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論文データベース(最新論文順)

プーチンとロシア帝国
―― なぜ帝国的独裁者を目指すのか

2019年10月号

スーザン・B・グラッサー ニューヨーカー誌 スタッフライター

青年期のプーチンが信じたのは、学校で強制されるマルクス・レーニンのイデオロギーではなかった。それは、英雄的な超大国のイメージ、廃れてはいても依然として野心を捨てていないホームタウン、サンクトペテルブルクの帝国的な壮大さだった。力こそが彼の信じるドグマであり、幼少期に暗記させられた「労働者の英雄主義」よりも、皇帝たちのモットーだったロシアの「正統性、独裁制、民族性」の方が、プーチンにはなじみがよかった。若手のKGBエージェントだった当時から、そうした帝国思考をもっていたとすれば、その多くが「永続的な不安」によって規定されている長期支配のパラドックスに直面しているいまや、彼の帝国への思いと志向はますます大きくなっているはずだ。

人口減少と資本主義の終焉
―― われわれの未来をどうとらえるか

2019年10月号

ザチャリー・カラベル 作家、コラムニスト、投資家

ゼロ成長やマイナス成長の社会ではいかなる資本主義システムも機能しない。その具体例が、高齢化し、人口が減少している日本だ。人口の成長がゼロかマイナスの世界では、おそらく経済成長もゼロかマイナスになる。人口規模の小さな高齢社会では消費レベルも低下するからだ。既存の金融・経済システムが覆されることを別にすれば、これに関して、本質的な問題はない。今後、人口比でみれば、十分な食糧が供給され、潤沢に商品が出回るようになるかもしれない。気候変動への余波も緩和されるだろう。だが、資本主義はうまくいってもぼろぼろになり、悪くすると、完全に破綻するかもしれない。今後、世界の人口が減少してゆけば、経済成長は起きるだろうか。この設問にどう応えるかの準備ができていないだけでなく、どう答えるかさえ考え始めていない。これが世界の現実だ。

中国ミサイル戦力の脅威
―― INF条約後の米アジア戦略

2019年10月号

アンドリュー・S・エリクソン 米海軍大学教授(戦略学)

ヨーロッパの安全保障に配慮して)米ロが締結したINF条約は、これまでもワシントンのアジア戦略に対する拘束を作り出してきた。この間に、中国は世界有数の通常ミサイル戦力を整備し、(米ロ間では)生産が禁止されてきたタイプの地上配備型の射程500―5500キロのクルーズミサイル、弾道ミサイルを十分過ぎるほどに開発している。実際、サイバー空間のディスラプティブテクノロジー(破壊的技術)を別にすれば、中国のミサイル戦力を中心とする軍備増強が、アジアにおけるアメリカのパワーと影響力を形骸化させる最大の要因になるかもしれない。ワシントンはこれに対抗して地上配備型ミサイルを基盤とする抑止をアジアで構築すべきかもしれない。幸い、INF条約の死滅によって、ワシントンは、自国に有利な形へ軍事バランスをリセットするために必要な機会を手にいれている。

香港と天安門の影
―― 繰り返されるエスカレーションの連鎖

2019年10月号

オービル・シェル  アジアソサエティ 米中関係センター ディレクター

香港での抗議行動が続き、住民の行動がさらに怒りに満ちたものへ変化していけば、介入の前提とされる大義と正当化の理屈を北京に与えることになる。1989年の天安門でのデモ活動は、中国共産党に対抗する力強い運動はつねに抜き差しならぬ対立に終わることを教えている。実際、民主的理想主義に突き動かされた抗議行動への対処策については、北京は抑圧以外に頼るべきツールをもっていない。中国という祖国が拒絶され、批判され、その名誉が傷つけられていると感じれば、習近平が介入を躊躇うことはない。1989年6月4日、鄧小平はついに抑制をかなぐり捨て、天安門のデモ隊を虐殺した部隊の投入を命じた。当時と現在の状況が驚くほど似てきているだけに、香港が同じような結末にならないか、いまや憂慮せざるを得ない状況にある。

中国共産党とフェミニスト
―― 国と社会と女性運動

2019年9月号

スーザン・グリーンハル ハーバード大学研究教授(中国研究)
王曦影 北京師範大学教授

中国の若いフェミニストたちは、家庭内暴力を取り締まる法制定を求め、メディアと文化における女性に対するハラスメント、攻撃、蔑視を批判し、大学入学・雇用・職場おける性差別に対する不服を唱えてきた。だが、この国では、許されることと許されないことの境目は常に動いている。新たな人物を逮捕するたびに、党と国家はこのみえない線を動かしている。フェミニスト運動を展開した5人の中国人女性、「フェミニスト・ファイブ」は、自分たちの活動が境界線の安全な側にあると思っていたが、治安当局はそれが許容できない側にあると判断した。こうして「フェミニズム」という言葉は軽蔑語にさえなった。中国のマスメディアは、フェミニストを社会でもっとも魅力のない女性として描き、フェミニストの書いたものはネット上で日常的に攻撃され、検閲されている。現在の中国は、毛沢東期のスローガン、「女性は天の半分を支えている」からは程遠い状況にある。

