ケネス・ロスは、「境界線のない戦争――対テロ戦争に戦時ルールを適用すべきか」(フォーリン・アフェアーズ日本語版二〇〇四年五月号)で、ブッシュ政権はアルカイダの幹部を拘束するために戦時ルールと軍事力を用いていると批判している。「対テロ戦争」が本当の戦争であるかどうかは定かでなく、いずれにせよ、テロリストの拘束には戦時ルールではなく、アメリカの刑法(平時の法執行ルール)で十分対処できるはずだ、というのが彼の言い分だ。
しかし現実に激しい戦争は起きているし、刑法でテロリストに対処していくのではあまりに心許ない。これこそ、十年間にわたってテロ容疑者の逮捕と起訴を試みつつも、結局は、9・11を防げなかったアメリカが遅まきながら得た教訓に他ならない。事実、米連邦捜査局(FBI)のテロ問題に関するタスクフォース議長は、「アルカイダによるテロを通常の殺人事件として扱ってきたが、これでは爆破テロは防げなかった」とコメントしている。たしかに平時ルールでも、テロ容疑者の何人かを活動できないようにすることはできたが、アルカイダがリクルートした要員たちに戦闘方法や爆発物のつくり方を教える訓練キャンプを粉砕することはできなかった。パキスタンやサウジアラビアの情報機関がタリバーンやアルカイダに資金援助するのを、アメリカの司法当局がやめさせられたわけでもない。いまも昔も、アルカイダの活動基盤を破壊するには、刑法(平時ルール)だけでなく、外交、そして武力(戦時ルール)の発動を必要とする。
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