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に関する論文

災害と政治

2011年4月号

アラステイアー・スミス ニューヨーク大学教授
アレジャンドロ・クイロズ・フローレス ニューヨーク大学政治学助教授

40年前、マグニチュード7・9の地震によってペルーでは6万6000人が犠牲になった。2001年にペルーはさらに大きな地震に見舞われたが、このときの犠牲者は150人未満だった。最初の地震の震源地の人口密度が2度目に地震が起きたときのそれの半分程度だったのは事実だが、それだけでは、これほど大きな犠牲者の違いを説明できない。・・・大きく違っていたのは政治の質だ。2001年のペルーは民主国家だったが、1970年当時は、そうではなかった。・・・民主国家の政治指導者が権力を維持していくには、市民の大多数の信任を得なければならない。そのためには、建築基準を徹底し、官僚制度を有能な行政官に指揮させることで、天災の被害から市民を守らなければならない。政府がこの点での備えを怠り、多くの人が犠牲になれば、政治家は職を失う。

 2011年3月に東日本を巨大地震とツナミが襲った後、福島第一原子力発電所で事故が起き、再び原子炉の安全性に対する懸念が世界的に高まりつつある。スリーマイルやチェルノブイリでの原発事故以降、原子力産業はこの数十年にわたって衰退してきたが、ここにきて流れは大きく変わり、世界各地で原子炉の建設が進められている。だが、原子力発電の可能性に世界が注目するなかで起きた今回の事故によって、今後、原子力発電計画は厳格な再検証の対象とされていくだろう。問題は原発事故のリスクだけではない。建設コストが非常に高い上に、原子力の技術者の数も不足している。核廃棄物、そして核拡散リスクの問題もある。二酸化炭素を排出せずに電力生産ができるというプラスの側面と、これらのリスクをどう比較考量するか。2011年3月の「憂慮する科学者連盟(UCS)」の報告によれば、2010年だけでも、原発施設スタッフの訓練不足、間違った管理態勢、問題のある設計、そして問題を徹底的に調べる姿勢が欠けていたために、アメリカ国内で原発施設事故を引き起こしかねない14の「ニアミス」が起きている。

イラン核武装の脅威と封じ込めの限界
―― イラン、イスラエル、サウジによる核秩序の危うさ

2011年3月号

エリック・S・イーデルマン 前米国防次官
アンドリュー・F・クレピネビッチ 戦略予算評価センター(CSBA)会長
エバン・ブラデン・モントゴメリー CSBAリサーチフェロー

イランが核開発に成功した場合に、短期的にもっとも心配しなければならないのは、イランとイスラエルの対立が激化し、両国がともに相手に対する核の先制攻撃を試みる危険があることだ。長期的には、サウジその他の中東諸国が独自の核開発を模索するようになり、核の軍拡レースが生じ、地域秩序を大きく不安定化させるかもしれない。この場合、中東にはイラン、イスラエル、サウジという三つの核保有国が誕生する可能性が高く、この複雑で不安定な核秩序のなかで、イラン封じ込めを成功させるのは容易ではない。現状で必要なのは、外交努力を強制力で支え、拡大抑止レジームの基盤を築き、軍事キャンペーンが最後に残された妥当な選択肢となった状況でそれを選択できるように、中東に展開する空軍力と海軍力を増強しておくことだ。

金融危機が出現させたGゼロの世界
――主導国なき世界経済は相互依存から
ゼロサムへ

2011年3月号

イアン・ブレマー
ユーラシア・グループ会長
ノリエル・ルービニ
ニューヨーク大学教授

市場経済、自由貿易、資本の移動に適した安全な環境を作りだすことを覇権国が担ってきた時代はすでに終わっている。アメリカの国際的影響力が低下し、先進国と途上国、さらにはアメリカとヨーロッパ間の政策をめぐる対立によって、世界が国際的リーダーシップを必要としているまさにそのときに、リーダーシップの空白が生じている。われわれは、Gゼロの時代に足を踏み入れている。金融危機をきっかけに、さまざまな国際問題が噴出し、経済不安が高まっているにもかかわらず、いかなる国や国家ブロックも、問題解決に向けた国際的アプローチを主導する影響力をもはや失ってしまっている。各国の政策担当者は自国の経済成長と国内雇用の創出を最優先にし、グローバル経済の活性化は、遠く離れた二番目のアジェンダに据えられているにすぎない。軍事領域だけでなく、いまや経済もゼロサムの時代へ突入している。

