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に関する論文

市場経済・民主主義は淘汰されたのか
―― 旧共産圏改革に関する幻想と現実

2015年1月号

アンドレイ・シュライファー ハーバード大学教授(経済学)
ダニエル・トレーズマン カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) 教授(政治学)

旧東側諸国では「市場経済・民主主義モデルへの移行をうまく成功させられなかった。機会をフイにしてしまった」という喪失感が漂っている。年金生活者が苦しむ一方で、少数の新興財閥が誕生している。選挙では不正が横行し、政治は独裁者に牛耳られている。中国の台頭やグローバル金融危機に衝撃を受けた一部の専門家は、「権威主義的国家資本主義が、機能不全に陥ったリベラルな民主主義に対する力強い代替策を提供している」とさえ考えるようになった。だが、この認識は間違っている。むしろ、旧東側諸国の暮らしは劇的に改善している。市場経済・民主主義体制に移行して以降、これらの国は急速な成長を遂げ、いまや人々の暮らしはこれまでよりもはるかに豊かになった。寿命も伸び、幸せに暮らしている。市場改革、民主化努力、そして政治腐敗との戦いは、完全ではなかったにせよ、失敗ではなかった。・・・・

2015年
―― 波乱の年の国際情勢

2015年1月号

ジェームズ・リンゼー 米外交問題評議会研究部長

2014年に発生した様々な紛争や問題、例えば、ウクライナ東部の分離独立運動、イラクとシリアにおけるイスラム国の台頭、イスラエルとパレスチナの緊張は今後も続くだろう。さらに、事態が間違った方向へと向かえば、南シナ海、北朝鮮、インド・パキスタンというフラッシングポイントで新たに紛争が起きる危険もある。経済領域にも暗雲が立ち籠めている。ヨーロッパと日本はリセッ ションの瀬戸際を彷徨っている。ヨーロッパではソブリンリスクが再燃し、欧州連合の未来にも暗雲が立ち籠めている。中国の成長率は鈍化し、北京が管理しなければならない国内的な圧力はますます高まっている。一方でロシア、ベネズエラ、ナイジェリアを含む産油国は、原油価格の低下によって追い込まれている。・・・

イスラム国のエジプトへの拡大

2015年1月号

カリル・アルアナニ ジョンズホプキンス大学 ポール・ニッツスクール非常勤教授(中東研究)

2014年11月、シナイ半島北部を拠点に活動するエジプトのイスラム過激派組織アンサル・ベイト・アル・マクディス(エルサレムの支援者)は、イスラム国(ISIS)とその指導者であるアブ・バクル・アル・バグダディへの忠誠を誓うと表明し、イスラム国との事実上の同盟関係に入った。これによってエジプトに足場を確保したイスラム国は、今後さらに大きな影響力を手にするかもしれない。アラブ世界における主導国として政治・文化的地位を確立しているだけでなく、イスラエルと国境を接しているだけに、エジプトはイスラム国が目指すカリフ制イスラム国家建設に向けたきわめて重要なアセットになる。ユダヤ国家を攻撃すれば、アラブ世界におけるイスラム国の活動はさらに正当化される。・・・

ルーブルショックとプーチンのジレンマ
――欧米に譲歩するか、ソビエトに回帰
するか

2015年1月号

ダニエル・クラウド プリンストン大学講師(哲学)ファイアーバード・ファンドカンタリアン・キャピタルマネジメント共同設立者

米連邦準備制度が金融政策の正常化を試み始めた2014年夏以降、原油価格は低下し始め、1年前と比べて原油価格の水準はいまや半分へと低下している。ロシアの輸出利益の3分の2は原油輸出収益であり、当然、モスクワが巨大な貿易黒字を維持していけるはずはない。控えめにみても、2015年にはロシア経済の規模は少なくとも4%縮小する。すでにインフレ率は8%を超え、今後さらに悪化していく。プーチンが何をしようと、この低い水準の原油価格ではルーブルが深刻な危機から脱することはできない。しかも、ロシアの外貨準備は急速に枯渇しつつある。・・・早い段階でプーチンが欧米との関係を修復すれば、1998年のようなルーブルのクラッシュは回避できるかもしれないが、それには大きな政治コストが伴う。一方、プーチンが現在のコースを維持し、権力を維持していくつもりなら、法の支配に基づく政府という体裁をかなぐり捨て、ソビエト流の警察国家を再構築するしかない。・・・

