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論文データベース(最新論文順)

ヤジディ教徒の虐殺
―― イスラム国による殺戮と誘拐の人口動態的証拠

2017年8月号

バレリア・チェトレッリ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス リサーチオフィサー アイザック・サッソン テルアビブ大学助教(社会学) ナザール・シャビラ ホーラー医療大学助教(公衆衛生) ギルバート・バーンハム ジョンズ・ホプキンス大学教授(国際公衆衛生)

イスラム国がイラクの宗教的少数派、ヤジディ教徒の虐殺を行っていることはかねて明らかだったが、その残虐行為の全貌は依然としてはっきりしない。われわれがイラクの避難民キャンプで実施した聞き取り調査によれば、2014年8月の数日間で殺害または拉致されたヤジディ教徒は9900人前後。このなかで、殺害されたと推定される3100人のうち半数近くは銃や斬首によって処刑されるか、焼き殺され、残りの6800人は拉致されたようだ。イスラム国による拘束から脱出した者たちの話によれば、拉致されたヤジディ教徒は強制的に改宗させられたり拷問を受けたり、性奴隷にされたりするなどの虐待を受けていた。・・・

米欧中関係のパワーシフト
―― 欧中新時代の到来か

2017年8月号

ニコラ・カサリーニ 国際関係研究所ディレクター(アジア担当)

イギリスは、これまでヨーロッパを大西洋同盟の枠内に着実につなぎ止めようと試みてきた。そうすることがさほど難しくなかったのは、アメリカもまたヨーロッパとの同盟関係の維持を望んでいたからだ。しかし、そのような米欧関係の構図もイギリスが欧州連合(EU)を去り、トランプの言動がヨーロッパを離叛させるなか、形骸化しつつある。この環境では、ヨーロッパにとって、アメリカの優位を脅かす恐れのあるほぼすべての課題をめぐって中国との関係を強化していくことが合理的になる。しかし、ここで選択を間違うのは危険だろう。欧中同盟が形成されるとしても、それは強固な絆というより、むしろ、ブレグジットの余波と欧中が共有するトランプに対する反感が引き起こす政略結婚のようなものだからだ。しかし、ほんの数ヵ月前までは考えられなかった新しい中国とEUの関係が生まれようとしている。・・・

なぜサウジは判断を間違えたか
―― 対カタール強硬策の代価

2017年8月号

バッシマ・アル・グサイン アル・グサイン・グローバル戦略 最高経営責任者
ジェフリー・ステーシー ジオポリシティUSA マネージング・パートナー

湾岸協力会議(GCC)はカタールに対して、イランとの関係遮断からアルジャジーラの閉鎖までの13の要求を突きつけ、その受入期限を6月2日に設定した。しかし、カタールは何一つ要求に応じなかった。サウジが主導するカタール封鎖路線には明らかに問題がある。カタールとイランの関係を問題視しているにもかかわらず、経済封鎖で追い込まれたカタールは食糧をイランやトルコから急遽輸入せざるを得なくなり、皮肉にも、カタールを両国の懐へと送り込んでしまった。カタールをイランにさらに接近させただけでなく、地域的な安定と通商の基盤であるGCCの連帯も揺るがしてしまった。なぜリヤドがかくも大きな失策を犯したのか。「カタールは身の丈に合わない野望を抱き、サウジの支配的影響力を脅かしている」とリヤドが考えていることが、その背景にある。・・・

バノン派の凋落と伝統的外交の復活
―― 変貌したドナルド・トランプ

2017年8月号

エリオット・エイブラムス 米外交問題評議会シニアフェロー(中東担当)

トランプ政権が革命的政権にならないことはすでに明らかだろう。普通の大統領ではないかもしれないが、これまでのところ、彼の外交政策は驚くほど常識的だ。「ロシアとの関係改善を望み、軍事力の使用はアメリカの国益が具体的に脅かされたときに限定する」と表明しつつも、シリア政府がサリンガスを使用したことが明らかになると、(ロシアが支援する)この国の基地をミサイルで攻撃している。すでにスティーブ・バノン率いる「オルト・ライト」ポピュリスト派は政権内で勢いを失い、トランプは外交エスタブリッシュメントで構成される国家安全保障チームを編成している。当初のイメージとは裏腹に、トランプ時代は伝統的なアメリカ外交からの逸脱ではなく、その維持によって特徴付けられることになるだろう。

中国の覇権確立を阻止するには
―― 南シナ海とアメリカの対中抑止策

2017年8月号

イーライ・ラトナー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国研究)

南シナ海における米中衝突を回避しようとするあまり、ワシントンは、中国による国際法を無視した南シナ海における行動を前にしても、緊張緩和措置をとり、結果的に、中国がじわじわと既成事実を作り上げるのを許してしまった。アメリカの軍事力と同盟関係には、米中の軍事衝突を抑止する効果はあっても、中国の勢力圏拡大を抑止する作用は期待できない。このために、中国による覇権確立がアメリカのアジアにおける最大の脅威シナリオとして浮上してきている。「中国が人工島の建設を続け、あるいはすでに建設した人工島に長距離ミサイルや戦闘機など強力な軍事資産を配置し続けるようなら、アメリカは中立を捨てて、領有権を主張する他の諸国が中国に対抗する能力を獲得することを支援する」と表明すべきだ。外交を抑止策で支え、「中国が覇権を握ることは容認できない」と、ワシントンは態度を明らかにすべきだろう。

