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に関する論文

CFR Meeting
サウジはアラブの春とイラン問題をどうとらえているか

2012年3月号

グレゴリー・ゴース/ バーモント大学教授

国内の反体制派がイデオロギー、宗派、民族などの社会集団の垣根を越えて、体制を倒すという目的にむけて連帯を組織できたかどうか。これが、アラブの春によって中東で体制が倒された国とそうでない国を分けた重要なポイントだ。サウジはどの集団をどの皇太子が担当するかを決めることで、ビジネスコミュニティ、部族社会その他とのネットワークを巧みに築き、これらの集団を政治的に去勢してきた。これが、サウジが嵐を乗り切れた理由だろう。一方、中東での宗派対立が高まれば、アルカイダのような、スンニ派の過激勢力が勢いづくだけで、サウジのためにもならない。だが、すでに宗派対立の構図で中東政治が動きだし、アラブ対ペルシャの対立図式が描かれつつある。イランが明確に核兵器の開発に乗り出すのなら、サウジも核を獲得すべきだという立場がすでにリヤドでは主流になっている。・・・

石油も石炭も原子力も必要としない世界
―― 超素材と「インテグレーティブ・デザイン」の力

2012年3月号

アモリー・B・ロビンス ロッキーマウンテン研究所議長

2050年までには、石油も石炭も原子力も必要とせず、天然ガスの消費量も現在の3分の2程度で済む時代が実現する。・・・自動車、建物、そして電力生産の効率をいかに高めていくかがこの変化の鍵を握る。このエネルギーシフトに必要なテクノロジーはすでに存在する。第1に自動車を、炭素繊維を用いたボディに、そのエンジンを電気稼動型に切り替え、カーシェアリング、ライドシェアリングなど車をもっと生産的に利用するようにする。第2に、ビルや工場の設計と素材を変えるだけで、エネルギーの使用効率を現在よりも数倍高めることができる。第3に、電力供給システムをより多様で分散した再生可能エネルギーを中心としたものへと近代化していけば、電力供給をよりクリーンかつ安全で信頼できるものにできる。この概念は現実離れしているように思えるかもしれない。だが、困難な問題に対処するには、(既成概念を捨てて)境界を広げて問題をとらえ直す必要がある。つまり、エネルギー消費の多い交通・運輸、ビル、産業、電力生産部門を、個別にとらえるのではなく、一つとみなすのだ。・・・

「アラブの春」とその後

2012年3月号

フォアド・アジャミー
スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェロー

表面的な安定の下に垣間見えるアラブ世界の政治的現実は悲惨で不毛だった。忌まわしい支配者、ふさぎ込んだ大衆、そして、いかなる正統性もない秩序に対する不満から身を投げ打つテロリストたち。そこに同意という言葉は存在せず、支配者と支配される側をつなぐ唯一の感情は疑いと恐れだった。だが、モハメド・ブアジジが、その死をもって、新しい仲間を団結させた。中東のあらゆる地域で非常に多くの若者が彼の叫びに心を打たれ、行動を起こした。だが、ローマの歴史家タキトゥスは、「悪い皇帝を倒した後の最善の日は、彼を倒したその日だった」と書き残している。たしかにアラブ世界の第三の政治的覚醒は歴史的な流れをもっている。だが、そこには、危険も約束も潜んでいる。自由を手にできる可能性もあるが、監獄に舞い戻る可能性もある。

アジアにおけるアメリカと中国
―― 相互イメージと米中関係の未来

2012年3月号

ヘンリー・キッシンジャー キッシンジャーアソシエーツ会長

中国のアジアでの覇権確立に対するアメリカの懸念、そして、包囲網を築かれてしまうのではないかという中国の警戒感をともに緩和させることはできるだろうか。必要なのは冷静な相互理解だ。中国がその周辺地域において大きな影響力をもつようになるのは避けられないが、その影響力の限界は中国がどのような地域政策をとるかで左右される。アジア諸国はアメリカが地域的な役割を果たすことを望んでいるが、それは(中国に対する)均衡を保つためであり、十字軍としての役割や中国との対決は望んでいないことも理解しなければならない。強固な中国が経済、文化、政治、軍事領域で大きな影響力をもつのは、北京にとっては、世界秩序に対する不自然な挑戦ではなく、正常への復帰なのだ。むしろアメリカは、現状の問題を想像上の敵のせいにしてはならない。米中はともに相手の行動を、国際関係における日常として受け入れるだけの懐の深さをもつ必要がある。

