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に関する論文

CFR Update
世界経済を左右する中国における成長と改革の行方

2013年10月号

ロバート・カーン
米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

市場プレイヤーの多くは、中国経済の成長率は今後急激に減速していくと考えている。2013年と2014年の成長率は6%台へと落ち込み、悪くすると5%を割り込む可能性もあると予測している。だが、こうした経済成長の減速は、中国が経済構造のリバランスを試み、現在の輸出・投資主導型経済から、消費主導型経済に移行するための改革を実施することを織り込んでいる。これを別にしても、IMF(国際通貨基金)が指摘する通り、労働力人口の減少が労働市場ダイナミクスを根本的に変化させる。つまり、中国は、労働力の過剰供給の時代が終わり、相対的な賃金が上昇する「ルイスの転換点」にさしかかりつつある。だが一方でIMFは、経済成長の停滞を理由に中国は改革(経済構造のリバランシング)を先送りするのではないかと懸念している。中国が野心的な改革を実行し、経済のリバランシングを実現して短期的な低成長のリスクを受け入れるか、あるいは、経済成長を維持しようと改革プロセスを先送りするかで、グローバルな経済成長の見通しは大きく変わってくる。

インドを支える州経済の台頭
―― 経済再生を主導する州経済の躍進

2013年9月号

ルチル・シャルマ/モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント 新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

グローバル経済が低迷するなか、ニューデリーは政治的な機能不全に陥っているかにみえる。二桁台に達していたGDP成長率も、いまや5%に落ち込み、インドの首都は政治腐敗、停電、無能な警察といったスキャンダラスなニュースで埋め尽くされている。だが、ダイナミックな州が急速かつ持続可能な経済成長を遂げ、いまやインドは力強い地方によって成り立つ国であることが再認識されつつある。主要な州経済がいまでも二桁近い経済成長を実現していることは、中国、ブラジル、インドネシア、メキシコなどの他の新興諸国とインドが競争していく上での大きな力になる。州指導者が中央に対して連邦構造を受け入れさせ、経済政策上の権限をさらに州政府に委譲させることに成功すれば、インド経済は再度復活の道のりを歩み始めるだろう。

CFR Interview
迷走するフランスとヨーロッパの未来

2013年9月号

ドミニク・モイジ/フランス国際関係研究所特別顧問

いまや重要なポイントは、フランスが、すでに危機を脱したかに見える北ヨーロッパの軌道を離れて、南ヨーロッパの近隣諸国の軌道に入りつつあるかどうかにある。フランスが明らかに、そして不幸にも、ギリシャやスペインの軌道に入りつつあるとすれば、EU(欧州連合)にネガティブな衝撃が走る。・・・これまでヨーロッパにとって独仏が一定のバランスを保つことが重要だった。だが不幸にも、フランスはもはやドイツと同じレベルの国ではない。・・・アメリカが関心をもつのは強いヨーロッパで、いまやアメリカは弱いヨーロッパへの関心を失いつつある。そして、弱いヨーロッパを前にアメリカが恐れているのは、欧米世界を構成するのがアメリカだけになってしまうことだ。必要なのは、ヨーロッパがよりヨーロッパ的になること、ヨーロッパの統合をさらに進め、よりダイナミックなヨーロッパになることだろう。

CFR Update
TPPと米韓FTAの教訓
―― 経済もパートナーシップも強化する

2013年9月号

シーン・コネル/在ワシントン東西センターフェロー(日本担当)

