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に関する論文

イラク内戦とイランの立場
――イランが宗派間紛争という言葉を使わない理由

2014年7月号

モフセン・ミラニ 南フロリダ大学戦略外交センター所長

テヘランの目的はバグダッドのシーア派政権を存続させることで、一方、イラク・シリア・イスラム国(ISIS)は純然たるスンニ派国家を樹立したいと考えている。とはいえ、イランは今回の戦闘を「宗派間紛争である」と明確に認めるつもりはなく、ISISのことを外国の支援に依存するタクフィリ(他の宗派を不信心とみなすスンニ派)、あるいはインフィダル(背教徒)と位置づけている。一方で、イランはすでにイラク内戦に深く関与している。イランの革命防衛隊(IRGC)はイラク治安部隊と協力して軍事作戦を主導し、テヘランはシーア派武装集団にも戦闘への参加を促している。長くシリア内戦にも関与してきたイラン軍と武装勢力は、ISISを含むスンニ派武装勢力との十分な戦闘経験をもっている。それでも、テヘランはイラクでの戦闘を「テロとの戦い」として位置づけ、ISISの資金源がサウジであるとも公言していない。その理由は・・・

命運尽きた、タイの政治

2014年6月号

ダンカン・マッカーゴ 英リーズ大学政治学教授

インラック・チナワット首相の解任は予想外の出来事ではない。特定の見方をすれば、近年在任中にポストを追われたこの国の4人目の首相となったに過ぎない。退陣を余儀なくされた首相たちは、すべて同じ政治派閥の出身者たちだ。インラックの兄、タクシン・チナワット元首相は、2006年9月、軍のクーデターで政権の座から追放された。他の2人、サマック・スントラウェートと、ソムチャーイ・ウォンサワットは、2008年に憲法裁判所の判決によって失職している。こうした追放劇がこの国の政治課題の解決に役立つはずはない。その結果、国内の対立を悪化させる正当性を欠いた政権を誕生させ、抗議運動の下地を作ることになる。インラックの失脚も、これと同じ展開をたどるだろう。

プーチンの戦略とヨーロッパの分裂

2014年6月号

マイケル・ブラウン ジョージワシントン大学エリオットスクール学院長

NATOの東方拡大路線がロシアを刺激することはない。この欧米の認識は希望的観測にすぎなかった。欧米との明確な対立路線を選択したプーチンのロシア国内での支持率は高まっており、当面、状況は変化しないだろう。一方、ヨーロッパの安全保障は機能不全に陥っている。しかも、ヨーロッパはロシアからのエネルギー供給に依存している。このため、ロシアにどう対処するかをめぐってヨーロッパ諸国の足並みは乱れている。プーチンは「近い外国」におけるロシア系住民地域をロシアに編入してロシアの勢力圏を確立し、国内の政治的立場を支えるためにも欧米との対決状況を維持していくつもりだ。プーチンの野望、そして脅威の本質を過小評価するのは間違っている。欧米の指導者たちは、プーチンの最終的な戦略目的を見極めて、それに応じた行動をとる必要がある。

変化する中東の経済地図
―― 旧秩序の解体と新経済圏の誕生

2014年6月号

マリナ・オッタウェイ ウッドロー・ウィルソン国際研究センター 上級研究員
デビッド・オッタウェイ ウッドロー・ウィルソン国際研究センター 上級研究員

アレッポからバグダッド、そしてベイルートにいたるまでの広範な中東地域で流血の惨事が続いている現状からみれば、サイクス・ピコ協定を基盤とする中東秩序の崩壊を予測したくもなる。武力衝突は国境を越えて広がり、シリアなど一部の国は崩壊に向かっている。しかし、通商・貿易という、国家関係を変貌させている別の流れが生じていることにも目を向けるべきだ。むしろ、暴力や国家分裂ではなく、石油と天然ガスを中心とする経済の相互利益によって、サイクス・ピコを基盤とする秩序は再編され、穏やかな幕引きへと向かうのかもしれない。このダイナミクスがもっともはっきり認められるのが、イラクのクルド地域とトルコの経済関係で、この展開は古い対立と国境線を克服した新たな経済圏が中東に誕生する可能性を示唆している。

シリア内戦の現状を問う
―ポストアメリカ時代へ向かう中東

2014年6月号

ライアン・クロッカー 元駐シリア米大使
チャールズ・W・ダン フリーダムハウス ディレクター
ポール・ピラー 元米中央情報局 分析官

アメリカがシリア問題への関与を控えているために、中東の指導者たちは、次第にアメリカという要因を外して、意思決定を試み始めている。中東はポストアメリカ時代へと向かいつつある。(C・ダン)

シリア内の反体制武装勢力として大きな役割を果たしているのは、「イラク・シリア・イスラム国(イラクとシャームのイスラム国)」(ISIS)のような過激派だ。このサラフィー派のジハード主義集団は、アルカイダでさえも関係をもつのを嫌がるような残虐行為に手を染めている。・・・サウジはシリア内戦を自国の存亡に関わる問題とみている。彼らは、この戦争をイランとの対立構図のなかで捉えており、アメリカの関与のあるなしに関わらず、戦うつもりでいる。(P・ピラー)

スンニ派を虐殺した1982年のハマーの虐殺以降、アサド政権は、審判の日がいつか訪れるかもしれないと警戒し、審判の日が来れば、少数派であるアラウィ派は、その生存をかけて戦わなければならないことをかねて理解していた。スンニ派であれ、アラウィ派であれ、この事件のことを誰もが覚えている。(R・クロッカー)

21世紀の資本主義を考える
―― 富に対するグローバルな課税?

