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論文データベース(最新論文順)

欧米経済の衰退と民主的世紀の終わり
―― 拡大する「権威主義的民主主義」の富とパワー

2018年6月号

ヤシャ・モンク  ハーバード大学講師(行政学)
ロベルト・ステファン・フォア メルボルン大学講師(政治学)

北米、西ヨーロッパ、オーストラリア、そして日本という、第二次世界大戦後にソビエトに対抗して西側同盟を形成した民主国家は、19世紀末以降、世界の所得の大半を占有する地域だった。しかしいまや、この1世紀で初めて、これらの国が世界の国内総生産(GDP)に占める割合は半分を割り込んでいる。国際通貨基金(IMF)は、今後10年もすれば、その比率はかつての3分の1へ落ち込むと予測している。今後を見通す上で現実的なシナリオは二つしかない。一つは中国を含む、世界でもっともパワフルな独裁国家の一部がリベラルな民主国家に移行すること。もう一つは、民主主義の支配的優位の時代が、敵対する政治体制との闘争という新時代が到来するまでの幕間の出来事に過ぎなかったことが立証されることだ。いずれの場合も、欧米民主主義の時代が終わりを迎えるのは避けられない。

北東アジアの地政学と北朝鮮問題
―― 米朝二国間と多国間ゲームの間

2018年6月号

マイケル・グリーン 戦略国際問題研究所  シニア・バイスプレジデント(アジア担当)

金正恩の真意は、「非核化に応じた場合に得られる特権」を何の譲歩をすることもなく引き出すことにあるのかもしれない。平壌が今回の首脳会談で望んでいるのは、核保有国として受け入れられること、そして、経済制裁を緩和させることだろう。結局、金正恩は非核化を口にしつつも、交渉を通じて妥協と見返りを段階的に繰り返し、再びエスカレーション策をとれるようになるまで時間稼ぎをするつもりかもしれない。さらに重要なのは、中国の立場だ。習近平は、外交交渉を通じて、北朝鮮の脅威が実質的に低下するかどうかよりも、朝鮮半島からの米軍撤退のような、アメリカの同盟関係を機能不全に追い込むような外交プロセスを開始することが好ましいと考えている。北朝鮮問題の一方で、北東アジアの今後の地政学をめぐるゲームが展開されることを忘れてはならない。

米朝間の立場の違いと韓国の立場
―― 非核化に向けた今後の課題

2018年6月号

文正仁 韓国大統領特別補佐官 (統一外交安保担当)

アメリカは「非核化が先で見返りは後」という立場なのに対し、北朝鮮は非核化の(部分的)履行と見返りを繰り返す段階的なアプローチを求めている。一方、韓国は折衷型のアプローチを提言している。懐疑派は、金正恩は、自分の行動一つ一つに対してアメリカが見返りをもって応じる段階的な非核化、つまり、「サラミ戦術」に訴えるつもりだと主張している。さらに、北朝鮮軍が完全な非核化合意を受け入れない恐れもある。しかし、北朝鮮が非核化を履行しなければ取引全体が崩壊し、新たな危機や軍事行動の可能性、さらには朝鮮半島での全面戦争にまでつながっていく危険がある。トランプ政権は金正恩と非核化の詳細を詰める必要があり、そのためにはワシントンにとって望ましい包括的な即時解決と、平壌が主張する段階的なアプローチとの間での歩み寄りが必要になるだろう。

誰が本当のアメリカ人なのか
―― 移民と人種差別と政治的妄想

2018年5月号

ジェームズ・A・モローン ブラウン大学教授(公共政策・政治学・都市研究)

白人が主流派だったアメリカという国の顔が変わりつつある。オバマほどこの変化を象徴する存在はないし、トランプほど、こうした変化に対する反動を象徴する存在もない。1日平均五つの嘘をつくトランプの登場は、アメリカ政治につきものの妄想だけでなく、この国の自画像が揺れ動いていることを示している。国家アイデンティティをめぐる厄介な対立を、もはや政治制度によって封じ込められなくなっている。実際、長い間、人種・民族問題を抑え込んできた政党政治が、逆に民族問題を煽りたててしまっている。しかも、国家アイデンティティをめぐる対立にこの国の妄想の歴史が重なり合ったために、アメリカはおかしくなってしまった。アメリカのアイデンティティが変わり続けている以上、政治が近い将来に冷静さを取り戻せるとは考えにくい。

中国の不公正貿易慣行にどう対処する
―― 関税ではなく、国際ルールの確立と国内投資を

2018年5月号

マシュー・グッドマン 戦略国際問題研究所 シニアアドバイザー(アジア経済)
イーライ・ラトナー 外交問題評議会 シニアフェロー(中国担当)

中国の重商主義に対抗していくことを望むトランプの立場は、アメリカの政治家の間では広く共有されているし、民間部門でも同じ立場をとる人々が増えている。しかし、(相手を問わない、普遍的な)関税引き上げ策で、ワシントンが自国を孤立させ、同盟諸国を不当に扱い、中国の責任を問う集団的な取り組みを損なうことに合理性はない。トランプ政権がこれまでにとった措置の大半は、甘めにみても逆効果だ。むしろ、今後もアジア太平洋を中心とする世界の開放的な貿易・投資環境から恩恵を引き出したければ、ルールに即して行動するように中国に求めるべきだ。そのためには、21世紀に即した新たな貿易・投資ルールをまとめ、前向きなビジョンで国際社会をリードしていく必要がある。

