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に関する論文

白人至上主義と欧米の極右テロ
―― 社会的レジリエンスの強化を

2021年10月号

シンシア・ミラー=イドリス アメリカン大学教授

9・11後の暴力的なジハード主義の台頭は、アメリカ政治を歪め、極右の過激主義思想の肥沃な温床を作り出した。アルカイダを含むイスラムテロ組織が、欧米における極右勢力の妄想を裏付ける存在だったからだ。こうして、米欧社会は極右勢力が何十年も煽ろうと試みてきた恐怖に取り憑かれた。2020年、米国内おけるテロの件数は1994年以降で最多となり、これらの事件の3分の2が白人至上主義者などの極右過激派によるものだ。依然としてイスラム主義テロが最大の脅威とされるヨーロッパでも極右の社会暴力が増えている。いたるところに巣くう過激主義と闘う最善の方法は、それを抑え込むだけでなく、社会のレジリエンスを高め、極右勢力のアピールに対する脆さを克服していくことだ。

今度こそアジアシフト戦略を
―― 経済・安全保障エンゲージメント

2021年10月号

ザック・クーパー アメリカンエンタープライズ研究所 リサーチフェロー アダム・P・リフ インディアナ大学 準教授(国際関係論)

バラク・オバマがアジアリバランシング戦略を表明して10年。そこにある現状は「野心的なレトリックと控えめな行動間のギャップが作り出した不安と懸念」でしかない。今後、三つのポイントが重要になる。アジアへの関与を中国への対応枠組みの一部としてではなく、前向きなアジェンダ、地域戦略ととらえること。アメリカが離脱した後に成立した、TPPをベースとする「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」の参加に向けて交渉を再開すること。そして、中東での軍事プレゼンスを削減してアジアでの抑止力を強化することだ。特にアジアの同盟国やパートナーと協力して、力強い拒否的抑止戦略を考案し、武力行使ではアジアでの目標は達成できないと北京に納得させる必要がある。ワシントンがアジアリバランスといったレトリックを何回使ったかはほとんど意味がない。重要なのは、実際にそうするかどうかだ。

経済制裁依存症は何を物語る
―― アメリカの衰退、外交的影響力の低下

2021年10月号

ダニエル・W・ドレズナー  タフツ大学フレッチャースクール 教授(国際政治)

経済制裁によって相手国がワシントンの意に沿って行動するようになるのなら、経済制裁に依存するのも無理はない。だが、実際にはそうではない。制裁の効果をもっとも前向きに評価した分析でも、制裁が譲歩につながるのはせいぜい3分の1から2分の1程度だ。ワシントンが制裁に固執するのは、その効果とはほとんど関係なく、実際には、アメリカの衰退が最大の要因だ。もはや無敵の大国ではなく、広く世界に影響力を行使する力はない。アメリカの軍事力と外交的影響力は相対的に縮小している。制裁は、管理された環境で効果を発揮する特別な手段で、日常的に使用できる万能ツールではない。制裁は手術用のメスであり、スイス・アーミー・ナイフのように扱うべきではない。

異常気象への適応戦略を
―― もはや排出量削減だけでは対処できない

2021年10月号

アリス・ヒル 米外交問題評議会 シニアフェロー(エネルギー・環境問題担当)

ハリケーンから洪水、干ばつ、山火事、そして土砂崩れに至るまで、気候変動が誘発する異常気象が世界各地で大きな破壊を引き起こしている。温室効果ガスの排出を削減するだけでは、もはや気候変動の悪影響を食い止めることはできない。異常気象が引き起こす災害に備える適応戦略が必要だ。気候変動が人命、家、雇用を奪う段階にすでに入っているし、異常気象災害からの復旧が強いる財政負担の肥大化を抑えるためにも、気候変動適応戦略を策定する必要がある。ワシントンは気候変動に対する国の脆弱性や共有する優先課題を特定し、政府のあらゆるレベルでの意思決定に気候変動リスクを組み込む必要がある。

分裂した世界とグローバルな脅威
―― パンデミック・気候変動と大国間競争

2021年10月号

トーマス・ライト  ブルッキングス研究所米欧センター所長

この100年で最悪のパンデミックはいまも収束していない。気候変動危機も加速する一方だ。しかも、大国間競争という環境下で、ワシントンはこれらのトランスナショナルな脅威に対処していく戦略を考案していかなければならない。米中のライバル関係は熱い戦争は引き起こしていないが、冷たい戦争に火をつけかねない状況にある。だが、未来のパンデミックに備え、気候変動と闘うには、ライバル諸国、特に中国との協調を模索しなければならない。だが一方で、協調路線が破綻した場合に備える必要もある。同盟諸国とパートナー諸国が、グローバルな公共財のためにより大きな貢献をするバックアッププランも用意しておくべきだろう。2020年には存在しなかったそうした計画を、次の危機までに間違いなく準備しておかなければならない。

