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論文データベース(最新論文順)

最低賃金の真実
―― 雇用破壊効果も格差是正効果も小さい

2018年2月号

アラン・マニング ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 経済学教授

かつて最低賃金の導入に批判的だった国際通貨基金(IMF)と経済協力開発機構(OECD)も、いまやそれが適正なレベルの引き上げなら、最低賃金をうまく考案された労働政策の一部として位置づけるべきだと提言している。だが妥当なレベルをどのように決められるだろうか。穏当なレベルの引き上げなら、最低賃金レベルの就労者の所得は増える。だが、過度に最低賃金を引き上げれば、雇用は少なくなっていく。仮にシングルマザーがまともな生活を送るには20ドルの時給が必要だとされ、それが実現しても、かなりの確率で失業率は上昇する。さらに、最低賃金を引き上げても、その効果は平均的労働者に近づいていくにつれてほとんどなくなっていく。最低賃金の引き上げでは、格差を是正し、世界で政治を覆している経済の流れを覆すことにはならない。

ロシアが歴史に向き合わぬ理由
―― 国内的抑圧と対外的膨張主義を正当化するために

2018年2月号

ニキータ・ペトロフ 「メモリアル」研究教育センター副理事長

最近のロシアでは、スターリン時代の怪物たちが歴史的復権を果たしつつあり、プーチン大統領はスターリン時代のイデオロギーを都合よく利用している。実際、ロシア政府にとって、歴史は客観的に扱われるべきものではなく、国家イデオロギーを推進するためのツールなのだ。政府は常に正しく、たとえ過去の政策が多大な犠牲を民衆に強いたとしても、それは、政府が選んだ特別な道を歩み続けるためには必要だったとされる。現在のロシア政府は、強権政府のカルトを民衆の意識に植え付け、ロシア民衆と国の歴史的例外性、世界のロシア系住民を統合していくことの特別な価値を訴えるプロパガンダを唱えている。そうすることで、ロシアの対外的膨張主義と国内での抑圧を正当化しようとしている。

欧州ポピュリストが演出する「文明の衝突」
―― 文明論を語り始めたポピュリストたち

2018年2月号

ロジャーズ・ブルベーカー カリフォルニア大学ロサンゼルス校 社会学教授

現在のヨーロッパのポピュリストを移民排斥論者、ナショナリスト、極右と言うこれまでの言葉で語るのは適切ではない。彼らはナショナリズムではなく、ヨーロッパを包み込む文明を「キリスト教」という言葉で表現し、それをイスラム文明と対比させている。彼らがキリスト教を引き合いに出すのは、(他者と区別するための文明的)帰属を示すためだ。そこでは、ユダヤ人もヨーロッパの一部を構成する仲間とみなされている。右派ポピュリストが女性の権利やゲイの権利を擁護しているのも、イスラム文明との違いを際立たせるためだ。こうしたヨーロッパの文明論的ポピュリズムが問題なのは、そもそもイスラム世界の一部に存在する過激な反西洋姿勢を、イスラム教徒にとってより信頼できる魅力的な思想にしてしまう恐れがあることだ。・・・

イラン民衆の本当の不満
―― 保守派を見限り、改革を求める若者たち

2018年2月号

アレックス・バタンカ 米中東研究所シニアフェロー

なぜ2017年末に、イラン民衆は街頭デモに繰り出し、不満の声を上げたのか。経済的苦境をその理由に挙げるメディアは多い。しかし、改革路線を示唆してきたロウハニが逆に保守・強硬派にすり寄る事態を前に、民衆が失望し、怒りを募らせていることを忘れてはならない。最高指導者の地位を得たいロウハニの個人的思惑もあるのかもしれない。しかし、民衆がデモに繰り出したのは、選挙で選ばれた大統領と議会の立場を、ハメネイや革命防衛隊など選挙を経ない保守強硬派が無視するか、覆している現状に、もはや我慢できなくなったからだと考えることもできる。「ハメネイに死を」、「聖職者たちを政治から追い出せ」というデモ隊のスローガンは、いまやイランの民衆が、1979年のイラン革命以降、もっとも過激な変革を求めていることを意味する。

プーチンが思い描く紛争後のシリア
―― 戦後処理と各国の思惑

2018年2月号

ドミトリ・トレーニン カーネギー・モスクワセンター所長

バッシャール・アサドはダマスカスの権力を握っているかもしれないが、シリアの政治的風景はもはや元に戻せないほどに変化している。シリアはすでにアサド政権、反アサド、親トルコ、親イランの勢力、さらにはクルド人という五つの勢力がそれぞれに管理する地域へ実質的に分裂している。ロシアは、この現実を受け入れようとしないアサドだけでなく、紛争期の同盟国であるイランの動きにも対処していく必要がある。アサド政権だけでなく、イランやトルコのシリアに対する思惑が変化していくのは避けられず、これに関連するイスラエルの懸念にも配慮しなければならない。今後、外交領域で勝利を収めるのは、戦闘で勝利を収める以上に難しい課題になっていくだろう。

