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に関する論文

銀行に規律を与えるには
――LIBORスキャンダルの三つの問題

2012年9月号

ジョナサン・メイシー
エール大学法学部教授
(会社法、企業財務、証券取引法専攻)

日米欧の政府は、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の金利操作疑惑をめぐって大手銀行16行を調査している。一部の大手銀行は金利の不正操作を行うことで、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、デリバティブ、住宅ローンなどの金融商品の実勢価値を故意に歪め、不当な利益を得たと考えられている。今回のLIBORスキャンダルは三つの問題が重なり合っている。第1は、銀行がLIBORレートを故意に低く報告したこと。第2は、運用利益を水増しするためにLIBORを不正操作したこと。そして第3は、住宅ローンの変動金利を決める際に、米国債のほうが指標基準として望ましく、また採用にあたって何も障害がなかったにもかかわらず、LIBORを採用したことだ。さらにひどいことに、一部の銀行は自行の取引ポートフォリオで不当に利益を得るため、あるいは、損失を隠蔽するためにLIBORを不正操作したようだ。だが変動金利の根幹を成す原理は「借り入れコストの決定を市場の判断に委ねること」だ。銀行が市場の信頼を回復するにはLIBORを金利指標として使用するのをやめ、米国債金利など、市場の実勢レートを金利指標として採用するべきだろう。

CFRアップデート
東アジア安全保障の進化を阻む日韓の歴史問題
―― 竹島訪問前、韓国で何が起きていたか

2012年9月号

ラルフ・A・コッサ
CSIS・パシフィックフォーラム会長

日韓関係の緊張と言っても、それが、関係の本質を脅かすことのないたんなる政治ショーにすぎないこともある。だが、最近の展開は違う。韓国政府は6月29日に、世論、野党勢力、メディアの反対に屈し、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の調印を先送りし、さらに、物品役務相互提供協定(ACSA)の締結の検討も棚上げすると表明した(その後も、韓国大統領が竹島を訪問し、日韓関係は紛糾している)。結局、(北朝鮮の脅威を含む)「安全保障課題を共有する(日韓という)二つの民主国家の関係強化に向けた前向きで現実主義的な試み」が、またしても「政治と歴史の複雑な遺産の犠牲にされてしまった」。・・・過去を克服するために、日本と韓国は切実に(未来志向で現実主義的な)政治家のリーダーシップを必要としている。ワシントンも日韓の歴史問題を解決するか、少なくとも非政治化できるような「日韓がともに受け入れられるような宣言」をまとめる公正な仲介者の役目を引き受けるべきだろう。

CFR Interview
リビアとエジプトにみる革命後の社会暴力
――反米主義の台頭か

2012年9月号 

ロバート・ダニン 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

アメリカの在外公館襲撃事件に対するリビア政府とエジプト政府の事件への対応の違いに注目すべきだ。リビアの米領事館がロケット弾で攻撃され、大使を含むアメリカ人4人が犠牲になった。リビア政府は直ちに攻撃が起きたことを謝罪し、犠牲者がでたことへの悼みを共有しているとワシントンに伝え、犯人に対する怒りを表明した。対照的に、エジプト政府は、襲撃事件には触れずに、イスラム世界を侮辱したフィルムについてアメリカに謝罪を求め、金曜には全国レベルのデモを計画している。アメリカで制作されたフィルムが批判されても仕方のない内容だとしても、エジプト政府は率先して反米デモを呼びかける立場にはない。・・・国の定義の一つは、武力を独占していることだが、リビアを含めて、中東諸国の多くではそうではないことが事件の背景にある。シリアにしても、アサドが姿を消しても、非常に厄介な事態が待ち受けている。イラク、レバノン、パレスチナ、イエメンにも同じことが言える。紛争後の社会における武器の氾濫が作り出す問題が中東を覆い尽くしつつある。

CFR Update
なぜ日中ハッカー戦争は起きていないのか
――領有権対立とサイバー戦争

2012年9月号

アダム・シーガル 米外交問題評議会中国担当シニア・フェロー

中国とフィリピン、ベトナムの領有権をめぐる対立は、相手国のウェブサイトの改ざんなどのハッカー戦争へとエスカレートしていった。これを前提にすれば、尖閣問題をめぐって、日本との対立で中国のハッカーたちがより激しい攻撃をしてくると考えてもおかしくはなかったが、これまでのところ、大がかりな攻撃は起きていない。なぜだろうか。おそらく、二つの理由が考えられる。・・・

プーチン主義というシステム
―― ロシア社会の変化にプーチンは適応できるか

2012年9月号

ジョシュア・ヨッファ エコノミスト誌モスクワ特派員

現在のロシア市民には一連の自由が与えられている。イケアで安い家具を買ったり、外国で休暇を過ごしたりと、いまやロシア市民はヨーロッパ中間層と生活の特質の多くを共有している。野心と才能のある者にとっては、モスクワはキャリアを築く大きな舞台だ。政治に関わらないかぎり、ありとあらゆる場所で選択肢が用意されている。この仕組みゆえに、プーチンのロシアには国を否定する者がいなかった。不満があるならいつでもロシアを離れることができた。プーチン主義は、ソビエト時代の硬直した管理システムよりもずっと狡猾で現代的なのだ。だがプーチン体制は共産主義とは違って、一貫した世界観を示しているわけではなく、安定と権力を維持するためにつくられている。逆に言えば、現状に不満を持つ新しい政治家や政治運動は、「根深いイデオロギーの壁を乗り越える」必要がない。これが、今後プーチン体制を脅かす最大の問題を作り出すことになるだろう。

