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に関する論文

イラン核合意と北朝鮮の教訓
―― 合意を政治的に進化させるには

2015年5月号

ジョン・デルーリー 延世大学准教授

イランとの核合意にとって、北朝鮮への核外交が失敗したことの中核的教訓とは何か。それは、最善の取引を交わしたとしても、合意そのものは外交ドラマのプレリュードにすぎないということだ。テヘランが平壌と同じ道を歩むのを阻むには、今後、テヘランがこれまでとは抜本的に異なる新しいアメリカや地域諸国との関係、国際コミュニティとの関係を築いていけるようにしなければならない。アメリカは北朝鮮との核合意を結びながらも、政治的理由から合意を適切に履行せず、結局、北朝鮮は核開発の道を歩み、核保有を宣言した。米議会からリヤド、エルサレムにいたるまで、イランとの核合意に反対する勢力がすでに動きだしている。相手国との関係の正常化こそが、核開発の凍結を実現する最善の方法であることを忘れてはならない。そうできなかったことが北朝鮮外交失敗の本質であり、この教訓をイランとの外交交渉に生かしていく必要がある。

CFR Interview
アジアインフラ投資銀行
―― 国際経済秩序への挑戦か協調か

2015年5月号

ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は各国のインフラ改善を目的に掲げ、他の国際機関と協力していくと表明している。とはいえ、この構想は既存のグローバル金融機関における改革が進展しなかったことに対する中国の不満に根ざしている。この意味では、AIIBは、BRICS銀行とともに、既存の国際経済秩序に対する中国の挑戦とみなせる。一方、ヨーロッパ諸国がAIIBへの参加を決めたのは、その活動と既存の国際機関の活動との一体性を持たせるには、外にいるよりも参加して内側にいた方がよいと判断したからだ。ワシントンが次第にこの構想をめぐって孤立しつつあることは否定できない。理屈上はAIIBが世界銀行やアジア開発銀行と共同出資して投資プログラムを進めることもできるが、現実にどうなるかは分からない。現在のAIIBは勢いをもっているが、今後、融資基準の劣化、投資プロジェクトの選択ミスなどの問題に直面していくはずで、こうした問題を経験することなく、AIIBが拡大していくとは考えにくい。(聞き手はEleanor Albert , Online Writer and Editor)

ユーラシアで進行する露欧中の戦略地政学
――突き崩されたヨーロッパモデルの優位

2015年5月号

アイバン・クラステフ ルーマニア自由戦略センター所長
マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会理事

ベルリンの壁崩壊以降、ヨーロッパはEUの拡大を通じて、軍事力よりも経済相互依存を、国境よりも人の自由な移動を重視する「ヨーロッパモデル」を重視するようになり、ロシアを含む域外の近隣国も最終的にはヨーロッパモデルを受け入れると考えるようになった。だが、2014年に起きたロシアのクリミア侵攻によってその前提は根底から覆された。しかも、ウクライナへの軍事援助をめぐって欧米はいまも合意できずにいる。一方でプーチンは、ハンガリーを含む一部のヨーロッパ諸国への影響力を強化し、ユーラシア経済連合構想でEUに対抗しようとしている。だが、ウクライナをめぐるロシアとの対立にばかり気をとられていると、思わぬ伏兵・中国に足をすくわれることになる。海と陸のシルクロード構想を通じて、ユーラシアを影響圏に組み込もうと試みる中国は、ウクライナ危機が進行するなか、すでに東ヨーロッパでのプレゼンスを高めることに成功している。

日中軍事衝突のリアリティ
―― 日中危機管理システムの確立を急げ

2015年5月号

アダム・P・リッフ インディアナ大学助教(国際関係論)
アンドリュー・S・エリクソン 米海軍大学准教授(戦略研究)

東シナ海をめぐる日中関係は、一般に考えられている以上に緊張している。中国軍の高官が言うように、「わずかな不注意でさえも」、世界で2番目と3番目の経済国家間の「予期せぬ紛争に繋がっていく恐れがある」。もちろん、日中はともに紛争は望んでいない。だが、東シナ海の海上と上空の環境が極端に不安定である以上、誤算や偶発事件が大規模な危機へとエスカレートしていく危険は十分にある。世論調査結果をみても、日中間の敵意はこれまでになく高まっている。しかも、偶発的衝突を制御していく力強い危機管理メカニズムが存在しない。中国軍と自衛隊の高官たちでさえも、危機エスカレーションリスクが存在することを懸念している。危機管理メカニズムが必要なことは自明だが、日中両国にそれを導入する政治的意思があるかどうか、依然として不透明な状況にある。・・・

実用化に近づいたソーラーパワー
―― なぜソーラーは安く実用的になったか

2015年5月号

ディッコン・ピンナー マッキンゼー サンフランシスコ・オフィス ディレクター、マット・ロジャース マッキンゼー サンフランシスコ・オフィス ディレクター

いまやソーラーパワーは他の電力資源と価格的に競い合えるレベルに近づきつつあり、2050年までにソーラーエネルギーは、世界の電力の27%を生産する最大のエネルギー資源になると予測されている。ソーラーパワーの急激な台頭を説明する要因としては、政府の促進策、低価格化と効率化、そして技術革新などを指摘できる。今後も多くの市場で、ソーラーパワーの電力生産コストは8―12%低下すると考えられているし、蓄電技術の進化もソーラーパワーの台頭を支えることになるだろう。電力価格が低下すれば、電力会社は再編を余儀なくされるが、ソーラーパワーの普及によって、温室効果ガスの排出量削減という環境上の大きなメリットも期待できる。太陽光に恵まれた地域における新しい住宅のほとんどの屋根にソーラーパネルが設置されるとしても、いまや不思議はない。

