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論文データベース(最新論文順)

三つの核危機シナリオ
―― 北朝鮮、ロシア、イランに対する間違った戦略

2019年3月号

ニコラス・J・ミラー ダートマスカレッジ アシスタント・プロフェサー(政治学)
ビピン・ナラン マサチューセッツ工科大学准教授(政治学)

北朝鮮による一方的核放棄というフィクションを維持し、北朝鮮の核・ミサイル実験の再開を阻止するために、トランプは金に譲歩して、一部の制裁緩和、あるいは和平合意に向けたプレリュードとしての米軍の地域的プレゼンスの再編に応じるかもしれない。これによって現状は続き、問題は先送りされる。だが、北朝鮮の核開発という現実を否定することに依存する戦略は、いずれ内側あるいは外側から破綻して暴走し始め、これが北朝鮮との新たな核危機につながっていくリスクがある。一方、INF条約からの離脱でロシアとの軍拡競争が過熱していくのも、アメリカの核合意から離脱によって、イランが核開発に立ち返り、緊張が高まるのもおそらく避けられないだろう。下手をすると、世界は三つの核危機に直面する恐れがある。

北京の宗教政策の意図
―― 宗教・政治・社会のハイブリッドイデオロギー

2019年2月号

イアン・ジョンソン ピューリツアー賞受賞作家(在中国)

教会の十字架は取り外されて閉鎖され、モスクも解体され、イスラム教徒は収容施設に送られている。しかし、現在の中国は、毛沢東期のように、競合する集団や信仰システムをすべて周辺化するのではなく、むしろ、政府にとって都合のよい民間宗教、仏教、道教などの宗教集団やシステムを取り込もうとしている。要するに、帝国時代と同様に、信仰を許容しつつも、何が正統で何が異端であるかを政府が定義している。人々の信仰にまで立ち入るのは、中国社会が漂流し、シニカルになり、価値を喪失していることを政府も理解しているからだ。宗教と政治が重なり合って社会抗争と暴力を引きおこしているアジアの国と言えば、多くの人はインド、インドネシア、パキスタンを思い浮かべる。だが近い将来に、このリストに中国の国名を見出すことになるかもしれない。

中国的世界ビジョンの盲点
―― グローバルな野心の正体

2019年2月号

オリアナ・スカイラー・マストロ ジョージタウン大学助教(安全保障研究)

北京はワシントンに代わって国際システムの頂点に立ちたいとは考えていないし、国際機関をリードしたり、中国の統治システムを世界に広めたりすることにも関心をもっていない。だが、インド太平洋地域からアメリカを締め出そうとしており、その帰結は、中国がアメリカに取って代わろうと試みた場合同様に深刻だ。カネをばらまけばアジア諸国を取り込めるし、国有企業はスパイ活動から北京が得た機密情報も利用できる。しかし中国にはアキレス腱がある。それは、中国が支配的な国家になれば、他の諸国にも恩恵がもたらされるという互恵的なグローバルなビジョンを示していないことだ。それだけに、他国も恩恵を得られる形で世界をリードしてきたアメリカが、自国第一主義に固執し、この包含的アプローチを捨て去るのは間違っている。

形骸化した抑止力
―― 多様化する攻撃の領域と能力

2019年2月号

アンドリュー・クレピネビッチ ハドソンインスティチュート シニアフェロー

冷戦後にアメリカが圧倒的な軍事的優位をもっていた時代は終わり、すでにわれわれは、ロシアと中国という二つのリビジョニスト国家と競い合う時代に足を踏み入れている。軍事競争は、宇宙空間、サイバー空間、海底を含む新しい領域に拡大し、新しい軍事能力の登場によって、軍事的なパワーバランスを正確に評定するのは難しくなっている。一方で、認知科学の進化によって、ハイリスクの環境において人間がどのように行動するかに関するこれまでの理解が覆され、抑止を支えてきた理論的支柱が揺るがされている。これらが重なり合うことで、厄介で不可避の結論に行き着く。現在の最大の戦略的課題は大国間抗争の時代への回帰でもなければ、先端兵器の拡散でもない。それは、抑止の形骸化に他ならない。

中東地政学とイスラムのソフトパワー
―― 「政治・外交」に取り込まれた宗教

2019年2月号

ピーター・マンダヴィ ジョージ・メイソン大学教授(国際関係論)
シャーディ・ハミッド ブルッキングス研究所 シニアフェロー

社会主義と汎アラブ主義はすでに思想的に淘汰されているために、イスラム主義と競合できるのはナショナリズムだけだ。しかし、ナショナリズムには国外への訴求力がない。このために、中東各国政府は、国の威信を高め、地域的な国益を促進しようと、外交にイスラム的色彩をまとわせることで「イスラムのソフトパワー」を行使しようとしている。穏健派イスラム、反シーア、反ムスリム同胞団とそれが何であれ、各国は、これらの宗教的スローガンを、国内的な統制のためだけでなく、地域的な影響力拡大のためのツールとして利用している。イスラムを定義して擁護し、自国の目的のための動員手段とするという、イスラムのソフトパワーをめぐる中東での競争は今後ますます熾烈になっていくだろう。

