地球温暖化対策の盲点
1998年1月号
途上国だけでなく、先進国も温暖化に派生するさまざまな問題を抱え込む。気候の変動が急激に進めば、(それによって引き起こされる)もっとも劇的な問題は、寄生虫性、熱帯性の病気の蔓延だろう。気温と湿度の上昇はマラリア蚊の生息や河川に影響を与え、住血吸虫病、デング熱、幼児性下痢を流行させ、これらは、先進諸国の人々が懸念している放射性物質、化学的有毒物質を上回る脅威になるだろう。
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1998年1月号
途上国だけでなく、先進国も温暖化に派生するさまざまな問題を抱え込む。気候の変動が急激に進めば、(それによって引き起こされる)もっとも劇的な問題は、寄生虫性、熱帯性の病気の蔓延だろう。気温と湿度の上昇はマラリア蚊の生息や河川に影響を与え、住血吸虫病、デング熱、幼児性下痢を流行させ、これらは、先進諸国の人々が懸念している放射性物質、化学的有毒物質を上回る脅威になるだろう。
1997年12月
政治権力の分散化、利益の多様化は、外交組織にも大きな衝撃を与えている。いまや、国務省を迂回して国際交渉がなされることも珍しくなく、かつては国務省の人間とわずかばかりの武官だけがいた海外の大使館でも、国務省の職員や外交官はむしろ少数派である。さらに、州や利益団体までもが海外にオフィスをもち、多国間交渉の場には、相手国の立場や意向すらわきまえていない国務省とは無関係の代理人が送り込まれることも多い。だが、これは急速に変貌する社会や経済の反映であり、むしろ問題は、国家を代弁するのとは異なる次元で活動する多種多様な単位が登場したり、本来国家とは呼びえない資質しかもたない政治単位が国家として対外的に活動していることだ。この外交の混乱をうまく整理し、それぞれに適切な役回りを与えるルールを確立させることこそ急務であろう。
1997年11月号
われわれを否応なく「グローバル・ヴィレッジ」の住民に仕立てあげた、コンピュータとテレコミュニケーションの一体化による大いなる変化は革命と呼ぶにふさわしいものだ。いまや、富とパワーを生み出す資源は領土や物的資本ではなく、情報である。かつての革命同様に今回の技術革命も、富を生み出す手法を変化させることで、社会と権力のバランスを崩し、国家主権や世界経済だけでなく、安全保障概念、軍事戦略をも変貌させつつある。情報という知的資本を経済、政治、外交領域においていかにうまく集積、処理、応用するかが、制度や国家が今後生き残れるか否かを左右することになるだろう。
1997年11月号
世界の人口の75パーセント、GNPの60パーセント、エネルギー資源の75パーセントが存在するユーラシア大陸は21世紀の安定の鍵を握る「スーパー・コンチネント」だ。ユーラシアにおけるアメリカの差し迫った課題は、「いかなる単独の国家、あるいは国家連合も、アメリカを放逐したり、その役割を周辺化させたりするような力をもてないようにすることだ。この点でとりわけ重要なのが、NATO、そして、アメリカと中国の関係であり、これを軸に、ロシア、中央アジア、日本との安定的共存を図っていかなければならない。NATO拡大とロシアの関係同様に、アメリカ、日本、中国の戦略関係にも細心の配慮が必要になる。肝に銘じておくべきは「再軍備路線への傾斜であれ、単独での対中共存路線であれ、日本が方向性を誤った場合には、安定した米日中の3国間アレンジメント形成の可能性はついえ去り、アジア・太平洋地域でのアメリカの役割は終わる」ということだ。
1997年9月号
独立から五〇年を経たインドは、自らの立場を貫くためにふんだんに資金を使えるほど豊かでも、圧力をかけるほど強大でも、相手を感化するほどに規律立ってもいない。インドは何をどう読み間違えたのだろうか。冷戦後のいま、非同盟国が力を失い、核保有が必ずしも大国の代名詞ではなく、経済力こそが大きなパワーの源泉となっていることを忘れてはならない。宗教的対立を克服し、「繁栄とパワーと原則を相互補完的に一つへと導く」将来の見取り図を描き出すには「自国への自信を十分にもち、パワーを構成する新要素がなんであるかを理解し、近隣の小国と大きな配慮をもって交渉する巧みさ」が必要である。
1997年9月号
