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に関する論文

北京の香港ジレンマ
―― 中国が軍を送り込まぬ理由

2019年9月号

ビクトリア・ティンボー・ホイ ノートルダム大学准教授(政治学)

最近の世論調査では、住民の73%が香港政府は逃亡犯条例を正式に撤回すべきだと答え、79%が警察の職権乱用に対する独立調査の実施を支持すると答えている。一方、北京は抑圧を強化していくことを示唆している。これまでのところ、(警察や犯罪組織による暴力と(北京による)威嚇策は、慣れ親しんできた自由を守ろうとする香港住民の決意を逆に高めている。第2の天安門を懸念する専門家もいる。実際、北京は香港の行政長官に軍事的支援を求めさせることもできる。しかし、中国軍が香港のデモ鎮圧に介入する可能性は低い。香港はアジアの主要な金融センターであり、中国とグローバル経済との重要なつながりを提供しているからだ。北京は香港の自治という「体裁」を維持していく強いインセンティブをもっている。

体制変革の鍵を握るベネズエラ軍
―― ベネズエラ政府と軍隊

2019年7月号

ローラ・ガンボア・グテーレス ユタ州立大学 アシスタントプロフェッサー

グアイド暫定大統領による4月の蜂起の呼びかけは失敗に終わった。政府がグアイドに逮捕状を出すという噂を前に、彼が軍の一部指導者が合意していたタイミングよりも1日早く行動を起こし、軍内部の同盟勢力を動揺させてしまったとする見方もある。結局、マドゥロを退陣に追い込むには、体制を支持することで軍が恩恵を得るという構図を切り崩し、新体制になっても、軍のメンバーが起訴されたり、処罰の対象にされたりしないことを保証しなければならない。問題は、この重要なポイントをめぐって反政権派と軍の信頼関係が十分でないことだ。処罰の対象にされないという保証なしで、軍が独裁者を見捨てるとは考えにくい。ここで重要になるのが、体制移行後の身分を仲介し、保証する第3国の存在だ。・・・

人口動態と未来の地政学
―― 同盟国の衰退と新パートナーの模索

2019年7月号

ニコラス・エバースタット アメリカンエンタープライズ研究所 政治経済担当議長

大国への台頭を遂げたものの、深刻な人口動態問題を抱え込みつつある中国、人口動態上の優位をもちながらも、さまざまな問題に足をとられるアメリカ。そして、人口動態上の大きな衰退途上にある日本とヨーロッパ。ここからどのような地政学の未来が導き出されるだろうか。ヨーロッパと日本の出生率は人口置換水準を下回り、生産年齢人口はかなり前から減少し始めている。ヨーロッパと東アジアにおけるアメリカの同盟国は今後数十年で自国の防衛コストを負担する意思も能力も失っていくだろう。一方、その多くがアメリカの同盟国やパートナーになるポテンシャルとポジティブな人口トレンドをもつインドネシア、フィリピン、そしてインドが台頭しつつある。国際秩序の未来が、若く、成長する途上世界における民主国家の立場に左右されることを認識し、ワシントンはグローバル戦略を見直す必要がある。・・・

一帯一路が作り出した混乱
―― 誰も分からない「世紀のプロジェクト」の実像

2019年7月号

ユェン・ユェン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

一帯一路(BRI)はうまく進展せず、現地での反発に遭遇している。一部の専門家が言うように、この構想は莫大なローンを相手国に抱え込ませ、中国の言いなりにならざるを得ない状況に陥れる「借金漬け外交」のツール、「略奪的融資」なのか。問題は、北京を含めて、BRIが何であるかを分かっているものが誰もいないことだ。中国政府が構想の定義を示したことは一度もなく、認可されたBRIの参加国リストを発表したこともない。このために民間の企業や投資家がこの曖昧な状況につけ込み、自らのプロジェクトを促進するためにBRIを自称し、これによって混乱が作り出され、反中感情が高まっている部分がある。中国内の機を見るに敏な日和見主義者たちが、この構想を自己顕示欲や立身出世のために利用し、それがグローバルな帰結を引き起こしている。・・・

トランプ外交は誰を追い込んだのか
―― イラン、中国、北朝鮮それともアメリカ

2019年7月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(米外交政策担当)

威嚇、経済制裁、大言壮語で敵対勢力が譲歩するか、より優れた取引を手に入れられると期待するのがトランプの外交パターンだ。そうした戦術が何を引き起こすかを想定できず、逃げ場のない袋小路に自らを追い込むのもパターン化している。イランだけでなく、ベネズエラのケースでも「後退か軍事力行使」が残された選択肢となりつつあるし、中国と北朝鮮へのアプローチも同様に袋小路に追い込まれつつある。一方で、トランプが「戦争は望んでいない」とペンタゴンの高官に述べたとすれば、おそらく、彼はアメリカが不用意に紛争に巻き込まれていくリスクを予見し、それを回避したいと考えているのかもしれない。問題は、戦争を回避するのを助けてきた側近たちがもはやいないことだ。

