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に関する論文

海のならず者と国連海洋法条約
――アジアの海を混乱させる中国と米上院

2012年10月号

トマス・ライト
ブルッキングス研究所フェロー

海の憲法とも呼ばれる「国連海洋法条約」は、すでに太平洋におけるアメリカのパワーを左右する重要なバロメーターになっている。だが、米上院の主権至上主義者が条約への批准を拒んでいるために、アメリカは中国の台頭に揺れるアジアが切実に必要としている多国間構造をうまく構築できずにいる。条約に参加できずにいるために、中国が脅かしている「ルールを基盤とするアジア秩序」をアメリカが維持・擁護し、強化していく能力が脅かされている。「国連海洋法の批准に反対する」という米上院議員の宣言を聞いて、北京がほくそ笑んだのは間違いなく、アジアにおけるアメリカの同盟国と戦略的パートナーは、ワシントンが地域的なリーダーシップを果たしていく能力をもっているかどうか、ますます疑心暗鬼に陥っているはずだ。アジアでのパワーバランスが大きな変化に直面している以上、これ以上アメリカが主権にこだわり続けるのは、戦略的な大失策になる。このやり方は、アメリカ主導の国際秩序を終わらせたいと考えている国を大胆にするだけだ。

統合の危機とヨーロッパの衰退

2012年10月号

ティモシー・ガートン・アッシュ
オックスフォード大学歴史学教授

戦後のドイツにとって、ヨーロッパ諸国の信頼を取り戻すことが、ドイツ統一という長期的目的を実現する唯一の道筋だった。財政同盟という支えを持たない通貨同盟が構造的な問題と崩壊の火種をはらんでいることを理解した上で、西ドイツはドイツ統一のためにあえてユーロを受け入れた。そしていまやヨーロッパはユーロ危機に覆い尽くされ、漂流している。かつてこの大陸を統合へと向かわせた戦争の記憶もソビエトの脅威も希薄化するか、消失している。瓦礫のなかから統合を目指し繁栄を手にした戦後世代とは違って、現代の若者たちは繁栄から失業へ、希望から恐れへと、まったく逆の変化を経験している。統合の維持に向けた新しい源流、エリートと市民たちを統合の維持へと駆り立てる新たな流れが生じない限り、ヨーロッパは、かつての神聖ローマ帝国同様に、ゆっくりとその効率と価値を失い、衰退していくことになるだろう。

米国債の最大の引き受け手でもある中国とアメリカの複雑な政治・経済関係を、バラク・オバマもミット・ロムニーも11月の大統領選挙の大きな争点の一つに据えている。米中関係はグローバル・インバランスに象徴される米中関係の不均衡に加えて、中国による為替操作、不公正な貿易慣行によって、いまやアメリカ国内では感情的な政治問題と化している。一方で、中国が南シナ海や東シナ海の領有権問題をめぐって、攻撃的な外交路線に転じているという問題もある。オバマ政権は、これまで中国の貿易慣行上の問題については、WTO(世界貿易機関)に提訴する路線をとる一方で、中国の台頭に対するバランスを形成しようとアメリカのアジアにおける外交的、軍事的プレゼンスを強化する「アジアシフト」路線をとってきた。だが、ミット・ロムニー候補は、オバマ政権は中国に対して手ぬるすぎたと批判し、とくに人民元の切り上げや貿易問題をめぐってもっと強硬策をとるべきだと主張している。ロムニーは、就任後直ちに、中国の為替操作問題への対策をとると表明し、アジア・太平洋地域でのアメリカの軍事プレゼンスを強化していくと表明している。