「ディープフェイク」とポスト真実の時代
―― 偽情報に対処する方法はあるのか

2019年2月号

ロバート・チェズニー テキサス大学オースティン校 国際安全保障・法センター所長
ダニエル・シトロン メリーランド大学教授(法学)

民主社会は不快な真実を受け入れなくてはならない。ディープフェイクの脅威を克服するには、嘘と付き合う方法を学ぶ必要があるからだ。非常にリアルな出来栄えで、偽物を見破ることが難しいレベルにデジタル加工された音声や動画を意味する「ディープフェイク」の登場によって、自分が言ったことも、したこともないことを、そのようにみせかけることができる。改ざんされた音声や動画が、本物と見分けがつかずに、十分な説得力をもっていれば、そして、それが社会的・政治的にそして国際関係に悪用されればどうなるだろうか。十分な対策は存在しない。人々がプライベートなフィルターバブルに引きこもり、自分の考えに合うものだけを事実とみなす世界に転落しないようにしなければならない。民主社会はレジリエンス(打たれ強さと復元力)を身に付けるしかない状況へ向かっている。

自由貿易のパラドックス
―― 政治学と経済学の衝突

2019年2月号

アラン・ブラインダー プリンストン大学教授(経済学)

なぜ自由貿易のロジックは受け入れられないのか。たしかに、貿易の勝者が敗者の損失を埋め合わせても、それでも勝者の取り分は残される。しかし、歴代の米政権は、他国の政府同様に、この理屈に近づくようなことは何一つ試みてこなかった。利益と損失を合計すると、経済的には自由貿易を前向きに評価できるが、政治的にはそうではないことも理由の一つだろう。利益と損失はほぼ同じだが、経済的計算と政治的計算では重視するところが違うからだ。さらにエコノミストは人々が経済の何に価値を見いだしているかを、基本的に誤解しているかもしれない。消費者が安価な商品よりも実入りの良い雇用を望んでいるのなら、貿易に関する一般的理論で市民を説得することはできない。

リベラルな秩序・第4幕へ向けて
―― アメリカと国際主義の伝統

2019年2月号

ギデオン・ローズ フォーリン・アフェアーズ誌編集長

冷戦後、しばらくすると、欧米社会の多くの人が、秩序は自分にプラスに作用していないと反発し、「私腹を肥やすことに熱心なだけで、機能不全に陥っているエスタブリッシュメント」に舵取りを委ねる理由はないと考えるようになった。そこに協調よりも競争を、自由貿易よりも保護主義を、民主主義よりも権威主義を好ましいと考えるトランプが登場する。それでも、ウィルソンからFDR・トルーマン、そしてブッシュ・クリントンに受け継がれてきたリベラルな秩序は動いている。「自発的で、ルールに支配される国際協調が相互利益をもたらす可能性」についての認識は依然として存在する。秩序の第4局面を切り開くのは容易ではないが、そうできるし、問われているものが非常に大きいだけに、そうしなければならない。重要なのは、支配的影響力をもつ世界の大国が、勝利を目指すのではなく、世界を主導することに向けて誠実にコミットすることだ。

民主主義を救うには
―― 歪んだ米経済システムの是正と外交の再生を

2019年2月号

エリザベス・ウォーレン 米上院議員(マサチューセッツ州選出・民主党)

ワシントンはこの数十年で一握りのエリートにだけ恩恵をもたらす政策をとるようになった。これを批判し「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプの政策も、実際には「トランプファミリーファースト」で、中間層には最低限の配慮しかしていない。一方、中国では、習近平国家主席が権力基盤を固めて「偉大なる復興」を語り、国有企業が共産党幹部に巨万の富を与えている。ロシアのプーチン大統領のパワーも、彼に友好的なオリガークが運営する国営企業との複雑な関係によって支えられている。しかも、これがモデル化されて、トルコやハンガリーを含む各国へと拡散している。このままでは、アメリカを含む、民主社会も、政治腐敗と泥棒政治への道を歩み、民主主義とは名ばかりの国に転落していく恐れがある。流れを覆すには、一握りのエリートだけでなく、すべてのアメリカ人に恩恵をもたらす政策と外交が必要になる。

気候変動ショックと人道的危機
―― 最大のリスクにさらされる国は

2019年1月号

ジョシュア・バスビー テキサス大学オースチン校 准教授(公共政策)
ニナ・フォン・ユクスキュル ウプサラ大学 平和・紛争研究学部助教

気候変動に対して大きな脆弱性をもつ国は、特定のリスクファクターを抱えている。農業部門への依存が高いこと、最近、国内紛争を経験していること、そして政治制度が特定の人種・宗教・民族集団に対する差別を内包していることだ。干ばつや洪水は、農業依存が高い国の多くの人の収入を低下させ、深刻な食糧危機を引き起こす。最近国内紛争を経験していれば、兵器や動員できる戦闘員へのアクセスをもつ指導者や集団がいまも国内で活動している危険がある。政治制度が特定集団への差別を内包している国では、政府は人口の一部が直面している危機に対応しないために、不安定化や人道的緊急事態に直面するリスクが高くなる。特に農業が気候の変動に脆いことを認識する必要がある。農産品の収穫量の大幅な減少を阻止するために、農業のあり方をどう変化させればよいかも早急に考える必要がある。

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