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に関する論文

資本主義の衝突
―― 「民衆の資本主義」か「金権エリート資本主義」か

2020年1月号

ブランコ・ミラノヴィッチ ニューヨーク市立大学大学院 ストーンセンター シニアスカラー

グローバル経済の未来を左右するのは、資本主義と他の経済システムの競争ではなく、資本主義内の二つのモデル、つまり、「リベラルで能力主義的資本主義」と「政治的資本主義」間の競争だろう。リベラルな資本主義が「民衆の資本主義」へ進化し、拡大する格差問題にうまく対処しない限り、欧米のシステムは、社会主義ではなく、中国型の政治的資本主義に近づき、金権政治的になっていくだろう。格差を是正し、民衆の資本主義への進化を実現するには、中間層により大きな金融資産の保有を促す税インセンティブを与え、超富裕層の相続税を引き上げ、公教育の質を改善し、選挙キャンペーンを公的資金でカバーできるようにしなければならない。そうしない限り、政治的資本主義同様に、排他的な少数で構成される特権階級の家庭が、将来に向けて永遠にエリートを再生産していくようになる。

中東における全面戦争のリスク
―― 何が起きても不思議はない

2020年1月号

ロバート・マレー 国際危機グループ(ICG) プレジデント

中東のいかなる地域における衝突も中東全体を紛争に巻き込む引き金になる恐れがある。一つの危機をどうにか封じ込めても、それが無駄な努力になる危険が高まっているのはこのためだ。しかも、国家構造が弱く、非国家アクターが大きな力をもち、数多くの大きな変化が同時多発的に進行している。イスラエルと敵対勢力、イランとサウジ、そしてスンニ派の内部分裂が存在し、これらが交差するだけでなく、ローカルな対立と絡み合っている。「サウジに味方をすることは、(イエメンの)フーシに反対するということであり、それはイランを敵に回すことを意味する」。こうしたリンケージが入り乱れている。ワシントンが中東から撤退するという戦略的選択をしようがしまいが、結局、アメリカはほぼ確実に紛争に巻き込まれていく。

国家とGAFAの攻防
―― 5Gとクラウドをめぐる本当の闘い

2020年1月号

スコット・マルコムソン
戦略インサイトグループ プリンシパル

GAFAに象徴される巨大IT企業に対する各国政府の反発は一時的な現象ではない。トランプ政権がファーウェイに対して、中国がかつてグーグルに対してとった措置を、今後欧州連合(EU)がアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)に対してとるかもしれない。国が動きだしている以上、シリコンバレーを未来の覇者と当然視できた時代は終わりつつある。実際、各社のクラウドネットワークの境界を越えてスムーズに移動できるようにしない限り、車や電話そしてモノのインターネットの複雑な処理はグローバルに機能できなくなる。これを克服するには企業が「コーポレートビザ」を発行する必要が生じるが、国にとって、これはIT企業への主権の委譲に等しく、これを容易に認めるとは考えにくい。すでにこの問題は現実に起きている。・・・

グローバル外交の新しい見取り図
―― アメリカの後退と中国の前進

2020年1月号

ボニー・ブレー
豪ローウィー研究所 リサーチフェロー

かつて鄧小平が諭した「韜光養晦(才能を隠して、力を蓄える)」への関心を失ったかのように、北京はグローバルパワーの行使に前向きになるにつれて、外交への投資に力を入れるようになった。一方、ワシントンは内向きになっている。中国の外交ネットワークは広がりだけでなく、奥行きも深くなっている。北京とワシントンは、大使館の数ではほぼ同等だが、領事館の数でみると、アメリカが88なのに対して、中国のそれは96に達している。大使館が政治力を反映するのに対して、領事館の数は経済力を映し出す。中国に限らず、ブレグジットに揺れるアイルランドであれ、地域環境の変化に対応しようとする日本であれ、ある国がどこに外交ネットワークを拡大するかの選択は明確な意図に導かれている。

温暖化への適応か国の消滅か
―― 気候変動が引き起こす大災害の衝撃に備えよ

2020年1月号

アリス・ヒル 米外交問題評議会 シニアフェロー(気候変動政策担当)
レオナルド・マルティネス=ディアス 世界資源研究所持続可能な金融センターの グローバルディレクター

アメリカの場合、社会・経済インフラは歴史的水準の異常気象に耐えられるように設計されているが、いかに手を尽くしても、今後の気候変動と災害の衝撃が過去のそれを上回るようになるのは避けられない。川や海に近く、住宅地として人気があるとしても、危険地帯での住宅建設を止めさせ、コミュニティ全体の移住にも備えるべきだろう。災害後の復興策もこれまでのやり方では財政がもたない。生き残るには、これまでのインフラ、データシステム、そして災害予算政策を抜本的に刷新する必要がある。復旧コストのほとんどを借入金で賄うやり方は、自然災害の頻度と破壊度が増している以上、深刻な状況にある財政をさらに悪化させる。災害に対するレジリエンス強化に向けた投資が必要だし、気候変動リスクをわれわれはもっと正面から捉えなければならない。

