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論文データベース(最新論文順)

民主主義を救うには
―― 歪んだ米経済システムの是正と外交の再生を

2019年2月号

エリザベス・ウォーレン 米上院議員(マサチューセッツ州選出・民主党)

ワシントンはこの数十年で一握りのエリートにだけ恩恵をもたらす政策をとるようになった。これを批判し「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプの政策も、実際には「トランプファミリーファースト」で、中間層には最低限の配慮しかしていない。一方、中国では、習近平国家主席が権力基盤を固めて「偉大なる復興」を語り、国有企業が共産党幹部に巨万の富を与えている。ロシアのプーチン大統領のパワーも、彼に友好的なオリガークが運営する国営企業との複雑な関係によって支えられている。しかも、これがモデル化されて、トルコやハンガリーを含む各国へと拡散している。このままでは、アメリカを含む、民主社会も、政治腐敗と泥棒政治への道を歩み、民主主義とは名ばかりの国に転落していく恐れがある。流れを覆すには、一握りのエリートだけでなく、すべてのアメリカ人に恩恵をもたらす政策と外交が必要になる。

気候変動ショックと人道的危機
―― 最大のリスクにさらされる国は

2019年1月号

ジョシュア・バスビー テキサス大学オースチン校 准教授(公共政策)
ニナ・フォン・ユクスキュル ウプサラ大学 平和・紛争研究学部助教

気候変動に対して大きな脆弱性をもつ国は、特定のリスクファクターを抱えている。農業部門への依存が高いこと、最近、国内紛争を経験していること、そして政治制度が特定の人種・宗教・民族集団に対する差別を内包していることだ。干ばつや洪水は、農業依存が高い国の多くの人の収入を低下させ、深刻な食糧危機を引き起こす。最近国内紛争を経験していれば、兵器や動員できる戦闘員へのアクセスをもつ指導者や集団がいまも国内で活動している危険がある。政治制度が特定集団への差別を内包している国では、政府は人口の一部が直面している危機に対応しないために、不安定化や人道的緊急事態に直面するリスクが高くなる。特に農業が気候の変動に脆いことを認識する必要がある。農産品の収穫量の大幅な減少を阻止するために、農業のあり方をどう変化させればよいかも早急に考える必要がある。

流れは米中二極体制へ
―― 不安定な平和の時代

2019年1月号

イェン・シュエトン(閻学通) 清華大学特別教授(国際関係論)

いまや問うべきは、米中二極体制の時代がやってくるのかどうかではなく、それがどのようなものになるかだ。米中二極体制によって、終末戦争の瀬戸際の世界が出現するわけではない。自由貿易を前提とするリベラルな経済秩序を重視しているだけに、今後の中国の外交政策は、積極性や攻撃性ではなく、慎重さを重視するようになるだろう。ほとんどの諸国は、問題ごとに米中どちらの超大国の側につくかを決める2トラックの外交政策を展開するようになり、これまでの多国間主義は終わりを迎える。欧米におけるナショナリスティクなポピュリズムと中国の国家主権へのこだわりが重なり合う環境では、リベラルな国際主義のシンボルだった政治的統合やグローバル統治の余地はほとんどなくなっていくはずだ。・・・

ベネズエラ難民危機とラテンアメリカ
―― 移民ではなく、難民と呼ぶべき理由

2019年1月号

ダニー・バハール ブルッキングス研究所フェロー

歴史的にベネズエラは移民に開放的な国だった。戦後にこの国にやってきた多くはイタリア、スペイン、ポルトガルからの移民だったが、この他にも、ドイツや東欧からの移民、さらには中東からの移民もいた。1970年代半ばにベネズエラ経済がブームに沸き返ると、近隣諸国からの移民も押し寄せた。だが、皮肉にも、チャベスとマドゥロが、かつては繁栄していたこの国で壊滅的政策をとった結果、かつて移住してきた外国人のほとんどは、その子孫たちとともにすでに国外へ流出している。問題は彼らが近隣諸国で必ずしも歓迎されていないことだ。他の難民たちと同様に、ベネズエラから逃れてきた人々が、命を守るために国を逃れてきた難民たちであることを忘れてはいけない。彼らを難民として認識すれば、そこにあるのがもはや無視できない現実であることが理解できるはずだ。

米国境を目指す中米移民の窮状
―― 貧困と犯罪を逃れて北を目指す人々

2019年1月号

ステファニー・リュータート テキサス大学オースチン校 ロバート・ストラウスセンター ディレクター

アメリカ国境を目指す中央アメリカの人々はなぜ故郷を後にし、ワシントンはこれにどのように対処しているのか。1980年代には内戦を逃れる難民が数多く押し寄せ、その後も、経済的機会を求めて、犯罪組織の社会的暴力から逃れるために北を目指す人の流れは続いている。最近ではアメリカへの入国を求める家族と子供が増えているのが特徴的だ。ワシントンは、国境地帯の警備を強化し、近隣諸国に移民抑止に向けて協力を依頼し、現地経済支援のための援助を提供することで、その対応策としてきた。しかし、これらは結果を出せていない。人々が故郷を後にせざるを得ない状況にワシントンがより真剣に対処しない限り、中南米移民は北を目指し、アメリカでの未来を思い描き続けることになる。

