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に関する論文

サイバー戦争の虚構と現実

2013年1月号

ブランドン・バレリアーノ
グラスゴー大学講師
ライアン・マネス
イリノイ大学PHDキャンディデート

イランのウラン濃縮施設をシャットダウンに追い込んだ「スタックスネット」、テキストやオーディオデータをコピーした上で、ハッキングしたコンピュータ上のすべてのファイルを消し去る「フレーム」。これら洗練されたサイバー兵器の登場で、いずれ、電力供給網、交通システム、金融市場に加えて、政府そのものが脅威にさらされるようになり、今後の国家間関係、外交関係そのものが塗り替えられていくのだろうか。そうなるかどうかは、現状におけるサイバー戦争の抑止と自制のメカニズムが維持されるか、それとも崩れるかに左右される。現状では、いかなる国もまともなサイバーディフェンスを築けておらず、攻撃する側も、もし反撃されたらどうなるかを考えざるを得ず、これが抑止と自制を促している。サイバー戦争が脅威となるのは、それがひどく乱用され、多発するようになった場合、あるいは、サイバー空間の脅威対策に多くの資金がつぎ込まれ、本当の脅威への対応が手薄になった場合だろう。

日本の回転ドア政治を打開するには
――重要なのは経済だ

2013年1月号

ジェラルド・L・カーチス
コロンビア大学教授

欧米にキャッチアップするという目的が達成され、1989-90年にかけて冷戦も終わったために、日本の戦後システムを長く支えてきた支柱は崩壊した。以来、小泉元首相を部分的な例外とすれば、日本の繁栄と安全をいかに維持していくかについて市民を説得できる政治家は登場していない。次から次と政治家が登場して政権を担うが、結局は市民を失望させ、信任を失っている。最大の問題は日本経済が低成長から抜け出せずにいることだ。24時間態勢で紙幣を量産するだけで、経済がどうにかなるものではない。規制緩和、専門職の女性への機会の拡大、移民の受け入れ、社会保障改革、年金改革、税制改革も必要だろう。もっと歳入を増やすと同時に、経済を刺激する方法を見つけなければならない。「どうすれば、失われた20年を経た日本に残されたポテンシャルを開花させ、より迅速に経済を成長に向かわせることができるか。この点について自分たちが何をしているかについて政府が市民を納得させられない限り」、政治プロセスの健全化は望めないだろう。

CFR Update
2013年の世界
― 七つの危機

2012年12月号

ジェームス・リンゼー
米外交問題評議会研究部長

2013年の世界政治を規定する重要な懸案は何か。われわれは、グローバル経済の停滞、アメリカの財政危機、中東での権力抗争、アフガニスタンからの北大西洋条約機構(NATO)軍の撤退、東アジアにおける領有権論争、そしてインターネットの自由をめぐる対立をその主要な懸案として特定した。CFRの予防行動センターは、すでに、2013年における紛争の潜在的帰結をまとめたリポートを公開している。要点を整理すると次のようなものになる。

モルシ・エジプト大統領のムバラク主義
―地域紛争の調停と国内強権体制の強化の関連

2012年12月

ロバート・ダニン
米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

エジプトのモルシ大統領は、ガザ問題をめぐってバラク・オバマと詳細な対応策を電話で協議し、イスラエル・ガザ紛争の停戦に向けて見事に立ち回った。彼は水面下でハマスの指導者に「危機をエスカレートさせて、イスラエル軍の侵攻というリスクを高めるのではなく、紛争を終わらせるために柔軟な路線をとるように」と圧力をかけた。実際、中東の地域問題をめぐるアメリカとエジプトの協調という面でみれば、ワシントンが中東危機の安定化に向けてムバラクに支援を要請した時代と何ら変わらないかにみえる。だが、エジプトが地域問題の解決をめぐってアメリカと協力することの見返りに、エジプトに援助を与え、国内での抑圧にアメリカが目をつぶるというファウスト的な取引はもう止めるべきだ。ガザの調停が終わると、モルシは大統領権限を拡大し、大統領の決定が司法の審査を受けなくてもすむようにする憲法令を発布し、国内で大規模な抗議行動が起きている。これは、革命と真の民主化からの逆行であり、「ムバラクなきムバラク主義」の再来だ。

