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に関する論文

中国の経済成長モデル見直しとエネルギー価格の自由化

2013年7月号

ダミアン・マ
ポールソン研究所フェロー

相対的に貧困な国で経済が急拡大した場合、インフレを警戒する必要がある。外国からの原材料輸入とともにインフレも輸入してしまうリスクがあるからだ。中国政府はこのリスクを回避しようと重工業を中心とする基幹産業のために人為的にエネルギー価格を抑え込む価格統制策をとってきた。低めに抑えられたエネルギー価格は、低く抑えられた為替レート同様に輸出競争力を支え、(インフレの抑制と)輸出主導型の経済成長モデルに貢献した。だがその結果、エネルギーの利用効率の改善や環境問題への配慮は二の次とされ、深刻な環境汚染と社会不満が広がりをみせ、いまや経済モデルを見直さざるを得なくなっている。すでに北京の新体制は中国の経済モデル移行に向けた重要な一部として、エネルギーの価格改革に高い優先順位を与えているようだ。現実にそうなれば、中央統制経済のもっとも頑迷な遺産を中国が取り払おうとしていることへの明確なメッセージになる。

米大企業CEO巨額報酬の謎に迫る

2013年7月号

スティーブン・N・カプラン
シカゴ大学ビジネススクール名誉教授

低所得層の収入が停滞するなかで、米大企業エグゼクティブたちへの報酬はますます高額化していると考えられている。このため、所得格差を気に病む市民も政治家も、批判の矛先を大企業のCEOと役員会に向けて、「コーポレートガバナンスがうまく機能していないから、巨額の報酬をCEOは受け取っている」と批判している。だが現実には、この10年以上にわたってアメリカ上場企業CEOの報酬は上昇するどころか低下しているし、彼らの報酬は自社の株価と連動して決定されている。当然、実績が悪いと報酬額の引き下げ、あるいは解任というペナルティが課される。CEOの報酬が経済格差を拡大させた大きな要因だったわけでも、企業統治が機能していないわけでもない。この現実を認識しない限り、(CEO報酬をめぐって)企業を規制することによって富裕層と貧困層の格差を小さくできると考える政策立案者たちは、結局は失望し、予期せぬダメージを抱え込むことになる。そうしたやり方は、アメリカ経済の重要なエンジンである優良上場企業から、有能な人材を確保する手段を奪い取ることになるからだ。

大統領との信頼関係を築けるかどうかを別にしても、スーザン・ライスは大統領補佐官として基本的な選択に直面する。国家安全保障政策のプロセスを監視・管理していく上で、国家安全保障会議(NSC)の役割を重視すべきか。あるいは、(キッシンジャーやブレジンスキーのような)過去のパワフルな大統領補佐官たちのように、有力な外交アドバイザーとしての役割を重視し、大統領と近い関係にあることを利用して、政策を自分が好ましいと考える方向にもっていくべきか。だが、明確なビジョンをもつオバマ大統領の補佐官として成功するには、(戦略構想型の)ブレジンスキー流ではなく、(調整型の)ドニロン流に徹し、自分の政策志向は抑え、大統領との信頼関係、他の国家安全保障プレイヤーとの信頼関係を形作ることに先ず焦点を合わせるべきだ。大統領補佐官としての成功は、政府内での関係を管理していく能力、つまり、大統領、そして他の国家安全保障プレイヤーとの信頼関係をいかに築くかに左右される。

米エネルギー革命のポートフォリオバランス

2013年7月号

マイケル・レビ
米外交問題評議会シニア・フェロー

アメリカで起きているのは天然ガス開発ブームだけではない。原油生産は史上最大規模の年間生産量の伸びを示し、風力、太陽光、地熱など、先端技術を用いた再生可能エネルギーによる電力生産も2倍に増え、生産コストも低下している。しかも車やトラックの燃費の向上によって、石油需要は低下しつつある。最大の問題は、そこには環境保護派と補助金を通じたエネルギー経済への政府の介入を嫌う人々の間に厄介な対立が存在することだ。重要なのは、特定のエネルギー資源を選ぶのではなく、こうした「新展開のすべてをうまく生かしていくことで、エネルギーにとって最善の未来を切り開けること」を双方が認識することだ。ワシントンの指導者たちは、クリーンエネルギーへの移行を進めつつも、伝統的なエネルギー資源にも依存する、あらゆるタイプのエネルギーの機会を慎重に生かしていく一方で、地球温暖化を加速させ、アメリカの石油依存を持続させるような危険なエネルギー消費にはペナルティを課す必要がある。このバランスこそが、アメリカにおけるエネルギーの未来を左右することになる。

シリアは二分され、アサドは生き残る?

2013年7月号

マイケル・ヤング
デイリースター紙論説ページエディター

シリア反体制主流派は、米ロが主導し、ジュネーブでの開催が予定されているシリア和平会議には参加しないと表明した(その後も、現地情勢を変化させるのに必要な武器支援が届かない限り、会議には参加しないとの立場を示している)。こうした反体制派の反発は、シリア政府が「バッシャール・アサドは2014年まで政権を維持する」と表明したことが理由の一つだが、結局、アサド側の策謀にはまったともみなせる。今後、反体制派は立場を見直すように求める大きな圧力に直面し、一方、アサド政権側はジュネーブ(シリア和平)会議までに軍事攻勢を強め、既成事実を作り上げた上で交渉に臨みたいと考えている。反体制派は危機的な局面に立たされている。ロシアとイラン(そしてヒズボラ)はアサドを支持し、一方、(反体制派との折衝にあたっている)オバマ政権は、明確な戦略を示していない。さらに厄介なのは、この状況から最大の恩恵を引き出すのがジハーディスト勢力であると考えられることだ。・・・われわれは、シリアが二つの地域へと分裂していく長いプロセスを今後目にすることになるだろう。