中国とタリバン
――互いの人権侵害に目をつむる

2021年10月号

イアン・ジョンソン  ピュリツアー賞受賞ジャーナリスト

ある意味では、タリバン率いるアフガンは中国の完璧なパートナーかもしれない。「機能不全で北京への依存度が高く、中国がすることは何でも受け入れる」。タリバンと北京が共に相手の内政に干渉しないことが両国の関係の前提とされるはずだ。これは、北京にとっては「タリバンがアフガンとか細い国境を共有する新疆地域に過激主義を輸出せず、この地域のウイグル人イスラム教徒を対象とする北京の人権弾圧への非難を控えること」を意味する。一方、タリバンにとっては「中国市民が直接的に関わるケースでない限り、北京がタリバンの人権侵害を問題にしないこと」を意味する。おそらく、タリバンが新疆のイスラム教徒を支援するリスクを抑え込むことが北京の大きな狙いだろう。もっとも重要なのは、北京のアフガン関与が「中国の利益を支持する限り、相手国の内政を問題にすることはない」という、他国への北京の全般的エンゲージメントルールを示すことになると考えられることだ。


アフガンは再びテロの聖域と化すのか
―― グローバルジハードとナショナリズム

2021年10月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

すでにアルカイダはタリバン勢力と一体化し、合同で訓練し、共同作戦を展開しているとする見方もある。一方、タリバンとイスラム国との関係は不安定だ。「タリバンはアフガンのナショナリズムを優先して汎イスラム主義を放棄した」とISISは批判し、アルカイダとタリバンの双方に強く反発している。現実には、ジハード主義運動のなかで権力抗争が起きているとみるのが真実に近い。今後、タリバンはISIS司令官の取り込みを図り、忠誠を誓わない集団は粉砕していくつもりかもしれない。しかし、対テロ作戦上の最大の試金石は、タリバンが再びアルカイダが国際テロ攻撃の拠点としてアフガンを使用することを認めるかどうかだ。少なくとも、国際テロを支援するタリバンのインセンティブはそれほど大きくないだろう。アルカイダが実行した9・11の結果、米軍が介入してきたために、タリバンは20年にわたって権力を奪われ、米軍との戦闘で中枢のリーダーたちを失ってきたのだから。

ゾンビ民主主義と空洞化した選挙
―― 権威主義体制の虚構を暴くには

2021年9月号

ケネス・ロス  ヒューマン・ライツ・ウオッチ エグゼクティブ・ディレクター

これまで「独裁的支配を民主主義という名でカモフラージュしてきた」多くの政権は、今やそうした取り繕いさえしなくなった。こうして「制度はあっても中身のない、生ける屍のような選挙制度をもつゾンビ民主主義」が台頭している。ロシア、ハンガリー、エジプト、トルコはその具体例だ。選挙を形骸化させた独裁者が「管理された民主主義」から「ゾンビ民主主義」に移行している以上、人権擁護派も対策を変化させなければならない。見せかけの選挙を実施することで独裁者が政治的正統性を主張することに異議をとなえ、より正面から対抗策をとる必要がある。独裁者たちが、本来は仕えるべき民衆のことなど何も配慮していないことを暴き出す必要がある。どんなに強い独裁者も、市民に完全に背を向けられたら、権力を維持し続けるのは難しくなるのだから。・・・

反アジアヘイトクライムと対中政策
―― 強硬な対中レトリックがレイシズムを助長する

2021年9月号

ラッセル・ヨング サンフランシスコ州立大学  教授(アジア系アメリカ人研究) ジェシカ・J・リー クインシー研究所 シニアリサーチフェロー(東アジア担当)

アジア系アメリカ人を標的とする社会暴力が増加している。米国内のアジア系成人の45%に相当する1000万人以上が「パンデミックが始まって以降、人種差別を直接的に経験している」と調査に答えている。歴史的にみても、地政学的不安が高まった時代には、アメリカではアジア系市民や移民が攻撃の対象にされてきた。ワシントンが、中国の脅威を極端なレトリックで誇張するなか、北京とつながっているかどうかに関係なく、米社会の一部の人々はアジア人やアジア系アメリカ人を敵視している。ワシントンが「中国のことを、アメリカのあらゆる苦境の憂さを晴らすサンドバッグ」として使うのを止めなければ、アジア系アメリカ人は今後も脅かされ続けるだろう。

アフリカのユースバルジは何を引き起こす
―― 不安定化か民主化か

2021年9月号

ザカリア・マンピリー  ニューヨーク市立大学  国際関係大学院教授

アフリカの統治者たちの年齢の中央値が63歳であるのに対し、アフリカ大陸の人口の中央値は世界でもっとも若く、20歳前後だ。この43歳という(中央値でみた)アフリカ大陸の指導者と民衆の間の極端な年齢差はすでに分析の対象として取り上げられている。分析者の多くは、こうしたギャップが行き場のない緊張を高め、不安定化と社会的暴力を引き起こすのではないかと懸念している。その多くが厳しく弾圧されている最近の抗議デモは、この不吉な予測を裏付けているかにみえる。しかし、反乱を起こしているアフリカの若者については、政治的安定に対する脅威としてではなく、この大陸の民主的な未来の先駆者とみなすべきだろう。若者による抗議デモは、水面下で民主主義の支持基盤を作るための長く骨の折れるタスクに挑んでいるわけで、最終的な政治システム移行への布石を打ちつつある。

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