グローバル貿易の不均衡が続けば、金融と政治を不安定化させ、長期的には通貨戦争を含む非常に危険な状況に遭遇する。そして、各国が国内経済戦略を大幅に変化させない限り、こうした不均衡はなくならない。通貨をめぐる最近の緊張は、各国が長期的にとってきた国内経済政策が重層的にもたらした持続不能な貿易不均衡に派生している。そして、不均衡を是正していくには、国際合意を通じてではなく、各国が長期的利益を重視した国内経済戦略へと独自の判断でシフトしていく必要がある。途上国経済にとって必要なのは、先進国への依存度を引き下げ、もっと支出を増やすことだ。一方、アメリカのような先進国は、消費を減らしつつ、生産を強化し、輸出を増やす必要がある。国際的な資本の流れをより穏やかで、リスクを常に意識したものへと変化させるための規制の見直しも必要だ。一方、各国が改革を嫌がり、過去に成功をもたらした経済戦略に政治的に固執し続ければ、1930年代の悪夢に再び直面することになるかもしれない。

大国ブラジルのアジェンダ

2011年3月号

ジュリア・E・スウェイグ
米外交問題評議会(CFR)
中南米担当シニア・フェロー

流血の惨事を起こすことも他国を侵略することもなく、ブラジルは多民族・多人種の民主国家を作り上げ、力強い市場経済を定着させた。何百万人もの貧困層を中産階級層に引き上げることにも成功した。いまや、ブラジルは大国の仲間入りをし、大国として振る舞う資格があると考えている。すでに、国連安全保障理事会の常任理事国入りを希望すると表明し、途上国の連帯を組織し、最近も世界銀行や国際通貨基金(IMF)における議決権拡大を模索している。だが、ルセフ新大統領にとっての最大の課題とは、国際的な地位の確立を模索していくことと、格差の是正、教育の強化、犯罪の撲滅などの野心的な国内アジェンダへの取り組みとのバランスをどのようにとっていくかにある。

CFRインタビュー
食料価格高騰で不安定化する世界
―― 中東の変革と食糧危機

2011年3月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニア・フェロー

食糧価格が世界的に急騰している。国連食糧農業機関によれば、2011年1月には、この組織が食糧価格指標を記録し始めた1990年以降、その数値はピークに達した。中東では、小麦価格の高騰が最近の社会争乱に大きな影響を与えており、特に、世界最大の小麦輸入国であるエジプトにとって、価格高騰はデモの背景の一つになった。中東での主要穀物の高騰が人々の現状への怒りと不公正に対する憤慨を増幅させている。天候不順のせいで主要穀物の供給が減少し、貧困に苦しむ地域での食糧不足が起き、投機によって入手できる食糧の価格さえも上昇している。供給の減少を別にしても、食糧需要が増大しているのは、人口が増えているからだけでなく、世界の中産階級の規模が拡大し、プロテイン類を購入できる人々が増えているためだ。この拡大する需要を満たしていくには、農業、収穫、輸送、流通のすべてを見直す必要がある。

Review Essay
富める者はますます豊かに
―― アメリカにおける政治・経済の忌まわしい現実

2011年3月号

ロバート・C・リーバーマン コロンビア大学教授

富裕層の一部に驚くほど富が集中しているのは、市場経済とグローバル化の結果であるとこれまで考えられてきた。だが、実際には、格差の拡大には政治が大きな役割を果たしている。富裕層を優遇する政策だけでなく、アメリカの多元主義的政治システムにおいて、資金力にものをいわせる保守派が大きな影響力と権限をもつようになり、中産階級の利益代弁機能を抑え込んでしまっている。この流れの起源は、意外にも、アメリカのリベラリズムがピークを迎えた時期とされる1960年代にある。この時期に、自分たちの社会的影響力が地に落ちたことを痛感した企業エリートたちは、保守の立場からイデオロギー、政治、組織の領域でカウンターレボリューションを進めていった。・・・

中東では多くの若者たちが、教育を受けたにもかかわらず、まともな職に就けずにおり、現状に大きな不満を抱いている。これが今起きていることの根底にある問題だ。だが、人口構成に占める若者の人口が突出して多い「ユースバルジ」が問題をさらに深刻にしている。歴史的にも、青年人口が突出して多い国では社会的混乱が頻発することが多い。混乱は平和的なものにも破壊的なものにもなる。チュニジアやエジプトでの抗議行動が概して平和的なものだったのは幸運だった。両国の場合、欧米が民主化への移行を支援すれば、ユースバルジを社会の責任あるメンバーとして取り込み、長期的には非常に建設的な未来展望が開けてくるかもしれない。だが、政治体制が非常に脆く、社会が分裂している国では、ユースバルジが社会紛争を長期化させ、国を破綻国家へと向かわせるリスクもある。実際、イエメンはそうなるリスクがあるし、パレスチナもそのリスクを抱えている。

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