1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

に関する論文

韓国の新ミサイル指針
―― 北朝鮮の反発と地域的波紋

2012年10月

スコット・スナイダー
米外交問題評議会朝鮮半島担当シニア・フェロー

射程800キロで弾頭重量500キロの弾道ミサイルを韓国が配備することへの米韓合意が10月に成立した。北朝鮮国防委員会は予想通り、強い反発を示し、北朝鮮のミサイルは「朝鮮半島の米軍基地だけでなく、日本、グアム、米本土の米軍基地を攻撃する能力ももっている」と示唆した。現実からみれば、これは口先だけのブラフだが、この展開を前に平壌が新たに衛星打ち上げを試みる危険はある。今回の合意によって、米韓同盟関係はさらに進化し、韓国が自国の安全保障の管理についてより大きな責任を引き受ける純然たるアメリカの軍事パートナーへと進化したのは間違いない。問題は、韓国の弾道ミサイルの射程が拡大されることで、地域的な軍拡レースが起きる危険があること、そして、韓国が長距離ミサイル能力を開発すれば、加盟国に300キロ以上の射程をもつミサイル開発と輸出の自粛を求めるミサイル技術管理レジーム(MTCR)が潜在的に揺るがされる危険が出てくることだ。

資源開発技術の進化とアジアの海洋資源争奪戦

2012年10月号

マイケル・クレア ハンプシャー・カレッジ教授

中国の政治・経済的影響力の拡大を憂慮する日本人にとって、尖閣諸島をめぐる中国との対立は国の将来を左右する重要な試金石だし、同様に、竹島(韓国名・独島)の主権を主張する韓国政府の立場は、日本の朝鮮半島支配に対する愛国主義的な反発として国内で評価されている。だが、領土ナショナリズムよりも、東アジアの海域に膨大な石油と天然ガス資源が存在すると考えられていることが一連の問題の中枢にある。深海でも稼働できる掘削技術が開発されたこともあって、各国は海洋資源への自分たちの権利をこれまで以上に強く主張するようになった。事実、中国が強硬路線を取り始めたのは、中国海洋石油総公司(CNOOC)が深海資源掘削装置を手に入れた時期と一致している。今後、北京とハノイ、マニラ、ソウル、東京の関係が改善していくと考える理由はほとんどない。自国の近くの海洋に存在する安価なエネルギー資源を手に入れたいという願望はますます高まり、アジア経済がさらに成長していくにつれて、各国のナショナリスティックな衝動はますます大きくなっていく。

CFR Interview
出口のないシリア紛争
――何がバッシャール・アサドを変えたのか

2012年10月号 

デビッド・W・レッシュ トリニティ大学教授(中東史)

政府側にも反政府勢力側にも相手に屈服する意図はなく、双方とも長期戦を覚悟している。加えて、ともに相手に致命的な打撃を与える力を持っていない。このために、シリア紛争は明確に定義できる戦線の存在しない内戦と化している。・・・しかも、反政府勢力が一枚岩でないために、政府が掌握していない地域が軍閥に支配されたり、特定勢力の拠点にされたりしていく危険もある。外部勢力の介入によってこの均衡が崩れない限り、この状況が変化することは当面あり得ないし、現状では外部勢力の介入があるとは想定できない。・・・介入しても、より大きなダメージと混乱、そして不安定化がもたらされるだけだろう。最終的には不可能になるかもしれないが、レバノン、イラクその他へと紛争が飛び火しないように、あるいは、イスラエルやトルコは引きずり込まれないように、誰もがシリア紛争を国境内に封じ込めようと試みている。

海のならず者と国連海洋法条約
――アジアの海を混乱させる中国と米上院

2012年10月号

トマス・ライト
ブルッキングス研究所フェロー

海の憲法とも呼ばれる「国連海洋法条約」は、すでに太平洋におけるアメリカのパワーを左右する重要なバロメーターになっている。だが、米上院の主権至上主義者が条約への批准を拒んでいるために、アメリカは中国の台頭に揺れるアジアが切実に必要としている多国間構造をうまく構築できずにいる。条約に参加できずにいるために、中国が脅かしている「ルールを基盤とするアジア秩序」をアメリカが維持・擁護し、強化していく能力が脅かされている。「国連海洋法の批准に反対する」という米上院議員の宣言を聞いて、北京がほくそ笑んだのは間違いなく、アジアにおけるアメリカの同盟国と戦略的パートナーは、ワシントンが地域的なリーダーシップを果たしていく能力をもっているかどうか、ますます疑心暗鬼に陥っているはずだ。アジアでのパワーバランスが大きな変化に直面している以上、これ以上アメリカが主権にこだわり続けるのは、戦略的な大失策になる。このやり方は、アメリカ主導の国際秩序を終わらせたいと考えている国を大胆にするだけだ。

統合の危機とヨーロッパの衰退

2012年10月号

ティモシー・ガートン・アッシュ
オックスフォード大学歴史学教授

戦後のドイツにとって、ヨーロッパ諸国の信頼を取り戻すことが、ドイツ統一という長期的目的を実現する唯一の道筋だった。財政同盟という支えを持たない通貨同盟が構造的な問題と崩壊の火種をはらんでいることを理解した上で、西ドイツはドイツ統一のためにあえてユーロを受け入れた。そしていまやヨーロッパはユーロ危機に覆い尽くされ、漂流している。かつてこの大陸を統合へと向かわせた戦争の記憶もソビエトの脅威も希薄化するか、消失している。瓦礫のなかから統合を目指し繁栄を手にした戦後世代とは違って、現代の若者たちは繁栄から失業へ、希望から恐れへと、まったく逆の変化を経験している。統合の維持に向けた新しい源流、エリートと市民たちを統合の維持へと駆り立てる新たな流れが生じない限り、ヨーロッパは、かつての神聖ローマ帝国同様に、ゆっくりとその効率と価値を失い、衰退していくことになるだろう。

