1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

に関する論文

Foreign Affairs Update
ロシアのアジアシフト戦略という幻想

2013年10月号

フィオナ・ヒル
ブルッキングス研究所 シニアフェローボボ・ロー
英チャタムハウス アソシエートフェロー

アメリカに続いてロシアもアジアへと軸足を移そうと試みている。伝統的なヨーロッパ市場ではなく、アジア太平洋市場との関係を強化することで、ロシアの経済成長を刺激したいとプーチンは、考えている。モスクワのアジアシフト戦略は、アジアに影響力を行使したいという願いだけでなく、極東ロシアの人口がまばらであることへの恐れにも突き動かされている。この意味で、その鍵を握るのが中国との関係だ。だが、モスクワにとって中国との貿易関係は、次第に(中国による)新植民地主義的な様相を帯びてきている。ロシアからの主な輸出は原材料で、中国からは製品や消費財を輸入しているからだ。北京は、兵器を別とすれば、ロシアから工業製品を輸入することに関心はなく、武器輸入でさえも、近年は低調で、2006年以降、大がかりな武器貿易契約は交わされていない。アジアシフト戦略をとれば、いずれロシアは「自国の帰属しない東」と「うまく適合できない西」の間で漂流していることを見いだし、失望することになるだけだろう。

Foreign Affairs Update
米LNG輸出がエネルギー市場を変える

2013年10月号

エイミー・マイヤース・ジャッフェ カリフォルニア大学デービス校
エネルギー&持続可能性研究所 所長
エドワード・モース
シティ・グループ コモディティリサーチ部門
グローバル・マネージングディレクター

2020年までに、アメリカは年間6170万トンの液化天然ガス(LNG)を輸出し、カタールに次ぐ、世界第2のLNG輸出国に浮上していると予測される。アメリカがLNG輸出を増やし、世界市場からの石油輸入を減少させれば、この半世紀に及ぶOPEC(石油輸出国機構)による原油価格の管理能力は否応なく低下する。つまり、アメリカのエネルギー輸出が、石油や天然ガスに関する世界のゲームルールにどのような衝撃を与えるかが重要なポイントになる。1973年のOPECによる価格引き上げと禁輸以降の40年にわたって、石油と天然ガス市場は高度に政治化されてきた。だが、アメリカが主要なエネルギー輸出国になれば、グローバル経済における最大の産業であるエネルギー部門で突然、自由貿易が実現する。アメリカのLNG輸出は、世界の炭化水素資源貿易から政治を排除する最初のステップにすぎない。グローバルな天然ガス市場で起きていることは、いずれグローバルな石油市場でも必ず起きる。

アサド勝利後のシリア
――戦後シリアの荒涼たる現実とは

2013年10月号

アンドリュー・タブラー
ワシントン近東政策研究所シニアフェロー

戦闘で敗れ去るのをアサドが回避できる可能性は高まっており、はっきりとした勝利をいずれ手にするかもしれない。もちろん、アサドが権力を維持できるとしても、彼が内戦前のような国家レベルでの統治を再確立することはなく、テロ集団を含む反政府勢力は、シリアの一部を今後も掌握し続けるだろう。アサドは(シーア派の)イラン、ヒズボラとの関係をさらに強め、一方、中東のスンニ派諸国は、反政府武装勢力による抵抗を今後も支え続けるはずだ。だが、アサドが全面的な内戦を展開し、化学兵器を民間人に対して使用したことが、民衆の支持をとりつける上で今後も大きな障害となる。内戦を経たシリア政府は、戦争前に存在した残忍ながらも安定した政府以上に、抑圧的で法を顧みなくなるだろう。シリアは今後長期的に不安定化し、人道に対する残酷な犯罪が繰り返される場所になるだろう。

