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に関する論文

悪いのはロシアではなく欧米だ
―― プーチンを挑発した欧米のリベラルな幻想

2014年9月号

ジョン・ミアシャイマー シカゴ大学教授

ロシアの高官たちはワシントンに対してこれまで何度も、グルジアやウクライナを反ロシアの国に作り替えることも、NATOを東方へと拡大させるのも受け入れられないと伝えてきたし、ロシアが本気であることは2008年にロシア・グルジア戦争で立証されていた。結局のところ、米ロは異なるプレーブックを用いている。プーチンと彼の同胞たちがリアリストの分析に即して考え、行動しているのに対して、欧米の指導者たちは、国際政治に関するリベラルなビジョンを前提に考え、行動している。その結果、アメリカとその同盟諸国は無意識のうちに相手を挑発し、ウクライナにおける大きな危機を招き入れてしまった。状況を打開するには、アメリカと同盟諸国は先ず「グルジアとウクライナをNATO拡大策から除外する」と明言する必要がある。

キリスト教民主主義の衰退とヨーロッパ統合の未来

2014年9月号

ヤン・ベルナー・ミューラー
プリンストン大学教授(政治学)

ヨーロッパのキリスト教民主主義者は、本質的に超国家主義的なカトリック教会同様に、国際主義志向が強く、国民国家を重視しなかった。欧州連合(EU)に象徴される戦後ヨーロッパでの超国家主義構造の形成を主導し、統合を目指すヨーロッパ政治におけるキープレイヤーとして活動したのも、こうした理由からだ。だが、ここにきて、キリスト教民主主義は力を失ってしまったようだ。その理由はヨーロッパ社会の世俗化が進んでいるからだけではない。イデオロギー的にキリスト教民主主義の最大の敵の一つであるナショナリズムが台頭し、その中核的な支持基盤である中間層と農村部の有権者が縮小していることも衰退を説明する要因だろう。欧州統合というヨーロッパの大プロジェクトが新たな危機に直面しているというのに、キリスト教民主主義は、その擁護者としての役目をもう果たせないかもしれない。

論争 ブラジル経済の将来

2014年9月号

シャノン・オニール/米外交問題評議会ラテンアメリカ研究担当 シニア・フェロー
 リチャード・ラッパー/「ブラジル・コンフィデンシャル」発行責任者
 ラリー・ローター/『台頭するブラジル―変革期にある国の物語』の著者
 ロナルド・レモス/プリンストン大学情報技術政策センターフェロー 
ルチール・シャルマ /モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント

<論争の背景>
モルガン・スタンレーのルチール・シャルマがフォーリン・アフェアーズ誌で発表した「ブラジル経済の奇跡の終わり ―― 社会保障か経済成長か」(フォーリン・アフェアーズ・リポート2012年6月号)は世界的に大きな話題となった。誰もが、先進国経済が停滞するなか、今後、グローバル経済を牽引していくのは、ブラジルを含む新興国だと考えていたからだ。 だが、シャルマは「急成長を遂げる中国の資源需要に牽引されてきたブラジル経済は、中国経済の停滞とともに、下降線をたどる」と予測した。 ブラジル経済の成長軌道は、国内の石油、銅、鉄鉱石など、世界の原材料市場における需要の拡大軌道とほぼ重なりあっていると指摘したシャルマは、「経済の停滞を回避するために、ブラジル政府がリスクをとり、経済を開放し、社会的安定と経済拡大のバランスをとる方法を見つけださない限り、未来は切り開けない」と主張し、「新興市場諸国が簡単に成長できた時代、原材料価格の高騰が支えた経済成長の時代、そして社会保障を優先してもブラジルがかろうじて4%の成長を実現できた時代は終わろうとしている」と分析した。「開放と改革を進めない限りブラジルの経済成長も社会的安定も損なわれていくことになる」と。 以下は、シャルマの論文に対する4人の専門家による反論と、シャルマの再反論。(FAJ編集部)

「ロシアか欧米か」に揺れるバルカン諸国 ―― ブリュッセルへの遠い道のり

2014年8月号

エドワード・P・ジョセフ ジョンズホプキンス大学 ポールニッツスクール シニアフェロー
ヤヌス・ブガイスキ 欧州政策分析センター シニアフェロー

シアはバルカン半島の民族対立、そしてNATOとEUへの参加を果たしていない国の脆さにつけ込める状況にある。NATOやEUへのバルカン諸国の加盟をめぐってヨーロッパが優柔不断な態度をとり続け、アメリカもリーダーシップを発揮しないままであれば、バルカンにおけるロシアの選択肢を模索するプーチン大統領を大胆にするだけだろう。ロシアが策略を用いることのできる対象はモンテネグロだけではない。すでにロシアはボスニア・ヘルツェゴビナのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)への影響力も強化している。NATOが加盟問題を放置し続けているマケドニアでも状況は不安定化している。民族的に分裂したマケドニアで不満が高まれば、隣国のコソボにもその余波が及ぶ。・・・・

