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に関する論文

新しい現実と主権国家の行方
―― ウエストファリアとキッシンジャーの世界

2015年4月号

ウォルフガング・イッシンガー
元駐米ドイツ大使

中東ではシリア内戦によって数十万人が犠牲になり、いまやジハード主義勢力が中東全域を脅かしている。アジアでも、経済的台頭を遂げた中国が強硬路線をとるようになり、近隣諸国はこの動きを警戒している。西アフリカではエボラ出血熱が数カ国を機能不全に追い込んでいる。ルールを重んじ、もっとも制度化が進んでいるヨーロッパのリベラルな規範も、プーチン大統領が軍事的侵略をロシアの国策として復活させたことで、大きな圧力に晒されている。一方、これまでにグローバル秩序の擁護者の役割を果たしてきた欧米、特にアメリカがその役割を果たすことを躊躇っている。しかも、台頭途上にある新興大国は、これまでのところ国際的安定を擁護していく意思も能力ももっていない。キッシンジャーなら、この現状をどう考えるだろうか。

解体したヨーロッパ市民社会
―― 多文化主義と同化政策はなぜ
失敗したか

2015年4月号

ケナン・マリク
インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト

多文化主義と同化主義は、社会の分裂に対する二つの異なる政策処方箋だが、結局、どちらもヨーロッパの社会状況を悪化させてきた。英独は多文化主義政策を、フランスは同化政策を導入した、だが、イギリスではコミュニティ同士の衝突がおき、ドイツのトルコ人コミュニティは社会の主流派からさらに切り離され、フランスでは当局と北アフリカ系コミュニティの関係が険悪になった。しかし、社会が分裂し、マイノリティが疎外され、市民の怒りが高まっている点では各国は同じ状況にある。理想的な政策は「多文化主義の多様性を受容する側面と、同化主義の誰でも市民として扱う側面を結合させることだろう」。だが、ヨーロッパ諸国はその正反対のことをやってきた。多文化主義と称してコミュニティをそれぞれの箱に閉じ込めるか、同化主義と称してマイノリティを主流派から疎外してきた。この政策が分断を作り出してしまった。

人道的介入で破綻国家と化したリビア
―― なぜアメリカは判断を間違えたのか

2015年4月号

アラン・J・クーパーマン テキサス大学准教授(政治学)

NATOが軍事介入するまでには、リビア内戦はすでに終わりに近づいていた。しかし、軍事介入で流れは大きく変化した。カダフィ政権が倒れた後も紛争が続き、少なくとも1万人近くが犠牲になった。今から考えれば、オバマ政権のリビア介入は惨めな失敗だった。民主化が進展しなかっただけでなく、リビアは破綻国家と化してしまった。暴力による犠牲者数、人権侵害の件数は数倍に増えた。テロとの戦いを容易にするのではなく、いまやリビアは、アルカイダやイスラム国(ISIS)関連組織の聖域と化している。「もっと全面的に介入すべきだった。社会を再建するためにもっと踏み込んだ関与をすべきだった」とオバマ大統領は語っている。だが、実際には、軍事介入の決定そのものが間違っていた、リビアには軍事介入すべきでなかった。

CFR Interview
内戦への道を歩むイエメン
――シーア派系フーシ派の目的は何か

2015年4月号

エイプリル・ロングレー・アレイ
国際危機グループ

2015年1月、イエメンでイスラム教シーア派系武装勢力「フーシ派」が権力を掌握し、議会を解散して暫定政府の樹立を宣言した。しかし、政治的経験のないフーシ派には、政府を運営し、経済を管理していく力はない。これまでの問題を批判するだけで、統治上の責任はほとんど果たせずにいる。一方でイエメンのスンニ派系テロ集団・アラビア半島のアルカイダ(AQAP)は、紛争を宗派抗争へ持ち込もうと策謀している。実際、フーシ派を侵略者とみなしているイエメン中央部のバイダー県を含む地域では、いまやAQAPに多くの若者が参加しつつある。地方の部族がAQAPと手を組む可能性もある。サウジは、外交的にフーシ派を孤立させ、彼らと軍事的に対立している集団を支援し、フーシ派に明確に敵対する路線をとっている。一方で、危機を緩和させるためにシーア派のイランが前向きな行動をみせるとも考えにくい。いまや宗派を軸とするイエメン内戦のリスクが高まっている。・・・

中国経済はなぜ失速したか
―― 新常態を説明する二つの要因

2015年4月号

サルバトーレ・バボネス
シドニー大学上級講師

中国経済の成長率鈍化を説明する要因は二つある。一つは出生率の低下、もう一つは都市への移住ペースの鈍化だ。たしかに、1970年代の出生率の低下は経済成長の追い風を作り出した。一人っ子政策で、扶養すべき子供が1人しかいない親たちはより多くの時間を労働に充てることができた。だが40年後の現在、いまや年老いた親たちは引退の年を迎えつつあり、しかも子供が親を支えていくのは不可能な状態にある。都市への移住ペースの鈍化も中国の経済成長率を抑え込んでいる。1980年当時は、総人口の5分の1を下回っていた中国の都市人口も、いまや全体の過半数を超え、しかも主要都市の空室率が上昇していることからみても、都市化はいまや上限に達している。要するに、中国の経済ブーム・高度成長の時代は終わったのだ。今後成長率はますます鈍化し、2020年代には中国の成長率は横ばいを辿るようになるだろう。

ウクライナを救うには
―― 武器支援ではなく、経済援助を

2015年3月号

ラジャン・メノン ニューヨーク市立大学教授(政治学)、キンバリー・マルテン バーナード・カレッジ教授(政治学)