米中冷戦は避けられない
―― 貿易と国家安全保障

2019年9月号

ニッキー・ヘイリー 前米国連大使

北京にとって、経済成長は政治を支えるために必要であり、政治の目的は、内外における共産党政権のパワーを強化することにある。米司法省によれば、北京は中国企業に、米企業を含む外国企業の知的所有権を盗むように指示し、しかも中国の民間企業に、獲得したテクノロジーを軍と共有することを義務づけている。2015年に習近平が発表した軍民融合政策は、あらゆる民間企業に軍と協力することを求めており、これは、(外国企業にとって)中国企業とのビジネスがたんなるビジネスではないこと、つまり、ハイテク部門で中国企業と取引すれば、その意図にかかわらず、中国の軍事利益の強化に手を貸すことを意味する。政府の民間ビジネスへの干渉は良いことだとは思わない。しかし、この現実ゆえに、われわれは国家安全保障を市場経済政策よりも重視しなければならない。

氷床後退とグリーンランドの機会
―― 飲料水ビジネスとデンマークからの独立?

2019年9月号

マシュー・バークホールド オハイオ州立大学アシスタント・プロフェッサー

グリーンランドの氷床が溶け出し、後退しているのは、温暖化の驚くべきパワーとスピードを物語っているが、グリーンランド政府と起業家にとってこれは大きなチャンスでもある。ボトル飲料水は成長産業であり、グリーンランド政府にとって、これが、デンマークへの経済依存を脱し、独立を目指す機会を作り出すかもしれないからだ。住民の多くは20年以内にデンマークから独立することを望んでいる。石油や(ウランその他の)資源開発計画を含む、財政自立プロジェクトの多くがこれまでのところ実現していないだけに、グリーンランドはその豊かな水資源で財政を支えていくことを期待している。世界はスーパーマーケットの棚に近く、グリーンランドの一部を見出すことになるかもしれない。もちろん、それが独立への道を切り開くかどうかは、現状では分からない。

核をめぐるイランの立場
―― 問題を作り出したトランプは何をすべきか

2019年9月号

サイード・ホセイン・ムサビアン 元イラン核交渉チームメンバー

この2年にわたって、国連と国際原子力機関(IAEA)が、「イランが核合意で規定された条件を守っていること」を示す15の報告書を出してきたにもかかわらず、アメリカは経済制裁を再発動し、敵対的なレトリックでイランを攻撃している。イラン人は、合意を守らなかったのはアメリカで、イラン政府ではないと信じている。仮にテヘランが核合意や核不拡散条約(NPT)から離脱しても、最高指導者ハメネイのファトワ(宗教令)がイランの核開発を阻むことになる。2003年にハメネイは核兵器の所有と蓄積をファトワで公式に禁止している。イランとの交渉を望むと繰り返し発言しているトランプにその気があれば、最高指導者のファトワを基盤に包括的な合意をまとめる外交交渉の道は依然として残されている。

フェイスブックとテンプル騎士団
―― 暗号通貨リブラのポテンシャルとリスク

2019年9月号

ケビン・ワーバック ペンシルベニア大学  ウォートンスクール教授

今も昔も、国境を越えて資金を移動させるのは容易ではない。十字軍のメンバーたちが聖地への長旅の資金をどうするかという問題を解決したのは、ヨーロッパから中東にかけての遠大なネットワークをもつテンプル騎士団が発行した手形だった。現在も外国送金にはコストも時間もかかる。これを魔法のように解決してくれるのが、ブロックチェーンを基盤とするフェイスブックの暗号通貨・リブラだ。暗号通貨なら、ユーザーは、メッセージやビデオを送るのと同じスピードで送金できるし、銀行へのアクセスをもたない人にも恩恵をもたらせる。但し、この構想が実現すれば、既存の金融機関は追い込まれ、資金洗浄やテロ資金に悪用されるリスクもある。資本規制をしている国の中央銀行のパワーも低下させるかもしれない。驚異的な利便性の一方で、富の移転を規制し、監視する立場にある政府にとっては非常に厄介な事態が作り出される。

中国対外行動の源泉
―― 米中冷戦と米ソ対立の教訓

2019年9月号

オッド・アルネ・ウェスタッド イェール大学教授(歴史・国際関係)

中国はかつてのソビエト同様に、共産党が支配する独裁国家だが、違いは国際主義(共産主義インターナショナル)ではなく、ナショナリズムを標榜していることだ。ソビエト以上の軍事・経済的なポテンシャルをもち、同様に反米主義のルーツを国内にもっている。しかも、アジアにおけるアメリカの立場と地位を粉砕しようとする中国の路線は、スターリンのヨーロッパに対する試み以上に固い決意によって導かれているし、中ロ同盟出現の危険もある。何らかの(国家的、社会的)統合要因が作用しなければ、目的を見据えて行動するアメリカの能力の低下によって、多くの人が考える以上に早い段階で、恐れ、憎しみ、野望によって人間の本能が最大限に高まるような制御できない世界が出現する危険がある。

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