アベノミクスと英米経済の教訓
2013年8月号
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2013年8月号
2013年08月
いまや米ロ関係のリセット路線は過去の話だ。この6-9ヶ月間に、両国が協議してきた重要な案件、シリア、イランにはじまり、ヨーロッパへのミサイル防衛の強化、新START条約の目標を拡大する戦略核削減の提案、プーチンが重視する貿易と投資など、どれ一つをとっても進展はない。これに加えて、現在の米ロ関係には、人権問題、スノーデン事件など、ネガティブな要素が数多く存在する。これまでリセットを機能させてきた要因が消失してしまっている。スノーデンを受け入れると表明している国への渡航を、ロシアがアレンジする方法は数多くあった。これらのやり方をとれば、ロシアは問題を解決できていたかもしれない。そうしなかったことにオバマ政権は憤慨し、その結果、オバマが面目を保つ形でモスクワを訪問するのは難しくなった。
2013年8月号
2013年8月号
NSA(米国家安全保障局)がEU(欧州連合)に対して諜報活動を行っていたことが露見すると、ヨーロッパの指導者たちはアメリカに対する怒りを露わにした。ドイツ政府のある高官は、アメリカのやり方は「冷戦期におけるわれわれの敵の手法を想起させる」と状況を皮肉った。長年にわたって、対テロをめぐる情報共有とプライバシー保護のバランスを協議してきた米欧間には情報活動に関する一定の了解と合意がこれまで存在し、当初、ヨーロッパはアメリカに苦言を呈しつつも、比較的落ち着いた対応をみせていた。だが、テロとは何の関係もないEUの官僚たちをNSAが監視対象にしていたことが発覚すると、ヨーロッパにおける振り子は安全保障から再びプライバシーの保護へと大きく振れ、米欧関係は動揺している。ワシントンが関係修復を望むのなら、アメリカもヨーロッパ同様に、政府から独立したプライバシー保護のための組織を国内で立ち上げ、安全保障とプライバシー保護のバランスをとるべきだろう。
2013年8月号
「モルシは選挙で選ばれた大統領であり、まだ任期を3年残している。モルシに任期を全うさせた上で、彼が良い大統領だったか、悪い大統領だったか、次の選挙で審判を仰げば良い」。モルシの復権、これがムスリム同胞団の立場だ。一方、エジプト軍にとって、権力の座から一度引きずり降ろした人物を復権させるのは、明らかに自滅的な行動だ。ジハード主義を内包する同胞団は、軍が分裂することを期待しつつ、今後も戦いを挑んでいくだろう。互いに相容れぬ利益をもつエジプト軍とムスリム同胞団は、おそらく、終わりなき抗争を繰り広げることになるだろう。エジプトが先に崩壊するのでない限り、どちらかが倒れるまで紛争は続くだろう。
いまや問われているのは、アメリカがシリアに対する軍事行動を起こすかどうかではなく、どのように行動を起こすかだ。おそらく、船あるいは航空機から巡航ミサイル攻撃が実施されるだろう。ターゲットはシリアの化学兵器能力そのもので、具体的には、化学兵器貯蔵施設、あるいは、化学兵器を使用した部隊などが考えられる。さらに、シリア軍の指揮統制、軍事能力、政治指導者など、他にも攻撃のターゲットの潜在リストは数多く存在する。但し、主要な目的はシリア政府がこれ以上化学兵器を用いないようにすること、そして大量破壊兵器の使用を抑止するグローバルな規範を強化することだ。ワシントンには、シリア内戦の主要なプレイヤーになるつもりはないだろう。・・・・攻撃の国際的正統性は安保理からは得られないとしても、攻撃を支持する外交的な有志同盟は相当な規模に達する。但し、実際にはシリアへの軍事攻撃を試みるのは、アメリカと一握りの諸国にとどまるだろう。
2013年8月号
もはやシリア情勢に傍観を決め込むのは許されず、いつ、どのように、どのくらいのコストを用いてシリア紛争の解決を試みるかが問われている。大規模な難民危機が起きたり、危険な兵器がジハーディストやクルド人分離勢力などテロ集団の手に落ちたりすれば、ワシントンの同盟勢力であるイラク、イスラエル、ヨルダン、トルコの安全保障が直接的に脅かされる。さらに、崩壊によってテロリストが、自由に活動できる破綻国家へとシリアが姿を変えていく危険もある。シリアの崩壊を食い止め、肥大化する脅威を封じ込めるには、すべての勢力を交渉テーブルに着かせることを目的とする部分的な軍事介入を試みる必要があるだろう。飛行禁止空域を設定し、イラク国内にいる反体制派と直接的に協力し、国家再建の道を模索する必要がある。
2013年8月号
(財政削減のための消極財政による悪影響としての)フィスカル・ドラッグの余波を克服できれば、アメリカ経済は成長軌道に乗り、2014年には3%の成長を期待できると私はみている。・・・現在の日銀と日本政府は、正しい方向に向かっているとみなせるが、日本の場合、(時期尚早に)逆コースをとることも多い。(V・ラインハルト)
私は、今回の新興国経済の変調はターニングポイント的な部分があるとみている。長く続いた新興市場経済にとって非常にポジティブな局面は終わろうとしている。・・・中国経済の成長率が低下していくのは避けられず、投資主導型の成長路線からは離れていかざるを得ないとみている。(L・アレキサンダー)
2013年8月号
日本社会は急速に高齢化している。そして高齢者たちには、政治家が現行の社会保障システムに手をつけるのを認めるつもりはない。だが、高齢社会に派生する問題に向き合うのを先送りすればするほど、その経済コストは大きくなる。これが日本の現実だ。事実、政府の年金財源は2032―2038年の間に枯渇するという試算もある。だが、年齢層からみた多数派で、投票率も高い高齢者集団にアピールするようなキャンペーンを実施すれば、政治家はもっとも忠誠度の高い支持基盤を手に入れることができる。こうして、高齢社会が日本経済にどのようなコストを与えることになるとしても、「高齢者に優しい政策」が最優先とされている。高齢層の有権者の支持を失うことに対する恐怖が、政治家が長期的に国の未来を考えることを妨げ、これが若者に対する重荷をさらに大きくしている。1票の格差同様に、世代間の不均衡問題に目を向け、もっと若者の意見を政治に反映させる必要がある。そうしない限り、日本の経済未来は今後も暗いままだろう。
2013年8月号
軍がモルシを拘束する前段階で、エジプトでは大規模な反モルシ派のデモが起きていた。このデモをめぐって、「民間人の抗議運動と裕福な資本家階級、そして軍や治安組織の一部との間で協力関係が存在した」と報道されている。特にビジネスコミュニティは軍に対してかなり組織的な支援を行っていたようだ。こうしていまやエジプト社会は、軍の行動を支持する人々と、軍は選挙で正当に選出された指導者たちから権力を奪い取ったと考える人々によって二分されている。この現実を前にアメリカは目的を見失い、その外交路線も漂流している。モルシが権力を失った1週間後に、クウェート、サウジ、アラブ首長国連邦が120億ドルの融資を表明したのは偶然ではない。こうした湾岸諸国の資金援助によって、アメリカのエジプトへの影響力はますます低下している。