孤立した一本の矢
―― 量的緩和の国際的政治・経済リスク

2015年1月号

ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェロー

アナリストの多くは、2014年12月の解散総選挙を契機に、安倍政権が構造改革に積極的に取り組むことを期待している。だが、今後、日本政府が構造改革に向けたイニシアティブをとっても、既得権益集団が依然として力をもち、改革への政治的障害が存在するために、その焦点は選挙制度の改正や地域安全保障の問題へと置き換えられ、構造改革を支える政治的エネルギーが奪われてしまうかもしれない。とはいえ、アベノミクスの第3の矢(構造改革)が進展しなければ、日本経済の成長のすべては量的緩和に依存することになる。そして、量的緩和と明らかに連動している円安が、2015年に向けて、通貨戦争のリスクを高め、世界の通貨市場を緊張させることになるかもしれない。さらに、これまでも貿易条約の批准に際しては為替レートのミスアラインメントへの対応を厳格に義務づけてきた米議会が、円安ドル高問題を取り上げれば、TPP交渉にも暗雲が立ち込めることになる。・・・

2015年世界経済アウトルック

2015年1月号

ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェローダミアン・マ ポールソン研究所エドワード・アーデン 米外交問題評議会シニアフェロー

2015年にヨーロッパは数多くの内外の問題に新たに直面する。緊縮財政に対する大衆の不満が高まり、拒絶主義的な政治運動がさらに勢いを増すだろう。しかも、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イギリスで選挙が予定されており、市民たちが現状への不満を示す十分な機会が存在する。この意味で、ギリシャが再び今後を占う先行指標の役割を果たしている。選挙の結果、ギリシャとヨーロッパが衝突コースへ向かう危険もある。(R・カーン)

中国経済にとって、2015年は変化とシステム移行の年になる。中国経済の高度成長時代は終わりつつあり、いまや、GDP成長率がこれまでのようには重視されない経済開発の「ニューノーマル」へと向かいつつある。(D・マ)

2015年には、グローバル貿易の自由化をめぐって、この20年間で最大のブレイクスルーが起きる可能性も、一方で、もっとも深刻な失敗に直面する恐れもある。いずれにせよ、穏当な成功と後退を何度も長期的に繰り返した後、2015年はグローバルな自由貿易の大きなターニングポイントになるかもしれない。(E・アーデン)

欧米はロシアへの約束を破ったのか
―― NATO東方不拡大の約束は存在した

2014年12月号

ジョシュア・R・I・シフリンソン  テキサスA&M大学准教授

「NATOゾーンの拡大は受け入れられない」と主張するゴルバチョフ大統領に、ベーカー米国務長官は「われわれも同じ立場だ」と応えた。公開された国務省の会議録によれば、ベーカーはソビエトに対して「NATOの管轄地域、あるいは戦力が東方へと拡大することはない」と明確な保証を与えている。この意味ではNATOを東方に拡大させないという約束は明らかに存在した。約束は文書化されなかったが、東西ドイツは統合し、ソビエトは戦力を引き揚げ、NATOは現状を維持する。これが当時の了解だった。ドイツ統一に合意すれば欧米は(NATOの東方拡大を)自制するとモスクワが考えたとしても無理はなかった。しかし、「ワシントンは二枚舌を使ったという点で有罪であり、したがって、モスクワのウクライナにおける最近の行動も正当化される」と考えるのは論理の飛躍がある。・・・・