単年度賦課方式の公的年金制度を維持すれば、二〇三〇年には、経済成長も雇用創出も期待できないほどに税率を引き上げなければならない。一方、公的年金システムから義務的な個人年金積立方式へと制度を移行させれば、はるかに軽い税負担で、公的年金と同じレベルの給付を確保できるし、年金積立貯蓄の増大による投資ストックの増加は経済の活性化を生み、「国民所得、実質賃金、全体的な生活レベルの上昇も十分期待できる」。制度移行に批判的な人々の指摘、つまり、制度移行期の第一世代が、二重負担を強いられるという批判は、冷静に計算をすれば、ひどく誇張され、間違ったものである。義務的個人積立制度への移行は、「社会保障制度の将来のコストを劇的に削減するだけでなく、低所得と中間所得層の人たちの生活水準を劇的に向上させる可能性を秘めており、これ以外に社会のほとんどの人々の生活水準を永続的に大きく高める政策は考えられない」。
1997年9月号
経済発展によって、すでにインドネシアには民主主義の根幹を支えるべき中産階級が誕生しており、成長率からみても、この国は順風満帆のように思える。だが裏を返せば、腐敗や汚職、経済の一族支配がビジネスの常態とされているために、人々の起業家精神は抑え込まれ、水面下でのこそこそしたやり方ばかりが助長されている。さらに、複雑な民族、宗教、人権問題が存在するだけでなく、この国で唯一の確立された機構としての軍、そして大規模な若年失業者の存在、さらには、政治にはとにかく及び腰の中産階級と、堅固に織り込まれたスハルトの支配体制のなかで社会は硬直化している。経済成長を支えているこの国特有の経済・社会システムが、スハルトの表舞台からの退場とともに崩壊し、経済成長の影の部分で鬱積した感情を抱いている多様な民族、政治、宗教集団が一気に政治化するとすれば、この国の安定と繁栄だけでなく、ひろく東南アジア全域の経済と安全保障が脅かされることになるだろう。
1997年8月号
アメリカの湾岸政策の目的は、「同盟諸国の安全を守り、石油の流れを間違いなく保障すること」であり、この点をイラン、イラクを含むすべての関係諸国は理解しなくてはならないし、アメリカ政府もこれを再確認する必要がある。経済政策と軍事監視からなるクリントン政権のあまりに厳格な「二重封じ込め」政策は、同盟諸国間の亀裂を広げる危険を伴うため、すでに政策目的からのずれが生じ始めている。サダム・フセイン政権には厳格な姿勢を崩すべきではないが、経済制裁によって派生するイラク市民の人道上の問題に十分に配慮し、ポスト・サダム・フセイン政権との交渉の可能性も視野に入れておくべきだし、イランに対しては、封じ込めから、条件を課した上での関係改善策へと路線の修正を図るべきだろう。アメリカの利益だけでなく、同盟諸国との協調路線を回復するためにも、また対イラン・イラク政策の費用対効果を高めるためにも、新政策は同盟諸国との協議や合意を踏まえたものでなければならない。
1997年8月号
六年間にわたって成長が安定的に続き、インフレも驚くほどおとなしく推移してきた事実、さらには、歴史的文脈から今後の景気循環の安定的推移を予測するフッシャーの今回の著作に勇気づけられたのか、米国の新聞・雑誌はあっさりと「景気循環のサイクルは消滅し、一九九〇~九一年のリセッションを最後にこの先当面の間不況はやってこないだろう」と指摘し、ビジネスマンも、われわれはすでに安定を常態とする「約束の地」にたどり着いた、と考えはじめている。だがこうした考えは歴史の教訓をまったく無視している。かつて多くのリセッションを引き起こした諸力が弱まってきているのは事実だが、今後私たちがこれまでに出会ったことのない新たな問題や力学に遭遇するのは自明だからだ。「問題が新しい性格のものである以上、これをうまくいなすことはできず、かくして、景気循環は続く」のである。「遠大な過去の歴史パターンの解釈を、最近の歴史的教訓を無視するための口実として利用する」のは明らかに間違ってる。
1997年8月号
現在の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の食糧危機を過大視すべきではない。「飢餓状態は地域的なもの」だし、少しばかりの援助があれば、あるいは援助なしでも、北朝鮮はなんとかやっていけるだろう。広範な飢餓状態がおきるとすれば、それは、「国内政治エリートの意図的な政治決断の結果」であろう。むしろ注目すべきは、いま北朝鮮にどのような選択肢があり、関係諸国がそれに対してどんな考えをもっているかだ。少なくとも、関係諸国が拙速な統一を望んでいないのは明らかで、「中国、日本、ロシア、そしておそらくは韓国でさえも、資本主義体制をとり、おそらくは核武装した統一国家が半島に出現するよりも、なりを潜めた北朝鮮が何とか生き延びていくことを望んでいる」。北の国内状況が改革を求めるか、あるいは混沌に陥っていくまでは、北朝鮮は当面の間生きながらえると考えたほうが無難であり、今後の対朝政策は、東アジアのパワー・バランスを念頭においた、中・長期的なものでなければならない。