CFR Update
世界経済を左右する中国における成長と改革の行方

2013年10月号

ロバート・カーン
米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

市場プレイヤーの多くは、中国経済の成長率は今後急激に減速していくと考えている。2013年と2014年の成長率は6%台へと落ち込み、悪くすると5%を割り込む可能性もあると予測している。だが、こうした経済成長の減速は、中国が経済構造のリバランスを試み、現在の輸出・投資主導型経済から、消費主導型経済に移行するための改革を実施することを織り込んでいる。これを別にしても、IMF(国際通貨基金)が指摘する通り、労働力人口の減少が労働市場ダイナミクスを根本的に変化させる。つまり、中国は、労働力の過剰供給の時代が終わり、相対的な賃金が上昇する「ルイスの転換点」にさしかかりつつある。だが一方でIMFは、経済成長の停滞を理由に中国は改革(経済構造のリバランシング)を先送りするのではないかと懸念している。中国が野心的な改革を実行し、経済のリバランシングを実現して短期的な低成長のリスクを受け入れるか、あるいは、経済成長を維持しようと改革プロセスを先送りするかで、グローバルな経済成長の見通しは大きく変わってくる。

インドを支える州経済の台頭
―― 経済再生を主導する州経済の躍進

2013年9月号

ルチル・シャルマ/モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント 新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

グローバル経済が低迷するなか、ニューデリーは政治的な機能不全に陥っているかにみえる。二桁台に達していたGDP成長率も、いまや5%に落ち込み、インドの首都は政治腐敗、停電、無能な警察といったスキャンダラスなニュースで埋め尽くされている。だが、ダイナミックな州が急速かつ持続可能な経済成長を遂げ、いまやインドは力強い地方によって成り立つ国であることが再認識されつつある。主要な州経済がいまでも二桁近い経済成長を実現していることは、中国、ブラジル、インドネシア、メキシコなどの他の新興諸国とインドが競争していく上での大きな力になる。州指導者が中央に対して連邦構造を受け入れさせ、経済政策上の権限をさらに州政府に委譲させることに成功すれば、インド経済は再度復活の道のりを歩み始めるだろう。

CFR Interview
迷走するフランスとヨーロッパの未来

2013年9月号

ドミニク・モイジ/フランス国際関係研究所特別顧問

いまや重要なポイントは、フランスが、すでに危機を脱したかに見える北ヨーロッパの軌道を離れて、南ヨーロッパの近隣諸国の軌道に入りつつあるかどうかにある。フランスが明らかに、そして不幸にも、ギリシャやスペインの軌道に入りつつあるとすれば、EU(欧州連合)にネガティブな衝撃が走る。・・・これまでヨーロッパにとって独仏が一定のバランスを保つことが重要だった。だが不幸にも、フランスはもはやドイツと同じレベルの国ではない。・・・アメリカが関心をもつのは強いヨーロッパで、いまやアメリカは弱いヨーロッパへの関心を失いつつある。そして、弱いヨーロッパを前にアメリカが恐れているのは、欧米世界を構成するのがアメリカだけになってしまうことだ。必要なのは、ヨーロッパがよりヨーロッパ的になること、ヨーロッパの統合をさらに進め、よりダイナミックなヨーロッパになることだろう。

CFR Update
TPPと米韓FTAの教訓
―― 経済もパートナーシップも強化する

2013年9月号

シーン・コネル/在ワシントン東西センターフェロー(日本担当)

日本にとってのTPPと、韓国にとっての米韓自由貿易協定(KORUS)には多分に重なり合う部分がある。実際、TPPが時に「KORUSプラス」と呼ばれることからも明らかなように、TPPの交渉アジェンダの多くがKORUSを下敷きにしている。TPPは新たに経済成長を刺激するだけではない。KORUSが米韓関係を刷新したように、TPPは日米パートナーシップを刷新するポテンシャルも秘めている。TPP交渉を通じて、日米は相互認識を刷新し、その経済的つながりからいかに大きな恩恵を引き出しているかをより的確に理解することになるはずだ。強いリーダーシップ、困難な決断を下す気概、貿易交渉者によるクリエーティブなソリューション、両国で合意を支える利益認識を形成する努力、これらのすべてがKORUSを成功へと導いた。日米の政策決定者が、TPPのポテンシャルを十分に生かして、両国のパートナーシップを強化し、新たな成長領域を形作るには、こうしたKORUSの教訓を認識する必要がある。

