となる。中核的課題は、トランプ政権が北朝鮮へのアプローチを見直す準備ができているのか、「問題を解決するのではなく、安定化させるような戦略を模索するつもりかどうか」にある。

「自分の国に誇りをもてますか」
―― 国家アイデンティティと政治参加

2018年6月号

アンドレアス・ウィマー コロンビア大学教授(社会学)

国によって市民の国家へのこだわりや思い入れがなぜ違うのか。アメリカ人、ガーナ人、タイ人が、ドイツ人や台湾の人々よりも強い愛国心を持っているのはなぜなのか。研究者は、それを左右する要因として、民族的多様性やグローバル経済への統合レベル、あるいは戦争や内戦の(経験や)歴史などさまざまな説を唱えてきた。しかし現実には、自分たちの代表を政府に送り込んでいると考える人口が増えるほど、市民が国を誇りに思う気持ちは強くなる。一方で、教科書、国歌、公の儀式を通じて伝えられる単なるナショナリストのプロパガンダは、世界の多くの政治家が思っているよりも効果が薄い。人は自分が所属する集団の代表が国政に参加していると国との一体感を感じる。つまり、国家アイデンティティ意識には政治参加が重要であり、国が民族的に多様であっても同質的であってもそれは変わらない。

CFR Backgrounder
薬剤耐性という大いなる脅威
―― 医療の現場で何が起きているか

2018年6月号

クレア・フェルター www.cfr.orgのライター

その誕生から1世紀足らずの抗生物質は、いまや実存的危機に直面している。人間と動物の双方に対して多用され続けた結果、細菌を撃退する抗生物質の効果は弱くなり続けている。しかも、WHOの2015年の調査では、データ提出に応じた133カ国のうち半数以上で、抗菌剤が処方箋なしで購入できることが判明している。一部の国では、抗生物質が「頭痛、疲労、さらには出産から本当の細菌感染に至るまでのありとあらゆる症状と疾患」の治療に投与され続けている一方で、新たな抗生物質の研究開発ペースが鈍化しているために、世界は「ありふれた感染症さえ治療できない」危険な時代に直面する危機に瀕している。世界における抗生物質への薬剤耐性をもつ細菌による感染症の死亡者数は、年間少なくとも70万人と推定され、2050年までにはその数は数百万人に達する恐れがある。アナリストの一部は、多くの抗生物質への耐性をもつスーパーバグを封じ込めなければ、世界は「ポスト抗生物質時代」に向かい、2050年までに最大で累計1000万人が死亡する危険があると指摘している。

次期サウジ国王の野望と夢
―― 壮大な社会・経済改革の行方

2018年6月号

F・グレゴリー・ゴースIII テキサスA&M大学 教授

潤沢な石油の富がサウジ経済を潤して福祉国家を支える一方、この国の秩序は王族、宗教・経済エリート間の社会契約によって規定されてきた。だが、原油価格の暴落をきっかけにこの構図も変化しつつある。モハメッド・ビン・サルマン皇太子は、民間経済の強化を通じて経済を多角化し、石油への依存を軽減するとともに、これまでの社会契約を見直して民衆や世論の支持を重視する路線に転じている。反政治腐敗キャンペーンを利用して王族内の秩序改革も試みている。権力の多くを手中に収めた皇太子が進める改革が長期的にどのような作用をするかは、彼が実際にどのような指導者になるか、反政治腐敗キャンペーンをどのような意図で進めていくかに左右される。・・・

グローバル金融を蝕むタックスヘイブン
―― 犯罪と格差の象徴を粉砕するには

2018年6月号

ニコラス・シャクソン タックス・ジャスティス・ネットワーク スタッフライター

犯罪組織や途上国の独裁者だけでなく、超富裕層も多国籍企業も「自分にとって好ましくないルールを回避するために」資金や資産を「オフショア」と呼ばれる「他のどこか」に移動させている。好ましくないルールとは「税法、情報開示請求、刑法、あるいは金融規制」だ。「他のどこか」であるオフショアでの取引はエキゾチックなどこかではなく、世界経済の中枢近くで行われている。タックスヘイブンは租税回避を容易にし、法の支配を弱め、組織犯罪の温床を作り出す。格差をさらに拡大させてポピュリストの反動を助長し、市場経済を腐敗させる。すでにパナマ文書とパラダイス文書によって、「オフショアシステムはグローバル経済のガンである」ことが明らかにされている。強大な力で保護されているこの世界最大の利権構造に切り込むのは容易ではない。犯罪と格差に対する民衆の怒りを動員する政治家の政治的意思が必要になる。