CFR Meeting
証言 いかに冷戦は終結したか
―― ドイツ再統一とNATO加盟問題

2014年12月号

ロバート・ブラックウィル/米外交問題評議会シニアフェロー
ビタリー・チュルキン/ロシア国連大使
フランク・エルベ /元ドイツ外務省政策企画部長

「ゴルバチョフとシュワルナゼは、経済的にも社会的にもソビエトが深刻な状態に陥っていることを理解していた。・・・ソビエトの指導者たちは、アメリカを中心とする欧米との新しい関係が、ソビエトの経済問題を解決する助けになると考えていた」。(フランク・エルベ)

「あまりに性急に交渉を進めれば、ソビエト市民がまだ事態を受け入れる準備ができていないために、ドイツ再統一も見果てぬ夢に終わる。交渉を過度に緩慢なものにすれば、ゴルバチョフに敵対する勢力が連帯し、この場合も統一は実現しない。これがシュワルナゼの立場だった」。(ロバート・ブラックウィル)

「ゴルバチョフは、自分自身が批判的な体制を維持したいとは考えていなかったし、ある意味では自分が政治的に生き残りたいとは考えていなかった。だから、(東ヨーロッパへの軍事介入を選ばず)状況を流れに委ねることを選んだ」。(ビタリー・チェルキン)

当時、ドイツ人の多くは「NATO加盟にこだわれば、再統一は実現しない」と考えていた。他に再統一を果たす道筋がなかったために、中立国家になるしかないと感じていた。 だが、12月12日にベルリンで演説したベーカー国務長官は「統一を果たしたドイツがNATOに加盟することを条件に、ワシントンはドイツ再統一を支援する」と表明した。これによって、西ドイツ政府は非常に苦しい立場に追い込まれた。統一とNATO加盟を両立させる方法はないと感じていたからだ。 (フランク・エルベ)

シリア紛争への直接的軍事介入?
―― さらに踏み込むべきか、現状で踏みとどまるべきか

2014年12月号

スティーブン・サイモン 中東研究所シニアフェロー

(反政府勢力とアサド政権の双方と戦っている)イスラム国に対する空爆作戦を実施しつつも、ワシントンはシリア内戦の直接的プレイヤーにならないように細心の注意を払ってきた。特に、シリア政府を実質的に助けているとみなされたり、あるいは、シリア政府を倒す戦いに加担しているとみなされたりしないように心がけてきた。だが、ワシントンは、このどちらかを選ばざるを得ない状況に、程なく直面するだろう」。ここにおける基本的問題は次のようなものだ。(イスラム国対策として)アメリカが支援している非ジハード主義反政府勢力の一つが、アサド政権に対抗していくための支援を求めてきたら、どうするか。そうした反政府勢力を支援しなければ、イスラム国をターゲットとする空爆作戦を支持している諸国も、アメリカへの態度を変えることになる。だがワシントンが要求を受け入れれば、アメリカは内戦を戦う本当のプレイヤーになってしまう。

ギリシャを搾取したオリガークたち
―― 改革なき緊縮財政の悲劇

2014年12月号

パブロス・エレフセリアディス オックスフォード大学准教授

ギリシャは緊縮財政を実行し、経済再生を果たしつつあるかにみえる。しかし、ギリシャ経済は依然としてヨーロッパでもっとも閉鎖的で競争力に乏しく、大きな経済格差問題を抱えている。市民が緊縮財政のなかで困窮する一方で、政府は今も改革を先送りしている。依然として一握りの裕福な一族、オリガーク(少数の特権階級の支配者)たちがギリシャの政治を支配し、特権的立場を維持し、権力がもたらす恩恵を政治家たちと共有している。専門職団体と公的部門の労働組合という既得権益集団も存在する。極右・極左勢力が台頭しかねない社会・経済環境にあるというのに、それでもオリガークと既得権益層は、ギリシャだけでなく他のヨーロッパ諸国さえも犠牲にして、恩恵を手にし続けている。

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