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に関する論文

アベノミクスの黄昏
―― スローガンに終わった構造改革

2014年7月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・レポート誌編集長

3本の矢すべてが標的を射抜けば、安倍政権が強気になってもおかしくはない。だがすでに2本の矢は大きく的を外している。財政出動による景気刺激効果は、赤字・債務削減を狙った時期尚早な消費税率の引き上げによって押しつぶされ、構造改革は曖昧なスローガンが飛び交うだけで、具体策に欠ける。量的緩和も、他の2本の支えなしでは機能しないし、物価上昇の多くは円安による輸入品の価格上昇で説明できる。結局、自信を取り戻すには、有意義な構造改革を通じて停滞する日本企業の競争力を回復するしかない。そうしない限り、一時的な景気浮揚策も結局は幻想に終わる。問題は、安倍首相がもっとも重視しているのが経済の改革や再生ではなく、安全保障や歴史問題であることだ。

CFRインタビュー
ロシアの戦略とウクライナ東部
―― 流れは国家内国家へ

2014年7月号

チャールズ・キング  ジョージタウン大学教授(国際関係論)

ウクライナ東部に対するロシアの戦略は公的には関与を否定しつつ、水面下で不安定化を画策することだと言われることも多い。これは、ロシアが1990年代に「近い外国」に対してとった戦略アプローチの系譜とみなせる。ロシアは最終的な結果がどうなるかは気に懸けずに、現地情勢への影響力を確保することを重視する。この戦略をとれば、ウクライナ東部における分離独立勢力の将来の地位をめぐって影響力を確保できる。一方、ウクライナ政府が軍事的対応を試みればみるほど、より多くの敵を作り出し、親ロ派を勢いづけてしまう。これは、対ゲリラ戦争に付きまとう古典的な問題だ。国際交渉も、(国連その他の)外部プレイヤーが(分離独立勢力にとっては受け入れられない)領土保全を目的に掲げるために、結局、うまくいかないことが多い。・・・ウクライナ政府が明確な勝利を得られないまま、混乱が長期化すれば、親ロシア派が独自の統治構造を作り上げていく危険がある。 聞き手はロバート・マクマホン Editor@cfr.org)

新疆ウイグルで何が起きているのか
―― 中国のワイルドウエスト

2014年7月号

ケンドリック・クオ ジョンズホプキンス大学大学院生

新疆ウイグル自治区には中国で最大規模の石油、天然ガス、石炭資源が存在し、例えば、中国の石炭資源の40%がこの地域に集中している。北京は、この地域での資源開発をスムーズに進めることに最大限の配慮をしてきた。ウイグル族の不満を抑え込む一方で、漢民族の移住者たちのことを、教育を受けた労働力、新疆ウイグルにおける中央政府に忠実な市民として優遇してきた。こうして、1949年には22万程度だった新疆ウイグルにおける漢民族の人口はいまや840万へとふくれあがった。ウイグル族は漢民族の文化帝国主義に反発し、これが二つの民族の衝突を引き起こしている。だが多くの場合、見落とされているのは、いまや自治政府と漢民族コミュニティの間の緊張も高まっていることだ。漢民族の要望を政治的に追認し、政府が便宜を図るという漢民族コミュニティとの暗黙の了解は、すでに持続不可能になっている。

イラク内戦とイランの立場
――イランが宗派間紛争という言葉を使わない理由

2014年7月号

モフセン・ミラニ 南フロリダ大学戦略外交センター所長

テヘランの目的はバグダッドのシーア派政権を存続させることで、一方、イラク・シリア・イスラム国(ISIS)は純然たるスンニ派国家を樹立したいと考えている。とはいえ、イランは今回の戦闘を「宗派間紛争である」と明確に認めるつもりはなく、ISISのことを外国の支援に依存するタクフィリ(他の宗派を不信心とみなすスンニ派)、あるいはインフィダル(背教徒)と位置づけている。一方で、イランはすでにイラク内戦に深く関与している。イランの革命防衛隊(IRGC)はイラク治安部隊と協力して軍事作戦を主導し、テヘランはシーア派武装集団にも戦闘への参加を促している。長くシリア内戦にも関与してきたイラン軍と武装勢力は、ISISを含むスンニ派武装勢力との十分な戦闘経験をもっている。それでも、テヘランはイラクでの戦闘を「テロとの戦い」として位置づけ、ISISの資金源がサウジであるとも公言していない。その理由は・・・

命運尽きた、タイの政治

2014年6月号

ダンカン・マッカーゴ 英リーズ大学政治学教授

インラック・チナワット首相の解任は予想外の出来事ではない。特定の見方をすれば、近年在任中にポストを追われたこの国の4人目の首相となったに過ぎない。退陣を余儀なくされた首相たちは、すべて同じ政治派閥の出身者たちだ。インラックの兄、タクシン・チナワット元首相は、2006年9月、軍のクーデターで政権の座から追放された。他の2人、サマック・スントラウェートと、ソムチャーイ・ウォンサワットは、2008年に憲法裁判所の判決によって失職している。こうした追放劇がこの国の政治課題の解決に役立つはずはない。その結果、国内の対立を悪化させる正当性を欠いた政権を誕生させ、抗議運動の下地を作ることになる。インラックの失脚も、これと同じ展開をたどるだろう。

