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に関する論文

大中国圏の形成と中国の海軍力増強
―― 中国は東半球での覇権を確立しつつある

2010年6月号

ロバート・カプラン アトランティック誌記者

陸上の国境線を安定化させ、画定しつつある中国は、いまや次第に外に目を向け始めている。中国を突き動かしているのは、民衆の生活レベルの持続的改善を支えていくのに必要な、エネルギー資源、金属、戦略的鉱物資源を確保することだ。だが、その結果、モンゴルや極東ロシアに始まり、東南アジア、朝鮮半島までもが中国の影響圏に組み込まれ、いまや大中国圏が形成され始めている。そして、影響圏形成の鍵を握っているのが中国の海軍力だ。北京は、米海軍が東シナ海その他の中国沿海に入るのを阻止するための非対称戦略を遂行するための能力を整備しようとしている。北京は海軍力を用いて、国益を擁護するのに軍事力を使用する必要がないほどに、圧倒的に有利なパワーバランスを作り出したいと考えているようだ。しかし、中国の影響圏の拡大は、インドやロシアとの境界、そして米軍の活動圏と不安定な形で接触するようになる。現状に対するバランスをとっていく上で、今後、「米海軍力の拠点としてのオセアニア」がますます重要になってくるだろう。

Vol.30 学問とビジネスの出逢い
――シンクタンクはいかに社会と政策に貢献できるか
/ ピーター・グローズ

2010年5月発売 / ピーター・グローズ (フォーリン・アフェアーズ誌副編集長/1983-94)

ベルサイユ講和会議に参加したアメリカの学者チームは、帰国後、アメリカに国際問題研究所を立ち上げようと試みる。だが、彼らは、外交経験を語り、外国の指導者との接触を実現することはできても、なにせ資金を欠いていた。一方、法曹界、銀行界のメンバーたちは、学問的な知性、ダイナミズム、そして外国の指導者との接触を必要としていた。このビジネスと学問の必要性の出逢いこそが、現在の外交問題評議会の成長を促し、その後何十年にもわたってこの組織を傑出した存在とした「シナジー」、つまり、共働作用を生み出した。学問的、政治的専門意見が、現実的なビジネス利益と出逢い、このプロセスによって、概念的思索家たちが、「岩の上にたっているのか、あるいは、流砂の上にたっているのか」を見極める機会が提供されることになる。

アジア諸国の指導者たちは、科学、産業、政府、市民社会へと送り込む優れた人材を育成する場として、世界でトップクラスの大学がもっとも適切な訓練機関であることをすでに理解している。そうした教育機関は、問題を解決し、技術革新を促し、社会をリードしていくのに必要な、思想的な奥行きと建設的・客観的な批判的思考(クリティカル・シンキング)を持つ人材を生み出すことができるからだ。これまでのように、専門知識を与えることばかりを重視し続ければ、広い視野を身につけさせぬまま学校から社会へと学生を送り出してしまう。伝統的な暗記中心の教育法では、社会的創造力を生徒たちに与えられないことをアジア諸国は明確に認識しだした。自分のために考え、議論を体系的に行い、新しい情報や正当な批判に直面した場合には、自分の立場を擁護するか、見直すことを学んでいかせなければならない。これが、21世紀の社会で成功していくための大学教育の基本であることをアジア諸国は強く認識し始めている。

暫定合意でパレスチナ国家の樹立を
―― 最終地位合意よりも休戦ラインの暫定合意を優先せよ

2010年5月号

エフード・ヤーリ ワシントン中近東政策研究所国際フェロー

イスラエルとパレスチナの双方にとって、現状での最善の選択肢は、包括的和平合意という野心的な目標を捨てて、停戦ラインを暫定的に決め、パレスチナ国家を樹立することだ。そうすれば、状況も変化し、最終地位合意に向けた交渉の気運も高まる。パレスチナ側は、二国家(共存)解決策にすでに不信感を抱き始めており、政策の賞味期限は切れつつある。イスラエルを除外したアラブ国家の樹立という、イスラエルが受け入れるはずのない代替案もパレスチナでは取りざたされている。イスラエルは、パレスチナ指導層がこれ以上二国家解決策に対する不信を募らせる前に、休戦ラインと国家樹立に関する暫定合意を結ぶ必要がある。

「新しいヨーロッパ」のポテンシャル
―― リスボン条約で欧州の何が変わるのか

2010年5月号

アンソニー・ルザット・ガードナー 元米国家安全保障会議ヨーロッパ担当ディレクター
スチュアート・アイゼンシュタット 元駐EUアメリカ大使

すでにEU加盟国は、国連、全欧安保協力機構その他の国際フォーラムで、同じ投票行動をとっている。この行動パターンは今後も続くだろうし、リスボン条約というEUを束ねる支えができた以上、今後ヨーロッパはますます一貫性のある外交路線をとるようになる可能性がある。だが、「ヨーロッパ」がこれまで外交的ポテンシャルをうまく生かせなかったとすれば、それは、加盟国政府がそう望んだからに他ならない。つまり、リスボン条約によって手続きと制度が改善されたと言っても、加盟国が最小公倍数的な外交政策のコンセンサスしか目指さず、国の特権にしがみつくようであれば、条約の前提は満たされぬままに終わる。だが、長期的には、リスボン条約によって、EUはより一体性、凝集力に富む国際的アクターになり、その言動は、世界の諸国により大きな影響を与えることになるだろう。