CFR Interview
シリア内戦はもう避けられない
――シリアの混迷とアラブ諸国の思惑

2012年3月号

アンドリュー・タブラー 近東政策ワシントン研究所次世代フェロー

地域諸国が(宗派その他の思惑から)それぞれシリアの国内勢力に関与し、現地で代理戦争が展開されかねない事態へと陥りつつある。いまや事態はこの方向へと急速に向かいつつある。シリア社会は分裂している。自由シリア軍を中心に反政府運動が拡大する一方で、政権が倒れた後に何が起きるかわからないために、一部には、現状に不満を感じつつも、少なくとも表向きはアサド政権の立場を支持する人々もいる。そして(スンニ派)アラブ諸国は、民衆を殺害する手法をアサド政権が際限なく続け、流血の事態を積み重ねていることに対する怒りだけでなく、イランを中核とするシーア派三日月地帯、イラン枢軸を切り崩すには、(アラウィ派ながらも、イランとの緊密な同盟関係にある)アサド政権を倒すのが最善であると判断し、シリアの政権が倒れることを願っている。

歴史の未来
―― 中間層を支える思想・イデオロギーの構築を

2012年2月号

フランシス・フクヤマ
スタンフォード大学シニアフェロー

社会格差の増大に象徴される現在の厄介な経済、社会トレンズが今後も続くようであれば、現代のリベラルな民主社会の安定も、リベラルな民主主義の優位も損なわれていく。マルキストが共産主義ユートピアを実現できなかったのは、成熟した資本主義社会が、労働者階級ではなく、中産階級を作り出したからだ。しかし、技術的進化とグローバル化が中産階級の基盤をさらに蝕み、先進国社会の中産階級の規模が少数派を下回るレベルへと小さくなっていけば、民主主義の未来はどうなるだろうか。問題は、社会民主主義モデルがすでに破綻しているにも関わらず、左派が新たな思想を打ち出せずにいることだ。先進国社会が高齢化しているために、富を再分配するための福祉国家モデルはもはや財政的に維持できない。古い社会主義がいまも健在であるかのように状況を誤認して、資本主義批判をしても進化は期待できない。問われているのは、資本主義の形態であり、社会が変化に適応していくのを政府がどの程度助けるかという点にある。

人民元の国際化路線を検証する
――中国のドル・ジレンマと経済モデル改革論争

2012年2月号

セバスチャン・マラビー
外交問題評議会地政経済学センター所長
オリン・ウェシングトン
元米財務省国際関係担当次官補

中国は人民元の国際化路線を促進しているが、人民元がドルに取って代わるには程遠い状態にある。経済規模やその他の指標で中国はアメリカに近づいているが、中国が金融覇権を握るとは現段階では考えにくい。むしろ注目すべきは、人民元の国際化路線が、中国の経済モデル変革の水面下に潜む深刻な内部抗争を映し出していることだ。改革派は、過剰な輸出依存は危険であり、中国は国内消費を増大させることで経済成長のバランスをとる必要があると考え、保守派は頑迷に現状維持を主張してきた。だが、金融危機によって中国の脆弱性が浮き彫りにされた結果、「ドルの罠」論への対策として人民元の国際化が公的目標に据えられている。こうして中国政府は現実には両立し得ない道を歩んでいる。輸出を促進しながらドル建て外貨準備を減らし、預金者の犠牲のもとに低金利融資を特定の企業に提供しながら、国内消費を増大させることを目指している。矛盾する路線は中国をどこへ導くのか。

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