ベネズエラへ軍事介入すれば
―― 長く困難な任務となるのは避けられない

2019年5月号

フランク・O・モラ フロリダ国際大学教授(政治学)

ドナルド・トランプ米大統領はベネズエラに対する「あらゆる選択肢を排除しない」と語っている。これが真意なら、どのようなことになるだろうか。可能性が高いのは、米軍の侵攻後、ベネズエラ軍が短期間で降伏してマドゥロ体制は崩壊し、キューバとロシアの軍事関係者も撤収することだ。米軍のプレゼンスゆえに、軍の元兵士たち、準軍事組織、武装集団も地下へ潜る。しかし、アメリカはベネズエラの治安部隊の再建を主導せざるを得なくなり、米軍は長期的駐留を余儀なくされる。この場合、介入に伴う社会、経済、治安対策のコストがその恩恵をはるかに上回る。それが限定的な空爆であれ、全面的な地上軍の投入であれ、介入策をとれば、初期の戦闘が終了した後、ベネズエラを安定化させるための長く困難な作戦が必要になる。・・・

INF条約離脱の本当の意味合い
―― アメリカのアジアシフト

2019年5月号

トム・ニコルス 米海軍大学教授(国家安全保障)

アメリカのINF条約からの離脱は「今後は中国との軍拡競争に専念する」と認めたようなものだ。NATOは必要に駆られてアメリカのINF条約離脱を支持したが、ワシントンのヨーロッパへのメッセージが「今後は自分で何とかして欲しい」であることは当初からはっきりしていた。しかし、新戦略兵器削減条約(新START)が2021年初頭に失効するだけに、ヨーロッパにおける新戦略をまとめる必要があるし、中国に対処する上では、中距離ミサイルを配備するだけでは不十分で、通常戦力への投資拡大や太平洋における海軍力の確立に再びコミットしなければならない。30年以上前に放棄した中距離ミサイルシステムに依存するのではなく、アメリカ政府はもっとまともな戦略計画をまとめる必要がある。

失速するロシア経済
――― 停滞というニューノーマル

2019年5月号

クリス・ミラー フレッチャー法律外交大学院准教授

2014年に原油価格が急落し、ロシアは外貨収入源の多くを失った。同年、ロシアがクリミアを編入したことで、プーチンの支持率は急上昇したが、欧米の金融制裁の対象にされ、ロシア企業は投資を削減せざるを得なくなり、すべての産業の資金調達コストが上昇した。ルーブルは暴落し、投資と消費は大きく冷え込んだ。この5年にわたって、ロシア経済はひどい状況にある。それでも、モスクワは政府批判を許さない法律を導入することで民衆を抑えこんでいる。モスクワの国内統治と欧米との対立はすでにメカニズムとして織り込まれている。社会を団結させるような新たな外国との対立がなければ、おそらくロシア市民はモスクワの政策は硬直化していると判断することになるかもしれない。但し、それでも市民たちは停滞をニューノーマルとして受け入れるかもしれない。

習近平モデルの成功と弊害
―― 成功が重荷と化すとき

2019年5月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会アジア研究部長

権力を一手に掌握した習近平は、政治、社会、経済に共産党を深く浸透させる一方で、外国の思想の影響や経済的な競争を制限し、野心的で拡張的な外交政策に転じた。これらの多くが成功しているが、一方で大きな問題も生まれている。党が企業に深く浸透するようになったために、中国企業はいまや共産党の一部とみなされている。地方政府は機能不全に陥り、国際的な反発も高まっている。習近平モデルが作り出した問題に対処していくには、一期目のイニシアティブの多くを見直す必要がある。期待をみいだせるとすれば、中国が現在抱える問題のほとんどが習路線の帰結である以上、それを見直す権限も彼が握っていること、そして軌道修正をする時間が残されていることだ。

米外交の再生に向けて
―― 21世紀の課題に備えるには

2019年5月号

ウィリアム・バーンズ 元米国務副長官

アメリカの外交インフラのなかで混乱が生じているし、これが何を引き起こすかはほとんど検証されていない。全般的に捉えると、トランプのアプローチはたんなる衝動ではなく、ホッブス的な世界観に基づいており、戦略には程遠い。この2年で、トランプ政権はアメリカの影響力を低下させ、その理念の力を空洞化させたばかりか、アメリカの世界における役割についての国内の分断をさらに深刻にした。最近における(トランプによる)後方撹乱は言うまでもなく、米外交をここ数十年苦しめてきた予算不足、過剰展開、そして度重なるダメージを覆すには1世代はかかる。求められているのは、残存するアメリカの支配的優位という歴史的な機会を利用して、新しい現実を反映するように国際秩序を刷新していくことだ。そのためには、外交という失われた資源を再生し、取り戻す必要がある。

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