2014年6月号

タイラー・コーエン ジョージメイソン大学教授(経済学)

西ヨーロッパが19世紀後半に享受した平和と相対的安定は、膨大な資本蓄積を可能にし、先例のない富の集中が生じ、格差が拡大した。しかし、二つの世界大戦と大恐慌が資本を破壊し、富の集中トレンドを遮った。戦後には平等な時代が出現したが、1950年から1980年までの30年間は例外的な時代だった。1980年以降、拡大し続ける格差を前に、トマ・ピケティのように、19世紀後半のような世界へと現状が回帰しつつあると考え、格差をなくすために、世界規模で富裕層の富に対する課税強化を提言する専門家もいる。しかし、大規模な富裕税は、資本主義民主体制が成功し繁栄するために必要な規律や慣習とうまくフィットしない。もっとも成功している市民への法的、政治的、制度的な敬意と支援がなければ、社会がうまく機能するはずはない。

動き出したクリミア後の地政学
―― 中ロの連帯で何がどう変わる

2014年6月号

デビッド・ゴードン ユーラシアグループグローバルマクロ分析ディレクター
ジョーダン・シュナイダー ユーラシアグループリサーチャー

冷戦期を思わせる戦略トライアングルが再び復活しつつある。冷戦期の戦略トライアングルにおける中ロ対立を巧みに利用したのはアメリカだったが、今回のトライアングルでは強い立場を手にしているのは中国だ。北京は、ウクライナ危機に派生する米ロ対立をうまく利用できる立場にある。中国はロシアからのエネルギー供給を確保するだけなく、ロシア市場へのアクセスの強化、ロシアの軍事技術の供与も望んでいる。もちろん、戦略トライアングル内部の対立構図をはっきりと区分できるわけではない。中国にとってアメリカは依然として重要な経済パートナーだし、住民投票で国境線を変えたロシアのやり方を、国内に大きな火種を抱える中国が認めることもあり得ない。だがそれでも、大胆になった中国が、現在の東アジアにおける地域バランサーとしての役割をアメリカが遂行していくのを難しくするのは避けられないだろう。

殺人ロボットを禁止せよ
―― 人間を殺すロボットの脅威

2014年6月号

デニス・ガルシア ノースイースタン大学政治学部准教授

殺人ロボットによる戦争はもはやフィクションの世界の話ではない。近い将来、映画の世界から抜け出して現実になる可能性は十分にある。中国、イスラエル、ロシア、イギリス、アメリカを別にしても世界の50カ国が、殺人ロボットを含むロボット兵器の開発計画をもっている。この領域でもっとも早い進化を遂げているのが中国だ。韓国も赤外線センサーで標的を感知できる安全監視ロボットを北朝鮮との非武装地帯に配備している。各国の軍部は、殺人ロボットがあれば、兵士を危険にさらすことなく、任務を遂行できると考えている。しかしそこにはソフトウエアの欠陥、あるいはサイバー攻撃による誤作動という、これまではなかった新しい問題がつきまとうし、道義的、法的問題も伴う。殺人ロボットが受け入れがたい現実を作り出す危険に今備えない限り、手遅れになる。











「変われない日本」の変化を読む
―― ナナロク世代と改革のポテンシャル

2014年6月号

デビン・スチュワート カーネギー国際問題倫理評議会 シニアフェロー

ここにきて、日本人の多くが「停滞し、変われない日本」も、もはや変わるしかないと考えるようになった。こうした変化を象徴するのがナナロク世代だ。親の世代よりずっとグローバルな感覚をもち、リベラルで個人主義的、しかも起業に前向きな、現在30―40歳代の彼らは、いまや社会的な影響力をもつほどに台頭している。これに呼応して、女性の社会進出が進み、教育制度が開放的になり、市民社会も力強さを増している。右派のナショナリストではなく、新しいエリートたちが成功すれば、日本の政治も永久的に変わるかもしれない。既成政党の指導者が年をとり、ナナロク世代がさらに社会的足場を築いていけば、彼らが今後の選挙で当選できる見込みも大きくなる。日本の政治は、新しい人材と思想を必要としており、ナナロク世代は双方において大きな貢献ができる立場にある。

欧州が対ロ制裁へ踏み込めない理由
―― ロシアとの経済関係か欧州安全保障か

2014年6月号

トム・キーティング 金融・安全保障アナリスト

最終的に、ロシアに対する欧米の経済制裁は十分なものにはならないだろう。厄介なのは、ヨーロッパの指導者たちが直面しているのがロシアからのエネルギー供給の問題だけではないことだ。この20年にわたってロシアとの関係に多くを投資してきたヨーロッパの企業は、ロシアとの経済的つながりを失うことを心配している。政治指導者たちも、経済制裁を通じてプーチンの対外路線を変化させる必要があると感じつつも、「制裁によって自国が経済的やけどを負うのではないか」と心配している。こうして、ヨーロッパはロシアに対する経済制裁をめぐって分裂し、結局は消極的な態度に終始している。他に選択肢がない状況に陥らない限り、ヨーロッパの政治家たちは自国の企業と産業を守ることを優先するだろう。

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