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に関する論文

いかに先進国は知識労働者を移民として魅了できるか
―― ドイツのジレンマ

2011年4月号

タマール・ジャコビー イミグレーションワークスUSA代表

19世紀に大国が領土と天然資源をめぐって競い合ったように、現代の大国はブレインパワー、つまり国際経済のエンジンとなる科学者や技術者、起業家、有能な経営者を求めて競い合っている。先進国は高度な知識とスキルを持つ外国の人材を必要としているが、各国の市民は外国人が持ち込む異質な文化を受け止められるかどうかを確信できずにいる。ドイツは、今後先鋭化してくる労働力不足問題を認識していながらも、変化を受け入れる準備ができていない。移民の社会的同化を促進する制度もうまく整備されているとはいえない。それでも、ドイツが他の国々よりも早く問題に気づいて対策を検討していることは事実だし、この点を、外国の有能な人材も考慮することになるだろう。

中国の対外強硬路線の国内的起源
―― 高揚する自意識とナショナリズム

2011年4月号

トーマス・クリステンセン
プリンストン大学教授

民衆レベルでの大国意識が定着し、ナショナリズムが高まる一方で、国内の不安定化が予想される。このため、中国政府は世論動向に非常に神経質になっている。民衆の声を北京のエリートたちが無視できた時代はすでに終わっている。政府は、長期的な政府の正統性と社会的安定をいかに維持していくかをもっとも気に懸けており、党指導層は、ナショナリスト的立場からの政府批判をもっとも警戒している。しかも、軍、国有エネルギー企業、主要輸出企業、地方の党エリートなど、国際社会との協調路線をとれば、自分たちの利益が損なわれる集団が中国の外交政策への影響力を持ち始めている。これが、中国がソフト路線から強硬な対外路線へと舵を切った大きな理由だ。中国での権力継承が完了する2012年までは、中国国内における政治、心理要因ゆえに、中国の対外路線をめぐって状況を楽観できる状態にはない。

9カ月後、日本経済は復活する
―― 再建コストで債券市場がパニックに陥ることはない

2011年4月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会地勢経済学センター所長

日本政府は復興・再建コストを負担しなければならず、これが、すでに先進国のなかでは最大の対GDP比債務を抱える日本経済に重くのしかかると懸念する専門家もいる。だが、冷静に考えるべきだ。復興・再建にどのくらいのコストがかかるだろうか。ざっくりとしたところで言えば、1000億ドル程度だろう。・・・たしかに、1000億ドルと言えば、かなりの金額だが、ほぼ10兆ドル規模の日本の債務総額からみれば、たいした数字ではない。債務総額が1%増えるだけだ。・・・・金融市場に流動性を提供する必要があるし、必要以上の円高には対抗策をとるべきだ。被災地域の再建のために、財政赤字をさらに大きくすることを躊躇すべきではない。いまは、慎重で保守的な路線ではなく、大胆な対策をとるべきタイミングだ。私は、日本政府は間違いなく大胆な措置をとると信じている。

第3の石油ショックか
―― 中東の政治的混乱と原油価格高騰

2011年4月号

エドワード・モース 元国務副次官補(国際エネルギー担当)

「石油の呪縛」として知られる社会・政治構造が引き起こす産油国の絶望的な経済・社会的な停滞が、現在中東各地で起きている政治的混乱の背景にある。人々は、高い失業率、極端な所得格差、(食糧価格など)高い生活コスト、そして老人支配政治と泥棒政治などに対して怒りを表明している。つまり、産油国が「石油の呪縛」を断ち切るために、経済を多角化していかない限り、政治的争乱の原因である社会不満は解消しない。さらに、産油国国内における石油の消費も増大している。その結果、中東石油に依存する消費国は厄介な先行き見込みに直面している。現在の政治的混乱による供給の乱れだけでなく、産油国の国内消費の増大による供給の乱れを織り込まざるを得なくなっている。2011年は1971年同様に、石油をめぐる地政学の分水嶺の年になるかもしれない。

1930年代の悪夢が再現されるのか
―― 高まる保護主義の脅威

2011年4月号

リアクァト・アハメッド ピューリッツァー賞受賞作家

1930年代の教訓からみて、失業率が高止まりし、通貨供給、為替、財政政策上の選択肢が失敗するか、選択肢にならない場合、国は貿易障壁を作り出す可能性が非常に高い。・・・しかも、20世紀の初頭同様に、いまや世界はグローバル経済のリーダーシップをめぐる大きな移行期にある。アメリカのパワーは大きく弱体化し、ワシントンには、もはや単独でグローバル経済のリーダーシップを担う力はない。一方で、中国がリーダーシップを果たすとも考えにくい。輸出ばかりを重視する重商主義的な貿易アプローチをとっている限り、北京が困難な状況にある諸国からの輸出を受け入れる開放的市場の役目を果たすことはないだろう。G20もまとまりを欠いている。1930年代と現在の類似性が表面化しつつある。経済は回復しているが、失業率が高止まりし、多くの製造部門は過剰生産能力を抱え込み、通貨問題をめぐる緊張が高まりつつある。1930年代のような深刻で大規模な経済停滞に陥るリスクを回避できたと言うのに、現在の指導者が、1930年代の近隣窮乏化政策を今に繰り返すとすれば、悲劇としか言いようがない。

