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論文データベース(最新論文順)

経済停滞が引きずり出した民衆の怒り
―― 暴走するラテンアメリカ

2019年12月号

モイセス・ナイーム カーネギー国際平和財団  名誉フェロー 
ブライアン・ウィンター アメリカズソサエティ.カウンシル・オブ・アメリカズ  副会長(政策担当)

ベネズエラやキューバの介入がラテンアメリカで多発するデモや暴動のきっかけをつくりだしたかどうかはともかく、この地域の民衆の怒りが暴走しかねない状態にあったのは事実だ。21世紀初頭の原材料バブルがはじけて以降、ラテンアメリカは長期に及ぶ停滞のなかにある。賃金が停滞し、生活コストが高騰するなか、格差や政治腐敗が作り出す問題に民衆が耐えるのはもはや限界に達していた。アジェンダを絞り込んで積極的対策をとる必要がある。消極的姿勢では、低成長、民主主義への信頼の失墜、ポピュリストの台頭という悪循環をさらに大きくするだけだ。

独裁者の台頭とハンガリーの衰退
―― ビクトル・オルバンの変節

2019年11月号

パウル・レンドバイ ジャーナリスト

「われわれの力を信じれば、共産主義独裁体制に終止符を打てる」。1989年の演説で(民主化に向けて)ハンガリー人をこう鼓舞した若者は、20年間でポピュリストの独裁者に変貌していた。2010年の選挙で大勝したオルバンが試みたのは、新政権の樹立ではなく、「体制変革」だった。憲法を改正し、憲法裁判所を意のままにし、メディアを押さえつけて管理し、政権に依存する社会経済エリート層を作り出した。ハンガリーのある政治家によれば、オルバンのハンガリーは「ポスト共産主義のマフィア国家で、それを率いるのは政党ではなく、ビクトル・オルバンの政治経済派閥だ」。オルバンは政府を批判する者を非愛国的な反逆者と非難し、自らの失敗やミスを欧州連合のせいにしている。・・・

ポピュリズム独裁の台頭と末路
―― 独裁政権の基盤が脆弱な理由

2019年11月号

ヤシャ・モンク
ジョンズ・ホプキンス大学 准教授(国際関係)

ポピュリスト独裁制が台頭しているのは間違いないが、その政治的正統性を維持できるか(つまり、民衆がポピュリストの独裁者を支持し続けるかどうか)は、「民衆の立場を代弁している」という幻想を維持していく指導者の能力に左右される。皮肉にも、指導者がより大きな権力を掌握するにつれて、民衆の立場を代弁しているという取り繕いには説得力がなくなり、これによって、ポピュリストの正統性に悪循環が生まれる。支持率が低下すると、権力を維持するためにより多くの抑圧策を行使しなければならなくなる。抑圧策を強化すれば、統治を正統化するストーリーも説得力を失い、民衆の支持はさらに低下する。この10年が民主派にとって気が滅入るほどに憂鬱な時代だったとすれば、次の10年が独裁者にとって驚くほどタフな時代になる可能性は十分にある。

貿易戦争の本当の目的
―― プラスサムへの思考転換を

2019年11月号

ウェイジャン・シャン PAG最高経営責任者

米経済が力を失ったときに、貿易戦争はターニングポイントを迎えるかもしれないが、基本的に米中競争はトランプの時代を超えて続く。この衝突はシステミックだからだ。米通商代表は関税政策の目的は「ビジネスの仕方を中国が見直すのを促すことにある」と語っている。米戦略の中枢には「政府の民間経済への関与という中国のシステムはアメリカにとって脅威である」という認識が存在する。だが、中国モデルなど存在しない。問題は、むしろ、中国政府が管理する(公的経済)部門の優遇策にある。アメリカの交渉者は、中国側に国有経済部門をもっとそぎ落とすように求めるべきだ。さらに、ゼロサム志向から離れ、貿易戦争によって米中経済が切り離されるリスクを回避することが、両国にとっての最善の利益になる。米中経済を切り離そうとするいかなる試みも、米中双方そして世界にとって壊滅的な結果をもたらすことになる。

国際政治と指導者のキャラクター
―― 政治的潮流に占める指導者の役割

2019年11月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授
ケネス・M・ポラック アメリカンエンタープライズ研究所 レジデントスカラー

いまやわれわれの世界を(テクノロジーなどの)非人間的な力が変化させ、再定義しつつあるかにみえるだけに、国際政治の流れにおける指導者(の役割)を軽くみる(構造的現実主義の)見方も正当化できるのかもしれない。構造的な要因と技術的な変化が各国の行動を変化させているのは間違いない。しかし、現在でも、指導者たちは、国際政治の潮流に乗るか、その方向を制御するか、流れに抵抗するかを判断できる。そして、その判断は、個々の指導者のキャラクターを理解しない限り、わからない。政治と外交における指導者個人の役割にもっと配慮すれば、国際関係の単純なモデルで想定されるよりも政治がはるかに不確実で制約が多いことがわかるはずだ。

