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論文データベース(最新論文順)

対北朝鮮外交の破綻に備えよ
―― 「最大限の圧力」を復活させるには

2019年1月号

エリック・ブルーアー 新アメリカ安全保障センター 客員フェロー

「核・ミサイル実験の結果に十分に満足しており、今後は核兵器とミサイルの量産に焦点を合わせていく」。金正恩のこの発言が彼の真意なのかもしれない。しかし、すでに韓国と中国は経済制裁措置を緩め、トランプ自身、「北朝鮮の核問題は解決された」と発言している。つまり、外交路線が破綻した場合に、北朝鮮を締め上げるための国際的試みを復活させるのは非常に難しい環境にある。現状での平壌の外交が、経済制裁を緩和させ、自国の核の兵器庫を受け入れさせるための、いつも通りの策略に過ぎないのなら、経済制裁履行のスローダウンは金の思惑通りということになる。「北朝鮮を完全に破壊する」とトランプが恫喝策をとった時代、軍事攻撃の危険があった時代へ回帰していくのを懸念するのなら、適切なタイミングで、より大きな国際的圧力をかける路線へ移行していくことを今から考えておく必要がある。

幻想に覆われたイギリス政治
―― ブレグジットと果たされなかった約束

2019年1月号

ピーター・A・ホール ハーバード大学教授(ヨーロッパ研究)

幻想に包み込まれてしまったイギリス政治というファンタジーランドの住民たちには、現実が見えてないようだ。保守派、つまり、頑迷な離脱派は、テリーザ・メイがまとめた離脱合意を非難し、まるでもっと良い選択肢があるかのように、これでは「ヨーロッパへの隷属」と同じだと批判している。一方、左派の労働党は、伝統的な支持基盤である労働者階級が望むとおり、ブレグジットは受け入れるとしつつも、但し、それはEUメンバーだったときと同様に好ましい条件をEUから引き出した場合だけだと条件をつけている。現状は政治的ホラームービーのようなものだ。主要な政治プレイヤーが目を通している台本に書かれていることと現実の関連がほとんどないだけに、どのような結末になるかはまったくわからない。

カトリック教会の重大な危機
―― 宗教改革以来最大の危機とは何か

2018年12月号

マッシモ・ファジョーリ 米ビラノバ大学教授(神学・宗教学)

カトリック教会は制度改革を切実に必要としていたタイミングで、政治的・神学的・地政学的な亀裂の拡大に直面し、いまや宗教改革以来最大の危機に直面している。聖職者による性的虐待が新たに明らかになり、世界に衝撃を与えている。ビガノ大司教は「教皇フランシスコは長年マカリックの性的虐待を知っていたにもかかわらず、その隠蔽を助けてきた」と告発する書簡を発表し、教皇の辞任さえ求めている。いまやカトリック教会は、進歩派と保守派の間で大きく割れている。それでも、おそらく現在の状況は、16世紀の宗教改革のようなカトリックの分裂や、新しい教会の設立にはつながっていかないだろう。より現実性が高いのは、ローマ・カトリック教会が、中央とのつながりが緩く、より国家に根ざした東方正教会のような制度構造に向かっていくことだ。・・・

民主主義が劣化していくにつれて、権威主義化していく。特に、選挙で勝利を手にするためなら何でもする「選挙権威主義」体制、そして選挙後に支配者が法を無視して思うままの行動をとるようになる「非自由主義的民主主義」が主流になっていくだろう。例えば、超法規的殺人を特徴とする麻薬戦争を展開しているフィリピンのドゥテルテは、選挙で選ばれたが、権力を乱用している。(権力を思うままに行使して)非自由主義的民主主義を実践しているトランプも同様だ。より厄介なのは、選挙で有利になるように、ゲリマンダー、議員定数の不均衡などのあらゆる政治制度上のトリックを利用しているマレーシアの統一マレー国民組織(UMNO)と米共和党が似てきていることだ。選挙に破れても首相を送り込んだUNMO同様に、米共和党も、一般投票では敗れつつも、最近の2人の共和党大統領候補をホワイトハウスに送り込むことに成功している。・・・

トランプを台頭させた 白人有権者の文化的恐れ
―― グローバル化に対する反動という虚構

2018年12月号

チャールズ・ケニー グローバル開発センター  シニアフェロー

貿易と移民に対する反発がトランプの台頭を支えたと考えるのは間違っているし、当然、「グローバル化に対する反動」という虚構に配慮するのも間違っている。それどころか、ギャラップ社の世論調査結果は、かつてなく多くのアメリカ人が貿易と移民の流れは経済的な恩恵をもたらすと考えていることを示している。一方で、高齢の白人有権者の割合が高い地域でトランプへの支持率が高いことに目を向けるべきだろう。問題は、(人やモノの)グローバル化を、白人の少数派が「文化的な脅威」とみなしていることにある。国際主義者たちは彼らの立場に歩み寄るのではなく、むしろ闘いを挑む必要がある。