不満と反発が規定する世界

2014年8月号

マイケル・マザー 米国防大学教授

いまや世界の主要な安全保障リスクは、怒りや反発に支配された国や社会、あるいは、社会に疎外され、取り残されて不満を募らせる集団によって作り出されている。今後、安全保障上の脅威は、傷つけられたと感じ屈辱を抱く人々が、それを克服し、自分の価値を取り戻そうと試みるプロセスのなかで出現するようになるだろう。イラク、シリア、パキスタン、そしてヨーロッパ東部における最近の展開には、このトレンドが共通して認められる。ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナにおけるパワープレイも、これまでロシアを軽くあしらってきた欧米に対する積年の恨みを映し出している。中国も例外ではない。不満や反発が中国社会に充満していることは、メディアの報道や大衆文化、さらには教科書の記述やラディカルなネチズンによる過激な書き込みからも明らかだ。さらに日本やインド、そして西ヨーロッパでもナショナリズムが台頭している・・・

ガザ侵攻とイスラエルの戦略的敗北
―― ハマスはすでに勝利を手にしている

アリエル・イラン・ロス イスラエル・インスティチュート エグゼクティブ・ディレクター

ハマスとイスラエルの紛争がいつどのような形で決着しようと、イスラエルが戦術的な勝利を収めること、そして戦略的に敗北を喫することはすでに明らかだ。イスラエル側は、「今回の紛争の終結時に有利な政治状況は作り出せないかもしれないが、少なくともハマスが戦略目的を達成することはない」と考えているようだ。「イスラエル人の犠牲者が少ない以上、それはハマスの敗北を意味する」と。だが、この見方は間違っている。ハマスの戦略目的は「イスラエル人の日常を揺るがすこと」にある。「パレスチナ問題が政治的膠着状態に陥っても、大きなコストを抱え込むことはない」というイスラエル市民の幻想はすでに突き崩されている。しかも、ハマスのロケット攻撃の被害者としてのイスラエルは、侵攻策をとったことでいまや加害者とみなされている。・・・・

ロシアと民間航空機撃墜事件

スティーブン・セスタノビッチ 米外交問題評議会シニアフェロー

ロシアの指導者、政策決定者、外交官たちは、おそらくこの数十年、あるいは半世紀というスパンでみても、もっとも困難な事態に直面している。プーチンは身動きのとれない状況に追い込まれている。(民間航空機撃墜)事件との関わりを否定したが、前言を覆さざるを得ない状況に追い込まれつつある。これは、血気盛んな軍事要員が軍事ターゲットと民間航空機を誤認して撃墜してしまったとして片付けられる問題ではない。致命的な間違いは、クリミアのケースを前提に、親ロシア派の軍事能力を強化し続けても、代価を支払わされることはないとプーチンが考えてしまったことだろう。結局、今回の事件で、ロシアがウクライナにおける内戦を煽り立てていたことが白日の下にさらされてしまった。(聞き手はバーナード・ガーズマン、consulting editor, cfer.org)

イラクの混乱と石油市場

2014年8月号

ジョン・スファキアナキス MASIC チーフインベストメントストラテジスト

スンニ派武装勢力の攻勢がイラク原油の供給を混乱させ、原油価格は大きく変動することになるのか。すでに原油価格は過去10カ月で最高のレベルへと上昇している。しかし、パニックに陥る必要はない。仮にイラクからの輸出が今後長期的に大きく混乱しても、需給ギャップを埋めるためにできることは数多くある。その最大のツールがサウジの生産調整能力だ。しかも、産油国の財政を均衡させるために必要とされる原油産出(輸出)レベルは上昇し続けている。リヤドは、イラク危機が供給の混乱を生じさせるかどうかに関係なく、自国の財政上の理由から生産を強化せざるを得ない状況にある。・・・

中韓は戦略的パートナーになれるか
――北朝鮮、日本、アメリカと中韓関係

スコット・スナイダー 米外交問題評議会シニアフェロー

東京では、「韓国はアメリカや日本との関係よりも中国との関係を優先させるのではないか」と考えられている。だが、両国の経済関係の深化をバックに、習近平と朴槿恵が今後の中韓関係をどのように形作っていくつもりなのか、そしてその目的をどこに据えているのかは、依然としてはっきりない。韓国は半島統一に向けた主導権をとりたいと考え、一方、中国は北朝鮮を完全に見捨てるのを躊躇っている。日本の歴史問題をめぐっても、中国は韓国との共闘路線に前向きだが、韓国はむしろ日本との問題はアメリカを交えて対処したいと考えている。・・・

米金融政策の国際的衝撃
―― 量的緩和縮小と新興国経済

2014年8月号

ベン・ステイル 米外交問題評議会シニアフェロー

ユーロ圏以外の世界の貿易決済の大部分、そして外貨準備の60%には依然として米ドルが利用されており、当然、FRBの金融政策の変更は、グローバル市場に瞬時に大きな影響を与え、途上国へのキャピタルフローを極端に変化させ、途上国通貨の米ドルに対する価値は激しく変動する。この意味において、途上国の金融政策上の主権は事実上形骸化している。実際、連邦準備制度が資産の買い入れを縮小していくと示唆しただけで、投資家が資金を途上国から引き揚げて米国内の安全な投資先へと移動させたために、途上国の債券・通貨市場は大きな混乱に陥った。問題は、連邦準備制度が政策の判断にその国際的余波を考慮することは法的に想定されていないこと。そして、IMFを別にすれば、その余波を防ぐためのチェンマイ・イニシアティブやBRICS開発銀行構想が依然として実体を伴っていないことだ。・・・

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