中国の政治介入に揺れるオーストラリア
―― 民主的対抗策の原則を探る

2018年5月号

ジョン・ガーナー 元豪首相上級アドバイザー

オーストラリアにおける「中国の影響力とソフトパワーに対するとらえどころのない不安」は、「中国共産党による水面下での政治介入に対する明確な懸念」へとすでに変化している。中国とつながっている政治資金提供者が政治へのアクセスと影響力を強め、大学は中国の「プロパガンダのツール」として取り込まれている。一方、キャンベラは、明確な現状分析によって、リスクを管理し、ダメージを特定する一方で、全般的な中国とのエンゲージメントを維持するという問題と恩恵を区別する対応をみせている。リスクとダメージを管理する一方で、相手にエンゲージし続けるためのバランスをとるのは容易ではない。いずれ、同じような環境に遭遇する民主国家の指導者たちは、オーストラリアの経験と対策を注意深く見守る必要がある。

核能力の核戦力化を阻止せよ
―― 北朝鮮は非核化には応じない

2018年5月号

トビー・ダルトン カーネギー国際平和財団  核政策プログラム共同ディレクター
アリエル・レバイト カーネギー国際平和財団 シニアフェロー

北朝鮮は、アメリカ本土に到達可能な長距離ミサイルに核弾頭を搭載する能力を獲得しようと試みてきた。当然、金正恩が意味のある時間枠のなかで非核化に応じることはほぼあり得ない。彼は「国の存亡に関わる」核抑止力を放棄することは自殺行為だと考えており、現状では完全な非核化は実質的に交渉テーブルには載せられていないとみなすべきだ。戦争を通じてしか実現しない非核化に固執するよりも、北朝鮮の戦略核能力及びそれに関連する活動に上限を設けて制約し、それが順守されていることを検証していくこと、つまり、核能力の戦力化を阻止していくことを交渉の戦略目的に据えるべきだろう。こうした能力と活動を大枠で制約するというアプローチなら、アメリカそして日韓という同盟国の中期的利益になるし、中国と北朝鮮も受け入れるかもしれない。

朝鮮半島をめぐる米中の攻防
―― 金正恩の訪中を演出した中国の思惑

2018年5月号

オリアナ・スカイラー・マストロ ジョージタウン大学外交大学院 アシスタント・プロフェッサー

金正恩を北京に迎えたとしても、北京が北朝鮮の生存を我が事のように心配しているわけではない。両国の「同盟」関係はいまも名目的なままだ。北京の目的は平壌との関係修復ではなく、アメリカの地域的影響力に対抗し、朝鮮半島への中国の影響力を強化することに他ならない。仮に北京が米朝交渉における仲介者の役割を担えば、朝鮮半島での影響力を譲るようにアメリカを説得しやすくなる。一方、有事となれば、北朝鮮の領土と核兵器の大半を管理下に置くために、中国は半島北部に大がかりな軍事介入を試みることもできる。北京が重視しているのは、戦争、外交のいずれのシナリオであっても、朝鮮半島における中国の利益を確保することにある。

誰も望まない戦争はどのように始まるか
―― 外交から戦争への転びやすい坂道

2018年5月号

ロバート・ジャービス コロンビア大学教授(国際関係論)
ミラ・ラップ=フーパー イエール大学中国センター シニアフェロー

金正恩はなぜトランプとの首脳会談を求めたのか。トランプが期待するように、何としても制裁を緩和させるために、妥協せざるを得ないと考えているのか。それとも、米大統領と会談することで名声を手にし、核保有国として北朝鮮が実質的に受け入れられることを望んでいるのか。この認識上のギャップが交渉で明らかになれば、米朝関係にすでに埋め込まれているイメージ上の間違い(ミスパーセプション)によって、ともに望んでいない壊滅的事態が引き起こされる恐れがある。人間は自らの行動が、自分が意図する通りに他者からもみなされると考えがちだが、これは間違っている。ワシントンは北朝鮮の目的だけでなく、北朝鮮の高官たちがアメリカの目的をどのように理解し、米政府(や大統領)の表明を信頼できると考えているかどうかを検証する必要がある。

政治的秘密とリークと内部告発
―― 正当な告発と不当な告発

2018年5月号

マイケル・ウォルツァー プリンストン高等研究所 名誉教授

政府の嘘や秘密には、正当化できるものでもあれば、そうでないものもある。従って、誰かが「政府の」秘密を暴露して嘘を暴く行為が正当なものであるかどうかを判断する前に、正当な秘密と不当な秘密の違い、正当なごまかしとそうでないごまかしの違いを知る必要がある。そうでなければ、機密情報や文書を公開し、政府の不正行為を内部告発する行為が公益に資するものか、さらには民主的政府の利益になるかを判断できない。秘密が存在する限り、内部告発という行動が必要になる。そして、内部告発に対して最終的な評決を下すのは市民社会だ。たしかに、民主的政治空間における内部告発には応分の役割がある。だが、それが非公式の役割であること、潜在的価値をもつとともに潜在的リスクを伴うことを認識しなければならない。

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