核武装後のイランにどう対処するか

2010年4月号

ジェームズ・M・リンゼー 米外交問題評議会研究部長
レイ・タキー 米外交問題評議会シニア・フェロー

核開発プログラムは、今ではイランの国家アイデンティティを規定する重要な要素になりつつあり、テヘランは核兵器の開発をすでに決意している。イランが核武装して以降の悪夢のシナリオを描くのは簡単だ。「イスラエルは直ちに核兵器を発射できるように核の臨戦態勢に入り、イラン、イスラエルの双方が、数分間で破壊されるような状況に置かれる。エジプト、サウジアラビア、トルコが一気に核武装を試み、核不拡散条約は破綻し、世界中で核拡散潮流が起きる」。こうした悪夢のシナリオが現実になる可能性もある。だが、そうなるかどうかは、アメリカとイスラエルを始めとする他の諸国が、イランの核武装にどのように反応するかで左右される。

外交交渉や働きかけに応じることにイランの指導者が無関心であることを考えると、イランが核武装した場合にどうすべきかを考えておく必要がある。核武装したイランに対しては、封じ込め政策を取る必要がある。だが、イラン封じ込めは、軍事力行使の代替策ではない。それどころか、封じ込めの成功は、アメリカがイランに軍事力を用いるつもりがあるか、ワシントンが定義するレッドラインを越えた場合に、軍事力をバックにして恫喝策を取るつもりがあるかどうかで左右される。レッドラインを越えた場合に懲罰策をとるというコミットメントなしで圧力をかけても、失敗するのは目に見えているし、この場合、中東はさらに暴力に満ちた危険な場所になる。

CFR政策メモランダム
もしイスラエルがイランを攻撃すれば

2010年4月号

スティーヴ・サイモン 米外交問題評議会中東担当非常勤シニア・フェロー

「イランの核開発はイスラエルの存在を脅かす実存的脅威であり、イラン空爆作戦を実施してもアメリカとの関係が大きく動揺することはなく、一方で状況を放置すれば、民衆と国家が大きな危険にさらされる」。イスラエルがこう判断すれば、軍事行動をとるべきだという意見が趨勢になる。たしかに、核施設への空爆を実施しても、イランは核開発計画を立て直して再開し、今後は、核開発の多くを地下施設で進めて防衛態勢を強化し、イスラエルはこれに応じて情報収集・軍事能力を高めていかなければならなくなるだけだ、という考えもある。だが、核開発計画の完成を先送りし、時間を稼ぐことの価値も無視できないと考える人もいる。・・・イスラエルに自制を求める上でもっとも必要なのは、イスラエルを安心させ、彼らが一人だと感じさせないことだ。

さらなる台頭を目指すインドが克服すべきハードルとは
―― 政治、経済的台頭と対米関係

2010年4月号

エバン・A・フェイゲンバーム
米外交問題評議会アジア担当シニア・フェロー

インドは、経済成長を持続させるための国内改革への政治的支持を得ようと、格差対策として、社会保障制度の充実を試み、さらなる成長の基盤を整備するために、インフラ投資も増やしている。台頭したインドは、混乱の絶えない近隣地域よりも、むしろ、東アジアに目を向けるようになった。パキスタン以上に、中国を警戒するインドは、オーストラリア、日本、シンガポール、ベトナムという、同様に中国の台頭を警戒する諸国との関係を重視している。中国の強大化を警戒する東アジア諸国も、大きくて豊かなインドのことを、地域的なパワー・バランスの支えとみなしている。しかし、経済であれ、外交であれ、インドが今後のさらなる台頭を確実なものにしていくには、国内の教育・労働・治安問題を改善し、アメリカとの立場の違いを克服していく必要がある。米印は、アフガニスタン、パキスタン、中国をめぐって次第に明らかになりつつある立場の違いをうまく調整し、管理していく必要がある。

複雑系の崩壊は突然、急速に起きる
―― グローバル経済とアメリカという複雑系の将来

2010年4月号

ニーアル・ファーガソン ハーバード大学歴史学教授

歴史は循環的で、その流れはゆっくりとしか変化しないという考えがもし間違っていたら。周期性がなく、静的であるとともに、スポーツカーのように、急発進するとしたら。崩壊プロセスが数世紀という時間枠で進むのではなく、夜の泥棒のように、突然にやってくるとしたら。複雑系には一定の特徴がある。小さな刺激で非常に大きな、そして、しばしば予期せぬ変化が急激に起きることだ。グローバル経済はまさしく複雑系だ。格付け会社による米債券の格付けの引き下げといった、突然の悪い知らせが、緊急ニュースとしてヘッドラインを飾る日がやってくるかもしれない。今後を考える上で、非常に重要な鍵を握るのは、こうした突然の変化だ。過去の帝国や現在のグローバル経済のような複雑適応系では、それを構成する一部の有効性に対する信頼がなくなっただけでも、システム全体が非常に大きな問題に直面する。

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