大戦略を模索する中国

2011年4月号

王緝思 北京大学国際関係学院院長

中国の指導者たちの歴史認識の特徴は、外国の脅威によって国内の争乱が作り出されること、より具体的には、内なる脅威と外からの脅威が一体化するのを常に警戒している点にある。この点での際だったケースが、1989年の天安門事件という内的混乱の余波が残るなか、欧米諸国が中国に対する制裁措置を発動したことだった。その後、10年にわたって中国が強硬な対外路線をとったのは、内なる脅威と外からの脅威が一体化するのを恐れたからだった。だが、中国の優先課題はあくまで国内にある。北京は今後も、経済・社会領域での発展と開発に努め、外交政策もこの枠組み内でとらえていくだろう。「国際的な課題に対応していくプロセスにおいて国内改革を犠牲にしてはならない」と肝に銘じているからだ。中国がより大きな国際的責任を引き受けるように期待されているのは当然だが、国際コミュニティは、中国の願い、不安、国内の要望を満たして近代化を試みていくことの難しさに配慮し、中国が自らを支えるのを助ける責任がある。

The Clash of Ideas
ポスト・ワシントンコンセンサス
―― 危機後の展開

2011年4月号

ナンシー・バードサール グローバル開発センター会長
フランシス・フクヤマ スタンフォード大学国際研究センターシニアフェロー

2008―2009年の金融危機の結末とは、「うまく規制されていない国内市場と資本の自由化という組み合わせは、壊滅的な事態を招き入れる」という東アジア諸国が10年前に学んだ教訓を、ついにアメリカ人とイギリス人も学んだということにほかならない。危機によって、アメリカ流資本主義への信用が完全に失墜したとは言えない。だが、少なくとも支配的なモデルではなくなりつつある。「その他の台頭」と呼ばれる現象は、経済、政治領域における新興国のパワー拡大を意味するだけではない。思想とモデルをめぐるグローバルな競争にも、その影響が出ている。欧米世界、特にアメリカは、もはや社会政策上の革新的な思想をめぐる唯一の拠点とはみなされてはいない。アメリカ、ヨーロッパ、日本は今後も豊かな経済的資源とアイディアの集積地であり続けるだろうが、すでに新興市場国もこの領域でのライバルとして台頭してきており、今後その存在感をますます高めていくことになるだろう。

災害と政治

2011年4月号

アラステイアー・スミス ニューヨーク大学教授
アレジャンドロ・クイロズ・フローレス ニューヨーク大学政治学助教授

40年前、マグニチュード7・9の地震によってペルーでは6万6000人が犠牲になった。2001年にペルーはさらに大きな地震に見舞われたが、このときの犠牲者は150人未満だった。最初の地震の震源地の人口密度が2度目に地震が起きたときのそれの半分程度だったのは事実だが、それだけでは、これほど大きな犠牲者の違いを説明できない。・・・大きく違っていたのは政治の質だ。2001年のペルーは民主国家だったが、1970年当時は、そうではなかった。・・・民主国家の政治指導者が権力を維持していくには、市民の大多数の信任を得なければならない。そのためには、建築基準を徹底し、官僚制度を有能な行政官に指揮させることで、天災の被害から市民を守らなければならない。政府がこの点での備えを怠り、多くの人が犠牲になれば、政治家は職を失う。

 2011年3月に東日本を巨大地震とツナミが襲った後、福島第一原子力発電所で事故が起き、再び原子炉の安全性に対する懸念が世界的に高まりつつある。スリーマイルやチェルノブイリでの原発事故以降、原子力産業はこの数十年にわたって衰退してきたが、ここにきて流れは大きく変わり、世界各地で原子炉の建設が進められている。だが、原子力発電の可能性に世界が注目するなかで起きた今回の事故によって、今後、原子力発電計画は厳格な再検証の対象とされていくだろう。問題は原発事故のリスクだけではない。建設コストが非常に高い上に、原子力の技術者の数も不足している。核廃棄物、そして核拡散リスクの問題もある。二酸化炭素を排出せずに電力生産ができるというプラスの側面と、これらのリスクをどう比較考量するか。2011年3月の「憂慮する科学者連盟(UCS)」の報告によれば、2010年だけでも、原発施設スタッフの訓練不足、間違った管理態勢、問題のある設計、そして問題を徹底的に調べる姿勢が欠けていたために、アメリカ国内で原発施設事故を引き起こしかねない14の「ニアミス」が起きている。

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