日本の電力危機とアジア・スーパーグリッド構想

2012年9月号

田中伸男 日本エネルギー経済研究所 特別顧問

石油が安価で供給が安定し、世界経済の繁栄を支えた時代はすでに終わっており、将来のエネルギー安全保障のためには多様なエネルギーミックスが必要である。石油以外にも、天然ガス、原子力、石炭、再生可能エネルギーで電力を生産できる。特に、天然ガスによる発電はゲームチェンジャーとみなされている。だが、原発が稼働停止に追い込まれている日本にとって、原子力発電所を再稼働できなければ、毎年400-500億ドルの資金を投入して石油や天然ガスを調達しなければならなくなる。これは、日本の経常黒字の半分が石油や天然ガスの輸入によって消し飛ぶことを意味する。事故の教訓を踏まえて安全対策を強化した原子力を日本のエネルギーミックスの一部として当面維持していくことを選択肢から排除すべきではないだろう。一方で、ロシアの天然ガス資源を基盤に、アジア地域の経済成長と安定にとって不可欠なエネルギーアクセスを確保するための多国間協調枠組を形作っていく必要がある。

CFR Update
アメリカは天然ガス輸出を認めるべきか?

2012年9月号

マイケル・レビ 米外交問題評議会エネルギー担当シニア・フェロー

(日本の電力会社は相対的に安いアメリカの天然ガスを輸入しようと試みているが、米企業が天然ガスを含む特定資源を輸出するには、米エネルギー省がそうした資源輸出が「アメリカの国益に合致するかどうか」の判断を先ず示す必要がある)。これをきっかけに、アメリカの天然ガス資源の輸出を認めるべきか、いなかをめぐって論争が起きている。私は数週間前に(ニューヨークタイムズ紙で)天然ガスの輸出を認めることを提言し、その根拠を示した。(中国のレアアース輸出制限に反対しておきながら、自国の資源の輸出制限をするのではつじつまが合わないし、自由貿易協定を結んでいるカナダやメキシコを裏切ることになる。さらに輸出をみとめれば、日本との貿易交渉で日本企業が望む天然ガス輸出を交渉ツールとして用いることもできる)。だが、輸出を禁止し、米国内で天然ガスを消費するべきだと考える人もいる。例えば、T・ブーン・ピケンズは「クリーンで安価で豊かに存在する国内の天然資源を輸出し、汚染度が高く、より高価なOPECの石油を輸入し続けるとすれば、われわれはもっとも愚かな世代として記憶されることになる」と指摘している。・・・

米大統領選挙と外交政策

2012年9月号

ジェームズ・リンゼー 米外交問題評議会研究部長

世論調査の結果をみても、アメリカ市民は経済のこと、雇用のことを気にしている。当然、オバマとロムニーは、外交よりも、経済と雇用についてより多くの発言をしていくことになるだろう。外国での出来事によって、キャンペーンアジェンダが一夜にして変化することもある。イスラエルのイラン攻撃、北朝鮮の韓国に対する攻撃、南シナ海の紛争の何であれ、これらが現実になれば、キャンペーンアジェンダは大きく変化する。

CFR Interview
投資バブルの崩壊で中国経済は長期停滞へ

2012年9月号

パトリック・チョバネック
清華大学経済・マネジメント大学院准教授

この数年来の中国経済の成長は、グローバル経済危機対策として北京が実施した景気刺激策が作り出した投資ブームによって牽引されてきた。当然、これは持続可能な成長ではなかった。今や投資バブルははじけ、不良債権が増大し、中国経済の成長率は、2009年以降、最低のレベルへと抑え込まれている。・・・すでに、中国の地方政府が不動産開発業者を、そして中央政府が国有企業や地方政府をベイルアウトし始めている。・・・中国政府は成長戦略の見直し、つまり、輸出・投資主導型モデルから内需主導型モデルに向けた調整を迫られている。中国経済をリバランスするには、為替政策、金利政策、課税策を見直して、資金が家計(預金者と消費者)へと流れるようにしなければならない。・・・有意義な調整プロセスによって中国経済がよりバランスのとれたものへと進化していけば、中国により多くの輸出をしたい国や企業、中国との貿易バランスを均衡させたい国に大きな恩恵がもたらされる。問題は、この調整が痛みを伴うために、成長戦略の見直しに対する政治的抵抗が避けられないことだ。