ウクライナ紛争をめぐる今回の停戦合意も、前回同様に破綻するかもしれない。そうなれば、オバマ政権はウクライナへの武器供与を求める、これまで以上に大きな圧力にさらされるだろう。すでに米政府高官の一部は、ウクライナへの武器支援を主張し始めている。だが、武器を提供すれば、ウクライナ東部の紛争は長期化し、アメリカの兵器が他の勢力へと流れる恐れもある。紛争の長期化でロシアを経済的にさらに追い込めると主張する人々もいる。だが、ウクライナ経済はロシア経済以上に深刻な状態にあり、破綻の瀬戸際にある。紛争の長期化が、経済崩壊に直面するウクライナを助けるだろうか。ロシアに懲罰を与えようと、武器を提供して紛争を長期化させ、結果的にウクライナを苦しめるとすれば、プーチンの仕事を彼に成り代わってするようなものだ。アメリカが武器を提供すれば、ウクライナを助けるのではなく、傷つけることになる。

欧州連合を崩壊から救うには
―― 緊縮財政から欧州版三本の矢へ

2015年3月号

マティアス・マティス ジョンズ・ホプキンス大学ポール・ニッツスクール准教授、R・ダニエル・ケレメン ラトガース大学教授(政治学)

いまやヨーロッパ市民はヨーロッパ統合プロジェクトの成果を忘れ去り、EUのことを無能な指導者が率い、経済的痛みを市民に強いる組織だと考えている。かろうじて持ち堪えてはいるが、EUは勢いとソフトパワーを失っている。いまや大胆で奥深いアジェンダを掲げるときだ。先ず経済政策の焦点を緊縮財政から投資と成長へと見直していくべきだ。EUの指導者たちは日本の安倍晋三首相が試みている「3本の矢」に目を向け、量的緩和、景気刺激策、構造改革を組み合わせて実施する必要がある。安全保障と自由主義的価値の領域では、外にロシア、内にハンガリーという脅威を抱え、イギリスのEU脱退という問題にも直面している。だが危機を連帯の機会とみなすべきだ。EUの指導者たちは、経済、安全保障、民主主義をめぐって連帯すればヨーロッパはより強くなれるという自信を取り戻す必要がある。

プーチン・システムの黄昏
―― 民衆蜂起、クーデター、分離独立運動

2015年3月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授(政治学)

大統領に就任した当時、エネルギー価格が高騰していたことに乗じて、プーチンは450億ドルを着服したが、それでもロシアの生活レベルを引き上げられるだけの歳入が国庫に残されていた。ロシア軍は増強され、プーチンの側近たちも甘い汁を吸った。だがいまや環境は大きく変化した。原油価格は崩壊し、今後上昇へと転じる気配もない。欧米の制裁によるダメージも大きくなり、いまやロシア経済の規模は縮小しつつある。いずれプーチンは予算削減に手をつけざるを得なくなる。しかし、(ウクライナ危機のなかにある以上)軍事費は削れない。(政治的支持をつなぎ止めるために)社会保障費も削れないとなると、唯一のオプションは、側近たちが国家から資金をかすめ取るのを止めさせることかもしれない。ここでシロヴィキによるクーデターのシナリオが浮上する。民衆蜂起が起きる可能性も、非ロシア系地域で分離独立運動が起きる危険もある。・・・・・プーチン体制はいずれ崩壊する。

ハンガリーの独裁者
―― ヴィクトル・オルバンの意図は何か

2015年3月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン ノースイースタン大学教授(政治学)、ピーター・クレコ 政治資本研究所 ディレクター、アティラ・ユハス 政治資本研究所 シニアアナリスト

ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、国内で民主的制度を傷つける政策をとり、対外的にも第一次世界大戦後に喪失した領土の回復を模索するかのような路線をとっている。「外国で暮らすハンガリー系住民にパスポートを発行し、投票権を与えること」を目的に一連の法律を成立させた彼は、周辺国の同胞たちに自治権を模索するように呼びかけている。モスクワがウクライナやアブハジアのロシア系住民にロシアの市民権を与えたことが、その後の侵略の布石だったことを思えば、オルバンの言動に専門家が戦慄を覚えたとしても不思議はない。だが、彼の意図は、ウラジーミル・プーチンのそれとは違うようだ。民族主義の視点から失われた領土を取り戻すことよりも、オルバンはむしろ選挙での政治的優位を確保することを重視している。問題は、これまでのところ彼の戦略が機能しているとはいえ、いずれそのデリケートなバランスが崩れるかもしれないことだ。

トルコの対シリア戦略とヌスラ戦線
―― なぜトルコはテロ集団を支援するのか

2015年3月号

アーロン・ステイン 英王立防衛安全保障研究所アソシエートフェロー

トルコ政府がシリアのアサド政権へのアプローチをそれまでの関与政策から強硬策へと見直したのは2011年9月。それまで、アサドに対して改革を実施して国内を安定させるように働きかけてきたトルコ政府も、この時期を境に、シリアの独裁者を追放する地域的な試みに積極的に関与するようになった。シリアとの国境地帯に緩衝地帯を設けて、反政府勢力に委ね、自由シリア軍がアサド政権に対抗できるライバル政府を樹立することを期待したが、アメリカと湾岸諸国がこの構想に反対し、計画は頓挫する。こうしてトルコ政府は2012年の晩春以降、アレッポをターゲットにした反政府勢力による攻撃の組織化に乗り出した。自由シリア軍による作戦行動を支援しようと、トルコとカタールは(アサドとの戦いで自由シリア軍と実質的に共闘関係にあった)ヌスラ戦線と直接的に接触するようになった。・・・

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