1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

に関する論文

戦後復興からEUへの遙かな道

1997年8月号

ヘルムート・シュミット 前西ドイツ首相(一九七四~八二)

ヨーロッパの復興はマーシャル・プランなしではありえず、戦後ドイツは、ECとNATOを中軸とするヨーロッパの諸制度のなかに自らのパワーを織り込むことでヨーロッパの一員となり、米国との関係を深めるとともにフランスとの和解を目指した。だが冷戦が終結し、おそらく米中ロがその中枢を占めるであろう今後のグローバル秩序でのドイツの国益は、これまでのような米国との自動的な協調路線よりも、「EUのいっそうの進展、フランスとの密接な協力関係を中軸とするヨーロッパ統合」によって保障される。われわれを待ち受ける課題が一国家だけで対応できるものでないだけに、政治・経済、金融、国際社会での地位、歴史の教訓などのすべての観点から、ヨーロッパ人はますます「力強くて活力ある欧州連合」を求めている。だが、自立し、連帯を強めるヨーロッパへの米国の懸念は杞憂である。戦後復興も、ヨーロッパの団結と自立の証である欧州連合も、「米国が達成したもっとも偉大な成果の一つであり、それはマーシャル・プランなしには実現しなかった」のだから。

南北朝鮮分断とアメリカの原罪

1997年7月号

ウォーレン・I・コーエン メリーランド大学教授

朝鮮半島情勢を「民主主義対共産主義」という枠組みや、米韓同盟対北朝鮮という図式で捉えるのは大きな間違いである。韓国は完全な民主主義国家ではないし、米国と韓国が一枚岩というわけでもないからだ。カミングスの著作が指摘するとおり、冷戦期の「韓国の独裁的軍事政権と米軍の共謀関係」を忘れぬ韓国民衆の根強い「反米主義」がそこに存在するのを忘れてはならない。事実、「光州事件に関して米国が無実である」という米政府の公式見解を鵜呑みにする韓国人はほとんどいない。終戦以来の韓国の擁護者としての米国の自己イメージと、韓国での反米主義という乖離した現実の認識を怠り、歴史の重みを曖昧なままに放置すれば、たとえ統一が達成されても、米国への猜疑心をもつ朝鮮半島は、平和で民主的になるどころか、中国を中心とする東アジアの戦略ゲームに巻き込まれかねない。

中国・ロシアを国際秩序に組み込む道

1997年7月号

マイケル・マンデルバーム  外交問題評議会・東西関係プロジェクト議長

「正統的共産主義」がすでに崩壊・解体しているにもかかわらず、ロシアと中国はいまだに新たなシステムを構築できずにいる。そのため両国では、国内ではナショナリズムが幅を効かせ、対外的には自国の主権や地位に過度に敏感な外交路線が採用され、こうした環境を背景に、「ウクライナと台湾が、世界でもっとも危険なスポット」として浮上してきている。大切なのは、国際社会が現状の変革に反対していることを明確に伝え、彼らの現状変革の試みを今後も先送りし続けるように仕向け、すでに定着しつつあるポスト冷戦秩序のなかに、この二つの国家をゆっくりと組み込んで行くことである。いまわれわれに必要なのは、厄介で他の存在を脅かすようなロシアと中国の行動パターンが永続的ではないことを認識した上での、「忍耐強さ」である。

香港返還を読み違えるアメリカ

1997年7月号

フランク・チン  『ファーイースタン・エコノミック・レビュー』誌・シニアエディター

香港の今後をめぐるメディアの懸念は明らかに行き過ぎである。たしかに、主権の返還が制度面にとどまらない政治的混乱をある程度伴うのは避けられないだろうし、返還後の人権、政治システムについての中国の姿勢に世界のマスコミが懸念を募らせてもおかしくはない。だが、中国が香港を徹頭徹尾「経済都市」と捉えようとし、経済システムの多くを温存しようと努めていることを忘れてはならない。中国が「七月一日を期してすべてを破棄してしまおう」ともくろんでいるわけではない。事実、北京政府は「金の卵を生むガチョウとしての香港」が別個の行政・政治単位としての国際的地位を維持するのを認めているし、さらに、台湾の再統一を最終目標にしている中国は、「一国二制度」のテスト・ケースである返還後の香港がうまくいかなければ、最終目標の実現がさらに遠のいてしまうことを十分承知している。これこそ、中国が香港をめぐるこれまでの穏当な約束を尊重すると信じるに足る強力な理由である。香港の不安定化を詮索するのは、少なくとも現段階では「時期尚早」である。

変貌するテレビ国際ニュース

1997年6月号

ゲーリック・アトリー 前NBC、ABCニュース海外特派員

テクノロジーの発展とともにケーブル・衛星放送のテレビ報道部門への参入が起こり、ニュース報道は大きく様変わりした。従来型のネットワークニュースの国際報道が低迷する一方で、いまでは「ビジネス資本」が所有するケーブル、衛星放送が台頭しているだけでなく、ネットワークニュース部門へも商業資本が参入している。だが、ニュース報道を純粋にビジネスと捉えれば、必然的にジャーナリストのエトスや使命感と衝突を起こす。例えば、「ABCを所有するディズニー社が上海か香港の郊外にディズニー・ワールドを建設するつもりであるなら、レポーターたちは、中国政府の徹底的な腐敗調査報道ができるだろうか」。さらに一方では、インターネットに代表される情報革命が、情報の即時化、高度化、多角化を加速しており、レポーターたちは、今後奥深い専門知識の蓄積によってその資質を問われることになるだろう。グローバル化に伴う情報の多様化や高度化という利得が、これまで社会的一体感を醸成してきたネットワークニュースの衰退という損失を上回るのか、それとも・・・。

高齢社会が変える日本経済と外交

1997年6月号

ミルトン・エズラッティ ロードアベットパートナー(論文発表当時)

日本の人口高齢化は、現役労働力の生産能力の低下と増大する年金生活者の消費需要の不均衡を軸に広範な国内緊張を引き起こし、これが日本の対外政策にも余波を及ぼすだろう。現実には「輸出から輸入へ」と貿易パターンが変化し、高い貯蓄率は低下し、貿易黒字は赤字へと向かい、日本企業の外国への進出と一方での国内市場の自由化をいっそう促すことになる。そして、日本企業の外国への生産拠点の移転によって、国の需要を満たす「大切な富」の多くが、外国へと流出すれば、「より積極的で明確な外交政策の実施」が不可欠となる。日本とアジア諸国とのつながりがより複雑になり特別化していけば、アメリカの安全保障利益とは必ずしも重なり合わない日本独自の利益認識が高まり、いずれ、日本は「外交と、そして必要なら、軍事領域でも、独自路線をとるようになるかもしれない」

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