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論文データベース(最新論文順)

米中経済のディカップリングの意味合い
―― 解体するグローバル貿易システム

2019年9月号

チャッド・P・ボウン  ピーターソン国際経済研究所
ダグラス・A・アーウィン ダートマスカレッジ教授(経済学)

トランプ政権が永続的な中国との取引はもとより、北京が受け入れるかもしれない合意など望んでいないことはすでに明らかだ。表面的な合意が結ばれても、それは永続的な貿易戦争の一時的な休戦にすぎない。トランプ政権は、中国政府が「国が支配する経済」から「市場経済」へと一夜にしてシステムを作り替えることを望んでいる。中国経済のあらゆる側面への管理を維持することで、権力を堅持してきた共産党政府がこれを受け入れるはずはない。世界の2大経済大国のつながりが断ち切られ、分裂していけば、世界の貿易地図も書き換えられていく。各国はライバルの貿易ブロックのどちらかを選ばざるを得なくなり、これまでの「グローバル貿易システム」は解体へ向かう。

アメリカは同盟国を本当に守れるのか
―― 拡大抑止を再強化するには

2019年9月号

マイケル・オハンロン ブルッキングス研究所 シニアフェロー(外交政策プログラム)

尖閣諸島の防衛を約束しているとはいえ、中国は「価値のない岩の塊のためにアメリカが大国間戦争のリスクを冒すことはない」と考えているかもしれない。一方、ワシントンが信頼できる形で反撃すると約束しなければ、拡大抑止はその時点で崩壊し、尖閣の喪失以上に深刻な帰結に直面する。アメリカが何の反応も示さないことも許されない。これが「尖閣パラドックス」だ。今後の紛争は、大規模な報復攻撃を前提とする伝統的な抑止が限られた有効性しかもたない、こうしたグレーゾーンで起きる。中国とロシアの小規模な攻撃に対しては、むしろ、経済戦争、特に経済制裁を重視した対応を想定する必要がある。脅威の質が変化している以上、ワシントンは軍事力と経済制裁などの非軍事的制裁策を組み合わせた新しい抑止戦略の考案を迫られている。

ファーウェイのリスクと魅力
―― アメリカは競争環境を整備せよ

2019年9月号

アダム・シーガル 米外交問題評議会  シニアフェロー(新興技術・国家安全保障担当)

ファーウェイのシステムを導入すれば、情報や安全保障上の安全を確保することはできなくなるとワシントンは主張している。しかし、日本とオーストラリアを別にすれば、ヨーロッパや東南アジアの多くの国が、その経済性ゆえに、ファーウェイシステムの導入に前向きになっている。米中の科学技術領域のエコシステムを分断することを重視するワシントンの姿勢は、結局は、アメリカの技術革新のペースを鈍化させることになる。ファーウェイシステムの導入を止めるように大きな圧力をかけるよりも、アメリカは価格や効率面で競合できる代替策を各国にオファーできるように対策をとり、サイバーセキュリティを強化し、5Gテクノロジーおよびその後継テクノロジーをリードできるように研究開発に投資する必要がある。

CFR Briefing
香港はどこへ向かうのか
―― 軍事介入リスクは高まっている

2019年9月号

ジェローム・コーエン ニューヨーク大学ロースクール教授

香港のデモ隊は、1984年の中英共同宣言、香港基本法が定める「一国二制度」が保証していると彼らが考える政治的自由を行使したいと考えている。これまでのところ北京は、高まる危機への対応を香港政府に任せている。しかし、北京の忍耐が限界に近づきつつあることを示す重要なシグナルもあり、人民解放軍が香港に投入されるリスクは高まっている。北京の政府機関とプロパガンダ部門は、香港のデモを「テロ活動」と呼び、混乱は香港でカラー(民主化)革命を起こそうとするアメリカの「ブラックハンド」が引き起こしていると主張している。香港を軍事的に弾圧すれば、1989年の天安門事件以上に、中国の国際関係にダメージを与えることを北京は理解している。しかし、必要であれば軍事力の行使も辞さないだろう・・・2019年10月1日に中華人民共和国建国70周年を祝った後に、北京は人民解放軍を投入するかもしれない。そうなれば、香港と香港住民だけでなく、中国の世界における立場、国際安全保障にとっても悲劇的な展開となる。

北京の香港ジレンマ
―― 中国が軍を送り込まぬ理由

2019年9月号

ビクトリア・ティンボー・ホイ ノートルダム大学准教授(政治学)

最近の世論調査では、住民の73%が香港政府は逃亡犯条例を正式に撤回すべきだと答え、79%が警察の職権乱用に対する独立調査の実施を支持すると答えている。一方、北京は抑圧を強化していくことを示唆している。これまでのところ、(警察や犯罪組織による暴力と(北京による)威嚇策は、慣れ親しんできた自由を守ろうとする香港住民の決意を逆に高めている。第2の天安門を懸念する専門家もいる。実際、北京は香港の行政長官に軍事的支援を求めさせることもできる。しかし、中国軍が香港のデモ鎮圧に介入する可能性は低い。香港はアジアの主要な金融センターであり、中国とグローバル経済との重要なつながりを提供しているからだ。北京は香港の自治という「体裁」を維持していく強いインセンティブをもっている。