米国債の最大の引き受け手でもある中国とアメリカの複雑な政治・経済関係を、バラク・オバマもミット・ロムニーも11月の大統領選挙の大きな争点の一つに据えている。米中関係はグローバル・インバランスに象徴される米中関係の不均衡に加えて、中国による為替操作、不公正な貿易慣行によって、いまやアメリカ国内では感情的な政治問題と化している。一方で、中国が南シナ海や東シナ海の領有権問題をめぐって、攻撃的な外交路線に転じているという問題もある。オバマ政権は、これまで中国の貿易慣行上の問題については、WTO(世界貿易機関)に提訴する路線をとる一方で、中国の台頭に対するバランスを形成しようとアメリカのアジアにおける外交的、軍事的プレゼンスを強化する「アジアシフト」路線をとってきた。だが、ミット・ロムニー候補は、オバマ政権は中国に対して手ぬるすぎたと批判し、とくに人民元の切り上げや貿易問題をめぐってもっと強硬策をとるべきだと主張している。ロムニーは、就任後直ちに、中国の為替操作問題への対策をとると表明し、アジア・太平洋地域でのアメリカの軍事プレゼンスを強化していくと表明している。

日本の電力危機とアジア・スーパーグリッド構想

2012年9月号

田中伸男 日本エネルギー経済研究所 特別顧問

石油が安価で供給が安定し、世界経済の繁栄を支えた時代はすでに終わっており、将来のエネルギー安全保障のためには多様なエネルギーミックスが必要である。石油以外にも、天然ガス、原子力、石炭、再生可能エネルギーで電力を生産できる。特に、天然ガスによる発電はゲームチェンジャーとみなされている。だが、原発が稼働停止に追い込まれている日本にとって、原子力発電所を再稼働できなければ、毎年400-500億ドルの資金を投入して石油や天然ガスを調達しなければならなくなる。これは、日本の経常黒字の半分が石油や天然ガスの輸入によって消し飛ぶことを意味する。事故の教訓を踏まえて安全対策を強化した原子力を日本のエネルギーミックスの一部として当面維持していくことを選択肢から排除すべきではないだろう。一方で、ロシアの天然ガス資源を基盤に、アジア地域の経済成長と安定にとって不可欠なエネルギーアクセスを確保するための多国間協調枠組を形作っていく必要がある。

CFR Update
アメリカは天然ガス輸出を認めるべきか?

2012年9月号

マイケル・レビ 米外交問題評議会エネルギー担当シニア・フェロー

(日本の電力会社は相対的に安いアメリカの天然ガスを輸入しようと試みているが、米企業が天然ガスを含む特定資源を輸出するには、米エネルギー省がそうした資源輸出が「アメリカの国益に合致するかどうか」の判断を先ず示す必要がある)。これをきっかけに、アメリカの天然ガス資源の輸出を認めるべきか、いなかをめぐって論争が起きている。私は数週間前に(ニューヨークタイムズ紙で)天然ガスの輸出を認めることを提言し、その根拠を示した。(中国のレアアース輸出制限に反対しておきながら、自国の資源の輸出制限をするのではつじつまが合わないし、自由貿易協定を結んでいるカナダやメキシコを裏切ることになる。さらに輸出をみとめれば、日本との貿易交渉で日本企業が望む天然ガス輸出を交渉ツールとして用いることもできる)。だが、輸出を禁止し、米国内で天然ガスを消費するべきだと考える人もいる。例えば、T・ブーン・ピケンズは「クリーンで安価で豊かに存在する国内の天然資源を輸出し、汚染度が高く、より高価なOPECの石油を輸入し続けるとすれば、われわれはもっとも愚かな世代として記憶されることになる」と指摘している。・・・

米大統領選挙と外交政策

2012年9月号

ジェームズ・リンゼー 米外交問題評議会研究部長

世論調査の結果をみても、アメリカ市民は経済のこと、雇用のことを気にしている。当然、オバマとロムニーは、外交よりも、経済と雇用についてより多くの発言をしていくことになるだろう。外国での出来事によって、キャンペーンアジェンダが一夜にして変化することもある。イスラエルのイラン攻撃、北朝鮮の韓国に対する攻撃、南シナ海の紛争の何であれ、これらが現実になれば、キャンペーンアジェンダは大きく変化する。

CFR Interview
投資バブルの崩壊で中国経済は長期停滞へ

2012年9月号

パトリック・チョバネック
清華大学経済・マネジメント大学院准教授

この数年来の中国経済の成長は、グローバル経済危機対策として北京が実施した景気刺激策が作り出した投資ブームによって牽引されてきた。当然、これは持続可能な成長ではなかった。今や投資バブルははじけ、不良債権が増大し、中国経済の成長率は、2009年以降、最低のレベルへと抑え込まれている。・・・すでに、中国の地方政府が不動産開発業者を、そして中央政府が国有企業や地方政府をベイルアウトし始めている。・・・中国政府は成長戦略の見直し、つまり、輸出・投資主導型モデルから内需主導型モデルに向けた調整を迫られている。中国経済をリバランスするには、為替政策、金利政策、課税策を見直して、資金が家計(預金者と消費者)へと流れるようにしなければならない。・・・有意義な調整プロセスによって中国経済がよりバランスのとれたものへと進化していけば、中国により多くの輸出をしたい国や企業、中国との貿易バランスを均衡させたい国に大きな恩恵がもたらされる。問題は、この調整が痛みを伴うために、成長戦略の見直しに対する政治的抵抗が避けられないことだ。

Page Top