機会のはしごが社会と経済を救う
―― 教訓と訓練の「機会」と経済的開放性

2019年1月号

ケネス・F・シーブ スタンフォード大学教授(政治学)
マシュー・J・スローター ダートマス大学経営大学院教授(国際ビジネス)

グローバル化の反動に対処するには、すべてのアメリカ人が変化のなかで失った安定感と目的意識を取り戻すために必要なツールを提供する必要がある。そのためには、すべての市民がグローバル化の波に適応するための人的資本を得られるような、生涯にわたる「機会のはしご」を構築すべきだ。誕生から幼稚園までの間のさまざまな早期幼児教育に始まり、高校を卒業後に4年制大学に進学しなかった人たち全員に、その学費を政府が負担して2年間のコミュニティカレッジでの教育をオファーすべきだ。さらに、すでに社会に出ている高卒の労働者に職業訓練の生涯教育を与える必要もある。国境に壁を巡らしても解決策にはならない。アメリカは人々に機会を提供し、移民に開放的な国であり続けなければならない。

次の金融危機に備えよ
―― なぜ危機は繰り返されるのか

2019年1月号

カーメン・ラインハート ハーバード大学ケネディ・スクール 教授(国際金融システム)
ヴィンセント・ラインハート スタンディッシュ チーフ・エコノミスト

一般的に金融危機は特定の資産価値が暴落し始め、それに引きずられて他の資産の価値が下落することで始まる。広く経済で大きな役割を占めている限り、いかなる資産の暴落も危機のきっかけを作り出す。2007年の危機は、金融危機が「普通のリセッションよりもはるかに大きなダメージを引き起こし、ダメージからの回復にもより長い時間がかかること」をわれわれに改めて認識させただけでなく、「政府が迅速かつ決意に満ちた対応をみせれば非常に大きな違いをもたらせること」も示した。結局、金融メルトダウンがもたらす災難の背後には、貪欲、恐怖、歴史を忘れがちであるという重要な人的要因が存在する。あれほど衝撃的だった直近の金融危機が最後の金融危機にならない理由はここにある。

公衆衛生の改善と社会・経済の進化
―― 途上国における感染症対策成功のジレンマ

2019年1月号

トマス・ボリキー 米外交問題評議会ディレクター (グローバルヘルス・プログラム)

多額の資金を投じたプロジェクトによって、感染症から途上国の子どもたちを救うことに世界は成功した。しかし、青年期から中年期に、治療可能な生活習慣病のために命を落とす人が増えている。それだけではない。感染症を封じ込めても、若者の失業増、密集し整備が十分ではないインフラなどの問題が逆に社会の不安定化を引き起こしつつある。人類は感染症との闘いで進展を遂げたが、そこにはパラドックスがある。「世界の人々は以前よりも健康になったが、(それが別の問題を作り出し)、われわれの不安を高めている」。努力を重ねてやっと得た最近の成果が、社会を不安定化させる一連の新たな問題を作り出しつつある。

ポピュリズムとカトリック教会の分裂
―― リベラルな教皇フランシスコへの反発

2019年1月号

R・R・レノ ファースト・シングズ誌編集長

カトリック教会はいまや世俗政治の泥沼に引きずり込まれている。欧米諸国の政治を揺るがしている「エスタブリッシュメントに対するポピュリストの反乱」がカトリック教会にも影響を与えている。実際、教皇フランシスコは、カトリック教会を、「開放性」を支持する欧米の文化や政治エスタブリッシュメントの立場と一体化させている。結婚に関する教会のルール見直し、移民について教皇が示してきた見解は、どちらも欧米のアッパーミドルクラスのエリートの考え方と一致する。これに対する反動が教会内で起きている。欧米諸国の政治文化を揺るがしているポピュリズムが、いまや、カトリック教会も揺るがしている。

戦後秩序は衰退から終焉へ
―― 壊滅的シナリオを回避するには

2019年1月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

保護主義、ナショナリズム、ポピュリズムがさらに勢いをもち、民主主義は廃れていく。内戦や国家間紛争が頻発して常態化し、大国間のライバル関係も激化する。グローバルな課題に向けた国際協調も不可能になっていく。この描写に違和感を覚えないとすれば、現在の世界がこの方向に向かっているためだろう。但し、戦後秩序をもはや再生できないとしても、世界がシステミックリスクの瀬戸際にあるわけではない。それだけに、米中関係の破綻、ロシアとの衝突、中東での戦争、あるいは気候変動と、何がきっかけになるにせよ、それがシステミックな危機にならないようにしなければならない。世界が壊滅的な事態に遭遇するというシナリオが不可避でないことはグッドニュースだ。バッドニュースは、そうならないという確証が存在しないことだ。

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