米中核戦争は絵空事ではない
―― なぜエスカレーションリスクが高いのか

2018年12月号

カイトリン・タルマージ 米ジョージタウン大学准教授(政治学)

専門家の多くは、米中核戦争はあり得ないと考え、想定外のシナリオとみているが、そう思い込むのは考えものだ。例えば、台湾をめぐる軍事対立が核戦争へとつながっていくリスクは、多くの政策決定者や分析者が考えている以上に高い。実際、ペンタゴンの通常戦力による戦闘モデルを中国に当てはめるのは、核戦争へのエスカレーションを引き起こす処方箋のようなものだ。最大の問題は、中国が通常戦力と核戦力を渾然一体として配備しているために、通常戦力だけを叩くのが難しいことにある。つまり、中国の通常戦力を叩く大がかりなアメリカの軍事キャンペーンは、相手の核戦力も脅かしてしまう。戦況を前に、北京が、アメリカの意図に関する解釈を大きく見直したときに大きな危険が待ち受けている。中国の指導者は、まだ使える状態の核兵器を、中国の核戦力をもっとも脅かしている米空軍基地に対して先制使用する恐れがある。・・・

米中戦争を回避するには
―― アメリカの新中国戦略に対する10の疑問

2018年12月号

ケビン・ラッド 元オーストラリア首相

40年間に及んだアメリカの対中エンゲージメント政策にはすでに公的にピリオドが打たれ、いまやそれは「戦略的競争」に置き換えられている。対中強硬論は、米議会を含むアメリカの政府機関、ビジネスコミュニティの支持を広く集めているようだ。しかし、政策決定者は、この戦略を政策レベルで運用していく上で、数多くの予期せぬ事態に直面することを想定しておくべきだ。戦略的競争が、関係の打ち切り、対立、封じ込め、そしておそらくは武力紛争へ急速にエスカレーションしていくリスクも考えなければならない。対立の帰結はどのようなものになるか。封じ込めは成功するのか。諸外国はどう反応するか。第3の道は存在するか。考えるべき設問は数多く存在する。

ベネズエラの自殺
―― 南米の優等生から破綻国家への道

2018年12月号

モイセス・ナイーム カーネギー国際平和財団特別フェロー
フランシスコ・トロ グループ・オブ・フィフティ 最高コンテンツ責任者

インフレ率が年100万%に達し、人口の61%が極端に貧困な生活を強いられている。市民の89%が家族に十分な食べ物を与えるお金がない。しかも、人口の約10%(260万人)はすでに近隣諸国に脱出している。かつてこの国は中南米の優等生だった。報道の自由と開放的な政治体制が保障され、選挙では対立する政党が激しく競い合い、定期的に平和的な政権交代が起きた。多くの多国籍企業が中南米本社を置き、南米で最高のインフラをもっていたこの国が、なぜかくも転落してしまったのか。元凶はチャビスモ(チャベス主義)だ。キューバに心酔するチャベスと後任のマドゥロによって、ベネズエラは、まるでキューバに占領されたかのような大きな影響を受けた。でたらめで破壊的な政策、エスカレートする権威主義、そして泥棒政治が重なり合い、破滅的な状況が生み出された。・・・

北朝鮮非核化の失敗と予想外の安定
―― 非核化という虚構がもたらす機会と脅威

2018年12月号

ジョシュア・シフリンソン ボストン大学准教授(国際関係論)

皮肉にも、アメリカが真の非核化合意を実現できなかったがゆえに、韓国、北朝鮮、中国、アメリカ、日本がいずれも現状を受け入れられるような北東アジアの秩序が確立されるかもしれない。北朝鮮が核武装に成功した結果、北東アジアの関係諸国間のパワーと利益の棲み分けが進んでいる。北朝鮮体制の存続は事実上保証されている。アメリカは、引き受けられるリスクからみて、応分の影響力を確保し、中国もこれまでのように地域紛争に引きずり込まれ、同盟国を失うことを心配する必要がなくなった。偶発的で予想外かもしれないが、関係諸国にとって、これはもっとも問題が少ない安全保障構造かもしれない。

皇太子率いる全体主義国家の誕生
―― もはやかつてのサウジにあらず

2018年12月号

マダウィ・アル=ラシード ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 客員教授

サルマン国王は王族間のコンセンサスを重視する伝統的な統治モデルを一掃し、息子であるムハンマド・ビン・サルマン(MBS)を皇太子として王国のトップポジションに据える道筋を作った。MBSは副首相、国防相、経済開発評議会議長、政治安全保障委員会議長を兼務し、サウジのソフトパワーツールも管理している。忠誠委員会は、そのメンバーたちが2017年のいわゆる反政治腐敗弾圧によって拘束された後、解体された。皇太子は王族会議も解散し、宗教エスタブリッシュメントを周辺化しただけでなく、批判派と金融エリートも拘束した。サウジの君主制はいまや1人が絶対的権力をもつ全体主義体制へ変化している。完全な服従と皇太子への忠誠を求めるサウジの新全体主義の環境のなかで、カショギ殺害事件は起きた。・・・

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