日本にとってのTPPと、韓国にとっての米韓自由貿易協定(KORUS)には多分に重なり合う部分がある。実際、TPPが時に「KORUSプラス」と呼ばれることからも明らかなように、TPPの交渉アジェンダの多くがKORUSを下敷きにしている。TPPは新たに経済成長を刺激するだけではない。KORUSが米韓関係を刷新したように、TPPは日米パートナーシップを刷新するポテンシャルも秘めている。TPP交渉を通じて、日米は相互認識を刷新し、その経済的つながりからいかに大きな恩恵を引き出しているかをより的確に理解することになるはずだ。強いリーダーシップ、困難な決断を下す気概、貿易交渉者によるクリエーティブなソリューション、両国で合意を支える利益認識を形成する努力、これらのすべてがKORUSを成功へと導いた。日米の政策決定者が、TPPのポテンシャルを十分に生かして、両国のパートナーシップを強化し、新たな成長領域を形作るには、こうしたKORUSの教訓を認識する必要がある。

保護する責任かシリア政府に対するペナルティか
―― シリア介入論をめぐる混乱

2013年9月号

チャーリ・カーペンター
マサチューセッツ大学アムハースト校 准教授

オバマ政権は、シリアへの軍事介入の主要な目的は「化学兵器を使用したシリア政府にペナルティを課すことで、(化学兵器の使用を禁じた)国際規範を支え、守ることにある」と明言している。ルールを踏みにじったアクターにペナルティを課すことは、「戦争において何が許され、何が許されないかについて国際的に共有されている了解を守ること」を目的にしている。だが、一方で、民間人を政府の残虐行為から守る「保護する責任」という概念もある。これは、現在のシリアのように、政府が民衆を保護する責任を果たさない、あるいは果たせない場合には、国際社会が人道的悲劇への対応責任を負うという概念だ。保護する責任の原則を基に相手国に介入するには、市民の殺戮にどのような兵器が用いられたかではなく、どれくらいの民間人が犠牲になったか、そして保護する責任を果たす適切な根拠があるかどうかを考えなければならない。混同されることも多いが、この二つの議論に重なり合う部分は少なく、目的が違うだけに、必要とされる介入のタイプも違ってくる。当然、市民の殺戮にどのような兵器が用いられたかを根拠とする空爆によって二つの目的を同時に満たそうと試みてはならない。

変貌した東南アジアへ帰ってきた「古い日本」

2013年9月号

ジョシュア・クランジック 米外交問題評議会フェロー

いまや東南アジアにおける日本の存在感は大きくなっている。アベノミクスに啓発された東南アジア諸国はヨーロッパ流の緊縮財政でなく、景気刺激策をとろうと試みている。さらには、タイ、ミャンマー、インドネシアにおける政治的混乱、タイにおける大気汚染、ベトナムでの深刻な経済停滞を前にしても、中国企業とは違って、日本企業が投資の約束を守ることへの認識と評価も高まっている。経済停滞と援助予算の削減とともに衰退した日本の東南アジアへの影響力がいまや回復しつつある。すでに東南アジアを3度訪問した安倍首相の努力は、東南アジアとの貿易交渉や投資、現地の世論において着実に実を結びつつある。しかし問題もある。援助、インフラ投資、戦略的つながりに焦点を合わせるだけで、民主主義や市民社会について日本が言及することはほとんどない。日本は、かつてスハルトその他の独裁政権に用いたのと同じ戦略を安易に踏襲してしまっている。・・・

安倍政権のエネルギーアジェンダ

2013年9月号

ダニエル・P・オルドリッチ パデュー大学政治学准教授
ジェームズ・E・プラッテ 原子力エネルギー協会(NEI)インターン
ジェニファー・スクラリュー ジョージメイソン大学公共政策大学院PhDキャンディデート

