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論文データベース(最新論文順)

対中強硬策に転じたヨーロッパ
―― アメリカとの対中共闘路線は実現するか

2019年5月号

アンドリュー・スモール 米ジャーマン・マーシャル・ファンド  シニアフェロー(大西洋関係)

かつて中国に強硬路線をとることを選択肢から外していたヨーロッパも、いまや、より対決的な対中路線をとり始めている。習近平体制の権威主義体制の強化、ヨーロッパへの政治的影響力を拡大しようとする北京の試みなど、ヨーロッパの政治、安全保障上の懸念がこの変化の背景にある。しかし、最大の懸念は経済領域にあるようだ。「いずれ中国も経済システムを改革し、その市場へのより大きなアクセスを認めるようになる」とこれまでのように期待できなくなった。しかも、ヨーロッパがその経済的未来にとって重要と考える産業部門で、国が支援し、補助金を提供している中国の国有企業のプレゼンスが高まっている。これが対中警戒論を浮上させている。

新「ドイツ問題」とヨーロッパの分裂
―― 旧ドイツ問題を封じ込めた秩序の解体

2019年5月号

ロバート・ケーガン ブルッキングス研究所 シニアフェロー

アメリカの安全保障コミットメント、国際的な自由貿易体制、民主化への流れ、ナショナリズムの封じ込めというリベラルな戦後秩序の四つの要因によって、ドイツ問題は地中深くに葬り去られた。問題は、ドイツ問題を封じ込めてきたこれら戦後秩序の要因が、いまやすべて曖昧化していることだ。ヨーロッパ全域でナショナリズムが台頭し、民主主義はあらゆる地域で逆風にさらされている。国際的な自由貿易体制もトランプ政権に攻撃され、アメリカのヨーロッパへの安全保障コミットメントもいまや疑問視されている。ヨーロッパそしてドイツの歴史からみて、このように変化する環境が、ドイツ人を含むヨーロッパ人の行動パターンを変えないと言い切れるだろうか。アメリカと世界が現在のコースを歩み続ければ、穏やかな時代があとどれくらい持ち堪えられるのかについて、考えざるを得なくなるはずだ。

大気中から二酸化炭素を吸収する
―― ネガティブエミッション技術のポテンシャル

2019年5月号

フレッド・クルップ 環境防衛基金会長
ナサニエル・コへイン 環境防衛基金上席副会長(気候担当)
エリック・プーリー 環境防衛基金上席副会長(戦略・広報担当)

気候変動に派生するわずかな気温上昇でも深刻な帰結を伴うと考えられている。例えば、気温が1・5度から2度へと0・5度上昇しただけで、水不足に直面する人は倍増し、海面上昇のリスクにさらされる人口は1000万人増える。主要作物の収穫量が減り、途上国の多くが飢餓状態に陥る。しかも温暖化レベルを左右する大気中の二酸化炭素濃度は、いまや過去300万年で最悪のレベルにある。もはや二酸化炭素排出量の削減だけでは十分ではない。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの大気中濃度を安定化させるには、排出量削減だけでなく、すでに大気中にある二酸化炭素を除去しなければならない。幸い、昔ながらの森林再生から、大気中の二酸化炭素を吸収して地中に貯留するハイテク装置までの幅広い方法がある。・・・

ブレクジットプロセスの破綻
―― 北アイルランドというジレンマ

2019年5月号

ブレンダン・オリリー ペンシルベニア大学教授(政治学)

2017年、欧州連合(EU)と英政府は、北アイルランドがEUの関税同盟と単一市場に残る一方で、イギリスが関税同盟と単一市場から離脱できるようなルールを考案した。悪くない妥協だった。EU残留を望む北アイルランドの民意も尊重される。だが、閣外協力でメイ政権を支えている、北アイルランドの民主統一党(DUP)がこの妥協に難色を示した。このために、北アイルランドだけでなく、イギリスもEUとの関税同盟に留まるという方策「バックストップ」が持ち出され、これが、現在の窮地につながっている。「バックストップ」が適用されれば、イギリス全体がEUとの関税同盟に留まらざるを得なくなり、アメリカなどとの自由貿易協定を締結できなくなる。一方、「バックストップ」を回避する方法の一つは「合意なき離脱」でしかない。・・・

異質な他者に如何に接するか
―― 近くと遠くをともに重視する

2019年5月号

クワメ・アンソニー・アッピア ニューヨーク大学教授(哲学・法律)

「今日、権力ポストにある人の多くは、近くで暮らす人々、・・・道を行く人よりも国際エリートたちとより多くを共有している。だが、自分が世界市民であると認識すれば、いかなる国の市民でもなくなる」。このテリーザ・メイ英首相の発言は間違っている。「われわれの社会を機能させている絆と責務」は、グローバルレベルでも、ローカルレベルでも存在する。外国人との交流は、相手がわれわれと違うだけに、新しい可能性をもたらしてくれるし、われわれも彼らに新たな機会を与えることになる。グローバル市民というメタファーを理解するには、「見知らぬ人への懸念と好奇心」をともにもつことが重要だ。それは何かを共有することだ。与えるものを何ももっていなければ、何かを他者と共有することもできない。