アメリカのエリート大学は若者に教養と規律を与える場ではなくなっている。大学は学部生を教える仕事を薄給の非常勤講師に任せる一方で、学生とはほとんど接することのない著名な研究者をリクルートすることに血道をあげている。経験が豊かで献身的な教員の指導のもとで、学生たちがさまざまな概念について意見を交換し、人生の目的を考え、それまで常識と考えてきたことに疑いを抱くような経験をさせるという役割はもはや重視されていない。親にも問題がある。いまや十代あるいはそれ未満の子供時代でさえ、名門大学に入るための激しい競争のなかにいる。・・・完璧な経歴づくりは、プレスクール選びから始まり、小中学校を通じて続く。これらが社会格差を増大させ、コミュニティ意識を希薄化させている。この歪んだ構造が教育上の問題だけでなく、政治・社会問題も作り出している。

トルコのサウジ接近と対イラン関係
―― トルコの真意、サウジの思惑

2015年5月号

アーロン・ステイン 英王立統合軍防衛安全保障問題研究所アソシエートフェロー

サウジは、(イランが支援していると言われる)イエメンのシーア派武装集団フーシ派に対する空爆を実施し、サウジと同じスンニ派のトルコは、サウジの空爆を支持すると最近表明した。それでも、トルコがサウジの地域的な野心のために、イランとの関係を犠牲にするとは考えにくい。トルコは中東におけるイランの大きな役割を事実上受け入れ、これに挑戦しようとは考えていない。トルコは、サウジほどイランの核開発プログラムを警戒していないし、イラン同様にクルド人問題を抱え、イランにエネルギー資源を依存している。一方、(ムスリム同胞団の)政治的イスラム主義をめぐるサウジとトルコの対立は解消していない。イエメン空爆に対するトルコのサウジへの歩み寄りは、戦争が続く中東でトルコがとってきたこれまでのバランス戦術の継続とみなすべきで、抜本的な路線変更ではない。

日韓関係の修復はできる
―― 問題は歴史ではなく、安全保障領域にある

2015年4月号

ジェニファー・リンド ダートマスカレッジ准教授

多くの人は、日韓関係がうまくいかないのは、歴史問題に派生する敵意ゆえに信頼できる関係を構築できずにいるからだと考えている。だがこの説明は十分ではない。現象と原因を取り違えている。日韓の歴史論争は、関係がうまくいっていないことに派生する現象であって、関係を悪化させている原因ではない。すでに現在の日本と韓国は、ともに歩み寄れるような利益を共有している。日本と韓国は貿易パートナーだし、教育、化学、技術領域で交流し、相手の大衆文化も受け入れている。問題は、日韓がともにその同盟関係を重視せず、しかも、日本と韓国を協調へと向かわせるかに思える中国の経済的、軍事的台頭に東京とソウルが逆の反応をみせていることだ。だが、ソウルと東京が、和解が自国の利益になると判断すれば、そこへ至る道筋は存在するし、そこで、歴史問題が障害になることはない。

CFR Interview
小国の巨人
――リー・クアンユーの遺産

web限定論文

カレン・ブルックス
米外交問題評議会シニアフェロー(非常勤)

この半世紀をかけて、リー・クアンユーは「イギリスの後発的植民地」だったシンガポールを「産業・金融のパワーハウス」に変貌させ、世界的国家への道を切り開いた。外国投資への門戸を開き、英語をビジネスの標準言語にし、インフラへの集中投資を行った。教育に大きな投資をし、労働者のスキルレベルを引き上げ、文化にも力を入れた。クリーンな政治を実現し、優秀な官僚の育成にも努めた。だが一方で、彼は厳格な社会秩序と政治的自由の制限を市民たちに強要した。個人の利益よりも社会利益を優先するリー・クアンユーの啓蒙的権威主義によって、民主的自由はかなり抑え込まれてきた。近年では、未来志向の強い世界に繋がった新世代の有権者たちが誕生している。彼らはこれまでのようなパターナリズム(父権主義)に魅力を感じなくなっている。リー・クアンユーが残した成果に敬意を払いつつも、彼らは、より大きな透明性を求め、「自分たちは変化を望んでいる」とアピールしている。(聞き手はElenor Albert, Online writer/Editor)

「中国・パキスタン経済回廊」は砂上の楼閣か

2015年4月号

サイード・ファズルハイダー パキスタン・ダウン紙コラムニスト

中国政府は、パキスタンのグワダル港経由で中東と中国を結ぶ、「中国・パキスタン経済回廊」を2030年までに完成させる計画をもっている。2014年には、456億ドルを投入して高速道路、鉄道、天然ガス・石油パイプラインを建設すると表明した。この経済回廊が完成すれば、重要な石油シーレーンがあるインド洋への影響力を強化し、海賊が出没することで知られるシーレーンの危険なチョークポイント、マラッカ海峡をバイパスできる。だが、グワダル港があるバロチスタン州の治安環境がどのようなものかを考える必要があるだろう。ここは過激派集団が活動する不安定な地域だ。州都クエッタには、指名手配されているタリバーンの指導者たちが潜伏しているし、この州の小さな都市の多くは、数十年続いている反政府・分離独立派の活動拠点だ。しかも、バロチスタンは、同様に不安定なイランのシスタン・バロチスタン州と国境を挟んで隣接している。・・・

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