儒教とアジアの政治
―― 中国が「民主主義」という表現を使う理由

2012年12月号

アンドリュー・ネーサン
コロンビア大学政治学教授

シンガポールのリー・クアンユー上級相(当時)は「個人の権利を重視する欧米型民主主義は、家族主義の東アジア文化にはなじまない」とかつて主張した。これが多くの論争を巻き起こした「アジア的価値の仮説」の源流だ。結局、アジアでは民主主義は機能しないと主張した点で、この仮説は間違っていた。一方で、社会が近代化していくにつれて権威主義体制は崩れていくという(主に欧米の研究者による)主張も間違っていた。権威主義政府は、教育やプロパガンダを通じて「これまでの社会規範で十分に民主的だ」と人々に信じ込ませることができたからだ。だが、教育やプロパガンダだけで権威主義体制を支えていくのはもはや難しくなっている。政治的正統性の危機を回避するには政治腐敗を隠し、経済成長を維持するしか道はなくなっている。今後、経済が失速し、社会保障制度が崩壊してゆけば、権威主義国家の市民たちも、近隣諸国のように自国も民主体制をとるべきだと考えだす可能性が高い。

クルド人の夢と挫折

2012年12月号

ジュースト・ヒルターマン
国際危機グループ(ICG)
中東・北アフリカ研究副部長

第一次世界大戦後にオスマントルコが分割された結果、帝国内では大きな民族グループだったクルド人の居住地域はトルコ、イラン、フランス委任統治領シリア、そしてイラクの四つの国へと分散・分割された。その後も各国のクルド人、特にイラクのクルド人は自分たちの地域の分離独立という夢を追い続けた。2度に及んだ湾岸での戦争の結果、イラクのクルド人はイラク北部に事実上のクルド地域を確保し、自分たちの地域内に存在する石油と天然ガス資源という強いカードを手に入れた。いまや、彼らはイラクとトルコの間で揺れ動いている。だが、クルド人が思い描く独立国家の夢はまたしても先送りを余儀なくされそうだ。現状で可能なのは、バグダッドの息の詰まるような支配から、トルコに対するより従順な依存へと移行することくらいなのかもしれない。

BRICsの黄昏
―― なぜ新興国ブームは終わりつつあるのか

2012年12月号

ルチール・シャルマ
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

これまで「途上国経済は先進国の経済レベルに近づきつつある」と考えられてきた。この現象と概念を支える主要なプレイヤーがBRICsとして知られるブラジル、ロシア、インド、中国という新興国の経済的台頭だった。だが、途上国と先進国の間で広範なコンバージェンスが起きているという認識は幻想にすぎなかった。新興国台頭の予測は、90年代半ば以降の新興国の高い成長率をそのまま将来に直線的に当てはめ、これを、アメリカその他の先進国の低成長予測と対比させることで導き出されていた。いまや新興国の経済ブームは終わり、BRICs経済は迷走している。「その他」は今後も台頭を続けることになるかもしれないが、多くの専門家が予想するよりもゆっくりとした、国毎にばらつきの多い成長になるだろう。

北京の新指導層は社会不満にどう対処するか

2012年12月号

ジェローム・コーエン
ニューヨーク大学法律大学院教授
米外交問題評議会シニアフェロー(非常勤)

権力ポストになじんだ段階で、習近平は中国の法と政治制度の改革を進めていくだろう、と考える人もいる。だが、より可能性が高いのは、高度成長を遂げた途上国が直面する課題にうまく対応できない官僚を目の当たりにして、彼が失望してしまうことだろう。一方、首相になる李克強は非常に政治的な人物で、多くの人は、法律のバックグランドをもつ初めての中国政府高官であるにも関わらず、人権概念を重視していないと考えている。・・・中国が直面している問題は格差だけではない。人々は人権を含むさまざまな社会問題への対応を求めており、これがしばしば暴力的な行動として具体化している。いまや中国社会は揺るがされている。中国の指導層は、当面の措置として抑圧策に依存するかもしれない。逆に、高まる社会的不満のガス抜きを何らかの形で試みるかもしれない。その判断については、台湾民主化のケースが示唆に富む。「もはや抑圧政策に依存するのは不可能だ」と判断した蒋経国(ショウケイコク)は、制度を段階的に開放化へと向かわせるプロセスに着手し、政治参加の幅を拡大した。これが台湾を民主化へと向かわせた。・・・

北朝鮮の衛星打ち上げ
――平壌の権力抗争と危機へのプレリュード

2012年12月

スコット・スナイダー
米外交問題評議会
朝鮮半島担当シニア・フェロー

12月1日、北朝鮮は同月10日から22日の間に衛星打ち上げを計画していると発表した。これは歓迎できないニュースかもしれないが、ある意味では予想通りの行動でもある。失敗したとはいえ、4月12日に衛星打ち上げを試みた北朝鮮を批判する国連議長声明が出されたにも関わらず、平壌はこれを公然と無視し「今後も長距離ロケットの打ち上げ実験を続ける」と表明していたからだ。日本では12月16日に総選挙が予定されているし、韓国では12月19日に大統領選挙が実施される。このタイミングでの北朝鮮による衛星打ち上げ計画は、かなりの政治的衝撃を伴うと考えられる。北東アジアが政治のシーズンのさなかにあるタイミングでの北朝鮮の衛星打ち上げが何を引き起こすかをここで考えてみたい。

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