保護する責任かシリア政府に対するペナルティか
―― シリア介入論をめぐる混乱

2013年9月号

チャーリ・カーペンター
マサチューセッツ大学アムハースト校 准教授

オバマ政権は、シリアへの軍事介入の主要な目的は「化学兵器を使用したシリア政府にペナルティを課すことで、(化学兵器の使用を禁じた)国際規範を支え、守ることにある」と明言している。ルールを踏みにじったアクターにペナルティを課すことは、「戦争において何が許され、何が許されないかについて国際的に共有されている了解を守ること」を目的にしている。だが、一方で、民間人を政府の残虐行為から守る「保護する責任」という概念もある。これは、現在のシリアのように、政府が民衆を保護する責任を果たさない、あるいは果たせない場合には、国際社会が人道的悲劇への対応責任を負うという概念だ。保護する責任の原則を基に相手国に介入するには、市民の殺戮にどのような兵器が用いられたかではなく、どれくらいの民間人が犠牲になったか、そして保護する責任を果たす適切な根拠があるかどうかを考えなければならない。混同されることも多いが、この二つの議論に重なり合う部分は少なく、目的が違うだけに、必要とされる介入のタイプも違ってくる。当然、市民の殺戮にどのような兵器が用いられたかを根拠とする空爆によって二つの目的を同時に満たそうと試みてはならない。

変貌した東南アジアへ帰ってきた「古い日本」

2013年9月号

ジョシュア・クランジック 米外交問題評議会フェロー

いまや東南アジアにおける日本の存在感は大きくなっている。アベノミクスに啓発された東南アジア諸国はヨーロッパ流の緊縮財政でなく、景気刺激策をとろうと試みている。さらには、タイ、ミャンマー、インドネシアにおける政治的混乱、タイにおける大気汚染、ベトナムでの深刻な経済停滞を前にしても、中国企業とは違って、日本企業が投資の約束を守ることへの認識と評価も高まっている。経済停滞と援助予算の削減とともに衰退した日本の東南アジアへの影響力がいまや回復しつつある。すでに東南アジアを3度訪問した安倍首相の努力は、東南アジアとの貿易交渉や投資、現地の世論において着実に実を結びつつある。しかし問題もある。援助、インフラ投資、戦略的つながりに焦点を合わせるだけで、民主主義や市民社会について日本が言及することはほとんどない。日本は、かつてスハルトその他の独裁政権に用いたのと同じ戦略を安易に踏襲してしまっている。・・・

安倍政権のエネルギーアジェンダ

2013年9月号

ダニエル・P・オルドリッチ パデュー大学政治学准教授
ジェームズ・E・プラッテ 原子力エネルギー協会(NEI)インターン
ジェニファー・スクラリュー ジョージメイソン大学公共政策大学院PhDキャンディデート

現在の日本の電力市場構造は、第二次世界大戦後の占領期に形作られている。GHQの指令によって電力事業体は地域ごとに独占市場を作り上げ、電力価格は通産省(現経済産業省)によって厳格に規制されてきた。だが安倍内閣の規制改革方針では、半世紀前につくられた古い電力システムを3段階の改革によって変化させていくことが想定されている。まず、独立機関「広域系統運用機関」が新しく創設され、この機関が電力の需給バランスを調整し、地域間の電力供給を担当する。次に、小売市場と卸売市場の両方において、新たな電力供給者の自由参入を認め、電力の取引市場も設けられる。そして、電力の生産、輸送、分配は法的に分離され、小売料金が全面自由化される。・・・だが、今後を大きく左右するのは、原発の再稼働申請が認められるかどうかだ。現状では、停止中の原発48基分のエネルギーを埋め合わせるために(火力発電燃料である)天然ガスの輸入量が急増している。特に、MOX燃料の使用とプルトニウム燃料の再処理プログラムがどう判断されるかが、今後の日本のエネルギー政策を大きく左右する。

Page Top