権威主義国家の中国的特質
―― 中国流政治改革の教訓は何か

2018年6月号

ユェン・ユェン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

欧米の専門家が期待するようなものではなかったにせよ、1978年に鄧小平が市場開放路線を導入して以降、中国ではかなりの政治改革が進められてきた。一党支配を放棄することなく、官僚組織に説明責任のルールや競争原理を導入し、権力の一部を抑制してきた。この民主的特質をもつ独裁体制のなかで、「政治を不安定化させずに、急速な経済成長を実現すること」が地方指導層に課せられた任務とされた。しかし官僚機構改革を、永遠に政治改革の代わりにはできない。いまや、より先へと進むためにはイノベーションが必要とされ、そのためには市民社会の巨大な創造性を解き放ち、それを活用しなければならない。しかし、持続的な成長のために政治的自由が必要とされているタイミングで、習政権は全く逆のことをしている。・・・

グローバル化するオピオイドの脅威
――― 危険な薬剤のグローバル化がなぜ起きているか

2018年6月号

キース・ハンフリーズ スタンフォード大学教授(精神医学)
ジョナサン・P・コールキンス カーネギーメロン大学教授(公共政策)
バンダ・フェルバブ=ブラウン ブルッキングズ研究所シニアフェロー

ケシを原料とするオピオイド鎮痛剤は、長年、手術後の痛みの緩和、末期ガン患者に安らぎを与えるために利用されてきた。しかし、慢性的な痛みを抑えるために長期的に処方されると、問題を引きおこす。依存リスクを高めるとともに、耐性が形成されるために、初期と同じ効果を求めて服用量が増える。オピオイドが非常に危険なのは、致死量と通常の摂取量の間に僅かな違いしかないことだ。2000―16年にオピオイドの過剰摂取によって死亡したアメリカ人の数は、第一次世界大戦と第二次世界大戦のアメリカ人犠牲者の合計を上回っている。一方、製薬企業は、大きな批判にさらされているアメリカとカナダ市場から離れ、潜在的市場をアジアやヨーロッパに定め、マーケティングを展開しており、いまやオピオイド危機がクローバル化する恐れがある。

習近平革命の本質と衝撃
―― 外交と内政の垣根を取り払った権威主義国家

2018年6月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国担当)

1940年代以降、毛沢東は共産革命を主導し、1970年代末以降は鄧小平が経済改革路線と低姿勢外交という第2の革命を通じて「中国経済の奇跡」の基盤を築いた。そしていまや、習近平は「第3の革命」に着手している。鄧小平が開始した「改革と開放プロセス」のペースを鈍化させるか覆し、新中国の原則をグローバルレベルで促進することに習は努めている。対外政策と国内政策の垣根を取り払い、その政治的モデルを輸出し、権威主義志向をもつ外国の指導者たちを支える一方で、国際法の基盤を損なう行動、他の諸国の主権を脅かす行動をとっている。いまや、中国は、非自由主義国家としては初めてリベラルな世界秩序におけるリーダーシップを模索している。

欧米経済の衰退と民主的世紀の終わり
―― 拡大する「権威主義的民主主義」の富とパワー

2018年6月号

ヤシャ・モンク  ハーバード大学講師(行政学)
ロベルト・ステファン・フォア メルボルン大学講師(政治学)

北米、西ヨーロッパ、オーストラリア、そして日本という、第二次世界大戦後にソビエトに対抗して西側同盟を形成した民主国家は、19世紀末以降、世界の所得の大半を占有する地域だった。しかしいまや、この1世紀で初めて、これらの国が世界の国内総生産(GDP)に占める割合は半分を割り込んでいる。国際通貨基金(IMF)は、今後10年もすれば、その比率はかつての3分の1へ落ち込むと予測している。今後を見通す上で現実的なシナリオは二つしかない。一つは中国を含む、世界でもっともパワフルな独裁国家の一部がリベラルな民主国家に移行すること。もう一つは、民主主義の支配的優位の時代が、敵対する政治体制との闘争という新時代が到来するまでの幕間の出来事に過ぎなかったことが立証されることだ。いずれの場合も、欧米民主主義の時代が終わりを迎えるのは避けられない。

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