シリア政府は本当に化学兵器を使用したのか
―― 反体制派軍事支援と和平会議の行方

2013年7月号

グレゴリー・D・コブレンツ
米外交問題評議会フェロー

ワシントンは「シリアのアサド政権はサリンを国内で(複数回)使用している」との情報機関がまとめた分析結果を前提に、シリアの反体制派に軍事支援を行うと6月中旬に表明した。この情報分析は、シリアから持ち出された(犠牲者の血液、尿、毛髪などの)「生理学的サンプル」を分析してサリンによる攻撃があったと判断している。だが国連は「データ(サンプル)がどのように収集されたか、そのプロセスを示す説得力のあるエビデンスが存在しない以上、情報の有効性は損なわれる」とみている。この分析でもっとも奇妙なのは、攻撃の規模(と犠牲者)が100―150人と非常に小さいことだ。・・・化学兵器を使用して米政府のレッドラインを超えることのリスクをあえて冒してまで、化学兵器をかくも限定的な方法で使用することの戦略的利益をシリア政府がどう判断したのか、判然としない。・・・いまや和平会議が実施される見込みは大きく後退している。

Foreign Affairs Update
サイバー諜報とネットワーク破壊の垣根はない
―― バーチャル諜報から物理的破壊へ

2013年6月号

リチャード・ベイトリック/マンディアント チーフセキュリティオフィサー

それがいかなるものであれ、諜報活動は深刻な問題を伴うが、サイバー空間での諜報活動が、現実世界におけるそれとは違っていることを理解していない人もいる。侵入者が、サイバー諜報に必要とされるのと同じツールで「デジタルな破壊」をなし得ることを理解している人はほとんどいない。要するに、敵がコンピュータシステムに入り込んだ場合、そのダメージがどの程度のものになるかは、敵の意図次第なのだ。これまでのところ、サイバー戦争の具体例として広く受け入れられているのは、イランの核施設に対する「スタックスネット」による攻撃だけだが、サイバー諜報がサイバー戦争に迅速に姿を変えることを理解する必要がある。自分のネットワークへの侵入を速やかに突き止め、それが何であれ、侵入者が目的を果たす前にシステムから排除しなければならない。もはや、「それがサイバー諜報である限り、侵入者の活動は許容できる」という虚構に逃げ込むことはできない。

最近、ウィキペディアは、ブラジルのリオデジャネイロの3人の研究者が開発したプログラミング言語「ルア」をシステムとして採用した。IT技術を支える「エコシステム」を国内にもたない途上国発のIT言語が、ウィキペディアという世界的組織に採用されたのは画期的な展開だが、そこにいたる道程をみると、途上国の技術者が直面する障害が浮かび上がってくる。途上国の技術者が世界で成功するには、技術開発と市場化の「エコシステム」をもたない国内から巣立ち、まず世界で成功を収める必要がある。外国に出るのは危険な坂道に足を踏み入れるようなもので、不利な場所に住み、不利な言語を使い、不利な制度のなかで開発を続けなければならない。それでも、彼らは外国に目を向け、世界中で使われている同じテクノロジーを用いて問題を解決しようとした。そうするしか成功する方法はなかったからだ。・・・

Foreign Affairs Update
北京は近く経済改革に着手する
―― 改革の必要性が障害を克服する

2013年6月号

エバン・A・フェイゲンバーム/シカゴ大学ポールソン研究所副所長
ダミアン・マ/シカゴ大学ポールソン研究所フェロー

「経済改革に踏み切れば、パワフルな既得権益層の抵抗と反発はさけられなくなる。環境汚染問題や土地接収問題を前に民衆の不満が高まりをみせていることも改革を難しくしている。改革は短期的には経済を不安定化させ、社会不安をさらに高める危険を伴うからだ」。多くの専門家がこう考え、中国における経済改革の可能性を否定的にとらえている。だが、90年代末に中国が経済改革を実施していることを思いだすべきだ。朱鎔基が手がけた改革のケースからみても、「政治への信頼性の危機、世界の経済・金融危機に対する脆さへの認識、そして変革の必要性を認識する指導層の存在」という三つの条件が揃えば、中国は大胆な改革に踏み切る可能性があるし、いまやこれらの条件が満たされつつある。習近平と李克強は改革が必要であることをすでに明確に認めている。おそらく、2013年秋の中央委員会第3回総会で改革アジェンダが公表されることになるだろう。

なぜインドは大国とみなされるのを嫌がるか
―― 戦略なき新興大国の苦悩

2013年6月号

マンジャリ・チャタジー・ミラー/ボストン大学アシスタントプロフェッサー(国際関係論)

大国の地位を手にいれたいと望む国は、戦術的な課題を越えて、自国の利益にもっともフィットする世界をイメージし、そのビジョンを現実にしようと試みるものだ。だがインドの外交指導者たちはそうした大国へのビジョンをいまだに描いていない。その理由は、「影響力が拡大すれば、そのパワーに応じた責任を果たさなければならなくなる」と警戒しているからだ。大国になれば大きな責任を引き受けなければならなくなることをインドは嫌がっている。この状況が続く限り、多くの人が期待するような国際舞台での役割をインドが果たすようになることはない。自国の具体的な利益がかかわる狭い領域での国際的役割程度なら受け入れるかもしれないが、よりグローバルな役割を果たすように求める抽象的な呼びかけに、インドが耳を貸すことは現状ではあり得ない。

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