CCPと天安門事件の教訓
―― 中国を変えた政治局秘密会議

2019年9月号

アンドリュー・J・ネイサン コロンビア大学教授

天安門危機で学生たちへの和解的アプローチを提唱した趙紫陽はポストを解任された上、自宅監禁処分とされ、この処分は2005年に彼が死亡するまで続けられた。天安門の弾圧から約2週間後、共産党政治局は「拡大」会議を招集する。保守派が勝利したこの会議で、「中国共産党は内外の敵の共謀によって脅かされている」という認識が確認された。(国内・党内の敵とみなされた)趙紫陽は、報道の自由を認め、学生と対話の場をもち、市民団体の活動規制を緩和すべきだと考えていた。だが、中国政府は別の選択をし、結果的に「改革と統制」の間の永続的な矛盾を抱え込んでしまった。こうして引き起こされる社会的緊張は、習近平が人々の所得レベルを向上させ、高等教育を拡充し、民衆を都市に移住させ、消費を奨励するにつれて、ますます高まっていく。政府にとって、天安門事件はいまも忌まわしい前兆を示す教訓であり続けている。

ヨーロッパの自立と新米欧関係
―― 依存と支配からの独立

2019年8月号

アリーナ・ポリャコバ ブルッキングズ研究所フェロー ベンジャミン・ハダッド アトランティック・カウンシル ヨーロッパの未来イニシアティブ ディレクター

ヨーロッパはアメリカの防衛の傘に入れてもらう代わりに、従順な立場をとり、一方、歴代の米指導者たちも、ヨーロッパが大混乱に陥るよりも、防衛にただ乗りされる方がましだと考えてきた。だが、その後の国際環境の変化を前に安全保障の優先順位を見直したアメリカは、ヨーロッパを危険な環境に放置するようになった。対米協調を国際関係におけるパワーバランスに置き換えがちだったヨーロッパにとって、「パワー」という概念を受け入れることが不可欠だ。一方、アメリカは、ヨーロッパが軍事力を強化しても、アメリカのリードに従うと期待するのは幻想であることを理解しなければならない。防衛支出を増やしたヨーロッパが、政治的に受身であり続けると期待するのは間違っている。いまや大西洋関係は大きな分岐点にさしかかっている。

「ジョージ・ワシントンは適度なアルコールを与えてからでなければ、兵士たちを戦場に向かわせることはなかった」。イギリス軍の要塞に突入し、独立戦争の流れを変えたイーサン・アレンも、「いつもながら、リンゴ酒とラムのカクテルを燃料にしていた」。メイフラワー号の航海から独立戦争そして南北戦争にいたるまで、建国期のアメリカの歴史の節目には必ずアルコールが登場する。しかし、労働の節目で軽く一杯やることが農村コミュニティで受け入れられていた時代から、物理的な間違いが大きなコストを伴う工場労働の時代に移ると、飲酒に対する態度は一変する。1840年代までには禁酒運動が起きるようになり、1920年からの13年間にわたって現実に禁酒法が施行された。多くの意味で、飲酒容認派と禁酒派間の緊張、酒場の生活を支持する人々と家庭の生活を支持する人々の緊張は、アメリカ国家を形作る要因の一つだった。

社会に貢献できる金融システムを
―― 金融危機の本質的教訓を生かすには

2019年8月号

ジリアン・テット フィナンシャル・タイムズ 米国版総合編集者兼編集委員会委員長

「経済を支配するのではなく、経済に奉仕する金融システムを構築する方法をアメリカは本当に知っているのだろうか」。悲しいことに、答えはおそらくノーだ。アメリカのバンカーが、規制当局、政治家、株主たちともに、金融危機とポピュリストの反動が再来するリスクを小さくすることを望むのなら、「ファイナンス」、「バンク」、「クレジット」の本来の意味を彼らのコンピュータスクリーン上に映し出しておくべきだ。これらの本来の意味に即して、銀行業を「目的達成のための手段で、信頼を基盤に社会グループによって遂行される活動」と捉えると、アメリカの金融の何が間違っていたか、将来に向けてそれをいかに是正していくべきかを考える助けになる。かつて同様に現在も、投資家は自身が理解していないことを過度に信用する傾向がある。信用市場を支えている信用の基礎を常に疑うしかない。

人工知能への備えはできているか
―― うまく利用できるか、支配されるか

2019年8月号

ケネス・クキエル  エコノミスト誌 シニアエディター

AIは良くもあり、悪くもある。賢いが、鈍い部分もある。文明の救世主であるとともに、世界の破壊者でもある。実際、どのようにして決断を導き出しているか分からないし、それを人間が解明することもできない。特に、汎用人工知能(AGI)については、「独自に進化し、人間が管理できなくなるのではないか」と懸念され、特定型AIについても「デザイナー(である人間)がその意図を完全に伝えられず、壊滅的な結果が引き起こされるのではないか」と心配されている。一方で、AGIのことを心配するのは、火星が人口過剰になることを心配するようなもので、先ず、(AGIに関して)想定されていることが実現する必要があると主張する専門家もいる。イノベーションの進化ペースをどの程度「警戒」し、(機械のメカニズムに関する)説明の「正確さ」をどこまで求め、(個人データを利用することによる)パフォーマンス強化と「プライバシー」のバランスをどこに求めるか。社会がこれらのバランスをどうみなすかで、人間がAIとどのような関係を築いていくかが左右される。

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