もう逃げ場がない
―― サバイバル移民とラテンアメリカの悪夢

2019年12月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授(国際関係論)

2015年にヨーロッパが経験し、現在ラテンアメリカで起きている危機は、政治難民や経済難民の流出によるものではない。人々は「生き残るための移住(survival migration)」を試みている。ほとんどの人は、政治的迫害そのものではなく、ハイパーインフレーション、略奪行為、食糧不足などの「劣悪な政治状況がもたらした経済的帰結」から逃れることを目的に移動している。問題は、1951年の国連による難民の定義、つまり、ソビエトの反体制活動家を念頭に置いてまとめられた定義では、この現状に対処できないことだ。国が破綻したか脆弱なために、生活が耐え難いものになってきたがゆえに彼らは母国を後にしている。統治の破綻、社会暴力、経済的窮乏などが大きな理由なのだ。これまでの難民や移民の定義を見直して、これまで難民にしか与えられなかった支援の一部を、「サバイバル移民」にも提供できるようにしなければならない。

CFR In Brief
シリア北西部の現状
―― そこに誰がいるのか

2019年12月号

リンジー・メイズランド
CFR.org アジア担当ライター

アンカラが南部国境線に近いシリア北部にトルコ軍を投入したことで、シリア内戦は新たな局面を迎えている。わかり難いのは現地でどのようなプレイヤーたちが活動しているかだ。
10月9日、シリアに展開する米軍が国境地帯から撤退した後、トルコ軍は国境を越えて、実質的なクルド人地域に進攻した。一方クルド人勢力の要請に応じてシリア軍が北東部に進攻した。
トルコ軍とクルド人勢力との間で交戦が起き、トルコ軍によるクルドの民間人を対象とする残虐行為があったとも報道された。10月下旬、ロシアのソチでプーチンとエルドアンが会談し、安全地帯の設定を含む国境地帯に関する合意が交わされた。
ロシアは「クルド人勢力の撤退はすでに完了した」と表明し、国境地帯をロシア軍とトルコ軍が合同パトロールをしている。事態は依然として流動的で、特にクルド人勢力がこれまで管理してきたイスラム国戦闘員の拘束施設や難民キャンプがどのような状態にあるかが懸念されている。(FAJ編集部)

ロシアとポストアメリカの中東
―― 中東のパワーブローカー

2019年12月号

ユージーン・B・ルーマー カーネギー国際平和財団 ロシアユーラシア・プログラム ディレクター

1980年代末の帝国の解体とともに、ソビエト・ロシアは中東から姿を消した。一方ワシントンは、この地域で戦争を戦い、政治ビジョンを押し付け、中東の覇権国として振舞うようになった。だが、2015年秋に流れは変化した。モスクワはシリアにロシア軍を派遣し、パワーブローカーとしての足場を中東に築き、今後ここから立ち去るつもりはない。だが、シリアの外国プレイヤーであるイラン、トルコ、イスラエルとの関係を管理するだけでなく、モスクワはサウジを含むアラブ諸国との関係も形作っていかなければならない。問題は、治安と安定そして近代化の機会をアラブ社会が求めているのに対して、ロシアがオファーできるものをほとんど何も持っていないことだ。・・・・

オランダという世界最悪のタックスヘイブン
―― いかに改革し、解体するか

2019年12月号

ジョアン・ランガーロック オックスファム・ノビブ  政策アドバイザー マールテン・ヒートランド 多国籍企業研究センター  リサーチャー

オランダの租税回避スキームを利用しているのは、非合法の収益を隠そうとしている信用度の低い一握りの企業だけではない。本国での税負担を軽減しようと、オランダの枠組みを利用している企業にはグーグルやIBMも含まれる。もっとも、オランダに流れ込んだ資金は、時をおかずに他のタックスヘイブンへ移される。結局、タックスヘイブンであることから利益を引き出しているオランダ人は、直接・間接にこの産業に雇用されている会計士、弁護士、コンサルタントなど、約1万人程度で、オランダ経済全般への恩恵は非常に少ない。どうみても、改革そして制度の解体が必要だ。

少子高齢社会と移民
―― 問題は移民がいなくなることだ

2019年12月号

チャールズ・ケニー グローバル開発センター シニアフェロー

「移民危機」という表現が日常的に使われ、反移民感情の高まりを理由に国境を閉ざす国も多い。しかし、先進国の多くでは少子高齢化が進み、高齢者人口が大きくなる一方で、生産年齢人口が小さくなっている。残念ながら、ロボットや人工知能が、人口減少が引き起こす経済的帰結から先進国を救ってくれるわけでもない。こうなると少子高齢化危機への解決策は一つしかない。国境を移民に開放することだ。問題は、移民が先進国に殺到するのではなく、今後、誰もやってこなくなる事態を警戒しなければならないことだ。これが本当の移民危機だ。一人当たり(購買力平価)GDPが7500ドルに達するまでは、途上国の多くの人が外国で働こうと移住を考えるが、国内経済がこのレベルを超えると、パターンは逆転する。

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