ミンダナオ島危機とイスラム国
―― 共通の敵で変化した米比関係

2017年8月号

リチャード・ジャバッド・ヘイダリアン デ・ラ・サール大学准教授(政治学)

貧困や失業に苦しみ、イスラム教徒が社会の周辺に追いやられているミンダナオ島では、イスラム主義者や共産主義者などの反政府勢力がフィリピン軍と衝突する流血の惨事が数十年にわたって繰り返されてきた。そこには、イスラム主義のイデオロギーやテロ集団を許容する社会的素地が存在した。しかも、中東で軍事的に追い込まれたイスラム国(ISIS)勢力はアジアへ軸足を移そうと試みている。イスラム教徒が多数派で、イスラム国勢力のシンパが多いマレーシアやインドネシアとミンダナオ島との国境線が監視の難しい海洋上にあることも事態を複雑にしている。一方、テロ勢力という共通の敵が現れたことでアメリカとの関係は雪解けの時を迎えている。マニラが共通の敵に対するワシントンの軍事支援を受け入れるにつれて、両国政府の立場の違いはゆっくりとだが、着実に埋められつつある。・・・

政治分裂を修復するには
―― 政治的分裂を民主主義の再生につなげるには

2017年7月号

スザンヌ・メトラー コーネル大学教授(政治学)

現代アメリカの激しい政治的分断状況のなかでは、党派的ながらも正常な政治行動と、民主主義の基盤を脅かす行動を見分けることが極めて重要だ。たとえば、トランプが保守派のニール・ゴーサッチ判事を連邦最高裁判事に指名したことは、保守的支持基盤を満足させる正常な政治的判断だ。彼の閣僚人事にも同じことが言える。他方、トランプが事実を無視したり、主流メディアの役割を否定したり、判事を非難したり、政治的反対意見を無視したりすることは、民主的規範を傷つける。市民は一般的な党派主義的行動と独裁への傾斜を思わせる行動を区別して、トランプの行動を判断する必要がある。そしてわれわれはアメリカの民主主義を守ってきた制度、そしてリーダーシップ、交渉、妥協というツールを学び直し、意見の対立は弱さではなく、奥深い強さの源であることを認識する必要がある。

グローバル化の失速と世界経済の未来
―― グローバル経済をポピュリズムから救い出すには

2017年7月号

フレッド・フー プリマベーラ・キャピタル 設立者
マイケル・スペンス ニューヨーク大学ビジネススクール教授

グローバル化は大きな繁栄をもたらす一方で、格差を増大させ、いまや多くの人がグローバル化を特徴づけてきたヒト、モノ、情報の拡散に懐疑的な立場をとるようになった。こうして、反グローバル化とナショナリズムが趨勢となり、イギリスは欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で決め、トランプ大統領は「アメリカファースト」ドクトリンに固執している。しかも一方で、雇用懸念を高めるオートメーション化が進んでいる。グローバル化が失速し、急速な技術変化が混乱を引き起こす時代にあって、世界の政治家と政策決定者はこれまでの成果を守るための改革を進め、手遅れになる前に、その欠陥を是正していかなければならない。そうしない限り、保護主義とナショナリズムによって世界の平和と繁栄が脅かされることになる。

スマート化するエネルギー・電力産業
―― 技術革新がもたらす機会とリスク

2017年7月号

デビッド・ビクター カリフォルニア大学サンディエゴ校教授 カッシア・ヤノセック マッキンゼー&カンパニー アソシエートパートナー

水圧破砕、水平掘削という技術革新によってシェール資源の開発が可能になったことは広く知られているし、これらのテクノロジーが、2008年7月の1バレル145ドルというかつてない高値から、いまやその約3分の1へと原油価格を引き下げることに一役買ったのは間違いない。だが、これは始まりに過ぎなかった。現在では、「複雑なシステムのよりスマートな管理」や「データ分析」、そして「オートメーション」によってエネルギー産業は再び変貌し始め、エネルギー企業の生産性と柔軟性はさらに高まっている。しかもこれらの変化は資源開発企業だけでなく、電力を生産・供給するセクターも変貌させ始めている。より分権化され、消費者にフレンドリーで、さまざまな資源で生産した電力をきわめて信頼性の高い送電ネットワークに統合する力をもつ、新しい電力産業が誕生しつつある。・・・

ビジョンが支える米戦略への転換を
―― アメリカファーストと責任ある外交の間

2017年7月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

ドナルド・トランプ大統領の「アメリカファースト」スローガンは、これまでもそして現在も、現実の必要性にフィットしていない。このスローガンは米外交を狭義にとらえるだけで、そこには、より大きな目的とビジョンが欠落している。いまやこのスローガンゆえに、世界では、ワシントンにとって同盟国や友好国の利益は二次的要因に過ぎないと考えられている。時と共に、「アメリカファースト」スローガンを前に、他国も自国第1主義をとるようになり、各国はアメリカの利益、ワシントンが好ましいと考える路線に同調しなくなるだろう。必要なのは、アメリカが責任ある利害共有者として振る舞うことだ。国益と理念の双方に適切な関心を向け、より規律のある一貫した戦略をもつ必要がある。

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