イギリスのブレグジット・ジレンマ
―― イギリスの解体か保守党の分裂か

2018年2月号

マティアス・マタイス ジョンズ・ホプキンス大学助教

今後数カ月でEU離脱推進派の主張のまやかしが白日の下にさらけ出される。イギリスは2019年3月にEUを離脱する。しかし短期的にはイギリスが主権を完全に取り戻すことはない。移行期においてEUは現状を維持する一方で、イギリスの声はEUの意思決定に反映されることはなくなる。移行期間中のイギリスはEU加盟国としてのあらゆる義務を負う一方で、EUにおける議決権を失う。しかも、どのようなブレグジットを望んでいるのか、イギリス国内にコンセンサスはない。長期的には、保守党が分裂して(国民投票のやり直しを示唆している)労働党が政権をとるかもしれないし、あるいは、イギリスは国家分裂してイングランドとウェールズの連合へと縮小していくかもしれない。2018年、テリーザ・メイは保守党あるいは国家の統一のどちらを優先するか、その選択を迫られることになるだろう。

ロヒンギャ危機の解決に向けて
―― 国際社会が果たすべき役割

2018年2月号

ジョナー・ブランク(ランド研究所 上席政治学者)、 シェリー・カルバートソン(ランド研究所 上席政策リサーチャー)

ミャンマー政府はバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民の帰還を認めると発表しているとはいえ、大規模な難民を発生させた集団暴行にミャンマーの治安部隊や政治家たちが果たした役割を考えると、政府のコミットメントを額面通りに受け取るわけにはいかない。基本的な市民権のはく奪、そしてロヒンギャが国を後にせざるを得なくなった暴力という問題に対処しなければ、帰還を認めるとしたミャンマー政府の約束も永続的な解決策にはならない。国際社会はミャンマー政府に対してロヒンギャを再び国に受け入れるだけでなく、他の全ての少数民族が享受している安全と市民権を与えるように求めるべきだし、大規模な難民流入に直面するバングラデシュを支える必要がある。これらが実現しない限り、100万を超える人々が安心して暮らせる国をもたずにさまよい続けることになる。

北朝鮮限定攻撃論の悪夢
―― 結局は全面戦争になる

2018年2月号

アブラハム・M・デンマーク 前米国防副次官補(東アジア担当)

取り沙汰されている「北朝鮮に対する限定攻撃」の目的は、「アメリカの軍事対応というリスクを伴わずに、核・ミサイル実験を続けることはできない」と平壌にメッセージを送ることにあるようだ。しかし、この戦略の問題は「アメリカの圧倒的な通常戦力と核戦力ゆえに、北朝鮮の最高指導者・金正恩は、攻撃されても報復攻撃を思いとどまる」と想定されていることだろう。攻撃が計画どおりに機能する可能性は低い。北朝鮮の核・ミサイル能力をうまく破壊できる保証はなく、平壌は限定的な攻撃に対しても反撃せざるを得ないと判断するかもしれない。いかなる攻撃も朝鮮半島における全面戦争へのエスカレーションを辿るリスクがあり、数百万の命が危険にさらされる。北朝鮮との戦争は、アメリカが第二次世界大戦以降に経験したいかなる紛争よりも破滅的なものになる危険がある。日韓との同盟関係も大きく揺るがされ、最終的にはアメリカの影響力も大きく形骸化する恐れがある。

人種的奴隷制と白人至上主義
―― アメリカの原罪を問う

2018年2月号

アネット・ゴードン=リード ハーバード大学法科大学院教授

依然として、事実上の人種差別がアメリカのかなりの地域に存在する。黒人の大統領を2度にわたって選び、黒人のファーストファミリーを持ったものの、結局、後継大統領選はある意味でその反動だった。歴史的に、肌の白さは経済的・社会的地位に関係なく、価値あるものとされ、肌の黒さは価値が低いとみなされてきた。この環境のなかで白人至上主義が支えられてきた。肌の色という区別をもつ「人種的奴隷制」は、自由を誇りとする国で矛盾とみなされるどころか、白人の自由を実現した。黒人を社会のピラミッドの最底辺に位置づけることで、白人の階級間意識が抑制されたからだ。もっとも貧しく、もっとも社会に不満を抱く白人よりもさらに下に、常に大きな集団がいなければ、白人の結束は続かなかっただろう。奴隷制の遺産に向き合っていくには、白人至上主義にも対処していかなければならない。

信頼性失墜の果てに
―― ドナルド・トランプという外交リスク

2018年2月号

カレン・ヤーヒ=ミロ プリンストン大学 アシスタントプロフェッサー(政治・国際関係論)

主要な選挙公約への立場を何度も見直し、ツイッターで奇妙かつ不正確なコメントを流し、脅威を誇張し、即興的に何かを約束する。こうして、大統領が内外におけるアメリカの信頼性を失墜させていくにつれて、同盟国はアメリカの約束を信頼するのを躊躇うようになり、敵対国に対する威圧策も効力を失っていく。危険な誤算が生じるリスクも高まる。アメリカ市民だけでなく、世界の人々も、すでにトランプの予測不能な発言や矛盾するツイートに慣れてしまっている。しかし、信頼できる大統領の言葉が必要になったときに、どうすればよいのか。今後の危機において、アメリカの意図を明確に示すために必要な信頼を大統領がもっていなければ、どのように敵を抑止し、同盟国を安心させられるだろうか。

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