南シナ海対立の新構図と紛争の危機
――中国の影響力拡大とASEANの内部対立

2012年9月号

ジョシュア・クランジック
米外交問題評議会東南アジア担当フェロー

南シナ海の島嶼群の領有権を主張する中国と東南アジア諸国は、誰も住んでいない岩の塊を新しい州や県あるいは市として自国の法管轄に組み入れ始めている。すでに中国は、西沙諸島や南沙諸島を含む海域を三沙市として行政管轄に組み入れ、行政を担当する役人まで任命している。その後中国は、実効支配の確立を意識してか、海域の石油と天然ガス資源に対する主権を主張するようになり、自分たちの意思をアピールするために「漁船」を係争海域へと送り込むようになった。・・・ 7月のASEAN外相会議の決裂以降、現実に南シナ海で紛争が起こりかねない状況にある。専門家は、中国が公的に新しい領土とした三沙市をめぐって今後、どのような動きをみせるかに注目している。・・・一方、ASEAN加盟国の一部が中国に急接近しつつあるために、フィリピン、ベトナム、ブルネイは、カンボジア、ラオス、そしてタイまでもが中国に取り込まれてしまうのではないかと懸念している。・・・

韓国市民の多くは、(竹島訪問という)李明博大統領の行動に大きな意義を見出したかもしれない。だが、彼が国家安全保障問題や世界における韓国の役割というアジェンダをめぐってこれまでスケールの大きな発言と行動をみせてきただけに、今回の行動には大きな違和感を覚えざるを得ない。竹島を訪問し、日本は歴史問題を含めて大国にふさわしい行動を取るべきだと示唆する発言をしたことで、李明博は韓国の地域的、グローバルな利益を犠牲にして、竹島という特定の限られた問題に不当なまでに大きな政治資源を注ぎ込んでしまった。しかも日韓両国の国益が収斂しつつあるタイミングで、トレンドにそぐわない国際環境を作りだしてしまった。李大統領の竹島訪問で(悪しき)先例が作られてしまったとはいえ、韓国の次期大統領が大きなビジョンを示してくれることを期待したい。そうすれば、日本の指導者も大所高所からの判断ができるようになる。

金融ビジネスに規律を与えるには
―― 問題は金融が経済を支配していることだ

2012年9月号

ジリアン・テット
フィナンシャル・タイムズ紙アメリカ編集長

政府は金融エリートを押さえつけて金融を支配すべきなのか、それとも、単純にダイナミックな社会を実現するために必要なコストとして所得格差と不安定な金融を受け入れるべきなのか。いずれにしても、金融システムを混乱させることなく金融機関を破綻させられる程度にその規模を小さくする必要がある。そうしない限り、適切な市場を実現することはできない。政治指導者たちは、強力なバンカーと銀行グループが自分たちの目的のためにシステムを支配するのを許さないための制度や規制の構築に知恵を絞るべきだ。もちろん、このような改革がバンカーたちの反対にあうのは避けられない。透明性が高く競争的な金融システムはおそらく現在よりも金融機関にとって利益の小さいシステムになるからだ。しかし金融が安定しているほうがより公平な社会になる。そうなるのが、バンカーと非バンカーの双方にとっても望ましいはずだ。

シリア内戦と近隣諸国の立場
――バッシャール後のシリアは国の統合を維持できるか

2012年08月

マイケル・ヤング デイリースター紙 論説ページエディター

アサド体制の命運はすでに尽きている。いまや最大の疑問は、今後、どのような政府がシリアに登場するかだ。ポスト・アサドのシリアが統合を維持できなければ、イランが介入してくるのは避けられない。一方、イランとは違って、トルコもイラクも、シリアが解体していけば、自国社会、特にシリアとの国境を接する地域に大きな余波がおよぶことになると懸念している。トルコはアラウィ派の国家内国家が出現することを嫌がっている。イラクがもっとも警戒しているのは、シリアがイラク政府を攻撃するスンニ派過激勢力の拠点と化してしまうことだ。そして、イスラエルはシリアが保有する化学兵器のこと、特に、化学兵器をヒズボラが手に入れることを警戒している。・・・シリアのダイナミクスを規定しているのは、シリア人、トルコ、サウジ、カタール、そしておらくはイラクだ。アメリカの役割は周辺的なものでしかないし、ヨーロッパはアメリカの前に出て影響力を行使するつもりはない。

北朝鮮、中国、イランに対する毅然たる対応を
―― キューバミサイル危機の教訓

2012年8月号

グレアム・アリソン
ハーバード大学ケネディスクール教授

ケネディは、ソビエトがキューバに核ミサイルを配備しているという事実を前に、「長期的な戦争のリスクを低下させるには、短期的に戦争リスクを高める必要がある」と考えた。キューバ危機の教訓の一つは、戦争、そして核戦争のリスクでさえも引き受ける覚悟がなければ、巧妙な敵に対立局面において何度も裏をかかれてしまうということだ。イラン、中国、北朝鮮と相手が誰であれ、その一線を越えれば戦争も辞さないという「レッドライン」を設定しているのなら、その事実を敵対勢力に認識させ、実際に行動する決意をみせるべきだ。そうしない限り、警告は相手にされなくなる。

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