銀行に規律を与えるには
――LIBORスキャンダルの三つの問題

2012年9月号

ジョナサン・メイシー
エール大学法学部教授
(会社法、企業財務、証券取引法専攻)

日米欧の政府は、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の金利操作疑惑をめぐって大手銀行16行を調査している。一部の大手銀行は金利の不正操作を行うことで、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、デリバティブ、住宅ローンなどの金融商品の実勢価値を故意に歪め、不当な利益を得たと考えられている。今回のLIBORスキャンダルは三つの問題が重なり合っている。第1は、銀行がLIBORレートを故意に低く報告したこと。第2は、運用利益を水増しするためにLIBORを不正操作したこと。そして第3は、住宅ローンの変動金利を決める際に、米国債のほうが指標基準として望ましく、また採用にあたって何も障害がなかったにもかかわらず、LIBORを採用したことだ。さらにひどいことに、一部の銀行は自行の取引ポートフォリオで不当に利益を得るため、あるいは、損失を隠蔽するためにLIBORを不正操作したようだ。だが変動金利の根幹を成す原理は「借り入れコストの決定を市場の判断に委ねること」だ。銀行が市場の信頼を回復するにはLIBORを金利指標として使用するのをやめ、米国債金利など、市場の実勢レートを金利指標として採用するべきだろう。

CFRアップデート
東アジア安全保障の進化を阻む日韓の歴史問題
―― 竹島訪問前、韓国で何が起きていたか

2012年9月号

ラルフ・A・コッサ
CSIS・パシフィックフォーラム会長

日韓関係の緊張と言っても、それが、関係の本質を脅かすことのないたんなる政治ショーにすぎないこともある。だが、最近の展開は違う。韓国政府は6月29日に、世論、野党勢力、メディアの反対に屈し、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の調印を先送りし、さらに、物品役務相互提供協定(ACSA)の締結の検討も棚上げすると表明した(その後も、韓国大統領が竹島を訪問し、日韓関係は紛糾している)。結局、(北朝鮮の脅威を含む)「安全保障課題を共有する(日韓という)二つの民主国家の関係強化に向けた前向きで現実主義的な試み」が、またしても「政治と歴史の複雑な遺産の犠牲にされてしまった」。・・・過去を克服するために、日本と韓国は切実に(未来志向で現実主義的な)政治家のリーダーシップを必要としている。ワシントンも日韓の歴史問題を解決するか、少なくとも非政治化できるような「日韓がともに受け入れられるような宣言」をまとめる公正な仲介者の役目を引き受けるべきだろう。

CFR Interview
リビアとエジプトにみる革命後の社会暴力
――反米主義の台頭か

2012年9月号 

ロバート・ダニン 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

アメリカの在外公館襲撃事件に対するリビア政府とエジプト政府の事件への対応の違いに注目すべきだ。リビアの米領事館がロケット弾で攻撃され、大使を含むアメリカ人4人が犠牲になった。リビア政府は直ちに攻撃が起きたことを謝罪し、犠牲者がでたことへの悼みを共有しているとワシントンに伝え、犯人に対する怒りを表明した。対照的に、エジプト政府は、襲撃事件には触れずに、イスラム世界を侮辱したフィルムについてアメリカに謝罪を求め、金曜には全国レベルのデモを計画している。アメリカで制作されたフィルムが批判されても仕方のない内容だとしても、エジプト政府は率先して反米デモを呼びかける立場にはない。・・・国の定義の一つは、武力を独占していることだが、リビアを含めて、中東諸国の多くではそうではないことが事件の背景にある。シリアにしても、アサドが姿を消しても、非常に厄介な事態が待ち受けている。イラク、レバノン、パレスチナ、イエメンにも同じことが言える。紛争後の社会における武器の氾濫が作り出す問題が中東を覆い尽くしつつある。

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