米英の「特別な関係」の真実
―― 疑いと不安と断ち切れぬ関係

2019年11月号

スティーブ・ブルームフィールド  プロスペクト誌副編集長

ブレグジットに派生するヨーロッパとのギクシャクとした関係が続いているだけに、イギリスの貿易と安全保障領域での対米依存は今後ますます大きくなっていく。だが、英首相官邸、外務省、国防省の高官たちとの一連の対話から判断して、トランプ政権がイギリスのもっとも緊密な同盟関係の基盤を揺るがしているのは明らかだ。アメリカとの力強く、信頼できる関係をかつてなく必要としているタイミングで、イギリスは疑いと不安をもってアメリカをみつめている。一部の高官が米英関係を描写するのに用いるのはもはや「特別な関係」ではなく、「不可欠な関係」だ。しかし、「不可欠な関係」の問題は、パートナーの行いがいかに悪くとも、関係を断ち切れなくなることだ。

北極圏と大国間競争
―― 中ロに出遅れたアメリカ

2019年11月号

ヘザー・A・コンリー 戦略国際問題研究所 ディレクター(ヨーロッパ)

地球平均のほぼ2倍のペースで温暖化が進んでいるために、北極圏の環境は大きく変化している。海氷の後退によって、新たに航路が生まれ、レアアース、水産資源、巨大な石油・天然ガス資源を含む手つかずの資源へのアクセスが開かれつつある。中ロは、こうした変化がもたらした経済的、軍事的なチャンスを積極的に模索している。北京は一帯一路を北極圏に広げ、周辺諸国の一部の港湾、鉄道、地下ケーブル、エネルギー開発に投資し、これを「北極(氷上の)シルクロード」と呼んでいる。モスクワも新たに生まれた北極海航路に対する主権を主張し、中国の海洋シルクロード構想と北極海航路を一体化させることを提案している。・・・

封じ込めではなく、米中の共存を目指せ
―― 競争と協調のバランスを

2019年11月号

カート・M・キャンベル  元米国務次官補(東アジア・太平洋担当)
ジェイク・サリバン カーネギー国際平和財団非常勤シニアフェロー

アメリカの対中エンゲージメント路線は、すでに競争戦略に置き換えられている。だがその目的が曖昧なままだ。エンゲージメントでは不可能だったが、競争ならば中国を変えられる。つまり、全面降伏あるいは崩壊をもたらせると、かつてと似たような見込み違いを繰り返す恐れがある。それだけに、米中が危険なエスカレーションの連鎖に陥るのを防ぐ一連の条件を確立して、安定した競争関係の構築を目指す必要がある。封じ込めも、対中グランドバーゲンも現実的な処方箋ではない。一方、「共存」はアメリカの国益を守り、避けようのない緊張が完全な対立に発展するのを防ぐ上では最善の選択肢だ。ワシントンは、軍事、経済、政治、グローバルガバナンスの4領域において、北京との好ましい共存のための条件を特定する必要がある。

日本の核ジレンマと国際環境
―― 能力も資源もあるが・・・

2019年11月号

マーク・フィッツパトリック 英国際戦略研究所 アソシエートフェロー

反核感情の強い日本の科学者コミュニティが(政府による)核開発の要請に応じるとすれば、安全保障環境が大きく悪化した場合に限られる。そして、日本の政策決定者たちが核武装を真剣に考えるとすれば、韓国が核武装するか、ピョンヤンが現在の核の兵器庫を温存したままで朝鮮半島に統一国家が誕生した場合だろう。一方で、日本が核開発に乗り出せば、北京は軍備増強路線を強化し、北朝鮮による対日先制攻撃リスクを高めるかもしれない。韓国が核開発に乗り出し、地域的な緊張が大きく高まる恐れもある。核開発への東京の姿勢は、歴史的にも、アメリカによる核抑止の信頼性をどうみるかで左右されてきた。少なくとも、トランプがそのクレディビリティを大いに失墜させているのは間違いない。

東南アジアとイスラム国勢力
―― ジハードの戦士は東南アジアを目指す

2019年11月号

ザチャリー・アブザ 米国防大学教授
コリン・P・クラーク ソウファン・センター シニアリサーチフェロー

いまやイスラム国は土地と民衆をもつ主権という概念から離れ、「分権化されたグローバルな武装抵抗モデル」へギアを入れ替えつつある。すでに、2018年以降、外国人戦闘員は、レバントではなく、フィリピン、インドネシア、マレーシアをグローバルジハードの新しい戦線とみなすようになった。東南アジアにはイスラム国系組織だけではなく、親アルカイダ系のネットワークもある。こうした武装集団は、中東の二つのテロ集団のいずれかと連帯関係を組織しようとする。視野の狭い闘争にグローバルな意味合いをもたせれば、メッセージを伝え、戦闘員をリクルートし、資金を調達する上で有利になるからだ。イスラム国は武装集団に姿を変えざるを得ないが、未開の地である東南アジアが、この組織に大きな恩恵をもたらすことになるのかもしれない。

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