プーチンの戦略とヨーロッパの分裂

2014年6月号

マイケル・ブラウン ジョージワシントン大学エリオットスクール学院長

NATOの東方拡大路線がロシアを刺激することはない。この欧米の認識は希望的観測にすぎなかった。欧米との明確な対立路線を選択したプーチンのロシア国内での支持率は高まっており、当面、状況は変化しないだろう。一方、ヨーロッパの安全保障は機能不全に陥っている。しかも、ヨーロッパはロシアからのエネルギー供給に依存している。このため、ロシアにどう対処するかをめぐってヨーロッパ諸国の足並みは乱れている。プーチンは「近い外国」におけるロシア系住民地域をロシアに編入してロシアの勢力圏を確立し、国内の政治的立場を支えるためにも欧米との対決状況を維持していくつもりだ。プーチンの野望、そして脅威の本質を過小評価するのは間違っている。欧米の指導者たちは、プーチンの最終的な戦略目的を見極めて、それに応じた行動をとる必要がある。

変化する中東の経済地図
―― 旧秩序の解体と新経済圏の誕生

2014年6月号

マリナ・オッタウェイ ウッドロー・ウィルソン国際研究センター 上級研究員
デビッド・オッタウェイ ウッドロー・ウィルソン国際研究センター 上級研究員

アレッポからバグダッド、そしてベイルートにいたるまでの広範な中東地域で流血の惨事が続いている現状からみれば、サイクス・ピコ協定を基盤とする中東秩序の崩壊を予測したくもなる。武力衝突は国境を越えて広がり、シリアなど一部の国は崩壊に向かっている。しかし、通商・貿易という、国家関係を変貌させている別の流れが生じていることにも目を向けるべきだ。むしろ、暴力や国家分裂ではなく、石油と天然ガスを中心とする経済の相互利益によって、サイクス・ピコを基盤とする秩序は再編され、穏やかな幕引きへと向かうのかもしれない。このダイナミクスがもっともはっきり認められるのが、イラクのクルド地域とトルコの経済関係で、この展開は古い対立と国境線を克服した新たな経済圏が中東に誕生する可能性を示唆している。

シリア内戦の現状を問う
―ポストアメリカ時代へ向かう中東

2014年6月号

ライアン・クロッカー 元駐シリア米大使
チャールズ・W・ダン フリーダムハウス ディレクター
ポール・ピラー 元米中央情報局 分析官

アメリカがシリア問題への関与を控えているために、中東の指導者たちは、次第にアメリカという要因を外して、意思決定を試み始めている。中東はポストアメリカ時代へと向かいつつある。(C・ダン)

シリア内の反体制武装勢力として大きな役割を果たしているのは、「イラク・シリア・イスラム国(イラクとシャームのイスラム国)」(ISIS)のような過激派だ。このサラフィー派のジハード主義集団は、アルカイダでさえも関係をもつのを嫌がるような残虐行為に手を染めている。・・・サウジはシリア内戦を自国の存亡に関わる問題とみている。彼らは、この戦争をイランとの対立構図のなかで捉えており、アメリカの関与のあるなしに関わらず、戦うつもりでいる。(P・ピラー)

スンニ派を虐殺した1982年のハマーの虐殺以降、アサド政権は、審判の日がいつか訪れるかもしれないと警戒し、審判の日が来れば、少数派であるアラウィ派は、その生存をかけて戦わなければならないことをかねて理解していた。スンニ派であれ、アラウィ派であれ、この事件のことを誰もが覚えている。(R・クロッカー)

21世紀の資本主義を考える
―― 富に対するグローバルな課税?

2014年6月号

タイラー・コーエン ジョージメイソン大学教授(経済学)

西ヨーロッパが19世紀後半に享受した平和と相対的安定は、膨大な資本蓄積を可能にし、先例のない富の集中が生じ、格差が拡大した。しかし、二つの世界大戦と大恐慌が資本を破壊し、富の集中トレンドを遮った。戦後には平等な時代が出現したが、1950年から1980年までの30年間は例外的な時代だった。1980年以降、拡大し続ける格差を前に、トマ・ピケティのように、19世紀後半のような世界へと現状が回帰しつつあると考え、格差をなくすために、世界規模で富裕層の富に対する課税強化を提言する専門家もいる。しかし、大規模な富裕税は、資本主義民主体制が成功し繁栄するために必要な規律や慣習とうまくフィットしない。もっとも成功している市民への法的、政治的、制度的な敬意と支援がなければ、社会がうまく機能するはずはない。

動き出したクリミア後の地政学
―― 中ロの連帯で何がどう変わる

2014年6月号

デビッド・ゴードン ユーラシアグループグローバルマクロ分析ディレクター
ジョーダン・シュナイダー ユーラシアグループリサーチャー

冷戦期を思わせる戦略トライアングルが再び復活しつつある。冷戦期の戦略トライアングルにおける中ロ対立を巧みに利用したのはアメリカだったが、今回のトライアングルでは強い立場を手にしているのは中国だ。北京は、ウクライナ危機に派生する米ロ対立をうまく利用できる立場にある。中国はロシアからのエネルギー供給を確保するだけなく、ロシア市場へのアクセスの強化、ロシアの軍事技術の供与も望んでいる。もちろん、戦略トライアングル内部の対立構図をはっきりと区分できるわけではない。中国にとってアメリカは依然として重要な経済パートナーだし、住民投票で国境線を変えたロシアのやり方を、国内に大きな火種を抱える中国が認めることもあり得ない。だがそれでも、大胆になった中国が、現在の東アジアにおける地域バランサーとしての役割をアメリカが遂行していくのを難しくするのは避けられないだろう。

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