赤字と債務にいかに向き合うか
―― 第3の道は存在する

2019年4月号

ジェイソン・ファーマン  ハーバード大学 ケネディスクール教授(経済学)
ローレンス・H・サマーズ ハーバード大学名誉教授(経済学)

財政赤字と政府債務残高の増大はどの程度深刻な問題なのか。赤字と債務を懸念する原理派は、これらを最大の脅威とみなし、その削減を最優先課題に据えるべきだと主張する。一方、許容派はこれを無視してもかまわないと考えている。実際、政治家が目を向けるべきは、急を要する社会問題であり、財政赤字や債務ではないだろう。財政赤字の削減ではなく、重要な投資に焦点を合わせ、「経済にダメージを与えないように」配慮しなければならない。だが、財政赤字の削減を最優先にする必要はない。高い債務レベルに派生するリスクは、財政赤字削減策が引き起こすダメージに比べれば小さい。このアプローチなら、債務拡大の弊害と財政赤字削減の余波の間の合理的なバランスをとれるはずだ。

中国経済のスローダウンと北京の選択
―― 債務危機かそれとも政治的混乱か

2019年4月号

クリストファー・ボールディング フルブライト大学 ベトナム校准教授

中国の経済成長率は鈍化し続けている。人口の高齢化、生産年齢人口の減少、賃金レベルの上昇、都市部への人口流入ペースの停滞、投資主導型成長の限界、外国資金流入の低下など、成長率の鈍化、経済のスローダウンを説明する要因は数多くある。だが重要なのは、中国の家計と国の債務がすでに先進諸国と同じレベルに達し、債務が名目GDPよりも速いペースで拡大していることだ。債務の急速な拡大が危険であることを理解していたのか、北京は信用拡大を抑えて管理するための措置を2018年末にとったが、2019年1月の信用拡大は、2018年の年間社会融資総量合計の24%規模に達した。北京は高い経済成長率のためなら、進んでより大きな債務を抱え込むつもりのようだ。

AI軍拡競争を超えて
―― 危険な米中ゼロサム志向を回避せよ

2019年4月号

レムコ・スヴェッツロット 人間性の未来研究所 リサーチアフィリエート ヘレン・トナー オックスフォード大学AI統治プログラム リサーチアフィリエート ジェフリー・ディング オックスフォード大学AI統治プログラム リサーチアフィリエート

すでにAIについては多くのことが言われている。AIの「スキル・バイアス」によって、多くの低スキルおよび中スキルの労働者が経済に生産的に貢献できなくなり、失業率が大幅に上昇すること、そして優良企業を強化する自己補強サイクルをもつAIが流れを独占に向かわせがちで、このトレンドが国内および国家間の格差を悪化させることだ。実際、AIは2030年までに約16兆ドルのGDP成長をもたらすが、その70%が米中に集中するとみなす予測もある。では、米中のどちらが勝者となるか。「2020年までに中国はアメリカに追いつき、2025年までに抜き去り、2030年までにはAI産業を支配している」と予測する警告もある。だが、本当にそうなるだろうか。・・・

動き出したクルド統一国家への流れ
―― クルドの覚醒と中東の未来

2019年4月号

アンリ・J・バーキー リーハイ大学教授(国際関係論)

これまでクルド人は中東各国で分かれて暮らし、しかも内部対立を抱えていた。だが、シリア紛争とイスラム国勢力が作り出した混乱と騒乱のなかで国境を越えた連帯を形成したクルド人は、いまやイラク、トルコ、シリアで明確な政治的プレゼンスを確立し、ヨーロッパでも力強いディアスポラ・コミュニティが誕生している。クルド語によるソーシャルメディアと文化作品も登場している。これらの流れが重なり合うことで、汎クルドのアイデンティティが強化されている。もちろん、イラン、トルコというクルディスタン統一への障害は存在する。しかし最近のイベントによって、クルド人国家の建設プロセスはすでに始まっている。統一された、単一の独立したクルディスタンが存在しなくても、クルド人の覚醒が始まっている。・・・

さようなら、国際主義のアメリカ
―― トランプ時代の歴史的ルーツ

2019年4月号

エリオット・A・コーエン ジョンズ・ホプキンス大学教授(戦略研究)

トランプの「アメリカ第1主義」は、外交の初心者が犯した間違いではなく、アメリカのリーダーたちが戦後外交の主流概念から距離を置きつつあるという重要な潮流の変化を映し出している。先の大戦期及びその直後に成人した世代は、アメリカが世界をリードしなければ、いかに忌まわしい世界が出現するかを本能的に理解していた。これは、戦争で苦しんだ末に得た教訓だった。しかし、この世代の多くが亡くなり、具体的に秩序を形作った子どもの世代も少なくなってきている。これが、今後の米外交政策にもっとも重要な帰結を与えることは間違いない。トランプが大統領の座を退いても、「アメリカのリーダーシップなき世界」がどのような末路を辿るかを知る人々が支えたかつてのコンセンサスへアメリカが回帰していくことはない。残念ながら、不幸な結果を記憶している人々はもうすぐいなくなる。

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