現在の日本の電力市場構造は、第二次世界大戦後の占領期に形作られている。GHQの指令によって電力事業体は地域ごとに独占市場を作り上げ、電力価格は通産省(現経済産業省)によって厳格に規制されてきた。だが安倍内閣の規制改革方針では、半世紀前につくられた古い電力システムを3段階の改革によって変化させていくことが想定されている。まず、独立機関「広域系統運用機関」が新しく創設され、この機関が電力の需給バランスを調整し、地域間の電力供給を担当する。次に、小売市場と卸売市場の両方において、新たな電力供給者の自由参入を認め、電力の取引市場も設けられる。そして、電力の生産、輸送、分配は法的に分離され、小売料金が全面自由化される。・・・だが、今後を大きく左右するのは、原発の再稼働申請が認められるかどうかだ。現状では、停止中の原発48基分のエネルギーを埋め合わせるために(火力発電燃料である)天然ガスの輸入量が急増している。特に、MOX燃料の使用とプルトニウム燃料の再処理プログラムがどう判断されるかが、今後の日本のエネルギー政策を大きく左右する。

CFR Update
中国の水資源不足と環境汚染問題
――米議会における証言から

2013年9月号

エリザベス・C・エコノミー
米外交問題評議会アジア研究担当シニア・フェロー

中国の一人当たりの水資源量は世界平均の4分の1程度でしかない。しかも、経済が好調で個人が豊かになってきたこの10年をみると、生活用水と工業用水の需要が急増しており、今後も都市化が進むにつれて、この傾向は一層顕著になっていくと考えられる。2012年には水資源が不足した都市が400を超えている。しかも環境汚染が水資源問題をさらに深刻にしている。地下水の90%は汚染され、河川水の40%、地下水の55%が飲料に適さないと考えられている。癌の発生率が通常よりも著しく高い「癌の村」が459存在すると報告されているし、そのほとんどは、政府の水質汚染評価5段階のなかで最低とされた河川の周囲に集中している。中国政府と民衆にとってもっとも重要なのは、水問題が健康、経済、そして社会の安定にどのような影響を与えるかだ。2013年には社会不安を引き起こす最大の要因として環境問題が土地接収問題に取って代わっている。さらに、経済成長を維持し、食料生産のための水資源を確保する中国の試みは、いまや地域的・世界的な余波を生じさせている。・・・

CFR Interview
メルケルの勝利はヨーロッパにとって何を意味するか

2013年9月号

チャールズ・クプチャン
米外交問題評議会シニア・フェロー

ドイツ総選挙の結果は、「中道左派と右派がより中道へと収斂する一方で、欧州統合に懐疑的な小政党が台頭するというヨーロッパの全般的政治的トレンド」を覆したとみなせる。ユーロ周辺国の救済を明確に拒絶する「ドイツのための選択肢」は、議席確保に必要な得票の5%さえ得られなかった。他のポピュリスト、反移民、反EUの立場をとる政党もドイツではそれほど支持を得ていない。メルケル率いるドイツの新連立政権は今後もEU志向を維持していくことになるだろう。但し、南ヨーロッパへの緊縮路線を求める路線を見直していくとは考えにくいし、シリア、イランその他の地政学的な課題をめぐって積極的に動くとも考えにくい。・・・

米中戦争という今そこにある脅威
―― なぜ冷戦期の米ソ対立以上に危険なのか

2013年9月号

アヴェリー・ゴールドシュタイン
ペンシルバニア大学教授
(グローバル政治、国際関係論)

近年では、米中の東アジアにおける軍事戦略を規定してきた台湾という火薬庫の大きさは小さくなってきているが、中国と近隣諸国は、東シナ海や南シナ海における島や海洋境界線をめぐる領有権論争を抱えている。アメリカは、日本とフィリピンという二つの同盟国を守る条約上のコミットメントを何度も表明し、アジア・リバランシング戦略も、アジアで地域紛争が起きた場合にアメリカがそれを放置することはないというシグナルを中国に送っている。こうした現状における最大の問題は、米中が相手の死活的利益が何であるかについての了解を共有しておらず、しかも、危機管理のための信頼できるメカニズムも整備できていないことだ。紛争のリスクを高める、踏み外してはならないレッドラインが何であるかが曖昧なために、安全だと考える行動をとった場合でも、それが予想外に相手を挑発し、紛争のエスカレーションが起きかねない状況にある。

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